Chapter1-76
宿屋に着くと、彼らは部屋に案内される。
「夕食までは時間がありますし、外を見て回る余裕はありそうです」
「ファーラのいう通りね。剣を研磨して貰いに行くわ」
そんなエリファーに、レーナ姫はいった。
「私も城下町を見て回るわ」
「私はここに居ます。料理ができた時はこの通信魔石で連絡します」
通信魔石は現実世界における無線機のような物である。
魔力が届く限りは有効範囲で、無線のように干渉もしないため無線機よりは高性能といえる。
通信魔石は庶民に手が出せる価格でないくらい高価であるものの、これは現実世界の無線機とあまり変わらない。
携帯電話やスマートフォンはそれより高価だと突っ込みたくなるかもしれないが、
それらが庶民でも手出し出来るのは本体を分割払いできるためである。
通信しかできないこともあり、通信魔石は携帯電話やスマートフォンに比べれば劣るといえるだろう。
今まで通信魔石を使った通信があったような形跡がないのも、配備するだけの理由が無かったからだ。
一応国家間の連絡は通信魔石が使われることもあるが、その場合は魔力増強も行わなければならないため緊急時用だ。
なのでラグラント王国にレーナ姫が既に死んでおり今は代役(一応国家公認なので『偽物』とはいい難い)である、
ということは伝わっていないのである。
ともかく話を戻すと、彼女たちは王国の使者なので通信魔石は国から支給されている。
エリファーもそれは承知なので、壊さないように気を付けながら研磨をしている店を探していた。
「あったわ。この店ならいいかも」
「どうされましたか?」
エリファーは店員に剣の研磨をしたいと伝えた。
「分かりました。では、お金と引き換えにこのお預かり石を」
預かり石は何かを預けている人間の魔力波形を登録し、それを確かめて引き換えるアイテムだ。
ちなみにレーナ姫は王家の聖剣で魔力波形を改ざんできる。
魔力波形の改ざんは聖剣の類でしかできないため、それを悪用することは不可能である。
ともかく、話をレーナ姫のところに移そう。
「へへへ……いいアマじゃねえか」
「ちょっと、困ります」
レーナ姫はガラの悪い男に絡まれていた。
治安は悪くないし、大概の旅行者は自衛手段を持っている。
なのでこんな不埒な真似をする輩は珍しいが、全くいないわけではない。
「まあ、いいじゃねえか」
「スタン!」
まあ、そういう輩は何かしらの自衛手段で対抗されてやられるのがオチなのだ。
ましてや、王家の聖剣を持つレーナ姫の敵ではないのである。




