進化したと思ったら、変な同居人が出来た
祝! コミカライズ化決定しました! ラフイラストも掲示しておりますので、詳しくは活動報告をどうぞ!
愛のゲンコツ……それは、女神教に古くから伝わりし物理的説法。どんなに言っても聞かない分からず屋の悪戯っ子に、脳天から足裏まで突き抜ける愛を与えることで改心させるという聖なる一撃にして最終手段。
スキルとして現れない、愛と人徳と技術力によって確立されるこの一撃を習得し、初めて女神教の宣教師として一人前であると認められる(一部の偏った女神教信者の間でのみ)。
ちなみにこの技の達人として有名なのがラブである。シャーロットに教えたのもラブである。一部の偏った女神教信者の一人であるラブの下で、シスターの修行を受けていたシャーロットも疑問符を浮かべながらも習得したわけだが……彼女には悩みがあった。
「あの……貴女って見かけ以上に凄い力持ちなのね……」
「うぅ……た、助けられる部分も多いのですが、女性としては少々複雑です」
地下水路を猛スピードで走りながら、背中に背負うルアナの言葉に、シャーロットは思わず羞恥に悶えた。
グランディア王国を出奔してから気付いたのだが、元々見かけ通り普通の少女としての筋力くらいしかなかったはずのシャーロットは、いつの間にか大の男でも音を上げるような大荷物を一人で運べるようになった事を皮切りに、試しに成人男性三人と綱引きをしても勝てるという、説明のつかない怪力をいつの間にか手にしていたのだ。
その怪力ぶりは巡礼者修行の一環として魔物を討伐していくごとに少しづつ強まっていき、今ではその細腕から放たれる拳は二メートル近くある分厚い土の床をも一撃粉砕する程。
しかしシャーロットとて、花も恥じらう乙女であり、気になる相手がいる少女だ。色々と役立つことも踏まえても、怪力だの力持ちだの言われても複雑である。
(考えてみれば……私が本来持っていた《治癒魔法》スキルが《再生魔法》に、《解呪魔法》が《浄化魔法》に、そして身につけた覚えのない《結界魔法》をもこの身に宿したのと同時期だったと、考えるべきでしょうね)
最初、女神教に伝わるスキルを見抜く魔道具で確認した時は心底驚いた。怪力とスキルの変化に関連性が無いとは考えにくい。この身に一体何が起こっているのか……あと一つ、産まれた時から存在しながら、女神教の魔道具の目を掻い潜るスキルの存在に気付いていないシャーロットが知る由もない。
「あ、あれは……!」
魔力の光を灯りにして暗い地下水路を歩き続けること数時間。小さな水路を辿っていき、中心を流れる大きな水路を辿って、ようやく大きな出入り口が見えたのだが、その出入り口からの侵入を阻むように四本の脚で立つ大きなゴーレムが暁に照らされている。
慌てて中央水路を基点とし、反対方向に位置する地下水路の出入り口に辿り着いたのだが、そこにも同じようにゴーレムが配置されていた。
「昔軍隊の凱旋パレードで見たことがある。確か、宮廷魔術師が管理している軍用ゴーレム……きっとあの男が……!」
「……魔物が侵入してきた、と言っていましたね。その為の警備用に置かれたのでしょう」
簡単に思いつく打開策として、《結界魔法》レベル2で習得する、《エアスフィア》と呼ばれる魔法を使う手段がある。これはスキル発動者を中心に清浄な空気で満たされた結界を展開し、瘴気が渦巻く場所や水中での移動も可能とする便利な魔法で、これを使ってルアナと共に水中に身を潜めながら警備を突破しようと思ったのだが、肝心の水路の水深は浅い。匍匐前進でも気付かれるだろう。
(突破しようにも、ルアナさんを抱えてそれが出来るかどうか)
支援に関しては、シャーロットは既に女神教でも群を抜いているとラブからお墨付きをもらったが、性格がスキル構成に出たのか、戦闘に関してはお世辞にも優れてるとは言い難い。こんな時こそ怪力をと言いたいところだが、あの鉄の巨体をどうにかできるほどではない。
これが人型に寄せたスタンダードなゴーレムなら、令嬢時代に培った護身術で投げる……ということも出来たかもしれないが、安定性を重視した四本足のゴーレムには無力だ。
「ひっ!? ま、魔物が!?」
「……ゴブ!?」
どうしたものかと悩んでいると、松明を持った魔物の集団が近づいてきた。人に近い緑色の小さな体で、シャーロットたちを見て怯えたように後退る。
「……大丈夫。彼らはグリーンゴブリン、とても大人しい魔物です」
だが気になる。人里に近寄ることがまずないとされる彼らが、どうしてこんな場所に居るのか。確かにこの地下水路は王都の外壁の外側から侵入できるようで、冒険者たちが度々入ってきた魔物の駆除をしている。だからこそ、臆病なグリーンゴブリンが天敵だらけの場所に近寄ることもない。
「ゴブゴブ。ゴブゴブゴ」
「ゴ~ブゴブ。ゴゴブ」
現れるはずのない魔物の登場に困惑していると、グリーンゴブリンたちは恐る恐る宝玉がはめ込まれた、魔道具と思われる一本の杖の先端をシャーロットに向ける。すると杖の宝玉が淡い輝きを放ち、暗い地下水路を照らす。
『『『ゴーブゴブゴブゴブゥゥゥゥゥウ!!』』』
「え!? 何!? どうして急に踊り出したの!?」
「さ、さぁ……?」
その光を見た途端、何を思ったのかグリーンゴブリンたちは大喜びで踊りだす。もう何が何だか分からずに困惑するしかできないシャーロットたちに、グリーンゴブリンの一体がシャーロットに古い本の一部と手紙封筒を差し出してきた。
「あの……これは?」
「ゴブゴブ」
「ゴブゥッ!!」
言葉が通じていないことを理解しているのか、グリーンゴブリンたちはシャーロットとルアナの背中を押して二人を物陰に隠すと、突然ゴーレムに向かって石を投げつけた。ガンッと音を立ててぶつかると同時に、ゴーレムの首が半回転してグリーンゴブリンたちを捉え、まるで蜘蛛のように足を動かして迫る。
『『『ゴーブゴブゴブゴブゴブゥゥゥウ!!』』』
それに対してグリーンゴブリンは彼らの代名詞とも言える先天性のスキル、《逃げ足》で逃げおおせる。彼らを捕まえようとしたゴーレムは完全に置き去りにされ、それでも命令をこなすために、物陰に隠れたシャーロットたちに気付くことなくグリーンゴブリンを追いかけに地下水路の奥へと消えていった。
「な……何だったのでしょうか、あれは……?」
門番が居なくなった地下水路の出口を背に、シャーロットたちは始終困惑していた。
巨体が岩の地面に叩きつけられる衝撃で地下空洞が震える。グランドホールに住まう岩の外殻を全身に纏う巨人は、肩から脇腹にかけて大きな裂傷を負いながらも、石の棍棒を片手に持ち、空いた片方の手でゼオの首を鷲掴みにして彼を地面に叩きつけたのだ。
「ガッ……!?」
甲殻が砕け、頭から血飛沫が上がる。痛みに悶絶する暇すら与えないと言わんばかりに石の棍棒を振り上げた岩巨人を見て、ゼオは怯む精神を無理矢理奮い立たせながら《触手》スキルを発動。四本の触手で岩巨人の両腕を拘束するや否や、ゼオは《火炎の息》を叩きつけた。
「グォオオオオオオッ!!」
爆発の衝撃によって首から手が離れると同時に素早く上体を起こし、身を守る外殻が脆くなった岩巨人を押し倒すように飛び掛かる。そのままの勢いで岩巨人を壁に叩きつけたゼオは、今度は逆に岩巨人の首を両腕で締め上げながら、外殻諸共、石壁を抉り砕きながら岩巨人の後頭部をを摺り下ろす。
「ギャアアアアアア!?」
「グッ!? ガブッ……!」
皮膚は裂けて肉が摺り切れ、頭蓋骨すら削られながらも、岩巨人は蹴りをゼオの脇腹に抉り込む。痛みに悶えながらもゼオは手を緩めず、視界の端に一瞬だけ映ったゼルファートを盗み見た。
この岩巨人はゼオやゴブマルよりもステータスがかなり高いのだが、例によってゼルファートの一撃によって瀕死状態にされ、滝のように血を流したままゼオたちと戦闘を開始している。そうできるように調整されていた。
実戦感覚を錆びさせない方が良い。そう持ち掛けたのはゼルファートであり、ゼオもそれを承諾。こうして多少は苦労しながらも、二体は順調に強くなっていっていると自覚している。
「ガァアアアアアアアッ!!」
ゼオは壁から地面へと岩巨人を叩きつける。そのまま開いた傷口に両指を差し込み、力任せに傷を広げると、そこに《雷の息》を叩きつけた。
「ゴアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!?」
「ガブッ!?」
全身を荒れ狂う電流に悶え苦しみ、暴れながらも、岩巨人はゼオの胸を蹴り飛ばす。甲殻が骨と共に割れる激痛……ステータスの差はここでも顕著に表れた。息苦しさすら感じる痛みに怯みながらも、暴れる岩巨人を睨みつけていると、最早凶器と化した振り回される両手両足を掻い潜り、ゴブマルが岩巨人の首筋に辿り着く。
「ゴッブゥッ!!」
そしてゴブリンソードを一閃。《鎧通し》によって頑強な耐久値を無視した一撃は大きな血管を切り裂き、岩巨人は盛大な血飛沫と共に動かなくなった。
(アイツもう絶対俺より強いよ……いててて)
痛みに呻くゼオ。しかし、それに耐えるだけの価値が今の戦闘にはあった。……レベルがついに、125に到達したのだ。進化に必要なスキル、《進化の軌跡》が併合された《邪悪の樹》を発動、自分が前もって選ぶと決めていた進化先を改めて確認する。
【ブレス・キメラ】 進化Lv:125 必要スキル:《息吹連射》《ブレス強化》
【魔物の遠距離攻撃の代名詞、ブレスに特化したキメラ。あらゆるブレスを習得することが出来、その威力は山を抉るとも言われている。昔の人々は、空から地上の敵へと火と雷のブレスを雨のように撃ち出すブレス・キメラを見て、神罰の化身と勘違いしたのだとか。遠距離から高火力砲撃の連射で敵を薙ぎ払うことを得意とし、ステータスで勝る魔物を数多く屠ってきた】
遠距離高火力攻撃に特化したキメラ。もう一つの候補であるライオット・キメラにするかどうかで悩みもしたが、《猿王の腕》を筆頭とした近接戦を強化するスキルを多数保持している上に、まだ未購入のスキルの中にも同様に近接戦向きのスキルが幾つが見つけている。
となれば、ブレス・キメラに進化して遠距離攻撃を強化する力を得るのが吉だろう。進化すれば受けた傷も瞬時に治るので一石二鳥というものだ。ゼオは《ブレス強化》のスキルを購入し、進化先を選択した。
【ブレス・キメラに進化します。それでもよろしいですか?】
どこか懐かしさすら感じる音声を聞きながら、ゼオは心の中で了承すると、全身の骨や筋肉がメキメキと音を立てながら急激に変形する。
体格はアビス・キメラの時と比べても大きいと分かるほどに巨大化し、胸の中心には光り輝く大きな結石が浮かび上がる。翼は蒼炎の翼からまた王鳥の翼へ戻ったが、電流のようなものを纏うように。
獣の脚はより強靭になり、額から生えた角は無くなり、代わりにサイのように鼻先から強靭な一本の角が天に向かって長く伸びた。そして尾は――――
「フシャーッ!」
(いたたたたたたたたっ!? え!? 何これ何これ何これ!?)
瞳のない蛇のような生物に変化して、ゼオの尻に噛みついていた。蛇の尾はキメラの定番とも言える身体パーツだが、まさかそれを手にしたと同時にこうも反抗的な態度をとられるとは思ってもいなかった。
(ていうかアレって勝手に動くの!? いたたた! ス、ステータス! ステータス!!)
とりあえず新しい体について詳しく知らなければならない。ゼオは自らのステータスを確認する。
名前:ゼオ
種族:ブレス・キメラ
Lv:1
HP:37630/37652
MP:38891/38891
攻撃:25348
耐久:25129
魔力:26567
敏捷:25438
SP:6987
スキル
《邪悪の樹:Lv6》《業火の息:Lv1》《雷の息:Lv6》
《凍結の息:Lv1》《竜巻の息:Lv1》《爆睡の息:Lv1》
《猛毒の息:Lv1》《ドラゴンブレス:Lv1》《火炎放射:Lv5》
《収縮:Lv7》《デコイ:Lv2》《透明化:LvMAX》
《嗅覚探知:Lv3》《猿王の腕:Lv9》《妖蟷螂の鎌:Lv9》
《触手:Lv8》《鮫肌:LvMAX》《死霊の翼:Lv2》
《増幅の翼:Lv1》《貯蔵の一角:Lv1》《鋼の甲羅:Lv5》
《天空甲羅:Lv5》《回転甲羅:Lv5》《エネルギーコア:Lv1》
《無知なる蛇尾:Lv1》《息吹連射:Lv6》《大地魔法:Lv3》
《重力魔法:LvMAX》《飛行強化:LvMAX》《精神耐性Lv:MAX》
《空間属性無効:Lv2》
称号
《転生者》《ヘタレなチキン》《反逆者》《狂気の輩》
《魔王候補者》《解放者》《殻付き勇者》《地下の住民》
《腰巾着》《王冠の破壊者》《栄光の破壊者》《彫刻職人》
《レベル上限解放者》




