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己が今世の為に

お待たせして申し訳ございません。

ここ最近疲れと眠気が凄くて寝落ちしてばっかりでして。

そんな作者の作品でも気に入ってくだされば、評価や感想、登録のほどよろしくお願いします。


 指向性を持った烈風。それによって骨と内臓を砕かれ死に至った魔物の屍山血河の中で、シャーロットはヨロヨロと身を起こした。

 あの巨象による一撃である……それは何とか理解できたが、いったいどういうつもりでそうしたのか分からず、混乱する頭を振って何とか現状を把握しようとした矢先、樹海の奥底へと帰る巨象と入れ替わる形で、蒼炎の翼を羽ばたかせる影が町へと向かってくるのが見えた。


「あの魔物は……」


 新しく現れた、町を襲わんとする魔物。普通ならばそう考えるだろうし、その見方はシャーロットも持ち合わせている。

 つい先ほどまで大群の魔物に襲われていたのだから、当然の思考だ。


(なのに……なぜ……っ)


 なのに、どうしてあの魔物だけを拒むことが出来ないのだろうか?

 何らかのスキルを発動するべきなのだ。《結界魔法》でもなんでも。……それでも、あの見覚えのない姿をした怪物を視界に入れたシャーロットの心臓は、先ほどの命の危機とは全く違う意味で激しく脈動し、抵抗する意思を奪う。

 それはきっと……シャーロットに訴えかける強い予感がそうさせたのだ。あの竜の上半身も、獣の足も、蒼炎で形作られた王鳥の翼も、異形の尾も、その全てが探し求めてやまなかった、大切な存在を彷彿とさせる。


「グルォオオオオオオオオオッ!!」


 雄々しき咆哮を上げてシャーロットの頭上を通り過ぎ、そのまま町の大通りを低空飛行し始める巨大なキメラ。

 大きな魔物の死骸の陰に隠れていたシャーロットに怪物は気付かなかったようだが、その姿、その真っすぐに前を見据える眼を近くで見たシャーロットは遂に確信を得た。


「…………っ!!」


 声を大にして叫びたいのに、思わず喉が引き攣る。鼻の奥が痛み、視界が滲んで前が見えなくなった。たとえどんなに時が経ったとしても、どんなに姿形が変わったとしても、あの強く輝く意思を宿した瞳を、シャーロットは決して忘れない。

 

「…………ゼオっ!!」


 万感の想いが呼び名となって木霊する。かの怪物を探し求めた少女の悲鳴にも似た呼び声は、翻す翼が巻き起こす強風に掻き消された。




 樹海から飛び去り、全速力で町へと飛行する。その速度はまさにジェット機の如し、小屋のような巨体と重量でありながら生身で音速の壁に直撃するゼオは、街に辿り着く前の僅かな時間を無駄にしないように、自らのステータスを確認し、僅かに瞠目した。

 

(《ステータス閲覧》に《鑑定》、《技能購入》に《言語理解》と《進化の軌跡》、ついでに各耐性系スキルがなくなってる? その代わりに……何だこれ?)


 これまでさんざん世話になってきた重要なスキルがごっそりなくなったかと思いきや、新しいスキルが一つだけ増えていたのだ。


【スキル《邪悪の樹》。六つのスキルが統合され、本来の形を取り戻したスキル。《ステータス閲覧》、《鑑定》、《技能購入》、《言語理解》、《進化の軌跡》、そして《全状態異常耐性》の力を兼ね備る。最強の魔物、魔王へと至る扉の鍵】


 一部のスキルと、これまで他のスキルとは一線を画する性能と特異性を持って居たスキルが一つとなっていた。

 そして新たに得たのは全ての状態異常への耐性と、意味が分からない魔王とやらに至るための条件。結局それが何を意味するのかは不明だが、今は都合が良い力を得たと考えておく。


(……つくづくあの時と同じだな)


 シャーロットを救うために空を駆け、魔物の身で町へと向かった日の事を思い出した。

 結果的にゼオは愛した女と離れる羽目になった、その選択には今でも後悔が募る。……それでも、彼女の栄誉を守ったことは間違いではなかったはずなのだ。

 だから今回も同じだ。町のすぐ近くで戦い、暴れ狂ってまたこの地を離れなければならなくなったとしても、友と己のために戦わなければならない。

 後悔するための心構えはできた。ならせめて、後は大切なものを失わないための戦いをしよう。ゼオはそう覚悟を決めた。


「…………――――っ!!」


 そして町の上空へと入ろうとした時、誰かに名を呼ばれた気がした。それはどこか懐かしく、それでいて何時までも聞いていたい、優しい声だ。

 それでも、ゼオはあえて振り返ることはしない。彼の鋭い瞳孔は今、町の大通りの果てに居る和人と、その前で動かない藍色の髪をした少女を抱きしめるセネルだけを映しているから。

 あの白昼夢通りの展開だ。それが意味するところ……すなわち、眠っていた自分にこの光景を見せて起こした女は実在するということ。


(今は置いておこう。……今はっ)


 悲劇を生み出す元凶たる男。勇者の名を借りて悪逆の限りを尽くすこの男を殴らなければならない。

 ゼオは右腕に《猿王の腕》を発動させる。剛毛に覆われた巨腕、その拳を握り締め、広い大通りを降下しながら低空飛行で和人に迫る。


「な、何だこの化け物は!? 何で俺を狙いに来やがる!?」


 驚いた様子で咄嗟に何の対処も出来ない和人の濁った眼と、一点集中の敵意を向けるゼオの視線が交差する。……その時、ゼオの脳裏にある光景が浮かび上がった。


(…………あ、思い出した)


 それは今の今まで忘れていた、それほどまでに印象の薄い前世の記憶の残滓だ。思い出せたのは、夢の中とはいえ前世の姿になったからだろう。

 教室の片隅で何時も机に突っ伏して寝入っていたクラスメイト。自分の意見は何も口にせず、学校行事にもやる気がなく、普段の授業も嫌々受けているというあからさまな態度を見せているような、居ても居なくても変わらない……むしろ居なくなったら少しは教室の雰囲気も良くなる。そんな印象を持たれていた男子だった。


(お前か……お前だったのか、村上……!)


 恐らく時間にして刹那。ぶつかり合う前に見た走馬灯のような回想だった。その中でゼオに選択肢が付きつけられる。かつてのクラスメイトを見逃すか、セネルを救うかの二択を。

 後悔するとは思ったが、まさかいきなりどちらを選んでも後悔しかねない分かれ道に行き当たるとは思いもよらなかった。突き付けられたのは残酷な選択……しかし、ゼオの魂と意志は刹那の内に答えを出す。


(悪いな……俺は前世(まえ)よりも今世(いま)の方が大事なんだ)


 最初で最後の謝辞を心の中で告げ……その直後、その瞳と拳は怒りで熱く滾る。


(何より……お前のことを俺は許さねぇ)


 戦う理由など大したものではない。ただ、友を傷つけた和人は魔物の身である己に対して決して引き下がることをしない。それが分かっているなら、こちらもただただ怒りを燃やすだけにしただけだ。

 

「グオオオオオオッ!!」

「ぐわああああああああっ!?」


 翼が生み出す暴風が和人を町から離れた平原へと吹き飛ばす。

 ゼオと和人が互いに全力で戦っても、街へ被害が出難いであろう場所に移せたのは僥倖だ。ゼオは無様に転がる和人のステータスを確認する。



 名前:村上和人

 種族:ラファエル完全体(状態:魂縛)

 Lv:1

 HP:6598/7003

 MP:7000/7000

 攻撃:5023

 耐久:5000

 魔力:5001

 敏捷:5030


 スキル

《栄光の神権:Lv1》《言語理解:Lv--》《空間収納:Lv--》

《装具創造:LvMAX》《縮地:Lv8》《自動追尾:Lv7》

《超気配探知:Lv7》《雷電:Lv8》《衝撃波:Lv8》

《HP自動回復:Lv2》《MP自動回復:Lv3》《臨界突破Lv7》

《炎魔法:Lv3》《氷魔法:Lv3》《回復魔法:Lv4》

《身体強化:Lv3》《魔力攻撃強化:Lv4》《状態異常耐性:Lv2》


 称号

《異世界の来訪者》《勇者》《悪漢》《絆を引き裂く者》

《Aボーイ》《不義の(ともがら)》《性欲の権化》《ハーレム志望》

《嫉妬の亡者》《虚言癖》《腐った性根》《変質者》

《お漏らし青年》《逆恨みの復讐者》《レベル上限解放者》


書籍化作品、「元貴族令嬢で未婚の母ですが、娘たちが可愛すぎて冒険者業も苦になりません」もよろしければどうぞ。

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