新たな進化
FGOの宝具動画見てて思ったんですが、聖女と夕焼け、そして巨大生物の組み合わせがあそこまで合うとは思いませんでした。
お気にいただければ評価や感想、登録のほどをよろしくお願いします
「グランディア王国で大暴れしたキメラ? 確かにそんな話を聞いたことあるけど、俺は見てないなぁ」
「ベールズ方面に飛んで来たって話までは聞いてたし、俺たち冒険者もかなり警戒してたんだけど、半年以上経った今でも目撃情報が無い。普通に考えて、途中で進行方向が変わったって思った方が良いだろうな」
「……そうですか」
アルマを伴い、オルバックの街の冒険者ギルドに訪れたシャーロットは、一旦アルマと二手に分かれて各自情報収集に勤しんでいた。
街を拠点にする者も多い中、その名の通り各地を巡りながら旅を続ける冒険者も多い。そういった手合いは、有名な魔物や強力な個体に対する情報に敏感であり、情報を可能な限り公開することを念押しされている。
情報は荷物に嵩張らない中でも最も大きな武器だ。特に冒険者や住民の命の危険に晒される可能性の高い情報は常に出回っており、手柄を求めて秘匿することは、冒険者たちの間では最も恥ずべき行為であると、シャーロットは旅立つ以前にラブからそう聞かされたことがある。
「噂じゃあ、小屋並みの大きさのある魔物らしいけど、そのくらいの大きさの魔物なら履いて捨てるほどいるしな。キメラそのものも珍しくはない。ただまぁ、ドラゴンの体が構成要素に交じっているのは聞いたことないけどな」
「俺らが知ってるキメラって言えば、大抵はグリフォンやマンティコアみたいなのだしな。確か例のキメラは、ドラゴンの上半身に鷲の翼、獣の足にスパイクが付いた皮の尻尾。それで三本角なんだろ? 俺たちもそれなりに長く冒険者やってるけど、そんなキメラは見たことも聞いたこともない。今じゃグランディアの王都で暴動が起きて、その不始末を隠すためのデマなんじゃないかって、そんな噂もあるくらいだぜ」
しかし件のキメラ……ゼオの目撃情報すらないようだ。聞き込み人数はまだこの二十歳そこそこの男冒険者二人だけなので、今は何とも言えないのだが、グランディア王国で起きた暴動を隠すための偽情報などと言われているあたり、少なくともベールズでの目撃情報は無い可能性すらある。
(とはいっても、まだこの国を離れるわけにはいきませんが)
目撃情報の有無の確認もそうだが、なによりアルマを残してさっさと旅立つことはシャーロットの良心が許さない。せめて彼女の探し人の安否を確認するまでは共に行動しようと、女神教の信徒は改めて決意する。
「まぁ、進化した可能性もあるけど、キメラの情報が俺らは持ってないな」
「半年前の話だろ? それはいくらなんでも早くないか?」
別のテーブルに座る冒険者からセネルの情報を尋ねるアルマを横目で見ていると、そんな言葉をかけられて、シャーロットはハッとした気持ちになった。
魔物には進化という、人間には起こりえない現象が起こる。一定の強さとスキルを得た魔物が、捕食生物だらけの環境に適応するために強さの次元を超え、姿そのものも変えるというのが人の世で一般的な説だ。
(そうでした……最後に見たゼオの姿を参考に情報を集めていましたが、進化している可能性もあるのでしたね)
強大な魔物であればあるほど進化するペースが遅くなるらしいが、可能性が皆無という訳ではない。頭が良い通り越して、人間としての認識を持つゼオが、野生に戻ったことで生き残る為に強さを求める可能性も大いにある。
ただ本能のままに生きる魔物とゼオは違うのだ。計画性を持って、強さの糧となる存在がそこらかしこに居る環境なら、短期間での進化も十分あり得るだろう。
(ですが……あの時のリリィの姿は一体……?)
亜人、人間、獣人。人と名の付く生物は数あれど、それらは決して進化という現象が起こることが無い。それは歴史を遡ってみても明らかだ。
しかし、半年前に狂気に侵されたゼオに追い詰められたリリィは王冠を被った女性の胸像のような化生へと姿を変え、災厄を王都へ振りまいていた。しかしゼオに倒されると、元の姿に戻っていたという。
(進化……ではない? もっと別の、何か得体の知れない力が彼女に作用としたとか……?)
肉体構造そのものを変えてしまう進化とはまた違う。その上、シャーロットの周囲の人間の好感や嫌悪感を操作していたというスキルも急に無くなったというではないか。
スキルを得ることに苦労はあっても、失う事などまずあり得ない。人間が全く別の生物に変化するのと同様に、歴史にただの一度も記されたことのない異常事態だ。この事は現段階では機密として扱われるが、原因が解明されるか、時間超過に伴って公開され、世間を騒がすことになるだろう。
(そして……私の身に起きた事も)
ラブの手引きもあって女神教に所属することとなったシャーロットだが、スキルの詳細を改めて詳しく見る機会に恵まれた時は心底驚いた。
スキル《治癒魔法》から《再生魔法》にスキルが強化……というよりも、まったく別のスキルに昇華していたこともそうだが、これまで会得を試みようとした覚えのないスキルまで増えていたのだ。
そして何よりも驚くべきなのは、以前とは比べ物にならないほど体が動かしやすく、この身に宿る尋常ではない量の魔力の増加。それこそ、魔物が進化でもしたのではないかと思われるほどに。
(何かが起きている……ゼオとの出会いをきっかけとして、何かが)
それが何なのかまでは見当がつかない。しかしシャーロットの聡明な頭脳は、警鐘にも似た予感を告げていた。
「ところで君もギルドに登録している女神教の信徒だろ? 良かったら俺たちとパーティー組まない? 見ての通り前衛二人だから、そろそろ後衛の仲間が欲しくてよぉ」
「ごめんなさい。巡礼の最中ですので、パーティーを組むのはご遠慮させていただきます。何か入用でしたら、一緒に依頼をこなすくらいはしますので」
やんわりと、それでいてしつこく勧誘しずらい言葉で鼻の下を伸ばす男二人の勧誘を断るシャーロットは、そそくさとその場を離れてアルマと合流する。
「アルマさん、そちらの進境はどうですか?」
「うぅん。まだセネルを見たって人は居ないみたい……シスターの方は?」
「手掛かりなしですね」
「そうですか……はぁ」
まだ探し始めたばかり。しかし相手が相手なだけに溜息をつかざるを得ない。そんな目に見えた不安を現すアルマに、シャーロットは努めて明るく提案した。
「オルバックでの情報収集に区切りが付いたら、アルマさんの探し人が飛ばされたという方向にある村に向かってみましょう。無事であるなら保護されている可能性がありますし」
「はい……そうですね」
少し表情が晴れた様子のアルマ。そんな彼女を見ながら、シャーロットは少し安どの息を吐きながら穏やかに微笑んだ。
巨大な蟷螂の鎌に変化した腕が猿型の魔物を両断する。シャーロットたちがギルドで情報収集をしていたその頃、セネルを背中に乗せたゼオはSP集めを終わらせていた。
(どらっしゃあああ! ようやく進化に必要なスキル買うSPが貯まったぞー!)
両拳を天に掲げるガッツポーズ。これでスキルを購入すればいつでも進化が出来る状態となり、ゼオは思わずハイテンションになるが、それを傍から見ていたセネルは心底不思議そうに首を傾げていた。
「何やってるんだ、さっきから? 食料にもならない魔物を倒して」
(……ディスコミュニケーション)
これで和人に対抗するために進化する事が出来るのだと伝えられたらどれだけ楽なことか。しかし今に始まった事ではないが、ラブのような《思念探知》のスキルを持たない彼に伝えるのは非常に困難。せめてジェスチャーでその意思を伝えようとするが――――
「な、なんだよ? 魔物を呼び寄せる不思議な踊りか?」
(ディスコミュニケーション)
意思疎通を図ろうとしていたら日が暮れる。そう直感したゼオは行動で示すことにして、《技能購入》を発動させる。
《死霊の翼》 必要SP:750
《烈風の息》 必要SP:600
今回の進化先は、消去法でアビス・キメラ一択となる。理性を失う進化や食人嗜好になる進化、周囲に毒を撒き散らす進化など論外も良いところ。
残ったカースブレイド・キメラとの間で悩みもしたが、流石に全身から呪いの刃が生えていては人との共存は難しい。正直に言ってアビスキメラも十分恐ろしいが、それでも他の四つに比べればかなりマシだ。
(それに、調べてみたところ、進化に必要なスキルも悪くない)
《烈風の息》は風の刃を帯びた竜巻状のブレスを吐きだすスキルだ。《火炎の息》を初めとする三種の息を愛用するゼオにとっては、新しいタイプの遠距離攻撃手段というのは嬉しい。
そして《死霊の翼》は魂そのものである霊体系、魂を核とするアンデット系の敵に有効的なダメージを与える攻撃スキルのようだ。物理攻撃が通用しないとか、殴っても殴っても復活しそうな敵の存在を知ると同時に、その対抗策を知れたのは実に僥倖である。
…………生身の相手にも、その魂魄にダメージを与えるとあるが、そんなもの生身相手にスキルを使わなければいいのだ。
(必要スキルを買ってもまだ余分があるくらいにはSPを稼いだ……よし、俺はアビス・キメラに進化するぞ)
必要スキルを購入してから、ゼオは《進化の軌跡》を発動し、アビス・キメラを選択する。
【アビス・キメラに進化します。それでもよろしいですか?】
セネルを傍らに下ろしてから、頭に響く声に肯定するゼオ。するとゼオの全身がメキメキと音を立ててその姿を変える。
額から生える角は螺旋状に捻じれ、背中に向かって生えていた二本の角が引っ込んだかと思えば、今度は頭の両側から悪魔のような角が生える。竜の上半身に生える鱗は黒く変色し、それに伴い獣の足も黒く、より強靭なものへと形を変える。スパイク状だった尻尾の先端も、三又の槍に似た形状へと変化した。
そんな中でも最も変化が起きたのは背中部分だ。新しく生えた鬣や翼は、とても生物の体とは思えない青白い炎によって形作られていた。恐らくバーサーク・キメラの時に《死霊の翼》を使えばこんな感じになっていたのではないだろうか……そう考えると不安になってくるが、なってしまったものは仕方が無いと腹を括る。
「し、進化したのか……!? 魔物の進化なんて初めて見たけど、かなり変化があるんだな」
驚きに目を見開くセネルの視線を受け流しながら、ゼオは自分のステータスを確認する。
名前:ゼオ
種族:アビス・キメラ
Lv:1
HP:6412/6412
MP:6419/6419
攻撃:5001
耐久:5006
魔力:5008
敏捷:4998
SP:2381
スキル
《ステータス閲覧:Lv--》《言語理解:Lv--》《鑑定:Lv--》
《進化の軌跡:Lv--》《技能購入:Lv4》《火炎の息:Lv2》
《電撃の息:Lv2》《凍える息:Lv2》《烈風の息:Lv1》
《睡眠の息:Lv2》《透明化:LvMAX》《嗅覚探知:Lv2》
《猿王の腕:Lv3》《妖蟷螂の鎌:Lv4》《触手:Lv2》
《鮫肌:Lv8》《死霊の翼:Lv1》《重力魔法:Lv4》
《飛行強化:LvMAX》《毒耐性:Lv2》《精神耐性Lv:MAX》
《空間属性無効:Lv2》
称号
《転生者》《ヘタレなチキン》《反逆者》《狂気の輩》
《魔王候補者》《解放者》《勇者の卵》《王冠の破壊者》
《彫刻職人》《レベル上限解放者》
(ステータスの上がり方半端じゃねぇ……!)
およそ進化前の五割り増しくらい上がっている。今なら和人を一方的にボコれそうな気がするが、数多くの作品で現代技術が異世界を蹂躙するのを見てきたゼオは決して油断しない。
どんな兵器を持っていて、どんな手口を使ってくるかも分からない相手には、いくらステータス差があっても油断はできない。もっと徹底的に鍛え上げて、物理的かつ脳筋的手段でざまぁを執行しなくてはならないのだ。少なくとも、セネルが和人に立ち向かう日が来るのなら。
(それに、まだまだ確認しなきゃなんないこともある)
ゼオは再び《進化の軌跡》を発動させた。
【ラース・キメラ】 進化Lv:150 必要スキル:《荒魂》
【パズズ】 進化Lv:150 必要スキル:《病魔の風》《地獄斬り》
【ライオット・キメラ】 進化Lv:125 必要スキル:《連撃破》《超音波》
【名も無き魔物】 進化Lv:150 必要スキル:《呪いの体》《鬼神の毒》
【ブレス・キメラ】 進化Lv:125 必要スキル:《息吹連射》《ブレス強化》
割とどうでもいい事を前書きで書いて、後書きはその続きなのですが、別に読まなくても大丈夫です。書くことに悩んだ末に本気でどうでもいい作者の妄想なので。
ハーメルンで鍛えた二次創作の血が騒ぎますね。シャーロットが英霊化……クラスはライダーを基本とし、シールダーやルーラー辺りになれそう。宝具は最終進化形態のゼオで、ゼオ自身も独立した英霊扱い。スキルも宝具も持っているって感じで、《空間無効》もあるので空間断絶のエアなら弾けたり? 最終的なステータスとかスキルはまだ秘密ですが、さてあの世界観でどこまで通用することやら。




