全中学二年生の浪漫
停止した時の中、進化によって得られた新たなスキルについて確認していく。尻が痛いのはこの際我慢だ。
【スキル《エネルギーコア》。魔力を生成する頑丈な生体結晶。MPの回復速度が向上し、MPの消費と回復を繰り返すことでレベルが上がり、効果も上がる。ただし、破壊されれば大爆発を起こし、死は免れないので注意が必要】
(そんなおっかない急所を丸出しにするな!!)
効果自体は良いのだが、性能としては一長一短だ。一応、胸の中心という守りやすい場所にあるが、不必要なレベルで光っていて凄く目立つ。ゼオでも同じような結晶を体に持つ魔物と戦えば、真っ先にそこを狙いたくなるくらいだ。頑丈とか言われても安心感が無い。
(まぁ、この問題は後々解決していくとして……次は)
【スキル《貯蔵の一角》。魔力を貯め込む大角。スキル発動に伴いMPが角に貯蔵でき、必要に応じて他のスキルの発動に伴う消費MPの代替わりに出来る。レベルが上がるごとに貯蔵上限が上がっていく】
【スキル《増幅の翼》。ブレス系のスキルや攻撃魔法のスキル発動時、翼で魔力を循環、増幅させることで攻撃の威力を上げる常時発動スキル】
(……MP関連についてはもう心配がなくなるんじゃね?)
MPの自動回復速度を上げる《エネルギーコア》に、予備MPを貯められる《貯蔵の一角》。これらのレベルを上げておけば、ほぼ無制限にMPを上限一杯まで貯めたスキルを連発できるかもしれない。
(どうやらブレス・キメラってのは、RPGでいうところの魔法使いみたいな役割にあるみたいだな)
遠距離高火力。ゼオの予想通りの進化だ。そんな新たな戦法を後押しするのが、《増幅の翼》だろう。このスキルは《ブレス強化》と《魔法攻撃強化》スキルが一緒になっているスキルらしい。進化する条件を満たすために購入した《ブレス強化》が無いのも、このスキルと併合した結果のようだ。
(……まぁ、どうもこのスキルは翼の有無に依存してるっぽいから、翼を破壊されたら治るまで効果が消えるか、半減するかしそうな気がするけど……)
火力は上がったが、弱点を二つも抱えることになってしまった。《鋼の甲羅》などを併用し、上手く立ち回る必要がある。
(あとはこの《ドラゴンブレス》って奴か)
【スキル《ドラゴンブレス》。威力、速度、範囲、全てが優れた無属性の光線。MPの消費が多い代わりに放射し続けることが可能で、その状態からの薙ぎ払いは城塞をも消し飛ばす威力が秘められている】
(俺が持ってる三種のブレス、その全ての長所を備えたブレスか)
実際に使ってみないことには分からないが、ブレス・キメラの主砲になり得るスキルだ。気になるのはMPの消費量が激しいということだが、《エネルギーコア》と《貯蔵の一角》があれば気にならなくなるかもしれない。
あとは元々持っていたブレス系のスキルが強化されたり、猛毒の霧を吐く《猛毒の息》が追加されている程度の変化と言ったところ。そして――――
(で……だ。そろそろ本題に入ろう。……何なんだコイツは!?)
未だ尻に噛みついて離す気配のない蛇の尾。恐らく……というか、十中八九その正体は《無知なる蛇尾》のスキルだ。
【スキル《無知なる蛇尾》。ある一定以上の高位キメラと共生する寄生生物にしてスキルそのもの。生きるためのエサを確保するために寄生したキメラと共に戦う知恵のない蛇】
(寄生生物? ということは、もしかしてコイツ……)
ゼオは蛇の尾に向かって《ステータス閲覧》を使う。
種族:スネークテイル
Lv:1
HP:538/538
MP:38891/38891
攻撃:213
耐久:276
魔力:1765
敏捷:342
スキル
《電撃の息:Lv1》《火炎の息:Lv1》《凍えるの息:Lv1》
《烈風の息:Lv1》《鋼の牙:Lv1》《寄生同調:LvMAX》
《振動探知:LvMAX》《熱探知:LvMAX》《ブレス強化:Lv1》
称号
《寄生生物》《知恵無き蛇》《噛みつき魔》《食いしん坊》
《レベル上限解放者》
(やっぱり俺とは別の魔物なのかよ。ていうかMPだけ馬鹿みたいに高いんだけど)
高い魔力。それに輪をかけて高いMP。その数字が妙に気になる。他のステータスから考えるに、このスネークテイルはバーサーク・キメラよりも弱いはずなのだが、MPだけとはいえこんなに突出したステータスがあるだろうか。
(……あれ? このMPの数字、俺のMPと同じじゃね?)
自分のステータスを確認してみると、確かに同じ数字だ。こんな偶然があるわけがないと思い、スキルの方を確認してみると、その理由が判明した。
【スキル《寄生同調》。寄生主と一体化することによって、寄生主とMPを共用するスキル。二体で同じMPを共有する分、スキルの連発には注意】
ここにきてまたしてもMPが削られる要因の登場に、ゼオは頭を抱える。
(はぁ……これ、出来るだけ早く《エネルギーコア》と《貯蔵の一角》のレベル上げないとな)
スキル関係で気になることは他には特にない。噛みつき攻撃を強化する《鋼の牙》に、遠距離攻撃用である各種ブレス。そして無い眼の代用である探知系のスキル。
(……あとは、なぜ生まれて早々俺の尻に噛みついたのか、訳を聞こう……もとい、訳を見ようじゃないか)
その詳細は恐らく称号一覧にある。ゼオはスネークテイルの称号を詳しく閲覧した。
【称号《知恵無き蛇》。知恵の象徴と呼ばれる蛇型の魔物には珍しい、本能の赴くままに動く蛇。寄生主が戦闘時は繋がった神経から敵を認識、結果的に寄生主と共闘するが、それ以外の時は思うが儘に動く】
【称号《噛みつき魔》。近くにあるものなら岩だろうが生物だろうが何でも噛みつく。むしろ噛みつかないと落ち着かない性分によって得た称号】
【称号《食いしん坊》。消化できるものなら何でも食べる食い意地によって得た称号。寄生主はスネークテイルが毒物を食べないように注意が必要】
(この蛇引っぺがしてやる!!)
「シャー!? フシャー!?」
スキルを切ってスネークテイルをグイグイと引っ張るゼオ。どう考えても足を引っ張られる未来しか見えないのでいっそのこと引き千切ろうとしたのだが、意外と強固に繋がっているせいで、ゼオの腕力でも千切れない。
(こうなったら鎌で無理矢理にでも・…・あ!? 痛い!? ちょ、いたっ!? や、止めろー!!)
「フシャー!! フシャー!!」
《妖蟷螂の鎌》で切ってやろうとも考えたが、ただでさえ尻という位置から生えている上に体の構造上、上手く力も入れられず、スネークテイル自身も《火炎の息》で応戦、爆発の威力でゼオの手を払い除けてしまう。
(はぁ……はぁ……な、なんで俺は自分の尻尾と喧嘩してるの……?)
「シャー!!」
(そして何が何でも俺の尻に噛みつこうとするのな、お前)
そのまま自分の尻尾と喧嘩すること一時間。ゴブマルとゼルファートに呆れと憐みの目を向けられながら敗北を喫した本体であるゼオは、一旦スネークテイルの分離を諦めることにした。
完全に諦めたわけではないが、戦闘時におけるメリットだってあるのは分かる。ゼオは自身の尻に噛みつこうとするスネークテイルを手であしらいながら、スキルを購入しようと再び《邪悪の樹》を発動させた。
(進化すれば購入できるスキルも増えるからな。これを見ながらSPも節約して……ん?)
あまり興味のない新スキル。元々購入可能であったスキル。そう言った一覧に目を通していくと、ゼオの興味の全てを集める新スキルを見つけた。
《硬直の魔眼:Lv1》 必要SP:1000
《透視の魔眼:Lv1》 必要SP:1000
《気絶の魔眼:Lv1》 必要SP:1000
《発火の魔眼:Lv1》 必要SP:1000
etc.
(魔眼……だと……!?)
ゼオの胸中に、焦げ臭いほどに香ばしい中学二年生時代の気持ちが蘇った。