ざまぁでレベル上げし過ぎた俺は、宝箱と戦う
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股間に大ダメージを受けルーファスは、どうやら不能になる可能性が高く、弟であるロイドに家督が移るかもしれないらしい。そんなメイドの話を透明化しながら聞いたゼオは相変わらず股間を庇うように動くルーファスを見て溜飲を下げることにした。一夜経っても涙目で股間を抑える美男は、見ていて実に清々しい。
(お嬢の傍に居た方がレベルが上がるんじゃね?)
シャーロットが学院に行き、今日の日程を整えていた時、ざまぁを執行するだけでレベルが8に到達したゼオはそんなことを考えていた。
一体どういう理屈か、普通の戦闘と違い、ざまぁに成功すれば経験値を貰うのではなくレベルが上がるという仕組みになっているのではないかという事に気が付いたゼオ。
それならシャーロットの身辺警護も兼ねてレベルを上げた方が良いと思ったのだが、それではSPが何時まで経っても貯まらず、ヒューマンキメラに進化できない。
(仕方ねぇ……山を越えてレベルとSP上げに行くか)
シャーロットを一人にするのは不安だが、これも今後の為と思い、断腸の思いで山を越えて魔物除けの魔道具の効果範囲から出る。
今日は時間もある。魔物のついでにグランドベリーのようなお土産も探そうと探索を開始してしばらく、ゼオは少し大きめの洞穴を見つけた。
岩の断崖に開いた穴を初めは自然に出来たものと思って少し中に入ってみたのだが、よく見れば壁には巨大かつ極太の爪で抉ったような跡がビッシリと刻まれていた。
(こ、怖ぇぇ。こんなん出来る魔物が居るのかよ)
試しにゼオも岩壁を爪で引っ掻いてみるが、僅かな爪痕を刻んだだけに終わる。むしろ力を入れ過ぎたせいで爪が一本折れた。泣きたい。
(《裂撃強化》のスキルもいるかなぁ……あれ、爪とか牙によるダメージが上がるだけじゃなく、折れ難くなるらしいし……ん?)
SPのやりくりを考えながら山林を歩いていると、木製の宝箱を見つけた。
(た、宝箱じゃーん! 何が入ってんだろ?)
ゼオのテンションは鰻登りである。ドラゴン、武器、宝箱はファンタジーのロマンだ。今この時、宝箱以外の興味を失い、我を忘れたかのように飛びつく。
(……あれ? この感触……木じゃなくね?)
木材独特の感触ではなく、石のようにザラついた硬さ。困惑しつつもとりあえず開けてみようとした瞬間、突然宝箱がゼオの顔面に目掛けて体当たりしてきた。
「ギャウッ!?」
完全な不意打ち。鼻を抉るような鋭角な一撃に悶絶しながら宝箱を睨むと、そこにはやけに細い手足を生やした宝箱が天地上下の構えをとっていた。
種族:カンフーミミック
Lv:8
HP:201/201
MP:198/198
攻撃:101
耐久:300
魔力:103
敏捷:208
スキル
《擬態:Lv7》《気配遮断:Lv6》《瓦割り:Lv4》
《大地魔法:Lv2》《箱の鎧:Lv5》
称号
《生きた宝箱》《暗殺者》《狂気の箱》《格闘家》
(何こいつ!? ルーファス程度なら五十人くらい纏めて皆殺しにできそうなステータスなんだけど!?)
魔力と攻撃力自体はそれほどでもないが、耐久値が異常なまでに優れている。敏捷値も高く、見るからに倒すのに苦労しそうな相手だが、どうやら向こうは見逃す気はないらしい。ゼオに向かってシャドーボクシングまでし始めた。
【カンフーミミック。宝箱に擬態する魔物、ミミックの亜種。ミミック系特有の防御力と俊敏な格闘能力を併せ持つ。相手を決して見逃すことのない凶暴性でも知られ、その宝箱の中身は誰も知らない】
中国拳法と言う割には、やってることは空手とボクシングである。多分《ステータス閲覧》が無かったら、その頼りない手足とコメディーな外見で強さを見誤るところだっただろう。
(相手は見逃す気なし。それはこっちも同じこと……ぶちのめして俺のSPと経験値にした後、その宝箱の中身を検めてやる)
まだ宝箱の中身が気になっているゼオは吠える。それが開戦の合図だった。カンフーミミックは地面や木の幹を足場にした跳躍でゼオの頭上に迫る。開幕早々予想外なアクロバティックな動きを披露した宝箱に反応しきれず、ゼオは背中に手刀を受けてしまう。
「グァアッ!?」
ベキッと、鱗に亀裂が入る。ステータス差を補って決定打を与えるこの攻撃は、《瓦割り》のスキルによるものだろう。しかし、攻撃を受けるまではゼオの計画通り。本命はカウンター……硬い鱗で覆われた拳でカンフーミミックを殴りつけた。
(……痛ってぇえええええっ!?)
しかし宝箱は依然無傷。逆にダメージを受けたのはゼオの方だ。鱗が少し剥げ、血が薄っすらと滲んでいる。
この世界のステータスというのは、生物の特徴や装備によって見えない補正がかかる。体格差があれば攻撃値で勝っていても力負けすることもあるし、仮に耐久が50の人間が鎧を着れば、実質上の数値は150近くまで跳ね上がるのだ。
体の殆どを石のような材質で覆われたカンフーミミックの実質的な耐久値は、おそらく400近くはあるだろう。カウンターに失敗したゼオに、武闘派宝箱は連続蹴りを浴びせる。
(ぶっ!? べっ!? ごっ!? ……んの野郎……! いい加減にしろっ!)
幸いなのは、敵の筋力値とゼオの耐久値に大きな差があり、ゼオも鱗による補正が僅かながらにかかっていということだ。《瓦割り》のスキルが手刀にのみ効果を発揮している事は調べがついている。手刀だけに狙いを絞って両腕で弾き、ダメージの小さい他の攻撃は無視して隙を作り出す。
「ガァアッ!!」
ゼオの最大火力、《火の息》が着弾して爆裂する。白煙を上げながら吹き飛ばされるカンフーミミックだが、ゼオの経験上あれだけでは倒しきれていないと判断し、今度は露出している脚に向けて火球を吐き出す。
(足が無くなれば後は嬲り殺しだ!)
流石に石で覆われていない手足まで防御の補正はかかるまい。しかしゼオの逆転の為の一手は、突然手足が宝箱の中に引っ込められることで覆される。そのまま火球は着弾。煙が晴れた先にあるのは、少し焼け目が付いた程度の宝箱のみ。
(マジかよ!? お前そんな防御まで出来るの!?)
弱点部位すら覆い隠されて涙目になるゼオ。恐らく、《箱の鎧》のスキルだろう。再び手足を伸ばして接近してきたカンフーミミックの脚に目掛けて再び火球を吐き出しが、向こうも学習したらしい。三連続で飛来する《火の息》を前転、側転、バク転で回避される。
《火の息》は物理的な破壊に優れているが、三種の息の中でも命中率が悪い。ならばと、ゼオは同じ攻撃軌道でも速さの優れる《電気の息》を吐き出すが、恐らく発射口を見極めているのだろう。決して口の正面には立たない立ち回りをされて、直線の息は悉く回避されてしまう。
(あああああちょこまかとぉっ! だったらこれでどうだ!)
防御能力に加えて動きも機敏。更には知能も高いせいで隙が少なすぎるが、それでもゼオの手札が全てなくなっているわけではない。回避が極めて難しい《冷たい息》を吐き出す。
三種の息はそれぞれ一長一短だ。《火の息》が見極められやすい代わりに威力が高く、《電気の息》が範囲が狭い代わりに速さと射程に優れるように、《冷たい息》は威力が他の二つに劣る分、範囲が広く相手を拘束する力がある。
相手の動きさえ封じてしまえば、あとはゆっくりと倒す方法を模索できるし、重ね掛けすれば凍死させることも出来るかもしれない。そんな起死回生の攻撃だったのだが、突然カンフーミミックが地面に手を付けたかと思いきや、土や石が寄せ集まって槍が形成された。
そして猛回転。カンフーミミックが体の前面で、まるで車輪のようにグルグルと回す土石の槍は、空気中の水分を凍らせて青白く輝く氷結の息吹を散らして霧散させる。
(はぁああああああっ!? おまっ……どんだけ武闘派ぶってんだよ!? 宝箱のくせに!)
恐らく自身の鎧である宝箱を形成するにも使っている《大地魔法》のスキルだろう。まさか槍まで使い、アクション映画のように《冷たい息》を防ぐなんて思いもしなかった。
愕然とするゼオ。そんな彼に向かって、カンフーミミックを挑発するように手をクイックイッと動かす。
(……上等じゃボケ。絶対ボコして中身を手に入れてやる!!)
未だに宝箱の中身を諦めていないゼオはカンフーミミックに向かって突貫する。幸い、レベルが低いのか材料が悪いのか、土石の槍は一撃だけで脆く崩れる程度だったが、それでもゼオの不利は揺るがない。
長期戦にもつれ込んだ二匹の魔物の戦いだったが、同レベルでの相性差は埋め難く、ゼオは肩で息をしながら焼け目が付いた程度の傷しかないカンフーミミックを睨んでいた。
名前:ゼオ
種族:プロトキメラ
Lv:8
HP:33/248
MP:11/237
種族:カンフーミミック
Lv:8
HP:171/201
MP:9/198
両者共にMPが尽きかけているが、HPには大きな開きがある。このままでは敗北は必至。敏捷で劣っているとはいえ、翼を持つゼオは逃げも選択しに入れるが、このまま無様に敗走するのは気に食わない。ゆえに、彼は最後の攻撃を仕掛けることにした。
(多分、この条件なら《火の息》以上の威力になる。もうこれに懸けるしかねぇ)
獣の脚で地を踏み締める。それを隙と見なしたのか、カンフーミミックは残り少ないMPを土石の槍に費やして、防御したゼオの腕を抉った。
「…………っ!!」
痛みで漏れ出しそうな悲鳴を噛み殺し、鮮血滴る腕で土石の槍を振り払って圧し折り、ゼオはカンフーミミックの両側を掴んで体全体で持ち上げると、鳥の翼を羽ばたかせて天高く飛翔する。
(痛っ!? 痛いっ!? ちょ、暴れんな!)
カンフーミミックは暴れ、拳や膝でゼオを攻撃するが、体勢が悪いおかげで威力が乗っていない。疲労や血が流れる体に鞭を打ち、限界まで上へ上へと飛翔したゼオは、ポイっとカンフーミミックを投げ捨てた。
重力と重量によってどんどん加速しながら地面に真っ逆さまに落ちる宝箱。そこから更に《火の息》をぶつけ、爆発により更に加速させる。
(頼む! これでくたばれ! でなきゃもう打つ手がない! これで……これで俺に宝箱の中身を見せろぉおおおおっ!!)
打撃は通らなくても、衝撃は鎧を通過する。遥か上空より木や草の無い、剥げて岩肌を剥き出しにした場所にカンフーミミックを放り投げたゼオは、追いかけるように高度を下げながら期待半分で墜落地点に注目したのだが。
バゴォッ!!
そんな破砕音と共に、鮮血と内臓が辺りに飛び散る。あまりにグロテスクな光景に目を背けることも忘れ、ゼオは天に響けとばかりに咆哮を上げた。
(中身普通に内臓かよぉおおおおおおっ!!)
ミミックを倒せば宝箱の中身が貰える。そんなものは、ゲームの中の幻想にすぎないのだと、キメラはまた一つ大人になった。
(いてて……骨折り損のくたびれ儲けって、正にこの事か……)
その後、最初に見つけた洞穴の中に身を隠し、時間経過によるHPとMPの回復に勤しんでいるゼオは、宝箱に対する憧れをしょっぱなから裏切られて涙目になっていた。とは言っても、何も得られなかったという訳ではないが。
(SPが100も入ったし、レベルは11になってた。なぜか《精神耐性》のスキルレベルも3なってたしな)
それは攻撃が通じなかった苛立ちによるものか、それとも宝箱にはステータスでも見分けがつかない未知の精神干渉効果があったのか。とりあえず今は疲れたので、何も考えないリラックス状態に移行して回復に勤しむ。
ゼオだけなのか、この世界の生物全てがそうなのかは分からないが、転生してからというもの怪我の治りが非常に早い。どうやらHPと体の損傷具合は密接につながっているらしく、流石に欠損したことはないのだが、抉られ少し穴が開いた程度ならHPの回復に伴って半日以内に塞がるだろう。
毒や出血、過労といった自然回復を妨げる状態異常も多いが、今はその手の状態異常はステータスに見当たらない。昼頃まで休んでHPとMPを七割近く回復させ、ゼオは欠伸をしながら起き上がる。
(やっぱり、レベルの高い奴っていうより、ステータスの高い魔物の方が経験値もSPも多いのかね? カンフーミミックよりレベルの高かったグレイウルフ倒しても、こんなに貰えなかったし)
進化を経験している個体と、していない個体との差で大きくステータスに開きがある。今後はそういった大物を狙っていくべきかと考えながら洞穴を出ると、白い祭服に身を包んだ中年の男とバッタリ出くわしてしまう。
「さっきから凄い思念を感じるわぁ……こっちに誰かいるのかしらん……って、あら?」
(げげっ!?)
一瞬、思わず《透明化》することも忘れて硬直してしまう。魔物と見れば攻撃してくる敵なのか、魔物を見れば逃げ出す通りすがりなのか判別がつかないまま男の全体像を見てみる。
ピッチリとテカる七三分けされた黒髪に、恐らく改造しているのであろう軽装の祭服から覗く毛深く厚い胸板、筋肉で覆われた逞しい四肢に少し分厚い唇。そして何よりも、やけに印象的な長い下まつ毛が特徴の祭司だ。
「あらぁ! 誰かと思ったら可愛い魔物の子供だったのねぇ! うふふ……食べちゃいたいくらいよぉ♡」
「っっっ!?!?」
下唇舐める分厚い舌と、オカマ口調で発せられる野太い声に、ゼオの全身にゾゾゾッ! と得体のしれない怖気が走らせる。
何だこの男は。エネミーか、魔物か、それとも変質者なのか。とりあえず《ステータス閲覧》を癖のように発動させる。
名前:ラブ(源氏名。本名はヒ・ミ・ツ♡)
種族:ヒューマン
Lv:64
HP:901/901
MP:657/657
攻撃:856
耐久:821
魔力:541
敏捷:783
スキル
《聖句詠唱:LvMAX》《格闘術:Lv9》《治癒魔法:Lv5》
《結界魔法:Lv6》《思念察知:Lv3》《強化魔法:Lv8》
《編み物上手:Lv9》《料理上手:Lv9》《肉体強化:Lv8》
《精神耐性:Lv7》
称号
《厚き信仰》《女神の信者》《漢女》《良心に耳を傾ける者》
《慈悲の心》《聖騎士》《枢機卿》《レベル上限解放者》
《教会のママ》
シャーロットもざまぁもせずに何やってんだとお怒りの方もいるかもしれませんが、どうかご勘弁を。物語に必要なことなのです。これからもサクサク進めていきますので。