Chapter1-20
レオンハルトの世界は中世に近い(魔法で現代科学のそれに近い物が作れたり、衛生観念がしっかりしているためあくまで『近い』)ため、
食料の保存技術については未熟といわざるを得ない。
瓶詰めでさえ18世紀ころに作られた代物であり、レトルトなんて夢のまた夢といえなくもないのだ。
魔法で似たようなことは不可能でないが、家庭に等しく流通するとなるとコストがまだ高いのだ。
シューヴェシティのような場所であれば魔法アイテムも流通しているため、レトルト食品も手が出る代物だが。
この時代は流通の手段も限られていることが原因で、村や町ではレトルト食品が高騰する。
冷凍食品はそもそも運送にも魔法が必要だったりするため、シューヴェシティのような場所でもそれなりの値段がする。
それなりとはいっても高いわけでもないため、店ではよく使われる。
それは業務用の冷凍食品といっても過言ではないため、『家庭用の冷凍食品をそのまま店で出す』ことにはならないのだ。
むしろ年がら年中同じものを食べられる、ということで客からも好評ですらある。
まあ食料保存についての話はこのくらいで切り上げて、本筋に話を戻す。
レーナ姫達は夕食を食べ終わると、湯船に入る。
勿論、レーナ姫は化粧を落としてレオンハルトに戻っていた。
「ティニスの村は水が有名だから、それを使って窯風呂にしているんだっけ?」
「ですね。ちょうどこの時間帯が沸いてる時間です」
「こういう村の全部が全部温泉の有名地ってわけじゃない、って典型でもあるわね。
以前宿のある村は温泉が有名と記したが、例外もある。
このティニスの村で有名なのは水であり、その水を使った窯風呂と野菜が売りなのだ。
それでも玉ねぎのスープだったのは、ちょうどレーナ姫達が来たときは玉ねぎの取れどきでもあったからだ。
その他にも取れたての野菜の方がより美味しいため、生野菜は朝食に使われるということもある。
ともかく二人はゆっくり湯船に浸かったが、まだ日が沈むには早かったので話をする。
「俺も仕事で何度かシューヴェシティに行くことはあったが、集団ってこともあってこういう村にあまり縁は無かった」
「そうなんですか?」
そんなファーラの問いにレオンハルトはこう返す。
「全くの無縁ってわけでもないがな。ただ、新鮮な気分だってのは確かだ」
「なるほど……この旅は遊びじゃありませんが、いい旅になればいいですね」
そんなファーラに、レオンハルトは頷く。
「旅が上手くいくことに越したことはないしな」




