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無敵の体


 カマキリの鎌に似た刃をアンギョウの肩に叩き込む。初めは鉱物を切るような堅い感触が手に伝わり、その直後、泥のように刃がアンギョウの体に沈んでそのまま傷が塞がった。


(な……ろぉっ!!)


 ゼオは拘束された腕を力任せに引き抜く。乾いていないセメントのようにアンギョウの体が飛び散るが、その飛沫も瞬時にアンギョウの下に集まり、抉れた体も元通りになった。


(厄介すぎだろ!?)


《猿王の腕》や《妖蟷螂の鎌》を発動させた、近接戦闘時におけるゼオの実質的な攻撃値は、《ダイラタンシー》で二倍になったアンギョウとウンギョウの耐久値を超える。だからこそ衝撃に対して硬化した体にゼオの刃が一瞬食い込んだわけだが、その直後に体を半液体状態まで軟化させた。



 名前:アンギョウ

 種族:スライムロックフォート

 Lv:115

 HP:15000/15000

 MP:14928/15000

 


 嫌な予感はしていたが、まさか本当にノーダメージとは。《ダイラタンシー》と《流動する肉体》の組み合わせは凶悪的だ。そしてこちらの攻撃の切れ目を狂いなく狙い、アンギョウは肉体を変化。スキル《武器変化》によって背中から先端に剣や槍、棘付きの鉄球に斧といった武器が取り付けられた触手のようなものを幾つも生やし、ゼオの胴体に叩き込もうとする。


「ガァア!!」


 瞬時に《鋼の甲羅》を発動。攻撃を防ぎつつ、空いた片方の手で《猿王の腕》を発動、変化。アンギョウの顎を下から殴りつけるが、結果は先ほどと同じだ。腕が頭に沈み、そのまま固まって固定される。


(だが《鋼の甲羅》がある限り、俺にもこいつらの攻撃は通らない。攻撃の威力を強化するスキルを持ってはいるが、それでも素の攻撃値は俺の素の耐久値より下だ。甲羅で耐久値が上がっている以上、無視できるダメージ……なわきゃねぇよなぁ!!)


 ゼオは固められた腕を除いた四肢と頭を甲羅の中に引っ込め、《回転甲羅》で高速回転を開始する。回転の勢いをつけて幾度も壁や地面にアンギョウの頭を叩きつけることで拘束から脱するが、それまでの間、アンギョウの攻撃はゼオの甲羅を貫き、その奥にある体を傷つけていた。


「ガアアア……!」


 一旦距離を取り、発動していた三つのスキルを解除し、新たに《触手》スキルを発動。ブレス系のスキルの発射台にもなる触手を四本背中から出した。


(一応どんな魔法かと思って誘発させてみたけど……避けれなかった。想像以上に前兆も隙もない発動だ……!)


《大地魔法》にはレベルが7になることで使用可能となる、《ディーカムプス》という鉱物の原子結合を解き、分解破壊するという魔法が使用可能になるということは、スキルの詳細を確認することで知っていた。

 通常、甲羅というものはカルシウムやタンパク質といった生物由来の物質が主成分だが、スキルである《鋼の甲羅》は正真正銘、鉄でできた甲羅を身に纏う。《ディーカムプス》で破壊される可能性を考慮し、確認したのだ。


(そのツケは、痛かったけどな)


 結果として嫌な予感は的中。その上魔法発動を予期できるものもなかったので、アンギョウとウンギョウとの戦いにおいては頼もしい防御スキルは死にスキルと化してしまった。


「グォオオオオオオオオオオオオッ!!」


 体を拘束される事も考慮すれば、近接戦闘は不利と悟ったゼオ。甲羅も《ディーカムプス》ある以上、単に重たいだけの荷物にしかならないだろう。遠距離戦に切り替え、口と四つの触手から《火炎の息》を連射する。


(ゴブマルの方は大丈夫か……?)


 見た目にそぐわぬ高い敏捷値で回避、避けられない分は鉄壁の防御でやり過ごすアンギョウを射線に捉えながら、ゼオは横目でゴブマルの様子を窺う。


「ゴブゴォッ!!」


 昇竜を模るジェット噴射で強化された跳び蹴りがウンギョウの顔面を貫くと同時に、修復からの拘束から一気に距離を取る。

《鋼の甲羅》のように防具を身に纏うスキルと異なり、《ダイラタンシー》はあくまで素の耐久値を二倍にするスキル。《鎧通し》との相性は抜群に良いが、やはりゼオと同じ状況だ。

 

「ゴブゴブゴブ……ッ!」


 そうなってくると、相手は敵の攻撃を意に介さず一方的にダメージを与えることが出来る化け物。ゼオのように規模の大きい攻撃手段が乏しいゴブマル相手なら、より反撃にも出やすいのだろう。全身のいたるところから剣や槍といった武器を生み出し、手数にあかせた猛攻でゴブマルを追い詰めていた。

 ゴブマルも両手で持つゴブリンソードで自分の体よりも更に大きい刃をいなし、弾いて凌いではいるが、それも限界が来る。


「ゴッブゥ!?」


 スキル《風裂斬》を用いた遠距離攻撃。まともに食らえば全身が四散しかねない真空波の刃が足元目掛けてX字に襲い掛かり、それを上空に跳んで回避したところを、《業火斬》によって燃え滾りながら横薙ぎに振るわれる刃がゴブマルに直撃した。


「ガァアアアアアアアアアアアアアアッ!!」


 何とか攻撃と自身の体の間にゴブリンソードを割り込ませ、完全ではないが芯をずらしていたこともあって、ゴブマルは壁に叩きつけられたものの戦闘続行は出来る状態だ。一旦アンギョウから目を切り、ゴブマルに追撃の一撃を与えようとするウンギョウに対して触手を二本向け、《雷の息》を発射。その追撃を防ぐ。


(よし、何とかゴブマルも体勢を立て直して……()だぁああ!?)


 しかしその隙をアンギョウは見逃さずに、《風裂斬》による風の刃でゼオの鱗を切り裂き肉を断つ。悪臭がする血を流しながら再びアンギョウに意識を集中しつつ、ゼオは内心で悪態をついた。


(思ってたよりも強い……! 野生の生物じゃなくて、明らかに一定の知能のある戦い方だ……!)


 スライムロックフォートは、考えながら戦闘をしている。その上でステータスが高く、スキル構成も厄介な相手。メタトロンやラファエルにも通ずるところがある強敵だ。相方の危機に対して対応するあたり、チームワークもあるのだろう。



 名前:アンギョウ

 種族:スライムロックフォート

 Lv:115

 HP:15000/15000

 MP:13963/15000



 名前:ウンギョウ

 種族:スライムロックフォート

 Lv:115

 HP:15000/15000

 MP:14387/15000



 そして相変わらずのノーダメージ。ウンギョウにも《雷の息》は命中したし、アンギョウに至っては《火炎の息》が数発命中しているにも拘らずだ。物理攻撃だけではなく、ブレスによる攻撃も《流動する肉体》で受け流されてしまった。

 この状況下で唯一安心できる要素があるとすれば、ゴブリンソードが《ディーカムプス》で分解されないという事だろう。《鋼の甲羅》を発動すれば即座に発動していたのに、ゴブリンソードに対してだけ単に発動していないなど、思考する敵の行動としてはあり得ない。


(多分使った後で、効かないって分かったんだろうな。どういう理屈かは分からないけど、理由があるとしたら鋼王の体の一部から作ったという説明文)


 鉱物なら何でも分解してしまう魔法のはずなのに……一体鋼王の体が何で出来ているのか本気で気になってきたが、今はそれよりも、だ。

 爆発による衝撃波で飛び散っても元に戻るなら、《烈風の息》を食らっても結果は同じだろう。となれば、残る攻撃の手立ては一つ。


「グォオオオオオオッ!!」

「! ゴブッ!!」


 ゴブマルに対し、距離を取れという意思を込めて叫びながら、口腔の奥に冷気を貯め込む。口から漏れる凍り付いて輝く息をみてゴブマルも察したのか、《縮地》を駆使した三角跳びでウンギョウの背中に回り、背面に《ゴブリン彗星拳》をゼロ距離で叩きつけた。

 ナイスアシスト……ゼオはゴブマルを内心で絶賛する。蒼く輝く衝撃波に押されてアンギョウにぶつかる形で吹き飛ばされたウンギョウ。倒れる二体に対し、纏めて《凍える息》を吹きかけた。

 元々、アンギョウとウンギョウを倒すことが目的ではない。氷漬けにして動けなくなり、その隙に奥へ進めば勝利と同義だ。陽の光が差し込まない気温の低い地下空間、三日三晩は動けないくらいに分厚く氷漬けにしてやろうと、五つの発射口から猛吹雪が迸り、アンギョウとウンギョウを凍り付かせていく。


「っ!?」


 しかし、その目論見も淡く崩れ去る。アンギョウとウンギョウは完全に凍り付いて動けなくなるよりも先に、全身から刃を生やし、《業火斬》で火をつけたのだ。全身を呑み込む吹雪も炎に当たった端から融かされた上に、やはりダメージもない。

 これは堪らんと、ゼオは《邪悪の樹》による《ステータス閲覧》を発動。アンギョウたちのステータスを再確認しつつ、時間を止めながら落ち着いて思考の海に沈む。


(不味いな……完全無敵とは思いたくないけど、今の俺たちに有効な攻撃手段がないのはこれで確実だ)、


 新しいスキルでも買うべきか……そう思って確認してみたが、有効そうなスキルもない。どうにかしてあの門番を倒すために、直接ダメージでも与える攻撃スキルでもないものか……そう考えた時、ゼオの脳裏に天啓とも言える閃きが浮かび上がる。


(……あれ? 別に、今は直接ダメージを与えなくても良い段階なんじゃね? それに……)


 言葉の額面だけを余人が聞けば疑問を浮かべるであろう攻略法。その考えに至ったことで広がった視野の中、ゼオは背中で燃える蒼炎の翼を意識した。

 

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