戦いに勝利はした……が
最近投稿以外の作家活動が忙しく、中々更新できませんでしたが、とても嬉しいことがあったのでペースを取り戻していけたらなと。
それから、新たに書籍化目指した作品、『雑魚スキルの剣術無双~スキルと魔力が全ての世界で、剣術だけで勇者共を駆逐する~』も投稿し始めましたので、よろしければそちらもどうぞ。
《回転甲羅》による回転と突撃の勢いに加え、タラスク自身の超重量でマウントポジションを取られそうになっていたゼオは、頭の中に響いた懐かしい声に驚愕することとなる。
【ざまぁを五連コンボで成功させたことにより、ボーナスとしてレベルが65上がりました】
(なんでだ!?)
一瞬、聞き間違いかと耳を疑った。しかし、先ほどまで感じていたタラスクの猛攻による痛みは大幅に抑えられていると身を以って実感すると、ゼオは恐る恐る自らのステータスを閲覧する。
名前:ゼオ
種族:アビス・キメラ
Lv:74
HP:7481/14390
MP:7002/14380
攻撃:12030
耐久:12004
魔力:12088
敏捷:11999
SP:4356
(何があったの……?)
ざまぁコンボ。まだグランディア王国に居た時、シャーロットの従者をしていたアーストをざまぁした時に一度だけ起こったレベルアップ現象だ。
この樹海で活動を再開してから、ざまぁによるレベルアップ報告自体久しく聞いていなかったが、まさかこのタイミングでざまぁコンボまでもが……それもゼオが全く認識していないところで成立するとは夢にも思わなかった。
自らの行いが、遠くの地に居る勇者たちにどのような結果を与えたのか、知らぬは本人ばかりである。
(だが……これで……!)
両腕を《猿王の腕》に変化させる。ステータスの急上昇に連動して高まった握力が、タラスクの甲羅を軋ませた。
「キュアアアアアアアアアアアアッ!!」
その瞬間、凄まじい放電と熱波がゼオを襲う。《真電甲羅》と《オーバーヒート》の合わせ技に思わず手を離すと、タラスクは甲羅の穴から火を噴きながら後退し、注意深くゼオを睨んでいる。
(警戒されたか)
本当ならあのまま、ステータス差に物を言わせて逆にマウントポジションを取り、倒すまで連打するつもりだった。
しかしそれを事前に察知したのか否か、見るからに様子の変わったゼオに警戒したタラスクは瞬時に距離を取ったのだ。
やはり油断できない敵である。ただ闇雲に突っ込んでくる獣や、こちらを恐れて逃げおおせるだけの小動物とはわけが違う。あれほど頭と勘が良く、それでもなお戦いを放棄しないのは称号によるものか、王者の素質故か、はたまた正気が残っているからなのか。
「キュオオオオオオオオオッ!!」
「グオオオオオオオオッ!!」
ボボボボンッ! と、《臭炎玉》が四つ飛ばしてくる。それら全てを《烈風の息》で切り刻み、押し戻すと、タラスクは高速回転をしながら迂回しつつゼオに突撃してきた。
「ガァアッ!!」
迎撃の一撃。猿王の拳がタラスクの甲羅に直撃する。
しかし、圧倒的なステータス差にも拘らず、拳は打点をずらされタラスクの軌道が逸れただけに終わってしまった。
(ちっ……! やっぱり良いスキルしてるよ、あの甲羅!)
防御に関するスキル、《鱗強化》や《甲羅強化》、《鉄鋼甲羅》によるステータスでは見えない補正値に加え、あらゆる攻撃を弾く高速回転。恐らく今のタラスクの防御力は、ゼオの最大威力である《火炎の息》や《猿王の腕》だけでは突破できないだろう。
「キュアアアアアアアアアアアアアアッ!!」
距離を開けながら機を伺うゼオに、タラスクの《回転甲羅》と《天空甲羅》、《噴出加速》がゼオの一万を超えた敏捷値に引き離せないほどの速度を生み出す。
更には回転を維持したまま《水刃》で周囲の木々を円形に切り裂き、《凍える息》で辺り一面を凍て付かせる。これまでにないくらいの全力の攻撃だ。
幸いにもステータスが上がったゼオには僅かにしか通用しない攻撃だが、距離を開けば遠距離攻撃、距離が縮まれば突撃からの即離脱……ヒット&ウェイ戦法を繰り広げるタラスク相手にジリ貧なのは変わらない。
(なら回転共々動きも止めればいい……!)
ゼオは手のひらを遠くで低空飛行しているタラスクに向けると、タラスクは自らの意思とは反してゼオの元へと向かってきた。
重力魔法レベル4で習得した、引力を発生させる魔法、《アトラクション》。一撃離脱を徹底し始めたタラスクは、ゼオの隙を伺う暇もなく接近を余儀なくされる。
「グォオオオオッ!!」
タラスクは今度こそゼオの両腕に捕らえられた。それでもなお足掻くように回転を続ける大亀の背中に生えた鋭い幾つもの突起を、力一杯地面に突き刺した。
「キュアアアアアアアアッ!?」
ひっくり返されただけではなく、自らの背中の棘が地面に刺さって身動きを封じられたタラスクに、さらに上から《グラビドン》で固定する。
(普段上から攻撃する分にゃメッチャ邪魔なその棘も、こうなっちまったら枷でしかないな)
一見するだけでも硬質と分かる甲羅の上側とは違い、明らかに薄そうな腹の部分を見てゼオはほくそ笑む。
こうなってしまえばタラスクとてどうしようもできない。あとはいつも通り、身動きが取れなくなった敵を葬るだけ。
「グルォオオッ!!」
「キュアアアアアアアアアアッ!?」
両手を組み、全力の拳槌を振り下ろす。甲羅の薄い箇所が砕け散り、内臓が潰れる手ごたえを感じると、ゼオはトドメとして《電撃の息》と《火炎の息》を続けざまに放った。
(良し……ようやくくたばったな)
ピクリとも動かなくなったタラスクを見下ろし、ゼオはしばらくの間、怪我や千切れた尻尾を生やすために休息を取ることにした。
(尻尾は……まぁ何とか大丈夫なはず。前にグチャグチャに折れ曲がった羽も元通りになった事あるし。……それにしても、俺のステータスもとうとう一万の大台に乗っかったかぁ)
一昔はステータス数値の十やそこらの違いを気にしていたというのに、今では千くらいの差がないと気にならなくなってきている。
気分的には突然金持ちになった庶民だ。金銭感覚ならぬ、ステータス感覚が急激な上昇で狂ってしまった気がする。
(ていうか、今の俺に適う敵がいるのか? この世界に)
全ステータス一万越えなど、少なくともゼオは見たことが無い。それこそ相手が未だ見ぬ《〇王》系の魔物ならそのくらいはあるかもしれないが、正直それ以外の敵に負ける気がしない。
得体の知れないメタトロンですら千そこら。他のステータスは軒並み低かったりしていたのだ。この樹海でも、早々負けることはないだろうと、ゼオは確信していた。
(となれば、SP稼ぎも楽に出来そうだな! まぁその分レベル上げに苦労しそうだけど!)
それを自覚した途端に有頂天になるゼオ。それから数時間が経過し、尻尾も綺麗に生えると、彼は意気揚々に樹海の中心部へと足を進めた。
(ふははははは! 今の俺に敵は無し! このまま一気にSP稼ぎまくって、進化用のスキルを抑えてから色んな便利スキルを購入しちゃうぞ!)
ズンズンと、何も恐れることのない足取りで樹海を闊歩すると、新たな獲物はすぐに見つけることが出来た。
一見すると、人ほどの大きさしかない埴輪っぽい何か。足もなく、宙に浮かぶソレの姿を言い表すなら、人の腕が生えた埴輪としか言いようのないシンプルな造形だ。
(異世界的に言うならゴーレムの類か? ふふふふ……どれ、俺のSPと経験値になっちゃう哀れな埴輪君の事を鑑定してやろうじゃないか)
間抜けというか威圧感を感じないというか、何とも頼りなさそうな姿をしている埴輪に、ゼオは完全に舐め腐った視線を送りながら《鑑定》する。
種族:ライジング
Lv:243
HP:27569/27569
MP:30008/30008
攻撃:20000
耐久:25000
魔力:29941
敏捷:20001
(……え?)
結果から言えば、ゼオは久しぶりにボッコボコに叩き潰された後、命からがら逃げることに成功した。
その時彼はこう思ったのだ。
(何あの化け物。何なのこの樹海っていうか魔境。もう舐めてかかるのは止めよう)
と。
新たに書籍化目指した作品、『雑魚スキルの剣術無双~スキルと魔力が全ての世界で、剣術だけで勇者共を駆逐する~』も投稿し始めましたので、よろしければそちらもどうぞ




