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豹変する勇者

風邪を引いて更新遅れて申し訳ありません。

お気にいただければ評価や感想、登録のほどよろしくお願いします。

あと、ラブやビッチリリィのイラストも活動報告に添付しておきますので、興味がありましたらどうぞ


「この音は……角笛?」


 シャーロットとアルマが空に木霊する角笛の音を聞いたのは、焼けた家から遺品を回収しようと町の前まで辿り着いた時の事だった。

 どこまでも澄んでいるが、それと同時に重々しい音色に妙な胸騒ぎを感じていると、ゆっくりと地面が揺れ動き始めた。


「こ、これは一体……!? ま、まさかっ!?」


 振動は確実に大きなものへと変わっていく。その発信源は、危険区域である森の方角だった。

 そして二人はその目で見てしまう。森の木々の隙間や太い枝から次々と飛び出し、まるで雲霞の様に迫りくる無数の影。その正体が、全て只人の力では到底及ばない強大極まる魔物であるということを、シャーロットは直感として感じ取った。


「シ、シスター! 魔物が町に……!?」

「アルマさんっ。貴女は町の方々に避難誘導を呼び掛けてください! 私は此処で、あの魔物たちを足止めします!」


 ステータスが一般人のそれと隔絶している強大な魔物たちは、瞬く間に距離を縮めて町へと真っすぐ向かってきている。

 一体なぜ、どうしてこれまで樹海から外に出ようとしなかった魔物たちが一斉に町へと突撃を始めたのか、魔物除けの魔道具の効果が効いていないのか……そんなことは、単なる雑念だ。


「《アークエレギオン》!」


 町を背にし、その身を楯とするように両手を広げたシャーロットは、スキル《結界魔法》によって習得した魔法によって、町全体を覆う巨大な防壁を展開する。

 まるで巨大な青いガラスのような膜に閉ざされた町に構わず魔物たちは直撃するが、並みの術者が展開した結界ならば容易く粉砕するであろう突進を受けても、シャーロットの結界は微動だにしない。


「グルォオオオオオッ!!」


 それでも再び飛び掛かってくる巨獣は、結界に穴を開けようと爪や牙を突き立ててくる。それは他の魔物も同様だ。

 何故かこの町の中に入り込もうとする魔物の群れは、火を吐き、雷を落とし、剛腕で殴り掛かってくる。


「く……ぅううう……っ!」


 今の自分に出来る最大最硬の守りを、シャーロットは歯を食いしばりながら維持し続けた。女神教のシスターになったことによって受けた修練を経て、彼女は今はまだ強大な怪物たちの進撃を食い止めているものの、MPは有限だ。原因を突き止め、事態の鎮静化を図らなければ、いずれこの大群は結界を突き破ってくるだろう。


「アルマさん……早く行ってください。貴女だけでも先に避難を……!」

 

 それでも、シャーロットは退かない。退くわけにはいかないのだ。それこそが、彼女が選んだ生き様であるが故に。


「ま、待っててください! 避難を呼びかけたら、人を呼んできますから!」


 結界に張り付く巨大な魔物たちに腰が抜けそうになっていたアルマも何とか足を動かし、町の方へと走り去っていく。

 外壁で囲まれた町の入り口である門の所で、門番とアルマが叫ぶように話し合っているのが聞こえてきた。


「ア、アルマ!? いったい何がどうなっているんだ!? どうして樹海から魔物がこの町に……!?」

「説明してる暇はないんです! 女神教のシスターさんが持ち堪えてくれてる間に、早く町の皆の避難を!」

「あ、あぁ……! じゃあ俺は警報を鳴らすから、お前も先に避難をしていってくれ!」

「ま、待ってください! 誰か……誰かシスターを助けられそうな人がこの町に――――」


 それから少しして、門の高台からカァンカァンカァンと、甲高い鐘の音が街全体に響き渡る。その音を聞いて町全体が騒然とし始めたのを感じ取ると、シャーロットは再び結界の維持に意識を集中する。


(私の旅もここまでか……)


 しかし、相手は数も質も圧倒的。いかに優れた僧侶とて、全員が無事に生き延びるだけ準備をする時間を稼ぐことが出来るかどうか。

 諦観に至りそうになったシャーロット。しかし、そんな彼女の脳裏に一体の魔物の姿が浮かび上がる。


(……いいえ。持ち堪えなければなりません。生きて……もう一度貴方と会うために……!)


 結界は、より強く輝きながら強固な物へと変わっていく。金糸のような髪が舞い上がるほどに魔力を高めていく彼女の背中にはもう恐れはなく、必ず危機に打ち勝つという強い意志が宿っていた。




「ぐっ……うぅ……」


 街全体を揺らすような地響きと、空に響く角笛の音。そして悲鳴を上げながら逃げ惑う人々が掻き鳴らす騒音で無理矢理目を覚まされたセネルは、首根っこを圧迫する手の持ち主を見上げて苦々し表情を浮かべる。


「ゆ、勇者……!」

「ははは、起きたか。なら丁度よかった、今から最高のショーが始まるところだ」


 いったい何がそんなに楽しいのか、和人は《武器創造》のスキルを使って拳銃を作り出し、逃げ惑う人々の足に向かって発砲した。


「ぎゃああああああっ!? い、痛いぃいいいいっ!」

「はははははは! 逃げるなよ雑魚モブどもっ! 大人しくしてな!」


 立て続けに三度発砲。銃口が火を吹く度に倒れ伏す町人たちは、皆セネルにとって馴染みのある者たちばかりだった。

 なぜ毒が効いていないのか、なぜこのような凶行に走るのか、そういった疑問を全て横にどけて、義憤に駆られるまま全身打撲を負った体に鞭を打って立ち上がろうとする。


「や、やめろ……っ!?」


 だが、力を込めて手足を動かそうとした瞬間、四肢に強烈で身に覚えのある痛みが走る。和人がセネルが行動に移すよりも先に、彼の四肢を撃ち抜いたのだ。


「俺を散々コケにした罰だ……このまま生きたまま魔物に食われちまいな」

「っ!?」


 ここにきて、セネルはようやく気付くことが出来た。街全体を覆う青い障壁に張り付く、何体もの巨獣の姿を。

 そしてその魔物たちの内、大半が樹海で見かけたことがある種であるということに。 


「お、お前……いったい何を……!」

「はぁ? 何って、決まってるだろ? 今からこの町の連中を皆殺しにするんだよ」


 和人はさも当然のように言い出す。


「さっきからずっと考えていたんだ……どうやったらお前を苦しめられるのかって。不思議だよなぁ……今の今までそんなことに興味なんかなかったのに、俺の頭の中はもうお前のことで一杯なんだよ」


 その語り口はどこか幸悦としたものであり、それがセネルの背筋に冷たい物を差し込むような感覚を与える。

 もし和人の言葉を額面通りに受け止めるのなら、それは性格ごと変わったのではないかと疑いたくなるレベルだ。セネルは和人という人物像を義妹や幼馴染を通じて少しは知っているが、彼は見目麗しい少女が好きで、男に興味を示すような輩ではなかったはず。

 効いていたはずの毒がまるで無かったかのように振る舞うのも謎だし、毒を盛られたことを怒っている様子もない。セネルの知る和人とは違いがありすぎて、不自然通り越して不気味だ。


「それで思い付いたんだよ。お前の故郷の人間を、全員生きたまま魔物のエサにして、それを見せつけてやればお前は苦しみながら死ねるんじゃないかってなぁ」

「なっ!?」


 並の悪党では口にするだけで実行することはない恐ろしいことを和人は口にし、それを実行に移そうとしていた。


「知ってるか? 生きたまま食われるってのは、原始的な本能を揺さぶられてもっとも恐怖する死に方らしいぜ? 流石は俺だ! 主人公に相応しい発想! お前を苦しめるのと同時に、リアも、ハンナも、俺を見て顔を顰めたこの町の連中も! 俺をコケにした奴ら全員を恐怖で末期を彩ってやるのさ! あははははははははは!」


 町の人々が恐慌に逃げ回り、それを一人一人確実に足を撃ち抜きながらギラギラとした目で自慢気に語りだす。その姿はいっそのこと、正気すらも失っているのではないかと思わせるほどだったが、急に笑い声を止めて真顔になる。


「あぁ……でもあの青い壁が邪魔だな。どこの誰だか物だか知らないが、俺の邪魔をする奴はぶっ壊さなきゃな」

「……っ! さ、させるか……!」


 自らの目的の邪魔をしようとする何者かを求めて歩き出そうとする和人に足にセネルはしがみ付く。

 自分が死ぬことは覚悟していたことだ。復讐という名目があったとはいえ、殺そうとすれば殺され返される可能性くらい、戦士でも兵士でもないセネルにだって理解はできる。

 しかし、だからと言って故郷を蹂躙されるのは我慢ならない。横の繋がりが強いこの田舎町には、自分たち家族を悼んでくれた人だっているのだ。


「お前……! モブ野郎ごときが、なに主人公様の邪魔をしてくれてんだぁあああああ!?」

「があっ!?」


 機嫌がよくなったり興奮したり、落ち着いたり突然怒り出したりと、完全に情緒不安定な様子の和人はセネルを石ころのように蹴り上げる。

 

「モブが! 主人公の! 行く手を遮る! そんな! 事が! 許されると! 思ってんのかよぉおおおお! 分を弁えやがれぇええええ!」


 路上をゴロゴロと転がったセネル。その内臓や骨は傷ついたにも拘らず、それを一切考慮せずに和人は追撃にと何度も何度も彼の体を踏みつけた。

 最早呻き声をあげるのが精一杯のセネルを荒い息を吐きながら見下ろしていた和人は、突然口を醜悪な三日月状に歪めると、《武器創造》スキルを使って日本刀を生み出す。


「そうだ……手足を取って、特等席で町の連中が食われるところを見せつければいいじゃないか。もがき苦しみ、悲鳴を上げながら死んでいく故郷の連中の元に走り寄ることも出来なければ手を伸ばすことも出来ない……これなら間違いなくお前を絶望させながら殺せるだろうからなぁ……!」


 悪鬼が一人、家族の死を嘆き悲しんだ青年の手足を切り取ろうと刃を振り下ろす。その一太刀を悔しさと共に瞼を閉じ、歯を食いしばって耐える準備をするしかできないことに、セネルは犬獣人の少女と、こんな自分を友と呼んでくれた怪物の事を走馬灯のように思い返した。


(すまん……! もう、会いに行けそうにない……!)


 鋭利な刃が風切り音と共に振り下ろされる。……しかし、セネルの体に痛みはなかった。

 一体どういうことなのだろうか……セネルはゆっくりと瞼を開くと、目の前で血に濡れた藍色の髪が舞っていた。


他のざまぁシリーズもよろしければどうぞ。

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