ちょっぴりツンデレ鋼王さま
書籍化作品第三弾、「世界中から滅びの賢者と恐れられたけど、4千年後、いじめられっ子に恋をする」もどうかよろしくお願いします
グランドホール最深部付近には、このような魔物が存在する。
種族:テオ・オルギガ
Lv:197
HP:34398/34398
MP:10093/10093
攻撃:30009
耐久:30000
魔力:10087
敏捷:25436
スキル
《バーサーク:Lv5》《火炎拳:Lv7》《雷撃脚:Lv6》
《爆加速:Lv8》《見切り:Lv4》《衝撃貫通:Lv4》
《火炎放射:Lv1》《木ノ葉舞:Lv3》《連撃破;Lv7》
《鬼の剛爪:Lv4》《風裂刃:Lv4》《裂撃強化:Lv4》
《打撃強化:LvMAX》《地属性耐性:Lv5》《重力耐性Lv:MAX》
称号
《鬼人》《猛り怒る鬼》《地底の殺戮者》《キノコ大好き》
《ドジっ子》《レベル上限解放者》
漆黒の肌で覆われた鬼。テオ・オルギガの外見を表現するならそのような言葉が相応しいだろう。
ハッキリ言って、ゼオから見れば化け物である。ステータスは魔法攻撃特化のカーネルとは正反対の近接物理特化。グランドホールの最奥に続く道を守っていた人工魔物、アンギョウとウンギョウを纏めて砕けるくらいには強いだろう……が、世の中には人里に現れれば災害の如き損害を巻き起こす魔物を塵芥同然に扱う存在もいるらしい。。
「グガァアアアアッ!?」
気が付けば近接戦闘の怪物、テオ・オルギガの両足は纏めて切断され、腹に風穴が開いた時には既に、ゼオの少し後ろに居たはずのゼルファートの姿は黒い鬼の後ろにあった。
どんな攻撃をしたかも分からない。重厚な金属の塊のような鎧姿で戦うゼルファートの姿を、ゼオはその影も捉えることが出来なかった。気が付けばテオ・オルギガは死に体となっていたのである。
(あとは自分たちで片を付けるがいい)
(あざーすっ!)
「ガァアアアアアアアッ!?」
足を奪われ、腹から止めどなく血を流し続けるテオ・オルギガに嬉々として襲い掛かるゼオとゴブマル。野生の生存本能故か、死にぞこないといえる状態でも無理矢理立ち上がり、太く長い腕を振り回す。
(幾らステータスが高くても、両膝立ち状態でどうにかなると思うなよっ)
ゼオとゴブマルは慢心しない。たとえ相手が死にかけであったとしても相手の土俵に乗らず、遠距離から《火炎の息》や《ゴブリン流星拳》を連射して仕留めに掛かる。
幾らゼオたちのステータスで劣っていたとしても、既にゼルファートによってHPを著しく削られた状態。テオ・オルギガはすぐに声もなく事切れ、ゼオは自らのステータスを確認した。
(よしっ、レベル120。後もうちょっとで……)
着実に、それも面白いくらいの速さでレベルが上がっていく。その事実を噛みしめながら、ゼオは眠気で頭の中が朦朧とし始めたのを自覚した。隣を見れば、同じようにレベルが上がっているゴブマルも目を擦っている。
ちなみに、もっと遥かに格上の魔物……全ステータスが100万代のを探し出して、ゼルファートに虫の息にしてもらったところを止めを刺すということも提案したが、それは止められた。
――――今の貴様らでは、その程度の魔物を弱らせる時の余波にも耐えられん。
そう言わせ得るだけの凄みと説得力で黙らされてしまった。
何はともあれゼルファートを戦力にし、経験値ハイエナと化したゼオとゴブマル。経験値を多く保有する高ステータスの敵を探し求め、見つけ出してはゼルファートが瀕死に追いやり、弱ったところをゼオとゴブマルが止めを刺して経験値だけを頂く……そんなゲーム感覚のレベリングを休みもなく続けて、一日を優に経過していた。
(眠るがいい。これ以上の強行を続けるのは苦しかろう)
(おー……じゃあ、お言葉に甘えて)
そういう形その場で胡坐をかいたゼルファートに倣う形で、ゼオは《収縮》スキルを発動して体を丸め、ゴブマルは両手を枕にして即座に鼾をかき始めた。
こうしてレベリングに付き合ってくれているゼルファートだが、ゼオは頼んだ当初、受けてくれるとは考えていなかった。所謂、ダメ元のつもりで頼んだのである。
しかし意外な事に、レベリングの概要を聞いたゼルファートはあっさりと了承。グランドホールの奥地へとゼオとゴブマルを連れ、二体よりも高いステータスを持つ魔物を弱らせ、最後の止めは譲ってくれている。
(なぁ。どうして俺に協力してくれたんだ? 正直な話、受けてくれそうにないって勝手ながらに思ってたんだけど)
(…………深い理由はない)
そう言いながらゼルファートは上を見上げる。爛々と輝く紅い眼は、どこか懐かしむように本来暗黒であるはずの地下空洞を満天の星空のように照らす発光石を映していた。
(……彼女から聞いた我ら魔物の王と呼ばれる者の話、それが夢物語で終わるのか、そうでないのか……その行く末を長く見ていたかっただけだ)
(……彼女?)
ゼルファートは魔王の事を誰かから聞いたらしい。
(なぁ……前から聞きたかったことがあるんだけどさ)
(何だ? ある程度の事までは教えるが……)
(前に聞いて答えが返ってこなかったことを蒸し返す気はないって)
ゼオはもう一つ、どうしても気になっていたことがあった。獣王ノーデスと鋼王ゼルファートの共通点に関することである。
危険地帯の奥に潜み、単身で星を砕きうるという絶大なステータスを誇る、それぞれ獣系や無機物系という違いはあれど、一つの系統の魔物たちの最強個体。そしてそのいずれもが、ゼオを手助けするような動きを見せている。そして――――
(鑑定で見たんだけど、ノーデスもゼルファートも、霊王である聖女って奴を守る役目があるんだってな? その聖女って何なんだ? それに霊王ってニュアンスから察するに、お前らみたいな最強の個体って感じがするんだけど?)
(……貴様の推測は、決して間違いではない)
ゼルファートは黙り込むことなく答えた。
(我やノーデスの他にも竜王、両王、蟲王、海王、樹王、鳥王と呼ばれる最強の個体が存在する。そして霊王とは、霊長類の頂点……すなわち、人類で最も優れた個体を指す称号であり、魔物の王である魔王と一対となる女の事だ)
どうやらゼルファートやノーデスのような存在が合計で八体存在するらしい。その上に立つのが霊王と、ゼオが順調に成長すれば行き着くであろう魔王であるらしいが、いまいち納得できなかった。これまで出会った〝王〟を名乗る魔物以上の存在が想像し難いのだ。
(もしも貴様が魔王を目指すというのなら、貴様は必ず霊王の素体である聖女との邂逅を果たすことになるだろう。聖女もまた、魔王の素質を持つ貴様がいなければ霊王へ進化を遂げることはできない。貴様らが共に居て、初めて進化条件を満たすことができるからな)
(魔王と霊王はセット……ってことか。それにしても、そんな進化条件があるなんてな……作為的に感じるのは俺の気のせいか?)
(事実、その通り故な)
あっさりと肯定するゼルファートに瞠目するゼオ。
(何を驚く。そもそも我も含め、魔物は自身や他者のステータスを見ることも出来なければ、自らの進化先を選択する力もない。それが出来る貴様の存在自体が作為的なのだ。それは貴様自身、分かっていることでは無いのか?)
ゼオは二度の白昼夢の中で出会った白い女を思い出す。確かにゼオは彼女によって異世界に転生した存在だ。他者の手が加わった時点で、偶然この世界に生を受けた存在ではない。
(そんな貴様と対を成す霊王も作為的な存在……当然と言えば当然の事である。我ら八体の王を統べる者として君臨するための筋書と素養を与えられた存在……それが魔王と霊王であり、貴様らが辿り得る未来の一つだ)
(……訳が分からん。そんなことをして、一体何をしようってんだ?)
(今の我から話すのはここまでだ。残りは旅を続け、自ら探し当て、そして答えを見つけるがいい)
相変わらず肝心なことを話すつもりのない様子に不貞腐れ気味に体を丸めるゼオに、ゼルファートは仕方ないと言わんばかりに小さく嘆息する。
(……だがそうだな。最後にこのくらいは教えてやってもいいだろう)
あ、この魔物やっぱりツンデレだ。不貞腐れた演技をしていたゼオはこっそりとしたり顔を浮かべる。
(我ら八体の王は魔王や霊王の素質を持つ者を見分け、その所在を知ることが出来るスキルを有している。故に我は断言しよう。お前と聖女の邂逅は近いということを)
(…………はっ!? もしかしてその聖女って奴、結構近くに居るの!?)
(然り。霊王……その種族名はルシファー。その素体である聖女は、山を挟む二つの街、その大きな方に居る)




