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邂逅するは怪物に救われた者たち

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 見覚えのある、酷い光景だった。貴族令嬢時代は奉公の一環として、修道女になってからは修行の一環として、シャーロットは幾人もの町人たちが血を流し、倒れる姿を見て、これまで足を踏み入れた戦地……戦いに巻き込まれた町の光景を思い出す。

 

「くっ……!」


 ようやく見つけたゼオを追いかけたい。しかし、この惨状を見て見ぬふりをすることは、シャーロットの良心が許さない。彼女は血に塗れることも厭わず、傷口を入念に確認する。


「大丈夫ですか!? 何があったのか、喋ることが出来ますか!?」

「ゆ、勇者が……勇者がいきなり見えない何かで俺の足を貫いて……!!」


 シャーロットは思わず瞠目する。なぜ聖男神教で持て囃される和人が、聖男神教よりの宗教圏にあるこの町の住民を攻撃するような暴挙に出たのか。

 魔物騒ぎに関する疑惑すら浮かび上がってくる。以前一度だけ会った時も、どこか危なげな雰囲気と気性を感じさせる人物だったが、一体何が彼をそこまでさせたのか、シャーロットには皆目見当がつかなかった。


「痛い……シスター……助けて……!」

「大丈夫。今治りますからね。……《リザレクション》」


 目につく範囲で倒れている全員の傷口を急いで確認する。いずれも異物が貫通したのか、傷口に残っておらず、すぐに命の危険に脅かされるものでもない事を判断したシャーロットは、広域に効果を及ぼすレベル2の《再生魔法》スキル、《リザレクション》を発動した。


「おぉ……い、痛くない……」

「動けるぞ……!」

「遅くなってごめんなさい。でももう大丈夫、魔物も殆ど居なくなりましたから、衛兵の方に従って避難を」


 回復魔法、再生魔法と言えば聞こえはいいが、決して万能ではない。削り、抉られた肉を塞ぐ以上、体内に異物を残したままにすれば、余計に命に係わりかねないのだ。

 魔力量の都合上、レベル1の《再生魔法》スキルである《リヴァイヴ》を大人数に使用していては間に合わないため、もがき苦しむ人々の声を耳にしながら時間を掛けてでも一斉に治療を施したシャーロットは、大通りを進んでゼオが飛び去った方角へと進んでいく。


「あ、あれは……!?」


 するとシャーロットが結界を維持していた町の反対側出入り口で座り込む人影が見えた。その影が両腕で抱きしめるのは、先ほど別れたばかりの藍色の髪の少女。


「アルマさんっ!!」


 明らかに血の気のない表情のまま意識を失い、地面に多量の血を流すアルマの元に急いで駆け寄り、シャーロットは意識の確認を省いてアルマを抱きしめる青年に問いかける。


「あ、あんたは一体……!?」

「質問は後です! この傷は一刻を争います! いったい何で、どのように傷付けられたのか分かりますか!?」

「ゆ、勇者に剣で……」


 呆然としていた青年だったが鬼気迫るといった様子のシャーロットに少し平常心を取り戻したようだ。

 ここにきてもまた勇者。シャーロットは歯噛みしそうになるのを抑えて、傷口を確認する。血で溢れ返る裂傷の奥には、傷ついた背骨が見えた。親しくなった少女の有様に悲鳴を上げそうになったが、今この場で彼女を救えるのは自分しかいないと己を叱咤し、シャーロットは努めて冷静さを取り戻す。


「……治療を始めます。彼女を俯せにしてあげてください」

「あ、あぁ……!」


 患部が地面に触れないようにし、シャーロットは両手に暖かな光を宿らせる。

《再生魔法》スキル、《リヴァイヴ》。死人には効果がないが、僅かな生命力でも残っていれば魔力そのものを適応細胞に変換し、傷口を塞ぐと同時に、生命力を増幅させる魔法だ。

 それでも、背骨という人体にとって極めて重要な部位を傷つけられてから時間が経過したのは痛い。助かるかどうかは五分五分な上に後遺症が残る可能性も高いが、それでもやるしかないとシャーロットは全霊の魔力を両手に注ぐ。


「なぁ……頼むよ……!」


 その時、アルマの体を挟んで両膝を地面につけていた青年が、血が出るほど両拳を強く握りながら震える声で懇願してきた。


「助けるのに俺の命がいるってんなら幾らでもくれてやるし、代価がいるってんならどんな手を使ってでも用意するから……こいつの事を助けてくれ……! 俺に残された、たった一人の家族なんだよ……っ!」


 その言葉を聞いた時、シャーロットはこの青年こそがアルマの探し人だったのだと思った。青年の体には、修道女になってから治療知識を一層身につけたシャーロットが一目見れば、全身酷い打撲を受けている上に四肢には町人たち同様小さな風穴が開いているのが分かる。

 恐らく想像を絶する痛みがあるはずだろう……それらを全て度外視して、他者の命を案ずる。赤の他人はおろか、家族のように見知った相手でもそれが出来るのが容易ではないことを、シャーロットはこれまで出会った患者たちの声から知っていた。


「……なら、アルマさんの手を握り、祈ってください。そして彼女が目覚めた時、今日までの日の事を話し、聞いてあげると約束をしてください。ただひたすら貴方の事だけを想い、貴方の身命を案じ、貴方を探す為にここまで走り続けた彼女に応えるために」


 初めて会ったその日から、アルマがどれだけ青年の事を思い続けていたのか、それを近くで見ていたシャーロットがそれを伝えると、青年は俯きながら拳に雫を落とす。

 それが是の答えであると受け取ったシャーロットは、枯れ果てんばかりに魔力を注ぎ込みながら、懐かしい気配と悍ましい気配を感じる町の外へと視線を向けた。


「……ゼオ」


 響く爆音と立ち上る煙から、ゼオが勇者と戦っているのだと理解できた。そして同時に歯痒く思う。

 以前は守られるばかりで何もできなかったが、今は自惚れ抜きで共に戦えるだけの力を、そして今度こそ傷ついたゼオを癒すだけの力を振るえるというのに、自分はまたしても戦いの蚊帳の外にいる。そのことが悔しくて悔しくて仕方がないのだ。

 そんな思いを込めて呟いた怪物の名。それを聞いた時、青年は目を瞠る。


「……あんた、もしかしてあのキメラの事を何か――――」


 知っているのか――――そう言い切る直前、戦場から太陽が落ちてきたのかと思わせるほどの極光が町を覆い尽くした。





 止めを刺そうとしたが、《火の息》が何かに阻まれた。そう認識したのは、ゼオの巨体から見ても大きなバズーカの砲口がこちらに向いてからだった。


「グガァアアアアッ!?」


 ドン! ドンッ! ドドンッ! と、地球産のバズーカでもあり得ない連射砲撃によって後退を余儀なくされたゼオは、胸部に鈍い痛みと鋭い痛みを同時に感じた。


(鱗が……割られた……!?)


 明らかに威力が上昇している。警戒心が上がると同時に血を流す胴体を抑えながら和人を見てみると、彼は独りでに宙に浮かび、まるで磔刑に処されるかのような姿勢で目が眩むほどの光を放つ。


「ぎゃああああああああああああああああっ!?」

(ぐぅうううっ!? な、何が起こって……!?)


 喉を引き裂くかのような絶叫と共に周囲の土や岩石が大量に和人の体に取り込まれるように集約し、全身を覆いつくしていく。その光景は、どうしてもグランディア王国での騒動を思い起こさせた。


「嫌だ嫌だ嫌だああああああああ!!」

(おいウソだろ……まさか)


 仕上げとばかりに色や形、材質までもが変化する。平原の空に生み出され、顕現したソレは、生物を感じさせる要素が殆ど見当たらなかった。

 体は白磁に黄金の紋様が全体に施された、完全な球体。顔も腕も足も見あたらず、あるのはただ、背後に浮かぶ三対の生々しい白い翼だけ。先ほどまで死への恐怖に叫んでいた和人だったとは思えない、無機質な芸術品めいた姿で上空に鎮座していた。

 

(……追い詰められて暴走、進化したってか? 漫画脳も大概にしやがれってんだ)


 創作ではあまりにありふれた展開が現実で起こり、ゼオは頬をヒクヒクとさせながら悪態をつくしかできない。ゼオは同じ土俵である空中に飛翔しながら、和人であった巨大な球体のステータスを確認する。



 名前:村上和人

 種族:ラファエル

 Lv:1

 HP:15003/15003

 MP:∞

 攻撃:11998

 耐久:10999

 魔力:13098

 敏捷:12034


 スキル

《栄光の神権:Lv1》《聖壁の鎧:Lv5》《聖光の刃:Lv5》

《天使の翼:Lv5》《兵器創造:LvMAX》《射線保持:Lv7》

《雷電:Lv9》《経験値HP変換:Lv3》《自動追尾:Lv8》


 称号

《異世界の来訪者》《勇者》《悪漢》《絆を引き裂く者》

《Aボーイ》《不義の(ともがら)》《性欲の権化》《ハーレム志望》

《嫉妬の亡者》《虚言癖》《腐った性根》《変質者》

《お漏らし青年》《逆恨みの復讐者》《レベル上限解放者》《栄光の果樹》



「■■■……」


 その直後、黄金と白磁の球体と化した和人……天使ラファエルは全身ごとこちらを向いた…………次の瞬間、四方八方、三百六十度からゼオを包囲するようにミサイルポッドにバズーカ砲、大砲大型拳銃にショットガン、ありとあらゆる地球の現代兵器が突如現れ、独りでに宙に浮かび上がる。


(やばいっ!! これは――――!)


 まさに兵器の檻というべき窮地。兵器は人が居なければ鉄の塊に過ぎない……その前提を覆すかのように、持つ者も無く宙に浮かぶ兵器たちは、勝手に引き金を引き、破壊と殺戮を引き起こす鉄塊の中心に向けて一斉に乱射した。



コミカライズ化決定作品、「元貴族令嬢で未婚の母ですが、娘たちが可愛すぎて冒険者業も苦になりません」もよろしければどうぞ。

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[一言] ”漫画脳も大概にしやがれって” その前に過去に学んで(笑)
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