Chapter1-8
レーナ姫達二人の荷物は軽いが、それは馬車が一台しかないからだ。
馬車を増やせば必然的に引くための人員も必要になるか、あるいはもっとでかい馬車……所謂幌馬車もしくは駅馬車が必要になる。
幌馬車や駅馬車は珍しく、シューヴェスト王国といえどそうそう出せる代物ではない。
旅をする途中で仲間が増えれば考えなければならないだろう、というくらいである。
「とはいえ、そんなことはあり得るか?」
「あり得ます。というより、私たちは途中で駅馬車を手に入れる算段なんです」
長い旅に駅馬車は必要不可欠だ。
レーナ姫の通るルートは宿が整ってはいるが、予定がいつ狂うかはわからない。
寝泊まりするために立ち止まるよりは、少しでも距離を稼ぎたい。
なので途中で寝泊まりすることができる、というのは重要なことになる。
表向きは姫なので、あまり駅馬車で寝ることは無いだろうが。
「駅馬車のことは今知ったんだが、金は払ってる感じか?」
「ええ。姫が着き次第、駅馬車を出すことになってます」
「で、肝心の駅馬車はどこにあるんだ?」
今はレーナ姫を演じる必要のないレオンハルトは、ファーラにこう問いただす。
「シューヴェシティですね」
シューヴェシティ、それは日本でいう大阪……ヨーロッパであればイタリアでいうヴェネツィアだ。
要するにシューヴェスト王国第二の都市であり、城が近くに無い分娯楽施設はむしろこちらの方が多いくらいだ。
ただ大阪東京間が昔は十数日かかっていたように、シューヴェスト王国の城下町からは馬車で急いでも四日かかる。
しかもそれはあくまで最短ルートなので、普通は五日掛かる。
なので観光気分で行けないことは無いのだが、その場合は観光含め丸々二週間は掛かる旅になる。
当然、レーナ姫達も最短ルートとはいえ後三日は掛けてそこへ向かうことになるのだ。
「まあ、途中でシューヴェシティに寄るのはルートとしても見ていた」
「なので、そこで駅馬車を買うのは問題にならないわけです」
「さて、話はこのくらいにしてお風呂にしましょう。後一時間後に食事が来るので」
それを聞いたレオンハルトはこういう。
「そうだな。ゆっくり風呂に入って、そっからまた着替えるなら今だろうな」
「私も一緒に入りますよ」
そんなファーラにレオンハルトは思わずいった。
「俺は表向きが姫であって実際は男だぞ?」
「別に、騎士であるあなたに見せて恥ずかしい身体はしていません」
「そういう問題なのか?まあ、それもメイドの仕事だってなら俺はこれ以上はいわない」




