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遺跡だと思ったらゴブリンの巣だった


(何かの鳴き声か? ……やっぱり、ダンジョンともなれば魔物の一匹や二匹棲み付いてるもんなんだろうか)


 隠し部屋を後にし、体が突っかかる壁を削りながら再び奥へ奥へと進んでいくゼオ。その道中でも――――。


(うわっつぁああっ!?)


 罠を作動させて床から天上に伸びる火柱に呑み込まれたり。


(おごっ!? いっ……たぁ~……!) 

 

 罠を発動させて落ちてくる天井を頭に叩きつけられたり。


(く、苦しい……! 動けねぇ……!)


 罠を発動させて左右から狭まる壁にサンドイッチにされたりしていた。


(はぁ……はぁ……罠だらけじゃないか、この遺跡!!)


 進めど進めど罠ばかり。一体誰が設計したのか知らないが、この遺跡を建てた人物は相当性格が悪いに違いない。いずれの罠も全て破壊して脱したが、こうも立て続けに罠が張られていると、ただでさえ牛歩よりも遅い移動速度が余計に遅くなってしまう。

 先ほどの冒険者たちも、良く生きて戻ってこれたものだと感心する。対人間を想定した罠の数々と、それに比例した人骨の量が、この遺跡は極めて危険であると無言で物語っていた。


(無駄にエネルギーも使うし……ん?)


 そしてそんな時、これまで真っすぐ突き進んできたゼオは左に逸れる短い小道、その突き当りに宝箱を見つけた。


(ふっ……くだらねぇ。ここまでくれば、俺もアレが罠の類だって分かり切っているさ)


 ゼオは「やれやれだぜ」と言わんばかりに肩を竦めながら失笑を浮かべる。

 多分だが、あれこそが先の戦士を嵌めたミミックなのかもしれない。そんな罠と分かり切っている宝箱にホイホイ引っかかるほど、ゼオは安いキメラでは――――。


「ギャウッ!?」


 安いキメラだった。気が付けば、ゼオは本物の宝箱かもしれないという一縷の可能性をかけて、狭い小道を削り広げ、宝箱を勢いよく開けていたのだ。その瞬間、宝箱の中から伸びた白い拳が、ゼオの鼻っ柱を強かに打ち付けたけである。


(お、俺の馬鹿野郎……!)


 鼻先は神経が集中している割には皮膚が薄い。それはゼオも同じようなもので、鼻先だけは鱗の量も極端に少ないのだ。

 ズキリと痛む鼻を抑えながら、ゼオは漫画のようにコミカルな手足を生やして立ち上がった宝箱……ミミックを目掛けて、《猿王の腕》で強化された拳を叩きこむ。拳を退ければ、そこには床と同様に砕けた宝箱と肉片が飛び散っていた。 


(ふっ……ステータスを見るまでもなかったな……)


 以前であったミミックの時とは違い、今度は雪辱をすぐさま晴らせて少し気分が良くなったゼオ。


(……でもおかしいな)


 しかし、次に思い浮かんだのは違和感。ゼオは未だに軽く痛みを訴える鼻を抑えながら疑問符を浮かべる。



 名前:ゼオ

 種族:アビス・キメラ

 Lv:92

 HP:16068/16320

 MP:16008/16300



 自分のステータスをみてみると、満タンだったHPが250ほど減っているのだ。いくら強化された腕で殴ったからと言っても、あっさり倒される程度の低いステータスの魔物の一撃によって与えられるとは考えられない減少値である。

 肉弾戦、接近戦で与えられるダメージは、体格差も大きく影響を受ける。いくら急所とも言える鼻先への一撃だったとはいえ、自分よりも遥かに小さな魔物であり、ステータスもゼオから見ればかなり低いであろう魔物が、そんなにダメージを与えられるとは考え難い。


(攻撃力に特化したミミックだったのかなぁ……。まぁ、倒したし、もういいか)


 死体からステータスを確認できないので、最早原因は知る由もない。終わったことだと判断して、ゼオは先に進むことにした。




 それからしばらくの間、頻繁に発動し続ける罠だらけの道を、死んだ魚のような目で突き進んだ。

 奥に進めば進むほど、石材を削る音で掻き消されていた鳴き声は次第に耳に入るようになっていき、ゼオは突き当りと思わしき場所へと辿り着いた。


(何だろう……ここ。デカい螺旋通路?)


 そこはゼオがある程度自由に動ける程度に広い、広大な螺旋通路だ。どうやら道は地下の方へと続いているらしく、件の鳴き声は下の方から聞こえてくる。


(何々? 何が居るの? ……うぉっ!?)


 最下層には篝火が焚かれていたので、その様子は簡単に把握することが出来た。

 恐らくこの遺跡の終点と思われる場所には、人間の半分ほど身長しかない、緑色の皮膚を持つ小人で一杯になっていたのだ。

 鼻は長く、耳は尖り、鋭い牙と角が生えている魔物……所謂、ゴブリンである。


(すっげー……初めて見た。ある意味、ファンタジー小説の大御所みたいな魔物だけど、今まで見かけてこなかったもんなぁ)


 ファンタジー系のモンスターと言えばと問われれば、スライムと並んで真っ先に思い浮かぶ種族だろう。むしろ今までスライムもゴブリンも見かけてこなかっただけあって、ゼオは奇妙な感動すら覚えていた。


(さて……肝心のステータスはと言えば……)


 ゼオは適当なゴブリン一体のステータスを確認してみる。


 

 種族:グリーンゴブリン

 Lv:13

 HP:34/34

 MP:8/8

 攻撃:10

 耐久:11

 魔力:8

 敏捷:15

 

 スキル

《仲間呼び:Lv6》《石斧術:Lv3》《物作り:Lv2》

《逃げ足:LvMAX》


 称号

《ヘタレなチキン》《最弱の小鬼》《群れへの忠誠》

  


 ハッキリ言って、今まで出会ってきた魔物の中では最弱の部類と言えるだろう。スキルもどれも大したことが無い。

 こんなステータスで、よく他の種族に淘汰されないものだと感心しながら、今度は種族そのものを調べてみる。



【グリーンゴブリン】

【この世界に三種類存在するゴブリンの一種。集団で生活する魔物の一種で、非常に憶病で大人しく、普段は物陰に隠れるように移動しながら、高い知能と物作りの能力を生かして森の中で食料を集める。繁殖力こそ並みだが、仲間意識が非常に強く、ほぼ無害な存在故に人類にも放置されがちなので、ステータスとは半比例してしぶとく生き残っている】



 ちょっと意外。それがゼオの偽らざる感想である。

 なんとなく気性が荒く残忍な略奪種族という偏見を抱いていたので、下で互いに肩を組み合ったり、赤子と思われる小さなゴブリンの世話をしているゴブリンたちを見ていると、人間と大して変わらないように見えるのだ。


(うーん……正直、下に行き難いなぁ。俺の事を見たら、絶対にゴブリンたちは大混乱するぞ。……だが、しかし)


 ゼオは祭壇と思われる場所に飾られ、ゴブリンたちに奉られている宝珠を見逃さなかった。



【スキルオーブ】

【古の技術によって、スキルの力が封じ込められた宝玉。手に持って念じればスキルを習得できるが、どのようなスキルを得られるかは開けてみてからのお楽しみ】



(大方予想通りのアイテム……是非とも欲しい!)


 恐らくゴブリンたちは綺麗な光を放つ宝珠を前にして、子供のように単純に喜んでいるだけなのだろう。未だスキルが宝珠に残っていることから察するに、スキルオーブの正体に気付いてもいまい。

 

(大人しい魔物と分かれば、連中から奪うのは心苦しいが……俺も一縷の望みに懸けなきゃいけない段階まで来ている。弱肉強食……悪いけど、奪わせてもらおう)


 ゼオは螺旋通路の吹き抜け部分から飛び降りる。羽ばたきながらゆっくりと降下すると、上空から吹き荒れる強風にゴブリンたちが気が付いたようで、遺跡の最下層は一斉の混乱の渦に巻き込まれた。


「ギャギャギャギャ!?」

「ギャー! ギャー!」


 年老いたゴブリンや小さなゴブリンを最優先で逃がそうとしている小鬼たちに、余計に胸を痛めながら、ゼオは一匹も踏み潰さないように慎重に着地すると、スキルオーブに手を伸ばす。

 これだけ取ったらさっさと立ち去ろう……そう思った矢先、横側から飛来した影が、ゼオの指を二本纏めて斬り飛ばした。


「グオオオオオオッ!?」


 予想外のダメージに悲鳴を上げるゼオ。咄嗟に指を切断した影に警戒の視線を向けると、そこにはマントを身に纏い、鉄の剣を携えた、一匹のゴブリンが居た。


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