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風のおとぎ話



 我が風の国が、建国される前。ちょうど、スティア様とレイシャ様がいなくなり、悪魔が現れ始めた時代……再び混沌がこの世界を埋め尽くしていたときのお話です。


 雪桜を守るために人間と交配する道を選んだ精霊……風の精霊であるアイシュレート様はとても悩んでいました。スティア様とレイシャ様に頂いた、直接アイシュレート様が支配しても良い土地に住む人間のようすを視察しにいきましたが、どの人間も欲望にまみれていて力を渡せるほどの器がなかったからです。


 精霊の話し合いでは、その交配して力を渡した人間をその属性に準じた王国の王に仕立てあげるというものでしたが、アイシュレート様が見た人間はどれも王の器があるようなものには見えなかったのです。


 その頃になると、火の精霊であるルーティシュ様や水の精霊であるアイオリーン様などの他の精霊は相手を見つけていて、アイシュレート様はどんどん焦りを感じ始めていました。


 ですが、アイシュレート様に転機が訪れました。いつも通りに人間の姿を見に行った日のことです。アイシュレート様の目に、ある一人の男の姿が映りました。その男は小さな村の村長でどんなに小さな子供にも優しく、どんなに立場が上の人物にも敬意を払っていました。


 しかし、精霊の力というものは膨大なものです。いくら優しい人間でも、その力に溺れて自分を見失ってしまっては元も子もありません。ということで、アイシュレート様は彼を試すことにしました。


 アイシュレート様は痩せ細った人間の女性の姿をとり、夜遅くに男の家を訪ねました。ここでアイシュレート様を冷たくあしらって返すか、優しく受け入れるかを見て、男に逐うとしての器があるかどうかを見極めるためです。


「夜分遅くにごめんなさい、一夜の宿を恵んではいただけませんか?」


 アイシュレート様が老女のようにしわくちゃな声で男の家のまで叫びました。すると、男はすぐに家の前に出てきました。


「おやおや、女性がこんな遅くに我が家に来るだなんて……珍しいこともあるのですね。寒かったでしょう、どうぞ中にお入りください」


 そういって、男はすぐにアイシュレート様を家のなかに招き入れました。中にはいると、アイシュレート様はとても驚きました。外からは想像もつかないほどに貧乏で、みすぼらしいものだったのです。


「あはは、驚きましたか?ごめんなさいね、最近村で飢饉が起こっていて……生活が苦しい村人に色々あげちゃったんです。今、暖炉の準備をしますのでお待ちください」


 男は家の外から僅かな薪を持ってきて、暖炉で火を着けました。ぼうぼうと真っ赤に炎が燃えて、パチパチと音がし始めたとき、男はアイシュレート様に向かって語りかけ始めました。


「私は、この辺り一体の村長をしているものです。村長と言っても、そんなに偉いものじゃないんですけどね。今は、村全体が飢饉になってしまっていて、色々大変な時期なんです……こんな時期にこんなところまできて災難でしたね」


 その言葉からは、今までアイシュレート様が話したことのある欲深い人間からは感じられなかった程に優しい感情が感じられたのです。それと同時に、アイシュレート様は彼に力を渡すことに決めたのです。


 こうして我が風の国の王とアイシュレート様は契約を結びました。風の国、アイシュ王国はこうして生まれたのです……


──図書館の奥底に眠る[風のおとぎ話]より

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