Chapter1-6
「それはまた急だな」
「ええ、気持ちは分かります。ですが、今シューヴェスト王国はラグラント王国への使者を出そうとしていたのです」
「ラグラント王国……列強の中では一番シューヴェスト王国に近い国だな」
王国は様々存在するが、領土により強弱の差がある。
シューヴェスト王国は中堅であり決して弱くないが、それでも列強と呼ばれる国々には及ばない。
なので王国間連合の中でも列強は発言力が強い。
女神の命があるため中堅や弱小の国が蔑ろにされることはないが、やはりどうしても差は出てしまうのだ。
「でも、俺に声を掛けた時は強制じゃなかっただろ」
「姫の病状が治り次第、ということだったんですよ」
「なるほど。まあ、そういうことならいい。直ぐに出立しよう」
そんなレオンハルトにファーラは突っ込む。
「姫として振る舞う時はもうちょっと柔らかくしましょうね」
「分かったわ」
女性口調かつ女性的な声でレオンハルト……レーナ姫はそう返した。
そして、彼は出立の挨拶をしに行く。
「これより、ラグラント王国に参ります」
「任せたぞ、レーナ姫よ」
そうして『レーナ姫』はファーラと共に馬車で旅立つ。
「それにしても、何で私たち二人だけで?」
「王家の聖剣を持つ者に、半端な近衛兵は足かせなだけです」
「なるほど」
納得するレーナ姫に、ファーラはこう続ける。
「私はこう見えても王国一……とまでは行きませんが槍術があるので、姫様の足かせにはなりません」
「槍……?そういえば馬車に槍が掛けてあったけどあなたのなのね」
馬車には二人分の荷物があるため、馬が二匹居ることになる。
そんな彼らの目の前に魔物の影が見える。
「姫様、早速ですがそこの石を投げてください」
「いくらゴブリンでも石を投げるだけじゃ倒せないんじゃないかしら」
レオンハルトも伊達に騎士をやって来たわけでないため、ゴブリン程度なら楽に倒せる。
だがゴブリンも魔族ではあるためちょっとやそっとでは倒せない。
非力な者が挑んで倒せる敵ではないため、石を投げるくらいではどうにもならないのだ。
「百聞は一見に如かず、ですよ」
「分かった。ええーい!」
そういってレーナ姫は思いっきり石を投げた。石は馬から離れたとたん一気に加速し、ゴブリンを貫く。
すると、ゴブリンはまるでボウガンに射抜かれたように吹き飛んだのだった。
「王家の聖剣が光った!?ということは、これは……」
「そう、王家の聖剣は持ち主の力を増強できるのです。しかし馬を巻き込まないのは流石ですね」
レオンハルトは馬を巻き込まないことを意識して石を投げたため、馬を通過してから加速するように投げていたのだ。




