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魔王の卵と聖女


「がああああああああっ!!」


 炎、雷、水、風、地、光……ありとあらゆる属性の魔法が無数に乱射される。

 一撃一撃が、間違いなく超火力を秘めた魔法の雨。四肢と頭を甲羅に隠し、高速回転によって弾くように防御しながら移動するゼオだが、甲羅越しに伝わってくる凄まじい衝撃には苦し気に呻くしかなかった。


(づ……ぐぅうううっ!? バカみたいな威力しやがって……!)


 これまでと比べ物にならない激痛。高速回転する甲羅越しに受けても、身を砕かれそうだ。

 

(レティシエルの杖もどうにか出来ていないのにこれはヤバい……近づけないなんて論外だ!)


 先ほどの様に手間をかけ、巨大な岩塊による物理攻撃を食らわせる余裕もないし、よしんば出来たとしてもあの高火力魔法の連射の前では、岩など簡単に砕けてしまうだろう。

 

()ねぇえええええっ!! ()んじゃえよぉおおおおおっ!! わああああああああああんっ!!」


 まるで子供が癇癪を起したかのように泣き喚くカーネル。しかし、振るわれる猛威は癇癪どころが災害だ。もはやゼオという一個の生物では、どうにもできない域に達してしまっている。


(俺一人じゃ、どうしようもない)


 これが成長した神権スキル持ちの力。正直、進化したことも相まって甘く見ていた。


「ガッ!?」

「これで(しゅ)にぇえええええええええっ!!」


 地面が炸裂し、高速回転をしていた甲羅が止められたところに、巨大な光の柱が振り落とされる。その一撃は間違いなく、ゼオの甲羅を突き破るものであるというのを直感できてしまった。

 スキルを解除し、避ける暇もない。幸い、カーネルの耐久値は大したことが無いので、直撃さえ喰らわせられればどうにかなりそうなのは幸いだが、攻撃を当てるにはゼオだけでは手が足りなかった。


(そう……俺だけならな!)


 ゼオの背後から向かってくる、嗅ぎ覚えのある匂いが二つ。その内の片方は、手をゼオに伸ばして叫んだ。


「《アークエレギオン》!」


 ゼオを覆い隠すように展開された障壁が光の柱を防ぎきり、その隣を小さな影が通り過ぎてカーネルへと踊りかかった。


「ゴッブゥウ!!」

「ぶぎゅうううううっ!?」


 絶対不滅のゴブリンソードを握った小鬼の英雄が叩き出す速度は、まるで瞬間移動のよう。

 限定的な超加速スキル《縮地》によってカーネルを間合いの内側に収めたゴブマルは、絶え間ない連撃を繰り出した。 

 

「ぎゃああああああああああああっ!?」


 ステータスは圧倒的大差があり、それぞれ《武器使い》、《剣術》といった近接技法を高めるスキルを有しているが、実際の経験の差が如実に表れたのか、それともたかがゴブリンと侮ったのか知らないが、杖による防御を越えて幾つもの斬撃を浴びせるに至った。


「痛いっ! 痛いよぉおおおおおおおおっ!!」

(な、泣いとる……)


 ゼルファートとのハイエナ戦法でゴブマルのステータスも大幅に上がっている上に、《鎧通し》のスキルがあるため、今のゴブマルの攻撃は格上が受けても激痛なのは分かるが、それでも傷自体は浅い。そのくらいの痛みも我慢できずに泣き喚くカーネルに、妙な違和感を感じるゼオ。


「何にゃのお前えええええええええ! ゴブリンのぶんじゃいでしゃあああああああああああああああ!!」


 とは言っても動きが鈍るようなことはない。涙と鼻水を流し、舌ったらずな口調で叫びながら、《マナブレード》を発動させ、まるで嵐のように周囲を薙ぎ払いまくる。

 あれはどちらかというと、痛みで泣いたというよりも、攻撃を直に喰らって驚いて泣いてしまった……という赤子のような感じだ。そんなカーネルの猛攻をゴブマルは冷静な目で見据えながら、時に捌き、時に紙一重で避けながら対処している。

 本当に頼りになるゴブリンだ。……そして、ゼオを助けてくれる存在がもう一人


「ゼオ」


 何時の間にか、隣に立っていたシャーロットを見下ろす。

 最後に別れた日から、二度に渡って進化をし、外見も大きく変わった。それでも彼女はその目に映す怪物がゼオであるという確信を持って、傷付いた魔物を癒し、語り掛ける。

 初めて出会った、あの時と同じように。


「今はまだ何も聞くつもりは無いし、何も答えるつもりは無かったのですが……一つだけ」


 グランディア王国にいた時のシャーロットは、周りが敵だらけで何時も泣きそうなのを必死に我慢しているような顔をしていた。

 だが久々にあった今の彼女は、優しさをそのままに強い意志を持って戦場に臨む求道者の目をして、ボロボロになりながらも毅然とゼオを見据える。


「どのような経緯があって彼と戦おうとしたのか分かりませんが、私も彼との戦いは避けられない身です」

「……グルルルル」

「かつてのようにただ守られるだけの状況とは違う……貴方が私を救ってくれたように、今度こそ私に貴方の隣で、貴方の力にしてもらえませんか?」


 その言葉に対する返答を、魔物であるゼオは言葉として発することはできない。

 何故シャーロットがここにいるのか、何故カーネルと戦うようなことをしていたのか、疑問は尽きないし、相変わらず無茶をしないのか心配だ。


(それでも……一緒にいてくれるって言われて嬉しいんだから、我ながら現金なものだよな)


 辛い時にこそ、支えというのは必要だ。戦力的にしてもそう。精神的にしてもそう。シャーロットはこの異世界で初めて手にした、ゼオの支えなのだ。

 そんな存在が死のリスクを背負ってまで共に戦うと言ってくれる……これ以上に自分を奮い立たせるものはない。ゼオは力強く頷くと、シャーロットもそれに応えるように頷いた。


「貴方と、そこのグリーンゴブリンの援護は任せてください! どのような傷も、私が癒してみせますっ!」

「グォオオオオオオオオオオオオオッ!!」


 身を屈め、今にもカーネルに飛び掛からんという臨戦体制に移行したゼオは、地面を踏み砕いて飛び出す直前に、シャーロットのステータスを閲覧する。



 名前:シャーロット

 種族:ルシフェル完全体

 Lv:12

 HP:4569/10062

 MP:18794/22435

 攻撃:8029

 耐久:8354

 魔力:29875

 敏捷:9002


 スキル

《無神論の王権:Lv2》《和魂:Lv--》《聖句詠唱:Lv7》

《愛のゲンコツ:Lv2》《再生魔法:Lv6》《浄化魔法:Lv6》

《結界魔法:Lv6》《光芒魔法:Lv3》《格闘術:Lv4》

《回復強化:LvMAX》《毒耐性:Lv8》《呪い耐性:LvMAX》

《魔力耐性:Lv9》《精神耐性:LvMAX》


 称号

《元令嬢》《厚き信仰》《女神の信者》《僧兵》

《巡礼者》《良心に耳を傾ける者》《淑女の鏡》《慈悲の心》

《聖女》《癒しの導き手》《献身の徒》《解放されし魂》

《レベル上限解放者》



 それを見た時、ゼオはゼルファートの言葉が真実であったと、感じた予感を確信に変える。


(……そうか。ゼルファートが言っていた聖女は、やっぱりお前だったのか……お嬢)


 だとしたら、尚更勝たなくてはならない。

 決意はより一層強固となり、魔王の卵である怪物は、この背中を見守る霊王の素体たる聖女を信じて、悪魔の如き男に向かって臆さず突き進んだ。


  

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[気になる点]  何故シャーロットは『思念察知』のスキルを身につける事が出来なかったのでしょうか?
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