魔王の素質
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硬い甲羅越しに感じる痛覚に奥歯を噛みしめる。しかし、止めの一撃たり得る一点集中砲撃を凌ぎ切ったことで、ゼオは新たに得たスキルに勝利の予感を得た。
(もしも俺に最強の魔物の素質があるなら、コレがそうだ)
今までは、戦闘中にスキルを得るという悠長な真似は出来なかった。一瞬の隙が命取りになる戦いにおいて、戦闘以外に意識を割けば敗北へと直結する。ゼオはスキルを購入できる破格の力を有していながら、今あるスキルだけで強敵と戦うことを強いられ続けていたのだ。
(相手に応じてスキルを増やす。どんな敵が相手でも、有利に働くスキルを手に入れ、肉体に変成する)
だが、《邪悪の樹》として統合されたことで、スキルの購入もステータスの確認も、発動中はゼオの意識を除く全ての時間が停止するようになり、魔王としての素質は完成形へと至った。
(どんな敵でも弱点を突き、どんな攻撃でも対策を得る。それが俺というキメラの戦い方だ!)
回転する甲羅はその速度をみるみる上げていき、失った翼の代わりとなって天に浮かんで高速で移動を始める。
翼を縮め、金属の甲羅を背負うスキル《鋼の甲羅》+《回転甲羅》と《天空甲羅》。以前苦しめられた強敵、タラスクの強さの秘訣となったスキルだ。回転する硬質な甲羅はあらゆる攻撃を弾き、手足と頭を収納する噴射炎が鈍重となった肉体を運ぶ、攻防と移動が一体となった組み合わせだ。
「■■■■……」
迫りくる甲羅にラファエルはミサイルや銃弾を一斉に掃射するが、ゼオの勢いは止まらない。堪らず回避しようとしたラファエルだが、飛来する甲羅はラファエルの飛行速度を上回っていた。
購入したてのスキルレベルは漏れなく1だ。本来巨大な甲羅を背負うことで鈍重と化した敏捷を補う《天空甲羅》でも、スキルレベルが低ければラファエルの飛行速度に追い付ける道理もない。
(だが、《天空甲羅》は飛行系のスキル……俺のレベル最大になった《飛行強化》が低いレベル分を補うことが出来る!)
何も翼だけに適応されるスキルではない。飛行が可能な状態であればそれを補助するスキルだ。
しかし、劣勢を覆したからと言って予断を許さない状況なのは変わらない。《鋼の甲羅》と《回転甲羅》の組み合わせによってダメージを大幅に軽減してはいるが、それでも全くダメージが入っていないというわけではないし、相手の手数が多すぎる。
相手のHPは満タン。対して自分は四割近く……早期決着が求められる。ゼオは《アトラクション》の魔法によって引力を発生させ、ラファエルと自分自身を引き寄せた。
(《射線保持》はあくまでミサイルや銃の弾道を維持するもの……お前自身には適応されないんだろ!?)
回転する甲羅から黒い剛毛に覆われた右腕を出す。引力と筋力強化に回転が加えられた横殴りの一撃が、盾のように前面に張り巡らされた《聖壁の鎧》を貫き、ラファエルの白磁と黄金の体に亀裂を入れる。
(もう一発……いでぇっ!?)
殴り飛ばされたラファエルに追撃を入れようと再び迫るが、剥き出しになった腕に集中砲火が浴びせられた。慌てて腕を甲羅の中に引っ込めて、ゼオは痛烈な舌打ちをする。
(コイツ……何も考えていないように見えて学習してやがる。感情は感じられない分、AIみたいな感じだ)
しかしゼオは折角見つけ出した《聖壁の鎧》を貫く攻撃を対処されたことへの落胆はなかった。元々空中で回転しながら拳打を叩きこむなど簡単に出来ることでは無い。最初の一回が偶然上手くいっただけで、普通なら甲羅ごと体当たりするという中途半端な威力の攻撃になっていただろう。
名前:ゼオ
種族:アビス・キメラ
Lv:80
HP:4610/15320
MP:9876/15300
名前:村上和人
種族:ラファエル
Lv:1
HP:12003/15003
MP:∞
《邪悪の樹》を発動して時を止めながら自分と相手のステータスをゆっくりと確認する。HPの差は倍以上。相手の攻撃は甲羅越しにダメージを与えてくるのに対し、ゼオには回転を加えた《猿王の腕》による攻撃以外に有効打はない。
(だが、何も無いなら手に入れればいい……!)
残りのSPは5070。これで買えるだけのスキルの中から、ラファエルに有効打を与えるに足るスキルを探していく。そしてそれは見つかった。
(《息吹連射》……残りSPは殆ど無くなるけど、これならラファエルを倒せる!)
すぐさま購入し、ゼオは3にまでスキルレベルを上げておいた《触手》を発動させると、甲羅の隙間から三本の触手が伸び、その先端には牙の生えた口腔が新たに出来上がっていた。
《息吹連射》はブレス系のスキルの発動に必要なインターバルを短縮するのが真価ではない。《触手》スキルと組み合わせることで同時発射できるのが真価なのだ。
(四発同時の《電撃の息》連射だ!)
回転飛行しながらミサイルや弾丸を避け、弾き、隙をついて激しい電光を四発同時に迸らせていく。……《電撃の息》が通用しないのは既に試している。幾ら《火炎の息》と違ってミサイルを貫くことが出来ても、《聖壁の鎧》を貫けなければ意味がない。
しかし、ゼオにとってミサイルを貫き、曲がりなりにもラファエルまで届くというのが重要だった。
(スキルは、使用回数に応じてレベルが上がり、威力を増していく……!)
威力を抑えることでMPを節約し、新たなスキルによって得た連射性と同時発射。凄まじい勢いで使用回数を増やしていくする気は、瞬く間にレベルを上げてその威力を増大させていく。
聖なる壁に傷一つ付けられなかった電撃は徐々に太くなり、壁に傷を、亀裂を入れ始めるようになる。そして《電撃の息》のレベルが10に達した時、迸る電撃は文字通りの天災となった。
レベル最大に達したことによるスキルの進化。進化した電撃、《雷の息》。合計四つの口腔から轟く雷撃が《聖壁の鎧》を撃ち破り、ラファエルを貫いた。
「■■■■■……!?」
まるで電子製品に雷が直撃したかのように帯電し、黒煙を上げながら動きを止めるラファエル。あまりの電流に全身が痺れたのか、その勝機を見逃すはずもなく、ゼオは《雷の息》を連射しながら《天空甲羅》を解除し、上空から間合いを詰める。
「グルォオオオオオッ!!」
「■■■■……!」
重力任せに落下しながら一撃を加える気だ。《鋼の甲羅》によって増した体重と重力加速度を加えた、両腕を《猿王の腕》に変化させての本気の一撃。それを察したラファエルは回避しようとしたが、四発同時に連射される《雷の息》に身動きが取れず、大きなダメージを受けるしかない。
見る見るうちに残りHPが三割を切る。最後の抵抗とばかりに避けるの止めて、ラファエルはミサイルを連射してゼオを先に倒そうと試みた。
「グ……ガァア……ッ!!」
それでも、ゼオは倒れない。自分の残りHPが1000を切ったのを自覚しながら、歯を食いしばって耐え抜き……そして、渾身の両拳槌が、ラファエルの球体の体を打ち砕いた。
まるで隕石のように地面に垂直落下するゼオとラファエル。天使を下敷きにして墜落の威力を殺したゼオは、自分の体の下で今にも砕け散りそうなラファエルを見下ろす。
名前:村上和人
種族:ラファエル
Lv:1
HP:43/15003
MP:∞
(ぜぇ……ぜぇ……し、死ぬかと思った……! でも、これで……!)
ようやくセネルと和人、それら全ての因縁に決着を付けられる。そう、ラファエルに止めを刺そうとしたその時、ラファエルは最後にゼオと自身の間に一発のミサイルを創造した。今更火も噴かずに飛びもしないミサイル一発作ってどうする気だと訝しんだが、そのミサイルに刻まれたマークを見て、ゼオは表情を青くする。
(お前……!? これ、核爆弾じゃねーか!?)
県一つを焼き払う驚異の爆弾。地球ではその使用や開発の反対運動が盛んに執り行われるほどの危険物だ。もしこれが本物と遜色のない爆弾であるなら、間違いなく町は無事では済まない。
(しかも点滅を始めている……! これってすぐに爆発するぞってことか、このクソ天使!!)
ゼオの判断は早かった。真っ先にラファエルを殴って止めを刺して、両腕で核爆弾を持ってから《回転甲羅》と《天空甲羅》で高く飛ぶ。その間も点滅は早くなり、今にも爆弾が爆発しそうだ。
(間に合えぇえええええっ!!)
そしてギリギリのタイミングを見極め、回転の遠心力を加えながら全力で放り投げた。すぐさまその場から回転しながら離れて、威力を出来る限り殺そうとする。これで生き残れるかどうかは賭けだ。残りHPはあまりに少ないが、それでも生き残るにはこれしか道はない。ゼオは覚悟を決めて両眼を瞑り、歯を食いしばる。
……そして、ゼオは天ごと光に包まれた。
今日の午後に息抜きの短編小説を投稿します。題して、《魔王軍四天王の一番手で地属性魔法の使い手の憂鬱》。興味があればどうぞ。




