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余りに出来過ぎた偶然

お気にいただければ評価や感想、登録のほどよろしくお願いします。


 ゼオが吹き飛ばされた先は、樹海の近辺に点在する林の内の一つだった。


(いてて……た、助かったのか……?)


 ノーデスの鼻息……あれは間違いなくゼオを狙ったものではあったものの、どうやら殺傷が目的ではなかったらしい。もし《獣王》にそのつもりがあったなら、ゼオは今頃ドラッセラム・レオと同じ末路を辿っていただろう。

 

(やっぱり、樹海の中央から遠ざけようとしてるのか?)


こんな所(樹海の外)まで飛ばしたのは結果でしかないのでは? ライジングのように侵入者を殺してでも追い返そうという感じはなかったが、不必要に殺さず深追いしなさそうな所は似ていた。


(樹海の中心には何かがあるのか?)


 気になる。人工物であるライジングが大量に配備され、更には王を名乗る魔物までもが守る先に何があるのか。


(まぁ、行く気はないんだけどね。あんなところ、命が幾つあっても足りないし)


 わざわざ死ぬ危険性が極めて大きい場所に飛び込むほど、ゼオも物好きではない。それよりも本題であるセネルへの贈り物を見繕わなければ。


「ギャウ?」


 と、ここでゼオは自分が下敷きにしているものに気が付いた。

 最初は吹き飛ばされたゼオの巨体に押しつぶされて、無残に圧し折れた倒木か何かだと思っていたが、指がやたらと大きい窪みの中に入り込んだ。

 何かと思って下を見て見ると、そこには目鼻口がくっきりと浮かび上がる人面樹が、絶望の表情を浮かべたまま絶命していた。


(な、なんかゴメーン! 俺が悪い訳じゃないけど!)


 もし人畜無害で大人しい魔物だったらと思い、先走ってちょっと罪悪感を感じるゼオ。とりあえず《ステータス閲覧》で哀れな人面樹の詳細を確認してみる。



【キラートレント】

【別名、人食いの木。食人傾向が強い肉食の植物系の魔物である人類の天敵。非常に食欲が旺盛で、キラートレントの捕食活動だけで年間百人近い死傷者が出ると言われている】



(なーんだ、ぶち殺しても文句ない奴じゃんか)


 罪悪感を感じて損したと、ゼオはゲシッとキラートレントの顔を蹴っ飛ばした。むしろこういうのを倒していけば人々から感謝されて、ゼオの目標に近づけるのではないかとすら思い始めたくらいである。


(ん? まだ説明に続きがあるな)


 頭の中に流れる情報に続きがある事を知ったゼオは、再び意識を集中させてキラートレントの情報を集めてみた。



【冒険者など魔物と戦うことを生業とする者がキラートレントと頻繁に戦い、その死体を持ち帰る。乾燥させれば上質な薪となり、中には蒼琥珀という良質な宝石が採取できる個体もある事から、奇妙な相互関係が成り立っている】



 ゼオは蒼琥珀という物に俄然興味が湧いた。これならば贈り物にも最適なのではないかと。


(とりあえず、この個体から探ってみるか)


 まずは表面をくまなく見て見る。地球で言うところの琥珀とは樹脂が固まった物の事を指すのだが、ここは異世界なのでその辺りの事情も違う可能性がある。少なくとも、このキラートレントの個体の表面には、それらしい物は見当たらなかった。


(案外、中にあったりして)


 今度はキラートレントの体を指先を使いながら注意深く粉々にしていく。根元から幹は原形を留めないくらいバラバラにし、続いて人面部分も粉々にし始めた。


(……前言撤回。やっぱりちょっと罪悪感を感じる)


 凶悪極まりないとはいえ、こうも人と同じ顔をしている生物を粉々のバラバラにしていくのはどこか気が引ける。

 そう言った感情から全力で意識を背け、作業を続けていくと、中に青く光る石を見つけることが出来た。


(おおっ! いきなり当たり! これが蒼琥珀か!)


 陽光で更に輝きを増す、中の小さな羽虫の影がくっきりと見えるくらいに透き通った青く神秘的な石だ。大きさは人の手のひらサイズ……ゼオからすれば爪先ほどの小さな石だ。



【蒼琥珀】

【キラートレントの頭部で生成される貴重な琥珀石。成人祝いの品としても非常に人気で、石言葉は激励、門出の祝福、そして永遠の友情である】


 

(す、素晴らしい……! まさにセネルに送るのにピッタリの石だ! 偶然とはいえ、まさかこんなお宝に巡り合えるなんて――――)


 偶然……その言葉を思い浮かべた時、ゼオは猛烈な違和感を感じた。


(偶……然……? いや、ちょっと待てよ。喜んでないでちょっと待てよ、俺)


 幾らなんでも出来過ぎている。偶然ノーデスに吹き飛ばされ、偶然樹海の外の林に墜落し、偶然蒼琥珀を宿したキラートレントを下敷きにする……そんな事が起こる確率など、天文学的なものだろう。

 そんな都合の良過ぎることが起こるなんて不自然通り越して不気味さと作為的なものを感じる。しかしそうだとすると、一体誰が、何のためにそうしたのか分からない。


(……動機を度外視すれば、それが出来そうなのはノーデスくらいなんだけど……)


 あの樹海は、《獣王》の縄張りであるらしい。ならばその中で起きた出来事を探知するスキルなり能力なりがあってもおかしくはないのだが、それをやる意味がどこまでも不明だ。


(俺はセネルに贈り物をしようとした。その事をノーデスが知って、その手伝いをしたと仮定して……共通点があるとすれば、《貪欲の王権》に記されていた第八権能って単語と、ノーデスの説明に記されていた第八の怪物……つまり、どちらも何らかの八番目の存在って事だけだ)


 この推察にしたってこじ付けだ。実際のところは何も分からない。結局またしても疑問点が増えただけである。

 両者に何らかの関係があるのか。もし関係があるとしたら、八という数字は何を意味するのか。


(でも……とりあえずこの蒼琥珀は貰っても良いよな?)


 折角手に入れたお宝を手放すのも馬鹿馬鹿しい。ゼオは自分にとって小さな宝石を、セネルがいる洞穴へと上機嫌な足取りで持ち帰った。




「……はぁ」


 セネルは何度目になるかも分からない溜息を吐いた。

 和人たちへの復讐を誓い、強力な毒薬を作り出すに至ったものの、セネルの心の迷いは晴れることはない。

 なにも復讐を諦めようという考えに至ったからではないのだが……どうしてもゼオを勇者との戦いに巻き込む気になれなかったのだ。

 思えば、この《混沌の魔毒》もそんな迷いが生み出した産物に思える。しかし相手は幾ら下劣とはいえ強大な力を手にした、勇者とかいう得体の知れない存在と、その恩恵を授かった者たちだ。

 ただの道具屋の息子が敵う相手ではない。《透明蜥蜴の外套》があるとはいえ、確実に毒を盛れるという保証もないのだ。むしろ人間臭いキメラの同情を煽り、利用する形で勇者たちにぶつけてしまうのが最善手。


(でも、本当にそれでいいのか?)


 街の外にいる勇者を探し出すのは極めて困難。手段はどうするにせよ、命を狙うのなら情報が集まりやすい街中こそが理想的だ。なのでセネルも最初はどこかの街にいる和人たちを、ゼオに建物ごと襲撃させようと思っていたのだ。

 しかし、自分の私怨のために何の罪もない人々まで危険に晒しても良いのか? なによりも、あんなに優しい魔物にそれをやらせても良いのか?

 そんな想いは魔物との共同生活を重ねる内に大きくなっていく。復讐を諦めるつもりはないが、返り討ちにされては何の意味もない。しかも暗殺者の失敗の末路を考えれば、チャンスはただの一度きり。確実な手段を選ぶべきなのだ。

 しかし、それでも非情に徹しきれない。一体どうすればいいのか……そんな事に頭を悩ませていると、聞き慣れたズシンと響く足音を立てながら、ゼオが洞穴に戻ってきた。


「グォオ~」

「あぁ、おかえり。今日の探検はもう良いのか?」

「ガァアアッ」


 まるで「ただいま~」とでも言いたそうに片手を上げながら洞穴の中に入ってきたゼオをセネルが迎えると、ゼオはセネルに向けて手のひらを差し出した。


「な、何だよ急に……って、これは?」


 その手のひらの上に乗せられていた物……それは、広葉で包まれた何かであった。セネルは咄嗟に《鑑定》のスキルを発動する。



【キメラの贈り物】

【キメラが人の為に用意したプレゼントを、広葉の包装で包み込んだもの。終わることのない友情の証を込めた誕生日プレゼント】



 セネルは予想だにしていなかった出来事に呆然とした。呆然としたままそれを受け取り、今にも解けそうな包装を取り外すと、中からは蒼い琥珀が出来てきた。


「お前これ……蒼琥珀!? 何で俺の誕生日を知って……!?」


 セネルは今まで忘れていたが、今日で成人を迎えていたことを思い出す。そしてその日の内に成人祝いに有名な宝石を持って帰ってきた。

 その事実に驚愕と困惑、疑問に頭の中を支配されるセネル。もう何を言えばいいのか、どんな結論に至ればいいのか、頭の中が整理できない内に、その本心が表に出てきた。


「ははは……本当に、何なんだよお前は……。マジでよく分からない奴だな……」

「グォオオ?」


 セネルは思わず、俯きながら笑ってしまった。笑いながら泣いてしまった。

 一体どうしたのと言わんばかりに表情を覗き込もうとしたキメラから顔を隠し、万感の想いをこの一言に込める。


「……ありがとよ……」


 そこには一度修羅道に落ちかけ、怪物に掬い上げられた少年の想い全てが込められていた。


他のざまぁシリーズもよろしければどうぞ。

あとよろしければ、活動報告も更新しましたので、気が向けばそちらも。

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