サポートは聖女の本領
今日は二つほど報告することがあるので、まずは一つめ。
遂に漫画版の掲載サイトと掲載時期の報告が出来るようになりました! 活動報告やあらすじでも書きますが、ぶんか社様が運営するスマホ専用サイト「マンガよもんが」様から、11月28日から掲載スタート! 漫画版を楽しみにしていてくれた読者様方、大変お待たせしました!
最後にもう一点。以前から暇を見ては書き上げていた新作が出来上がりました。
タイトルは『ハズレ職アイテムマスターが、ハズレアイテムを使ったらトントン拍子で世界一の冒険者になれた件について』。
本日同時刻に掲載するので、よろしければ見ていってください
「離れりょぉおおおおおおおおおおおおおおっ!!」
魔力の刃が長大化し、唸りを上げて大気を切り裂く。不滅の盾でもあるゴブリンソードで受け止めたゴブマルだったが、膂力の差も相まってゼオにぶつかる形で吹き飛ばされてしまった。
「バカにしやがってバカにしやがってバカにしやがってぇええええええ!!」
(うっさいぞこのキチDQN!)
「がああああああああああああああっ!!」
突如、カーネルの《マナブレード》が激しく燃え盛る。斬ると同時に傷口を焼くスキル、《業火斬》だ。
威力は上がるが、ただそれだけなら左程怖くはない。当たったら不味いのはさっきまでと同じだ。……だが、ここでカーネルは予想だにしなかったことをやり始めた。
「ふにゅううううううううううううううっ!!」
「グォオオッ!?」
巨大な炎の斬撃が、振り回される魔力の刃が描く軌跡に合わせて無数に飛来する。
スキルの詳細を見て見ても、《業火斬》であのようなことができるとは思えない。ならばあり得る可能性としてはスキルの組み合わせ。
(《風裂刃》と組み合わせてきやがったな……!)
無限のMPを用い、闇雲に放たれ続ける炎と風の斬撃。子供が癇癪を起すかのような滅茶苦茶な軌跡を描くが、それ故に読みにくいし、《剣術》スキルの影響もあってかこちらには当たるように放たれていることが分かる。
「うぎゃああああああああああああああああああっ!!」
「くっ!?」
それと平行して降り注ぐ魔法の雨。一撃一撃が致死的な威力を誇るそれらは、全てシャーロットの結界によって阻まれていた。
レベルが上がった《結界魔法》によって発動できる魔法、《アークエレギオン》。その効果は、〝決して〟破れることのない障壁を展開するという、ステータス差さえも超越する破格といえるものだ。
まさに絶対防御の魔法だが、MPを大量に消費するという欠点があり、更には結界の内側から攻撃することも出来ない。
(この内側は安全圏だけど、引き籠り続けるわけにはいかねぇ)
ゼオはシャーロットに目配せをすると、彼女はそれを察したかのように結界の一部を開け放ち、ゼオは全速力で飛び出した。
「くりゅなああああああああっ!! あっちいけぇええええええええええっ!!」
「させません!」
再び上空から魔法の雨が降り注ぐが、シャーロットは障壁の形を戦場全てを包み込むドーム状に変え、絶対不滅の屋根とした。
ビリビリと結界内の空気が振動しながらも、障壁はビクともしない。これで厄介な上空からの砲撃は全て防ぐことが出来たと言って過言ではないだろう。
もちろん、下や横からの魔法には変わらず注意しなければならないし、シャーロットを守る壁も結果的に消してしまった……それを見逃す敵ではない。
「おんにゃあああああああああああああああああ!!」
怒りのままに魔力の刃を大きく振り上げ、炎の刃でシャーロットを切り伏せようとするカーネルだったが、いざ杖を振り下ろそうとする刹那、彼の両肘を小さな障壁が阻み、振り下ろさせなかった。
「ああああああああああああああああああああ! 邪魔するにゃああああああああああああああっ!!」
詳細を確認することはしなかったが、ゼオはその障壁の正体を《結界魔法》の応用であると察した。
シャーロットは小さな障壁をカーネルの動きを阻害するようにして展開し、その動きを止めて見せたのだ。
そしてその隙を見逃すような魔物は、この場にいない。
「ゴッブゥ!」
《ゴブリン彗星拳》の零距離発射。《鎧通し》の力によって耐久値を無視して腹部に突き刺さる一撃と共に生じた青い衝撃波によって、カーネルは障壁に背中から叩きつけられた。
「がっはああっ!?」
背中と腹部を強打され、肺の中の息が一気に噴き出る。そこに追撃として放たれるのは、ゼオの炎、雷、氷の三種ブレスに加えて、《ドラゴンブレス》だ。
「ぎゃっ!? うぎぃいいいいいいっ!!」
快速の一撃である雷と範囲の広い冷気は直撃したが、カーネルは痛みに悶えながらも全身に電気を迸らせながら一瞬だけ急加速し、威力の高い火球とレーザーは回避した。
(速いっ!? 《雷撃縮地》か!)
説明によると、一歩分だけ雷の速さで移動できるスキルらしい。カーネルは無制限のMPを有効に使い、連発することでまさに雷のような速さと軌道を描きながらゼオに向かってくる。
「グォオオオオオオッ!?」
「ゴッブゥウっ!?」
生物の目では視認し難い、音速を超える速さで迸るのが雷。それはキメラに転生し、進化を繰り返してきたゼオであっても捉えるのが難しく、カーネルの凶刃がゴブマルもカバーできないほど激しくゼオの体を満遍なく切り裂いていく。
「ほらほらほらほらあああああああっ!! もう死ぬよぉおおおおおおっ!! 絶対死ぬよぉおおおおおおっ!! 僕をバカにした罰を受けりょぉおおおおおおおおっ!! お前も、ゴブリンも、女も皆殺しにしてやりゅうううううううううううっ!!」
勝利を確信したかのような嘲笑と共に振るわれる刃によって、ゼオは流れ出る大量の血と共にHPが見る見るうちに削られていくのを自覚する。
……以前のゼオなら、ここは逃げるか防御の二択に迫られ、とにかくやり過ごしながら反撃の時を待つことしか出来なかっただろう。
だが今は違う……圧倒的な強敵の猛攻を前に、ゼオが選んだ手段は口の中で炎を灯し、翼を激しく帯電させる……《業火の息》の強烈な溜め攻撃による反撃だった。
「ぶわああああああああかっ!! そんにゃの当たりゃにゃいし、当たりゅ前にお前を殺せ……っ!?」
突如ゼオの足元に描かれた魔法陣、そこから放たれる光がゼオの深く傷ついた体を見る見るうちに再生させていく。
《再生魔法》の一つ、《リジェネレイトサークル》。発動させている間、魔法陣の上に立つ者の体を恒常的に再生させる魔法だ。
その再生速度を見たカーネルは無意識の内に、ゼオの拳は止まることはない事を判断し、ひとまず回避しようとしたが――――
「がっ!?」
雷撃を纏いながら超高速移動をしたカーネルの行き先を、突然現れた障壁がまたしても遮る。そんな事が出来るのは他でもない、シャーロットただ一人だ。
「な、何で……!?」
「どれだけ速く動けても、遠目から見た私ならある程度その軌跡が読めますし……何より、速ければ速いほど突然現れる障害物には対処し難いものです!」
恐らく、カーネルは動きを止められたこと以外にも、「どうしてこのキメラは女のスキルを知っていたかのように立ち回れたのだろう」という疑問も抱いていたのだろうが、相手のステータスを閲覧する能力を持つゼオならば、シャーロットならどういうサポートが出来るのかという事を把握し、ある程度賭けに出れる。
(まぁ、俺もここまでのサポート力があるとは思わなかったけどな!)
回復だけでなく、まさか相手の動きを阻害することまでできるとは思っていなかったゼオは内心でシャーロットの働きを絶賛し、口から放たれる特大の火球でカーネルを吹き飛ばした。
悲鳴は爆音によって掻き消され、火と煙を纏いながら緩やかな放物線を描いて地面に落ちていくカーネル。それまでの間に《回復魔法》で見る見る内に体を癒していくのは流石というべきところだろうが……一人で二体を相手するのにその判断は悪手。
吹き飛ばされた先に待ち構えるのは、剣を振りかぶる小鬼の英雄。
「ゴブブブブブブッ! ゴッブゥウ!」
全身を切り刻まれ、トドメとばかりにアッパーを背中に叩き込まれたカーネルは上空に張り巡らされた障壁に叩きつけられ、そこに追撃するのは《猿王の腕》を両腕に発動させ、組んだ両手を振り上げるゼオ。
「ガアアアアアアアアアアアッ!!」
「や、止めりょぉおおおおおお!! 僕に傷付けりゅのは反則犯罪違反違法神様も絶対に許しゃな……ぎゃああああああっ!?」
ゼオの両手は鉄槌の如く振り下ろされ、カーネルは地面に叩きつけられる。砕けながら陥没する地面に減り込む宿敵に向かって、ゼオは全力で魔力を込めながら《重力魔法》を発動。超重力によって圧し潰そうとする。
(このままくたばれ……!)
ステータスを見て見れば、度重なる連撃で残りHPは半分近くだ。このまま休ませることなく追撃し、第二形態を披露する前に仕留めようとするゼオだったが、現実はそこまで甘くはない。
「いい加減にしりょぉおおおおおおっ!! うじゃいんだよぉおおおおおおおおおおおお!!」
今までよりも強い光を放ち始めたカーネルの体に、周囲の岩や土が収束するように集まり始めた。




