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神すらざまぁされた物語

お気にいただければ評価や登録、感想のほどをよろしくお願いします。


 ヒューマンキメラに進化しよう。ゼオは心にそう固く誓った。

 いくら物理的暴力でざまぁを繰り返しても、シャーロットの心の傷を癒すには程遠い。恐らくリリィの死によってスキルの影響が無くなっても同じことだろう……受けた痛みが無くなるわけではないし、過去が覆るわけでもないのだ。

 そんな時、シャーロットが前へと進むには誰かの支えが必要となるのではないのか。その支えになろうという者は、現状自分しかいない。そしてそれは、言葉を発することも出来ない魔物の体では到底成しえない事だ。


(とりあえず、SPを15000ほど貯めるしかない)


 個体や種族にもよるが、魔物一匹につきSPが20前後貯まるものと仮定して、約750体ほど倒さなければならない。それに加えて必要なスキルを購入するための経費を計算すれば、もっと倒さなければならないだろう。


(でも焦る必要はないな。いや、急ぐに越したことはないんだろうけど、それよりもまずお嬢を守り切ることが前提だからな。スキル代ケチってお嬢に危害を加えられましたじゃ話にならない)


 進化して人間社会に馴染んでも、シャーロットが傷付けられては意味がない。とは言っても節約はしなければSPが貯まらないので、本当に必要なスキルだけを吟味して購入するスタンスを取ることにした。


(さて……早速SP稼ぎとレベル上げに行きたいところなんだけど)


 カーテンは風に踊り、燦燦と陽光が降り注ぐ日中の日陰となる森を窓から眺める。何時もならシャーロットは学院へ向かっている時間なのだが、彼女は今机に向かって何やら紙に何かを書き込んでいた。

 邪魔にならないように頭上から飛んで覗き込んで見ると、どうやら学院生徒の要望を纏めたものを参考に、学院運営側へ提出する書類を制作しているらしい。

 今日は休学日。大抵の生徒が遊び惚ける中、シャーロットは家にまで仕事を持ち帰って忙しなく過ごしていた。


「ガァ……」


 ゼオは無念そうに鳴く。一人忙しそうにしているシャーロットを手伝ってやりたいところだが、スキル《言語理解》は言葉や文字を翻訳するだけで、異世界の文字を書くことはできない。そもそも、ゼオは五本の指があるものの、骨格が人間のそれと異なるのでペンを上手く扱えないのだ。


(ていうか、それ生徒会の仕事だろ? 会長とやらをやってる婚約者様はどうしたんだ? 庶務をやってるっていう弟は?)


 ちなみにその二人、昨晩のゴキブリ騒動で今日一日は安静にしているリリィのお見舞いと称して、彼女に貢ぐついでに構ってもらいに来ている。

 ショッキングな出来事とは言え富も権力もある美男子に囲まれて非常に楽しそうであるというメイド同士の会話をこっそりと聞いて、ゼオは再び激怒した。


(まだ見ぬクソ王子め……! 生徒会長でお嬢の婚約者という身でありながら、仕事手伝わないどころかビッチとイチャついてるだと……!?)


 普通、仕事している婚約者がいれば手伝いに行くのが筋だろう。自身も同じ生徒会の仕事をしているのなら尚更だ。

 ……ちなみにこれはゼオが知る由もない余談ではあるが、学院の生徒会というのは将来の事務作業の予行演習の場でもある。いわば王太子教育の一環なのだが、リチャードは生徒会以外の王太子教育も終わっていない身でありながら、それらを放り出して婚約者でも何でもないリリィの好感度上げに勤しんでいる。アレックスやエドワードを始めとする取り巻き連中も似たようなものだ。


 ……リチャード様は本当に素敵な方なのです。ただ、最近は私が至らないばかりに怒らせてしまってばかりで。……わ、私ったら駄目ですね。未来の王妃なのに、このような体たらくでは。


 そんな婚約者であっても、魔物であるゼオしか聞いていない場であっても、シャーロットは決して悪くいう事はしなかった。それどころか、自分に至らぬところがあると卑下しているくらいだ。

 今日だって将来の重圧に耐えているリチャードたちの負担を少しでも軽くできればと言って、次の日の分の仕事を休みもなくこなしているのだ。

 こんな出来た娘を婚約者にしておいて、リチャードたちは何をしているのか。もしもシャーロットの気持ちを知ったうえで踏み躙っているのなら、到底許すことはできない。問答無用でざまぁ執行だ。


(とりあえず《火の息》でチリチリの天パにしてあげるべきか? 執拗なまでに泥団子をぶつけてあげるのもアリだな)


 今日はシャーロットが部屋に居るため、心配を掛けさせないためにも長時間外へ出ることも出来ない。仕方ないので近い未来に訪れるであろうざまぁをどうやって執行するべきかと、ゼオは部屋をウロウロしながら考えていると、小さな本棚に一冊の気になる本を見つけた。


(《ゼオニールと二柱神伝説》……? 確かコレ、俺の名前の由来になったっていう奴だったな)

「その本が気になりますか?」


 本棚から引き抜いてマジマジと表紙を眺めていると、丁度仕事が終わったらしいシャーロットがゼオの傍でしゃがみ込む。退屈していることは確かなので頷いてみると、シャーロットは本を抱えるゼオを抱き上げて、自分の膝の上に乗せた。


「では読んであげますね。いくらゼオでも、文字は読めないでしょうから」

(いや、読めるんだけどね)


 そう伝えることは出来ないし、伝えないのが吉だろう。だって良い香りがするし、良い意味で色々柔らかいし。


「さて、この物語を語るには、少しだけ予備知識が必要なのですが……」


 涼やかで清らかな声で、まるで読み聞かせるように紡がれたのは、今この世界で起きている宗教争いと、それを元にしたありがちな英雄譚。

 世界には古来より対立しあう聖男神教と女神教、合わせて二大宗派と呼ばれる宗教が存在する。

 唯一にして全能なる神を奉り、信仰を捧ぐ全てに恩恵と福音を与えるという聖男神教。

 同じく唯一神を奉っているが、己の外の神ではなく己が内の良心を信じよと説く女神教。

《ゼオニールと二柱神伝説》は、女神教の観点から綴られた創作の武勇伝だ。

 話は至って単純。世界には男神と女神の二柱の神がおり、女神は世界の始まりより男神に力の殆どを奪われ、虐げられ続けてきた。そんな女神を慰めるために十人の人間が女神の友となり、彼女に笑顔を取り戻すのだが、それが気に入らなかった男神は十人に輪廻の果てまで続く呪いを与えてしまう。

 呪いによって無残な死を遂げ、その更に来世、その次の来世の人生までもが悲劇で終わることを約束されてしまった十人の友を想い、女神は海が出来るほどに毎日毎日泣き続けた。

 幾星霜の時を嘆きに費やした女神は、ある日心優しい勇敢な若者に目を付ける。これが主人公、ゼオニールだ。男神の目を盗んで下界に降り立った女神は、超越者としての自尊心もかなぐり捨てて、頭を地面に擦り付けながらゼオニールに残された力全てを譲り渡して懇願する。

 

 ……私はどうなっても構いません。一生のお願い。どうか最後に、彼らを救う機会を。


 女神の嘆きを聞いたゼオニールは数々の冒険を潜り抜け、十の眷属を打ち破り、やがて男神を打ち倒して女神や十人を助け出す。

 まさにありふれた、地球ではテンプレ過ぎて流行らなさそうな御伽噺だが、胸がスカッとする文句なしのハッピーエンドで、ゼオ個人としては割と好きなストーリーだ。


「物語もそうですが、私はこの主人公が昔から大好きなんです。優しさや勇敢さもそうなんですが、なんといっても魅力的なのは、人間を遥かに超越した難敵であっても、人間である彼は決して諦めることをしなかった……あくまで創作の人物であるというのは理解していますが、この主人公を見ていたら私もまだまだ頑張れるような気がするんです。……まぁ、勇気だけは未だ真似できていませんけどね」


 幼い頃から厳しい王妃教育を受けていたシャーロットは、何度もこの物語から勇気をもらってきたらしい。また一つシャーロットの事を知ったゼオだったが、ふとあることに気が付いた。


(そう言えば、今まで色々あり過ぎてお嬢のステータスを見たことがないな)


 気になり始めたら止まらないのが好奇心というもの。ゼオはシャーロットに向けて《ステータス閲覧》を発動した。



 名前:シャーロット・ハイベル

 種族:ヒューマン

 Lv:10

 HP:21/21

 MP:798/798

 攻撃:13

 耐久:9

 魔力:648

 敏捷:11


 スキル

《無神論の王権:Lv--》《治癒魔法:Lv9》《解呪魔法:Lv8》

《回復強化:Lv6》《毒耐性:Lv5》《呪い耐性:Lv6》

《魔力耐性:Lv8》《精神耐性:Lv5》


 称号

《公爵家の令嬢》《厚き信仰》《女神の信者》《未来の王妃》

《良心に耳を傾ける者》《淑女の鏡》《慈悲の心》《聖女》

《癒しの導き手》《献身の徒》



(なるほど……リリィと対極的な素晴らしいステータスだな! 如何にもお嬢らしい!)


 典型的な後方回復支援型のステータスだ。MPと魔力もリリィなどとは比べ物にならないほど高いし、称号も彼女を褒め称える説明付きのものばかりである。

 肉体的なステータスも、普通の女と比べればある方だ。きっと救護隊に入隊すれば、一騎当千の活躍をするに違いない。


(ただ気になるのは、この《無神論の王権》なんだよなぁ)


 無神論というのは、大雑把に言えば神の実在を信じないというものであったはず。日課として女神への祈りを欠かさないし、称号にも《厚き信仰》や《女神の信者》といったものがあるシャーロットからはイメージできないスキルだ。


(ていうかこれ、もしかしなくてもビッチの《王冠の神権》と関係あるんじゃね?)


 スキルの説明文にも、【第一権能の片割れ。今はまだ眠れる力】と、まったく同じことが記されている。この二つのスキルに一体どういう結び付きがあるのか、それは現段階で知ることは出来ないだろうと、ゼオは新しく増えた謎を一旦頭の隅に追いやると、扉の方からノックが聞こえてきた。


「ゼオ、隠れてください」


《透明化》のスキルを発動して身を隠す。一発芸的な感じでシャーロットには《透明化》を見せたこともあり、彼女は特に驚く様子もなく扉のを開けた。

    

「お、お兄様?」


 そこに居たのは一人の美男。恐らく……というか、十中八九シャーロットの兄であるルーファスなのだろう。髪や瞳の色もそうだが、目元や顔立ちがどことなくシャーロットと似ている。


「……今日はどうされたのですか? この一年、私に近づこうともしないのに」

「ふん。私だって、こんな性悪な愚妹の部屋など訪れたくなかったさ」

(じゃあ帰れやボケ)


 ゼオはルーファスの言葉に青筋を浮かべる。開口一番で妹を貶すとか、紳士的な貴族のイメージが一瞬で崩れ去った。


(お嬢を愚かな妹と書いて愚妹と呼びやがったが、テメェはどうなんだよ? あぁん? そこまで見下せるってことは、相応のステータスなんだろうな?)



 名前:ルーファス・ハイベル

 種族:ヒューマン

 Lv:14

 HP:59/59

 MP:58/58

 攻撃:31

 耐久:30

 魔力:59

 敏捷:33


 スキル

《風魔法:Lv4》《毒耐性:Lv2》


 称号

《公爵家の跡取り》《劣等感の塊》《妹に嫉妬する者》



(カスだな)


 ゼオは一言、そう断ずる。ステータスの中途半端な弱さもそうだが、称号に関してもルーファスに卑小さを表している。


【称号《劣等感の塊》。自分の能力と素質と、妹の能力と素質と比べて得た称号。あらゆる点で妹に劣る】

【称号《妹に嫉妬する者》。妹の能力に嫉妬することで得た称号。年下に対して大人げない心証を抱く】


 どうやらルーファスにとって、シャーロットはコンプレックスの塊のようだ。話に聞いた限りでは兄バカ気味の優しい人物だというが、この態度を見る限りとてもそうとは見えない。

 コンプレックスをリリィに付け込まれたか。とはいえ同情はしない。魔力低くても意志力が強ければ跳ね除けることが出来るスキルなのだ。事の真偽も見分けられずにシャーロットに対して不信を抱くなど、シスコン兼ブラコンの風上にも置けない。


(まぁ、俺はシスコンブラコンじゃなかったから、ルーファスの事を強く言えないけども)


 ゼオがそんなことを考えていると、ルーファスの視線が机の上の書類に留まる。すると、彼は急に忌々しそうに顔を歪めた。


「それは生徒会の書類か?」

「は、はい。明日の分も少し処理しておこうと……」

「はっ! またそうやって優等生アピールか。いい加減、自分が父上や母上、殿下から見放されていることに気付けばいいものを」


 シャーロットを鼻で嗤うルーファス。そんなハッキリと両親や婚約者から見放されていると妹に告げるとは、大した〝お兄様〟だ。ゼオは唸り声を上げそうになるのを我慢しながらルーファスを睨む。


(跡取りとして優等生アピールする時間を削ってまで、お嬢の所に何の用だこの野郎)

「まぁ良い。それより、お前はお婆様からオルゴールを譲り受けていたな」


 シャーロットは答えず、机の上に視線を向ける。ゼオもそれに釣られて視線を動かすと、そこには大粒の翠緑石をメインにした品の良い装飾が施された小箱が置かれていた。

 あれの由来はゼオも聞いたことがある。今は亡きシャーロットの祖母が、今際の際に渡した形見の品であり、祖母が亡くなるより数年前に亡くなった先代ハイベル公爵との思い出の曲が流れる特注品だ。

 子供の頃は大層なお祖母ちゃんっ子だったというシャーロットは、唯一の形見であるオルゴールをとても大事にしており、館の片隅に追いやられた時も何とか死守した品でもある。


「あれの装飾に使われているのは希少な高純度のエメラルドであり、製作者は今は亡き巨匠であったはず。その様な高級品、卑しい貴様が持つには相応しくない。黙って私に明け渡せ」

「え……!?」

(はぁああああああっ!? 何言ってんだこいつ!? 頭に蛆でも湧いてるんじゃないのか!?)


 信じられないことを言ってのけるルーファスに、ゼオもシャーロットも思わず愕然とする。


「な、何故です……? あれはお婆様が今際の際に私に託してくださった大切な物……何故お兄様にお渡ししなくてはならないのですか……?」

「お婆様もお前の本性を知っていれば大切なオルゴールを譲ったりしなかっただろうが……そんな事はどうでもいい。それは真の意味でハイベル家の令嬢に相応しいリリィにプレゼントするんだ。お前に少しでも良心が残っているのなら、リリィへの今までの嫌がらせの詫びも兼ねて大人しく渡せ」


 開いた口が塞がらないとは正にこの事だろう。祖母の形見の所在が重要などではなく、リリィへの貢物としての価値を重要視しているセリフだ。


「……何度も説明しましたが、私はリリィに対してそのような事は一度たりともしていません。一体どういう道理があって、私からお婆様の形見を奪おうというのですか?」


 怒りではなく純粋な悲しみを表情に浮かべて、シャーロットは横暴となった兄に問いかけるが、ルーファスは口答えされたことに加え、リリィに嫌がらせした事実を誤魔化したと思い込み、端正な容姿を怒りで染める。


「この期に及んでまだそのような事を言うか! リリィが貴様から嫌がらせを受けたと泣いていたのだぞ!? それが真実でなくて何だというんだ!?」


 被害者だけの証言で加害者を断定しようとしていることに問題があると声を大にして言いたくなる、本当に公爵家の跡取りなのかと頭が痛くなる台詞だ。

 シャーロットも同じような事を思って瞠目していると、怒りで冷静さを失ったルーファスは更にとんでもないことをぶっちゃけた。


「いいから早く渡せ! ただでさえ私が自由にできる金銭が底をついているんだ! これ以上殿下に後れを取っては、リリィを奪われてしまうだろうが!」

(……え? 何こいつ? その言い方って……ビッチに貢ぎ過ぎて金がないから妹が持っている金目の物を送ろうってのか? しかも義理とはいえ妹への恋愛アプローチを兼ねてたりするの? イケメンなの顔だけで超キモいんだけど!?)

 

 事実、ルーファスはリリィを一人の女として見ている。だがその行いは道徳的に見れば最低最悪であると言わざるを得ない。

 初めて見るタイプの変態にゼオが戦慄していると、痺れを切らしたルーファスは無遠慮にシャーロットの部屋へと押し入る。

 このままでは大切な形見の品を奪われてしまう。直感的にその事を理解したシャーロットは、ルーファスの服の裾を掴んで必死に懇願した。


「お、お願いしますお兄様! そのオルゴールは……!」

「私に触れるな汚らわしい! 《ウインドブロウ》っ!!」

「きゃああああっ!?」

(危ないお嬢っ!!)


 ルーファスの風魔法で壁に叩きつけられそうになったシャーロットだったが、間一髪のところでゼオがクッションとなる。

 それに気づいたシャーロットはハッとした表情を浮かべて、透明化しているゼオを手探りで探すが、その手は空振るばかり。

 それもそのはず。ゼオは《飛行強化》のスキルで限界まで引き上げられた飛行速度を用い、既にオルゴールを守る番人のようにルーファスの前に立ち塞がっているのだ。


(お嬢に魔法をぶっ放すたぁ……テメェは俺の前で一番やっちゃいけねぇことをした!!)


 現れるなりシャーロットを侮辱し、大切な形見をリリィの貢ごうとし、更にはシャーロットを傷つけるという、血の繋がった兄のすることとは到底思えない行いに、ゼオの怒りは頂点に達した。


(もはや情状酌量の余地無しっ! この一撃で沈める! いざ天誅、ざまぁ執行!!)


 竜の顎に電光が迸る。快速にして一瞬の一撃、《電気の息》がルーファスの股間を貫いた。


「ごっ!? あ……ぎゃあああああああああああああああああっ!?」


 多少は手加減したとはいえ、陰嚢の中で電撃が暴れまわる痛みと苦しみは想像を絶する。ルーファスは床に突っ伏し、尻を突き上げた状態で両手で股間を抑えるという実に滑稽で情けの無い姿を晒した。なまじ美男なだけに、余計にシュールである。


(一撃じゃ生温い! 二撃三撃四撃五撃ぃぃいいいいいっ!!)

「ぎゃああっ!? ひぃいい!? みぎゃああっ!? うわああああああああんっ!?」


 涙やら鼻水やら涎やらを垂れ流し、電撃線による股間への集中砲火で、ついに子供のように泣き叫ぶルーファス。一見怒りに任せての攻撃に見えるが、被害範囲の広い《火の息》や《冷たい息》を使わないあたり、ゼオはまだ冷静な方である。

 そんな股間を抑えながらみっともない表情を浮かべるルーファスに駆け寄り、シャーロットは治癒魔法を発動した。


「お兄様!? 大丈夫ですか!?」

(聖女かよ!? あんなんにまで情けを掛けなくていいって!)


 自分を傷つけた本人であっても慈悲を忘れないシャーロットにゼオは感動に似たツッコみを入れる。……どちらかと言えば、ゼオが苛烈なだけである意味普通の対応なのだが。

 やがて騒ぎを聞きつけた使用人が相変わらず股間を抑えて悶絶するルーファスを担架に乗せて運んで行こうとし、シャーロットもそれに付いて行こうとする。


「わ、私も行きます。治癒魔法は得意な方ですから、お兄様の助けに……!」


 そんなシャーロットが高レベルの治癒スキルの持ち主であると知ってか知らずか、一人の年若いメイドがシャーロットを強かに腕で払い除ける。


「邪魔です!! いいからそこを退いてください!!」

「あぅ……」

(テメェ侍女! お前の顔とステータス憶えたからな! 後でざまぁを執行してやる!)


 遠ざかる兄に手を伸ばし、力なく腕を下げるシャーロットを促すように翼で優しく背中を押し、部屋へ誘導する。

 そんなゼオたちの静寂とは裏腹に、担架に乗せられて悲鳴に似た呻き声を上げるルーファス。ほんの少しの間しか治癒魔法を施されていない上に、陰嚢に滞留する電撃は何時までも彼を虐げ続ける。


「……あ……」


 そして股間周辺、腰回りの筋肉が電流で弛緩し、ついにダムは決壊した。

 異臭を放つ黄色い汚水でズボンや担架、ひいては床まで汚すルーファスの公爵家跡取りの威厳は、二十歳という年齢も相まって跡形もなく吹き飛ぶのであった。  


【ざまぁ成功によりレベルが2上がりました】


本編で公開できなかったゼオのステータスをここに張り付けておきます。


 名前:ゼオ

 種族:プロトキメラ

 Lv:8

 HP:248/248

 MP:237/237

 攻撃:181

 耐久:180

 魔力:184

 敏捷:179

 SP:34


 スキル

《ステータス閲覧:Lv--》《言語理解:Lv--》《鑑定:Lv--》

《進化の軌跡:Lv--》《技能購入:Lv2》《火の息:Lv5》

《電気の息:Lv4》《冷たい息:Lv4》《透明化:LvMAX》

《飛行強化:LvMAX》《毒耐性:Lv1》《精神耐性Lv:1》


 称号

《転生者》《ヘタレなチキン》《令嬢のペット》


 サクサク強くしていきたいです。でも物語を彩るために七難八苦も与えたいです。


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― 新着の感想 ―
[気になる点] 主人公の言動が掲示板で煽り合いしてる人達のようで恥ずかしい。 シャーロットの光で隠しきれないくらい主人公がなんかキツい
[良い点] 良いぞー。もっとやれー
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