次なる進化への計画
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買い物に必要なのは計画性だ。経験値同様、SP稼ぎが少なからず命の危険があるので、購入するスキルには吟味が必要となる。次の進化形態を前もって選別しておき、それに必要なスキルを購入する計画を立てることで、SPの節約になるのだ。
(まぁ、そういう訳で次の進化先を最初の内にある程度絞り込んでおいた方が良い訳だが……)
今回の選択肢も五つ。ゼオは真っ先に目に入った進化先の中でも、最も目を引く項目に視線を向ける。
【ラース・キメラ】 進化Lv:150 必要スキル:《荒魂》
【連綿と魂に刻み付けられてきた怒りを解き放ち、理性と知性を失う代わりに絶大な攻撃力を手にしたキメラ。七大罪と呼ばれる魔物の一角に数えられる、魔物の中でも上位種であり、目に映る全てを破壊の嵐で呑み込む滅びの化身。一説では強大な悪魔の生まれ変わりとも伝えられ、ラース・キメラが戦った地は更地になるため、地図が当てにならなくなるのだとか】
(また出やがったな……理性崩壊系進化! なんで毎度毎度出てくるんだ!?)
もはや定番なのではないかと疑いたくなる。ゼオに進化先を表示する何者かは、そんなに自分を凶暴化させたいのか。案外、表示される進化先には何らかの条件があるかもしれないが、如何せん情報があまりに不足している。
(こんな進化はしたくないなぁ……まかり間違っても)
理性を失うだけでも論外だというのに、戦った場所が更地になるなんて生きた災害みたいなものだ。人と仲良くなって平和に暮らそうと志すゼオとしては絶対に避けたい進化先である。
(しかもこのスキル……《荒魂》とかいうの。何だこれ?)
《荒魂》 必要SP:150000
(桁……おかしくね?)
今まで見た中で最も必要SPが高かった《人化》ですら一万だ。それに対してこの《荒魂》は十五万。見間違いなどではなく、《人化》スキルの十倍のSPが必要になるのだ。
そんな高いSPを支払って手にする《荒魂》の効果は、一定時間理性と知性を失うことにより、その間全ステータスが大幅上昇。相手に与えるダメージを増大に加え、自分が受けるダメージは減少。その上、攻撃スキルの威力も上がるのだとか。
(この進化先は超攻撃特化型か。強いんだけど……やっぱ論外だな。せめてデメリットを消せるスキルでもあればなぁ)
レベルの上がった《技能購入》の一覧は新しいスキルが幾つも追加されているが、それらしいスキルは無かった。
(結局、バーサーク・キメラに進化した時に理性を取り戻せた原因も分からんままだし……とりあえず、この進化は没だな)
ゼオは次の進化先に目を向ける。
【パズズ】進化Lv:150 必要スキル:《病魔の風》《地獄斬り》
【風と共に病魔を撒き散らす魔物。疫病の具現化とも言われ、パズズが通り過ぎた国々は、数百万にも及ぶ死者を叩きだす病が大流行する。更には他種族の子供を攫って魔物に変え、己の眷属にしてしまう能力もあると言われ、夫婦の間でも災厄の化身と呼ばれている。かつて一頭のパズズがたった一匹のネズミに与えた病が、後に四億人の死者を叩きだす黒死病蔓延の原因になったとも】
(絶対に嫌だぁあああああああああああっ!! この進化だけはしたくねぇえええええええええええ!!)
ある意味、ラース・キメラよりも恐ろしい進化先だ。存在そのものが病原菌ともいえるだろう。こんな進化、誰が好き好んで選ぶものかと憤慨気味になりながらも、一応進化に必要なスキルの詳細を見て見ると、ゼオの落ち着きを取り戻す意外な説明が書かれていた。
(この《病魔の風》っていうスキル……ONOFFが切り替えられるのか)
説明では散々な事を書かれていたが、無暗に疫病を撒き散らすようなスキルではないらしい。
他のもう一つの進化に必要なスキル、《地獄斬り》も、爪や牙、角などといった鋭利なもので攻撃する際、敵の急所となる部分が直感的に理解できるという、大物食らいに使えそうなスキルだ。
(まぁ……だからといって、好き好んでこの進化を選びたいかと言われれば、そうでもないんだけども)
やっぱり遠慮したい進化先だ。絶対に、何が何でも嫌って事でもなくなりはしたが、イメージや能力の印象が悪すぎる上に、自動発動する物騒極まりないスキルを勝手に覚えてしまう可能性も十分ある。
説明通り、それだけ有名ならパズズの姿が伝承として残っている可能性もあるし、もしそうだとすればゼオの計画に大きな支障をきたす。
(パズズへの進化は、もうこれに進化しなけりゃどうしようもない状況って時が来た時だけにしよう。……これ、もしかして今回もゲテモノ枠しかないってことはないよな……?)
【ライオット・キメラ】 進化Lv:125 必要スキル:《連撃破》《超音波》
【勇猛果敢な気性と絶大な近接戦闘能力を秘めたキメラ。戦えば戦うほど気持ちが高ぶり、力と速さを上げていくため、ライオット・キメラに長期戦を挑むことは死を意味する。四本の剛腕から繰り出される連撃は、格上の魔物ですら打ち倒すと言われ、迸る咆哮は格下の存在全てを竦み上がらせる。かつては闘技場のシンボルマークのモデルにもされたという一説もある】
この説明を見た時、ゼオは大きく息を吐き出した。
(良かった……! 今回もゲテモノしかないんじゃないかと心配してたけど……本当に良かった……)
前回の進化先選択肢が悪すぎたこともあって、今回は戦々恐々と進化先をチェックしていたのだが、このライオット・キメラの説明を見ただけで緊張が大幅に薄れた。
(近接特化型の魔物か……四本腕っていうのが気になるけど、強いっちゃあ強い。進化先としては十分ありだ)
進化に必要なスキルも近接戦との相性が良いもので、《連撃破》は連続攻撃を重ねるごとで相手に与えるダメージが延々と増加し続けるというもの。四本腕との相性もピッタリで、説明通り格上が相手でも一方的にハメ殺しが出来そうだ。
もう一つのスキルである《超音波》も、衝撃を伴った爆音を自分を中心に全方位に発生させるスキル。格闘戦主体となればどうしても一対多数が苦手になるのだが、このスキルがあればそれも克服できるだろう。
(良いね。実に良い。さて、お次はどんなのかな?)
【名も無き魔物】 進化Lv:150 必要スキル:《呪いの体》《鬼神の毒》
【あらゆる魔物の混成種。何者でもありながら、何者でもないが故に名前が与えられないキメラ種の代表格の一つ。前衛としての能力だけではなく、数多くの状態異常攻撃スキルに恵まれ、トリッキーに活躍できるポテンシャルを持つ。人工的に作られたのか、はたまた突然変異によって生まれた魔物なのかは不明であるが、その特性上同じ外見と能力を持つ個体が存在しない】
(ほう……名前を見ただけじゃどんななのか全く分からなかったし、むしろ必要スキルを見た時はどんなゲテモノかと思ったけど、思ったより全然まともだ。進化候補に入れても全然良さそうだぞ)
幸先が良いと、ゼオの心は軽やかになる。その上進化に必要なスキルもそこまで物騒という印象を感じないのもプラスポイントだ。
《鬼神の毒》は別名、神便鬼毒とも呼ばれるらしく、鬼神も惑わす魅惑の酒を霧状にして周囲に撒き散らすスキル。相手の耐性スキルの穴をすり抜け、ランダムで状態異常のバッドステータスを与えるというもの。
(しかもこのスキルの一番良い所は、相手の耐性系スキルを受け付けないってところだな。流石に無効系のスキルに通用するかは分からんが)
続いて《呪いの体》のスキルは、敵対者の攻撃を自分の体で受けることによって、ランダムの確率で相手に呪いの状態異常を与える報復のスキルだ。《鬼神の毒》も相まって、正に相手にする分には厄介極まりない進化先といえるだろう。
(問題は、俺自身が呪いっていう状態異常になったことも無ければ、そんな状態異常になってる奴も見たことが無いって事だな。どんな効果があるのかいまいち理解できん)
そういう意味では、《鬼神の毒》も使い手からすれば使いにくいスキルだ。ギャンブル性が強く、相手からすればどんな状態異常になるのか読めない代わりに、使う側から見ても作戦を立てにくい。その上、問題なのは購入に必要なSP。
《鬼神の毒》 必要SP:150000
《呪いの体》 必要SP:150000
(爆裂高い……名も無き魔物に進化しようとしても、レベルMAXになってもしばらく進化できないんじゃ……?)
性能は破格だが、その分進化に一番苦労しそうだ。
しかしそれを踏まえても十分に候補に入れる余地がある。そう判断してから、ゼオは最後の進化先に目を向けた。
【ブレス・キメラ】 進化Lv:125 必要スキル:《息吹連射》《ブレス強化》
【魔物の遠距離攻撃の代名詞、ブレスに特化したキメラ。あらゆるブレスを習得することが出来、その威力は山を抉るとも言われている。昔の人々は、空から地上の敵へと火と雷のブレスを雨のように撃ち出すブレス・キメラを見て、神罰の化身と勘違いしたのだとか。遠距離から高火力砲撃の連射で敵を薙ぎ払うことを得意とし、ステータスで勝る魔物を数多く屠ってきた】
(おお! これも良いな!)
ライオット・キメラとは真逆の、遠距離戦特化の魔物だ。戦いの歴史は射程拡大の歴史とも言われており、遠距離からの強力な攻撃の連射というのはそれだけでも強い。
説明通り、ステータスで勝る相手も葬れるだけのポテンシャルがあるだろう。安全圏からブレスでの連続攻撃で敵を倒せるというのは実に魅力的だ。
(しかもこの《息吹連射》のスキル……俺の《触手》と組み合わせるととんでもないことが出来るっぽい)
【スキル《息吹連射》。ブレス系のスキルの連射速度を上げるスキル。《触手》のスキルと併用することで、触手の数だけ発射口を増やすことが出来、ブレスによる同時攻撃も可能とする】
正にゼオにとってお誂え向きのスキルといえるだろう。ブレス・キメラに進化しなくても購入しておきたいスキルだが、ブレス・キメラに進化することでより強力な遠距離攻撃が可能になる可能性を考えると捨て置けない。
(何せスキルレベルを上げれば、それだけ発射口が増えるもんな。購入SPも5000と安めだし)
ゼオは《触手》のスキルを発動する。レベルが上がったことで、背中から生える触手も二本に増えた。一体どのような形で発射口が増えるのか……何となく想像は出来て、「ぶっちゃけ、エイリアンみたいでキモい」とか考えてはいたが、この二本に加えて口も含めれば三種のブレスを同時発射、最終的には十以上のブレス同時発射とか出来そうだ。
(もしそうなったら……)
ゼオは妄想の世界へと足を踏み入れる。今回の仮想敵は魔法チートで図に乗っている主人公っぽい奴だ。
『俺のアルティメットキャノンで、こんなデカブツを吹き飛ばしてやるぜ!!』
『『『『きゃー! ■■カッコいー!』』』』
毎度おなじみハーレム集団の黄色い声援をあびながら極太ビーム魔法を無詠唱で……スキルの関係上、無詠唱なのは当たり前なのだが……発動し、ゼオの頭蓋を吹き飛ばそうとするが、それを前にしても泰然と構える巨体。
『ふん、中二病乙。真の火力とはこういうものだぁああああああっ!!』
触手と口、合わせて十一の発射口からそれ以上の極太ビーム……別に極太ビームを発射するスキルはないが……極太ビームを発射するゼオ。十一の光芒は束となり、■■の放ったビームなど無かったかのように食い破り、敵をハーレム軍団ごと呑み込んだ。
『『『『ぎゃあああああああああああああああああああああっ!?!?』』』』
『粉砕! 玉砕! 大喝采!! ふはははははははははは!!』
(……良いんじゃなかろうか)
妄想の中で描いた身らずに思わずニヤニヤしながらしきりに頷くゼオ。
「ど、どうしたんだ? 急にニヤニヤし始めて……?」
そんな彼をドン引きしながら眺めるセネルを目にして、ゼオは「今度から人前で妄想に耽るのは止めよう」と、心に誓うのであった。
書籍化の際は原作者に許可を貰わなければですけど、なろうでの投稿だけならパロネタは問題ないんですよね、確か。
最近他の作品がスランプ気味で、現在全力で脱線中です。しかし、「元貴族令嬢で未婚の母ですが、娘たちが可愛すぎて冒険者業も苦になりません」の次の投稿では重大発表と共に投稿したいと思いますので、数日お待ちいただければ幸いです。




