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三つの権能を持つ男


 太陽が隠れて月が真上に昇った頃、ゼオは寝静まるグリーンゴブリンたちを起こさないように移動し、住処である遺跡の最奥へ続く道の途中にあった隠し部屋に置きっぱなしになっていた本を《鑑定》する。



【エドワード・クランチの手記】

【今は亡き天才。万能のクリエイター、エドワード・クランチの手記。古びて読める状態ではないが、触れた者はゴブリンヒーローとの闘争の末に、グリーンゴブリンに味方と思わせる魔法が掛かる仕組みになっていた】



 やはり……と、ゼオは納得した。

 間違いなくゼオを敵と見ていたグリーンゴブリンたちが、ゴブマルとの戦いを機に突然手のひらを返したように友好的になるには何らかの理由があると思っていたが、どうやらこの本がカラクリらしい。


(となると……この部屋の入り口も)


 続けて、壊れた壁のレンガの詳細を確認する。



【石切りレンガ】

【石を切り出して作ったレンガ。異世界から来訪した、《邪悪の樹》のスキルを持つ魂の持ち主が近づけば自壊する魔法が掛かっていた】 



 説明文が過去形である以上、もう何の効果も残ってはいないのだろう。そして恐らく、このレンガも本も、ゼオが訪れた時のために用意されていた物だと考えて間違いはない。


(ゴブマルが持っていたゴブリンソード……あれの製作者もエドワード・クランチって奴だった。つまりエドワード・クランチと……多分ラテアス・メイプルって奴も……俺とグリーンゴブリンたちが仲間になることを望んでいた?)


 恐らく手記に掛かっていた魔法は、〝手記に触れ、ゴブリンヒーローと戦った者の言葉はグリーンゴブリンたちには耳障りが良くて都合の良い言葉に聞こえる〟……といったものなのだと仮定できる。もはや言語になっていない言語を口にしてもグリーンゴブリンたちには友好的に聞こえるようにしたのはその為だろう。


(一体この二人は俺とグリーンゴブリンたちを引き合わせてどうするつもりだったんだ?)


 それを知るには更なる手掛かりが必要となる。そしてそれを心置きなく探し求めるには、地下牢に捕られている女を助け出すところから始めなければならない。


(よぉし、となると早速行きますか!)




 というわけで翌朝、ゼオは《透明化》スキルをあらかじめ発動させた状態で、再び街の地下水路を進んで地下牢の埋もれた入口を目指していた。その両手には蜜柑のような皮つきで小さめの果実をいくつか掴んでいる。

  

(とりあえずすぐに食えそうな果物とかも持ってきたし、これならやつれててもちょっとは食えるだろ)


 この果実はゼオも食べたことがあるが、果汁の割合が多く果肉も葡萄のように柔らかい。味も似たような感じだ。


「ガァッ!」


 そして以前通った道を辿って地下牢の入り口の前に到着。出入りを妨げる土砂にスキル《大地魔法》で穴を開けると、ゼオは素早く中に入った。


「な、何!? また何か来たの!?」


 牢に繋がれているルアナが悲鳴を上げる姿を確認する。上から見れば急に土が盛り上がって、土床に穴が開いたように見えたのだろう。しかもゼオの姿が見えないだけあって随分驚いている様子だ。

 これでゼオが人の姿を取れるのなら《透明化》など使わなくても良いのだが、魔物に突然連れ去られると思われるよりかはパニックは少ないはずだ。常識的に考えれば、魔物が目の前に現れれば害されると考えるのがこの世界の人類である。

 言語も通じないのでわざわざ事情を説明している暇もない。いつ人が来るかも分からない以上、問答無用で救出作戦開始だ。


「ガァアアアッ!!」

「て、鉄格子が!? 鉄格子がいきなり切れた!?」


《妖蟷螂の鎌》を発動させて一閃。更に返す刀でもう一閃。ステータスが本来の十%ほどであったとしても、今のゼオにとって鉄格子を切断するくらいは容易い。

 こうして大人一人が容易に通れるだけの穴を開けると、ルアナの体を牢屋に縛る、力づくでは破壊できない【拘束の呪鎖】の鎖を両手で握って《猿王の腕》を両腕に発動させる。


(いっせーのーでぇえっ!!)


 そして大幅に強化された腕力を以って、【拘束の呪鎖】を固定するために壁に撃ち込まれた楔を全力で引き抜き始めた。

 この魔道具はゼオでは破壊できないし、鍵を開けることも出来ない。しかし、楔が撃ち込まれた石壁は話が別だ。実際に《鑑定》をして見ても、この壁に何らかの仕掛けがある訳でもない。

 

(鎖を外すのは後でいくらでもできる……! この壁を壊すことが出来るなら……ルアナを移動させること自体は可能ってわけだ!!)


 連れ出せさえすれば、女神教の教会にでも放り込めばいい。魔物の身では出来るのはそこまでだが、教会の権力は意外とあるようなので、庇護させる対象としては十分だろう。

 筋肉が隆起するほど力を込めて引っ張ること数秒。石の壁はバゴッという破砕音と共に罅割れて、楔である長い鉄杭が引きずり出される。この調子で残りの楔も引き抜き、ゼオは《触手》スキルを発動させる。


「きゃあああああああ!? なんか巻き付いてきた!? 本当に何が起きてるの!?」

(ちょっ! さっきから大声出さないでくれ! 人に気付かれる!)


 背中から伸びた触手をルアナの体に巻き付けて持ち上げると、ルアナは手足をバタバタと動かして抵抗するが、ステータスに差があり過ぎるので問題はない。しかし大声を出されるのはいただけない。本来の出入り口である木の扉の向こうには牢番がいるかもしれないし、この狭い空間に人が密集するようなことは避けたいところだ。


(とにかく、さっさとあの穴に入り込まないと!)


 あの穴に入って地下水路に突入してしまえばこっちのものだ。地の利はゼオにあるし、現状でも殆どの人間はゼオのスピードの付いて来れないだろう。

 ゼオはルアナの手足ごと簀巻きにし、背負うような形で飛行しようとした……その時、木の扉が重たい音を立てて開き、一人の男が中に入ってきた。


「これは驚いた。何者かが牢の中に入ったとは思っていたが、まさかこんなに小さな魔物(・・)だったとはね」


 ゼオは内心で舌打ちしながらも穴へと向かい、横目で闖入者を確認する。穏やかな口調のその男は、亜麻色の髪を長めに伸ばし、どこか不敵ささえ感じさせる穏やかな笑みをモノクルで飾る美青年であり、その手には眼球をモチーフにした金色の杖を携えていた。


「一体何が目的なのかは分からないが……そうだね。このまま逃がしても害にしかならなさそうだし、このまま死んでもらうとしよう」


 男は杖の先端をルアナに……否、ルアナを背負う、透明状態の(・・・・・)ゼオに的確に向けてきたと認識した瞬間、ゼオは咄嗟にルアナの拘束を解除すると同時に地面に転がして距離を取り、すかさず《鋼の甲羅》で防御を固める。


「すかさず肉体を変化させるとは実に興味深い……が、甘い」


 杖の先端から極光が収束し、光弾となってゼオを打ちのめす。熱を伴うエネルギーの塊は甲羅越しに凄まじい衝撃をゼオに与え、灼熱が血肉を焼いた。


(いっ……つぁあ~……!? こ、コイツ……《鋼の甲羅》の防御を貫通しやがった……!)


 今のゼオにダメージを与えるのはそこらの人間のステータスでは不可能な筈だ。……それこそ、神権スキルでもない限りは。



 名前:カーネル・ローレンツ

 種族:ザフキエル完全体(状態:魂縛)

 Lv:23

 HP:27034/27034

 MP:38991/38991

 攻撃:10008

 耐久:10000

 魔力:30028

 敏捷:25789


 スキル

《理解の神権:Lv3》《慈悲の神権:Lv--》《無感動の王権:Lv--》

《魔力探知:Lv7》《束縛の呪術:Lv3》《マナバレット:LvMAX》

《マナシールド:Lv5》《スキルドレイン:Lv4》《狙撃:Lv2》

《MP自動回復:Lv5》《気配探知:Lv3》《剣術:Lv5》

《マナブレード:Lv6》《風裂刃:Lv3》《業火斬:Lv4》

《雷撃縮地:Lv5》《臨界突破Lv7》《光芒魔法:Lv8》

《大地魔法:Lv5》《電撃魔法:Lv5》《水魔法:Lv5》

《炎魔法:Lv5》《風魔法:Lv5》《回復魔法:Lv4》

《身体強化:Lv3》《魔力攻撃強化:Lv4》《嗅覚強化:Lv1》

《状態異常耐性:Lv5》


 称号

《宮廷魔術師》《次期侯爵》《悪漢》《ある種のシスコン》

《転生者》《簒奪の賢者》《人格破綻者》《古の狂人》

《腐った性根》《変質者》《妄信者》《レベル上限解放者》



 時を止めながらステータスを確認した時、ゼオは思わず歯噛みした。


(ヤバいなコイツ……! 仮に《収縮》のスキルを解除して戦えても、勝てる気がしない……!)


 藪を突いて出てきたのは蛇どころか竜だったという話だ。まさかここまで隔絶した実力者の人間と相対してしまうことになってしまうとは思いもしなかった。


(いや……人間って言うのも怪しいか。神権スキル持ちならこんなに強い奴でも納得だけど……何でこいつは二つも持ってるんだ? しかも王権スキルまで……!)


 今まで漠然と決めつけていた。王権スキルや神権スキルは、一人一つしか持てない特別なスキルなのだと。しかし何事にも例外というものはあるらしく、その例外を作り出した原因はすぐに目星がついた。



【スキル《スキルドレイン》。殺害した、もしくは承認を得た人間からスキルを一つ奪い、自分の物にできるスキル。一人につき一回しか使えない】



 恐らく、というか間違いなくこのスキルで王権スキルや神権スキルを奪ったのだろう。奪ったと思われる二つのスキルは、ステータスの補正を除けば効果を発揮していない状態だが、流石にこの事態は予想していなかったゼオは動揺を隠せない。


(こんな明らかに性格悪そうな奴に限って、物騒なスキルとステータスを……!)


 スキルを細かくチェックし、ステータスもお互いの数字を見比べて吟味する。魔法による遠距離攻撃が主体でありながらも、近接戦もこなせるという、付け入る隙の無さを見て悟った。今回の救出作戦は、どう足掻いても失敗するのだと。


「グルル……!」

「……え? ま、魔物の子供?」

 

 ゼオは悔しさと申し訳なさを滲ませる瞳をルアナに向けた後、《透明化》を解除し、唸り声を上げながらカーネルを睨み上げる。そしてそのまま身を屈め、せめて一矢報いると言わんばかりに襲い掛かった。


「……所詮は魔物か。少しは面白い事が起きていると思ったのだが」


 カーネルの指先から放たれる細長い光線。一見か細く弱弱しい魔法に見えるソレは凄まじい貫通力を伴ってゼオの口から迸る《火炎の息》を貫き、ゼオの脳に風穴を開ける。

 駆除が完了したと確信したその直後、火炎球は爆発を起こす。濛々と立ち込める黒煙と撒き散らされる熱波を《風魔法》で吹き飛ばそうとすると、まるでパンパンになった風船が空気を噴射しながら飛ぶような音が部屋に響いた。


「……何だって?」


 ペショッと軽い音を立てて地面に落ちた後、スゥッと消えてなくなるソレを見て、カーネルは瞠目した。 


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[一言] 耳障りとは、耳に不快な、と言う意味です。
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