ざまぁをしたらレベルが上がって進化しました
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(今思ったんだが……ビッチが帰ってくるのはやけに早かったな。お嬢は何時も生徒会で遅い時間まで帰ってこないのに……貴族になって一年しか経ってないのに、習い事とかなくていいのか?)
ゼオはそんなことを考えながら、ハイベル公爵家の館の敷地内にある山を飛んで超えて行っていた。
人間の足なら何時間と掛かるであろう山道も、《飛行強化》のスキルによって、文字通り飛行能力が大幅に上がっているゼオならば、山一つ越えるのに一分と掛からない。
(お嬢の話だと、山一つ越えないと魔物が出ない仕掛けがあるって話だったな。とりあえずそこまで行かないとレベル上げが出来ねぇ)
以前、窓から山を眺めていた時、山林と隣接しているこの館が魔物に襲われたりしないのか気になったゼオは、必死に山を指さすジェスチャーでシャーロットから教えてもらったことがある。
なんでも、この世界には魔物除けという魔道具が存在するらしく、魔物が出現しやすい森や山を領地に持つ貴族には必要不可欠な代物なのだとか。
『あの山一つ分まで効果はありますが、そこから先は危険なので行ってはダメですよ? …………あら? そう言えば、どうしてゼオは魔物除けを掻い潜って館までこれたのでしょうか?』
実は魔物除けというのは、人間よりも遥かに本能的直感が優れた野生生物の直感を逆手に取り、ここから先は危険だという誤認を与える魔道具なのだが、地球の平和な日本の男子高校生としての意識が強く残るゼオは本能も人間並みになっており、魔物除けが効かなかったりするのだ。
(まぁ、お嬢の忠告を無視するけど、戦って経験値貰わないとレベル上げて物理でざまぁ出来ないからな。魔物の体で政治的商業的なざまぁは割と無茶があるし)
言語を理解しても話せないのでは無理もない。とにかくシャーロットを守り切るだけの強さを得るためにゼオが訪れたのは山を越えた先にある森。
途中で渓流が見えたことから、ゼオが元々いた山との間にある森なのだろう。《透明化》のスキルを使い、探索を開始すると、運よく絶好のカモである魔物の群れを発見した。
種族:グレイウルフ
Lv:9
HP:32/32
MP:21/21
攻撃:13
耐久:10
魔力:12
敏捷:56
スキル
《鼓舞の咆哮:Lv1》《嗅覚強化:Lv8》《裂撃強化:Lv4》
《脚力強化:Lv4》
称号
《群れのボス》《血に飢えた飢狼》
灰色の体毛と二本の尾を持つ狼型の魔物たちだ。その中でも一際大きい個体が群れのボスなのだろう。称号にあるのもそうだが、《鼓舞の咆哮》という味方全体の攻撃力を上げるという、いかにもボスらしいスキルを持っている。
総勢十体ほど。残りはステータスやスキルレベルの低い個体ばかりで、数以外は脅威にはならないだろう。
「バウッ!! アオォォォォォォォンッ!」
そしてグレイウルフたちは一斉に透明化しているゼオの方に振り向き、ボスはMPを消費して群れの攻撃力を上げる。視界から姿を消すスキルであっても、高レベルな《嗅覚強化》の前では意味がない。狼というだけあって、ボス以外の個体も《嗅覚強化》のレベルは大差ないのだ。
「グワァァアアッ!!」
見縊るな! ゼオは大きく口を開き、前方一帯に霜が降るほどの《冷たい息》を吐き出して、向かってくるグレイウルフたちにダメージを与えながら体表を凍りつかせて動きを阻害する。
(くたばれオラっ!)
「ギャインッ!?」
反撃に驚いたこともあって立ち止まったグレイウルフたちの中でも先頭を走っていた個体の顔面を一発二発と殴り飛ばし、今度は直線に走る電撃線を口から吐き出してもう一体を感電死させる。
「バウッ! バウッ!」
(うおっ!? こ、この野郎!?)
その隙を狙ったのか、一体のグレイウルフがゼオの死角から飛び掛かってきた。体格差はおよそ二~三倍、体重を乗せられては押しのけることも出来ないマウントポジションに勝利を確信し、確実に息の根を止めるために首筋を狙って牙を突き立てようとするあたり、彼らは頭の良い魔物であるのは確かなのだろう。
(させるか、死ね!)
そんな灰色の狼の顔面に目掛けて、今度は拳二つ分の大きさの火球を吐き出し、着弾と共に爆発する。声も上げられずに力尽きて倒れるグレイウルフを押しのけると、ゼオは次の敵に向かって走り出した。
スキル《火の息》《電気の息》《冷たい息》。口から各属性の息吹を吐き出すという点では同じだが、口から放たれた先の攻撃方法にも違いがある。
着弾と共に爆発する火球に、直線に遠くまで届く電撃線は威力が高く、逆に《冷たい息》は他の二つと比べると威力不足ではあるが、動きを阻害することと広範囲に向かって継続的に吐き出し続けられるのが強みだ。
この一対十以上の戦い。ゼオが殴る噛みつく引っ掻くしか出来なかったら、数の利で負けていただろう。そのような事にならないように、ゼオは遠距離攻撃が可能で威力も出る三つのスキルを《技能購入》で購入したのだ。
……もっとも、ただ単にカッコ良さそうだからという理由も一切否定できないのだが。
「ガァァッ!」
「ギャンッ!?」
スキルのレベルを上げるためにも三種の息を駆使して狼たちを打ち倒したゼオ。最後に残ったボスの顎を下からアッパーで打ち上げ、そのまま空中で横回転することで頭を尻尾で強打。倒れ伏したボスに向かって、着地前に火球をぶつけて止めを刺すという割とスタイリッシュな倒し方をしてから華麗に着地した。
(やべぇ……今の三連撃かなりカッコ良くなかった?)
そんな自画自賛の事を考えながら、もう周囲に敵は居ないことを確認すると、ゼオは《ステータス閲覧》を発動する。
名前:ゼオ
種族:キメラ・ベビー
Lv:14
HP:48/62
MP:4/54
攻撃:45
耐久:43
魔力:44
敏捷:45
SP:254
スキル
《ステータス閲覧:Lv--》《言語理解:Lv--》《鑑定:Lv--》
《技能購入:Lv1》《火の息:Lv3》《電気の息:Lv3》
《冷たい息:Lv4》《透明化:LvMAX》《飛行強化:LvMAX》
称号
《転生者》《ヘタレなチキン》《令嬢のペット》
敵が大量だったこともあり、スキルレベルとSPが良い具合に上がってゼオはご満悦の表情を浮かべる。
(俺のレベルはそこまで上がってないけど、まぁ格下との勝負だったからな。それよりも次は《技能購入》っと)
《毒耐性:Lv1》 必要SP:120
《精神耐性:Lv1》 必要SP:100
《打撃強化:Lv1》 必要SP:150
《鼻歌上手:Lv1》 必要SP:10
《威嚇の咆哮:Lv1》 必要SP:75
《ウザい踊り:Lv1》 必要SP:10
etc.
頭の中に明確なイメージとしてズラリと現在会得可能なスキルが必要なSPと共に並ぶ。ところどころ変なのが混じっているが、そこは気にしない方向で。
(とりあえず、《毒耐性》と《精神耐性》は必須だな。毒系全般と精神干渉全般を防げるとか、汎用性も高そうだし)
SPが殆ど無くなるが、これも必要経費だと割り切って迷わず購入。ステータスのスキルの項目に新しく追加されているのを確認すると、ゼオは満足そうに頷いた。
(耐性スキルとか強化スキルはもっと増やしていきたいな。MPも使わずにステータスに補正がかかるし)
ゼオは大まかにスキルをMPを消費して発動する任意発動型とMP無しでも効果を発揮する常時発動型の二つに分けている。
基本的に耐性や強化と付くスキルが常時発動型で、それ以外が任意発動型だ。中には《ステータス閲覧》や《鑑定》のようにMPが消費しない任意発動型もあるが、それらは少数派だろう。
(さて……まだレベル上げ足りないけど、そろそろ帰るか。昼間は殆ど屋敷の探索で潰しちまったからなぁ)
既に夕焼けが地平線に溶け込もうとする時間帯。ゼオは夕食の時間を見計らって、急いで山を飛び越えていった。
今日から始めておこうと前々から考えておいた日課に、食事の配膳を監視するというものがある。
恐らく……というよりも、十中八九リリィが原因でシャーロットが使用人からも疎まれている。ならば、配膳の際に料理に何か変なものを仕込むシェフやメイドが居てもおかしくないのではと思い当たったゼオは、《透明化》のスキルを使って厨房内の様子を見張っていた。
(今日はビーフシチューか……腹減ってきたなぁ)
ゼオの食事はシャーロットの分から分けてもらっている。恩人の食べる量が減っては心苦しいと遠慮したこともあるのだが、精神的に参っているシャーロットは食欲が落ちているようだ。華奢な少女という点を考慮しても、明らかに食事が喉を通っていない。
(その分俺が食える量が増えるのは良いけど、半分も食べない内に食欲がなくなるのは心配だからな。今日はレベル上げのついでにお土産も用意したし、喜んでくれるといいんだけど)
そんな事を考えていると、厨房内の様子に動きがあった。
「ケリィ、俺は少し出るから先に盛りつけといてくれ」
「はい、わかりました」
トイレにでも行くのだろうか、シェフがその場を後にし、厨房に居るのはケリィとゼオだけになる。配膳用のカートに湯気を立たせるビーフシチューが盛られた皿やパンなどを次々と乗せていき、最後にその脇にトレイを置く。
(お嬢の分の盛り付けかな?)
そのトレイは、いつもシャーロットの部屋の前に置かれている料理を乗せているトレイだ。
今の公爵家の食卓は、生徒会で忙しいシャーロットの帰宅を待たずに食事を始める。それは仕方ない部分もあるのだが、何とここの使用人は温め直すという発想がないのか、それとも面倒臭がっているのか、公爵家の人間に配膳するついでのようにシャーロットの部屋の前に料理を放置するのだ。
結果的に、シャーロットは何時も冷や飯を食べさせられる羽目になっている。とても仕えている家の娘にする仕打ちではない。どうにかできないものかと悩んでいると、ケリィの様子がおかしい事に気が付いた。
「今日も学院でリリィお嬢様を悪く言うなんて……やっぱりとんでもない悪女みたいね。未来のリリィお嬢様の専属侍女として、私が懲らしめなくちゃ」
そんなことをブツブツ呟きながらケリィは厨房の隅に歩み寄る。そこには害虫か害獣駆除の用の粘着性の罠が仕掛けられており、それをシャーロットの皿の上に持って行く。
(ちょっ!? お前まさかっ!?)
用意していたらしい、ポケットから取り出した木の枝で中を突き、コロリと白い皿の上に茶色いゴキブリの死骸が転がり落ちる。ケリィはそのまま素知らぬ顔でゴキブリ入りの皿の上にビーフシチューを盛りつけた。
(や、やりやがった……! やりやがったなこのクソアマ!)
ゴキブリの死骸をシャーロットに食べさせようというのか。使用人としても人間としても女としてもやってはいけない行いに、ゼオの怒りに火が付いた。
(許さねぇ……俺がぶち殺してやる!)
ざまぁ執行確定。情状酌量の余地なしと判断したゼオは、とりあえずトレイの上に乗っているゴキブリ入りビーフシチューとカートの上に乗っている普通のビーフシチューをこっそりと入れ替える。
(まさか皿の中身を捨てるわけにもいかないしな。もうビーフシチューは残ってないし)
内側にこびり付いている分以外は空になっている鍋を飛びながら見下ろし、その取っ手を掴んで持ち上げる。そのままケリィの背後に忍び寄ると、気付かれない内に素早く彼女の頭から鍋を被せた。
「きゃああああっ!? な、何!? 何なの一体!?」
業務用の大鍋なだけあって、細身の人間の上半身ならば覆い隠せる大きさだ。突然目の前が真っ暗になっているケリィは、髪や肌から白いエプロンドレスまで
ビーフシチューで茶色に染めながら混乱しているのだろうが、その程度で終わらせるつもりは毛頭ない。
(お嬢の家から人死には出さねぇ……お嬢の外聞まで悪くなるからな。だが痛い目には遭ってもらおうか!)
時間経過によりMPは回復している。ゼオはケリィの上半身を覆い隠す大鍋に向けて、全弾撃ち尽くす勢いで《火の息》を連射した。
(おらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらぁっ!!)
「きゃあああああああああっ!? いやああああああっ!?」
ドゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴッ! と、小さな爆発が連続でケリィを鍋越しに翻弄する。
攻撃系スキルは消費MPを絞ることで威力を小さくすることが出来る。それに加えて、鍋が鎧になって思うほどのダメージは無いだろう。
しかし、密閉空間に轟く爆発の衝撃と轟音は尋常ではない。もはや立っていることすらままならないケリィは、鍋に上半身を収めたまま身を丸くし、突然降りかかる災難が通り過ぎるのを怯えて待つしかない状態だ。
(ちっ! MP切れか……だったら次は肉弾戦に移行させてもらうぜ!)
「いやあぁああああああああっ!! もう止めてぇええええええええええっ!?」
(おらおらおらっ!! 泣きながらごめんなさいと言えぇえええええええっ!!)
MPが尽きて《透明化》のスキルを維持するしかでき無くなったゼオは、鍋の上からケリィを殴る、蹴る、尾で叩く、しまいには両手でゴロゴロと転がしながら、未だに何が起きているのか理解できない不忠義で恩知らずな侍女をこれでもかというくらいに弄んだ。
「ちょっと!? 何があったの!?」
(ちっ! もう人が来やがったか)
騒ぎを聞きつけて厨房の扉を開いたメイドに舌打ちをする。これだけ騒げばそれも当然だが、ゼオとしてはまだざまぁがし足りない。運良く難を逃れたカートをケリィに向けて張り倒してやろうかと思いもしたが、食べ物に罪は無いとケリィに対する皮肉を込めながら溜飲を下げ、ゼオは慌ただしくなった厨房からシャーロットの食事が乗せられたトレイを持ち出し、厨房を後にする。
(こういう時の透明化ってマジ便利)
《透明化》のスキルは、レベルが最大値になることで、持っている物も透明にすることが出来る。他の侍女に持って行かせられる気分にならないゼオは、悠々と部屋へ戻っていった……その時。
【ざまぁ成功によりレベルが上がりました。レベルが15に到達したことにより、キメラ・ベビーはプロトキメラに進化します】
(え?)
突如、頭の中にそんな声が響く。『俺って進化して大きくなるの?』という妙に見当外れなことをぼんやりと考えていると、ゼオの体は公爵家の廊下のど真ん中で光り輝き始めた。
シャーロットの家から死人が出るという醜聞を避けるためとはいえ、今回のざまぁが温いかどうかが気になります。
ゼオは基本的に暴力でしかざまぁ出来ませんから。あくまで基本的にはですが。果たして、ゴキちゃん入りビーフシチューはどこへ行くのか。