表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
30/93

友達はボール改め、カストはボール

お気にいただければ評価や感想、登録のほどをよろしくお願いします


(で、出やがった……神権スキル持ちの奴が出やがった……!)


 ゼオはシャーロットとリリィを巡る一連の出来事を思い出す。《貪欲の王権》を持つセネルが居たのなら、〇〇の神権という感じのスキルの持ち主が現れたとしても不思議ではないが、その持ち主は予想外の名前と称号の持ち主だった。


(あの黒髪男、前世の俺と同じ地球生まれの日本人……だよな? なんでこの世界? 星? に居るんだ?)


《気配探知》スキルを持つ和人に気付かれないよう、遥か上空から三人を俯瞰(ふかん)しながら、ゼオは和人の称号を詳しく閲覧してみた。


【称号《不義の輩》。恋人のいる女性を唆し、相手の男を貶めてまで女性を手にした者に与えられる称号。二股推奨するゴミクズ〇〇〇〇(自主規制)チャラ男によく見られるが、彼は色々な意味で小さい】


(なんだ……? 説明文がやけに辛辣になっているような気がするぞ……?)


 この称号を見るだけでもロクでもない輩であるということがよく分かる。リリィも同じ称号を持っていたが、手にした経緯によって説明文も違っているのかと感心しながら他の称号も閲覧すると、ゼオは思わず顔を顰めた。


【称号《性欲の権化》。美しい女を見れば年齢問わず見境ない男に与えられる称号。女を自分の所有物か何かと考える傲慢の証】


 もし和人がシャーロットと出会うことがあれば、真っ先に股間を潰そう。ゼオは静かに決意した。


【称号《ハーレム志望》。美女に対するコレクション願望が表面化した男に与えられる称号。漫画やアニメ、ライトノベルのやたらとモテる主人公に対する憧れでもあるが、現実はそう簡単ではない。寄ってくる女は利益目当てなのにも気付かない愚かしさの表れ】


 シャーロットの視界に入っても股間を潰そう。ゼオは改めて決意した。こんな奴が愛するシャーロットに近づくなどあってはならないと。


【称号《嫉妬の亡者》。自分よりも優れている他者に対する苛立ちに似た嫉妬を抱える者に与えられる称号。そのくせ自分は何の努力もせず、相手を内心で罵る陰気な魂】

【称号《Aボーイ》。(バッド)ボーイならぬ(アキバ)ボーイ。周りの無理解な評価を気にして開き直ることも出来ない卑小さの具現】

【称号《虚言癖》。自分に後ろめたい時がある時、他者に責任を擦り付け、自分に都合の良い嘘を吐く者に与えられる称号。潔さの欠片もない】

【称号《腐った性根》。性格が腐りきっている者に与えられる称号。あえて言うなれば、カスである】


 色々な意味でダメな方向に凄い称号のラインナップに、ゼオは思わず戦慄する。


(こ、これは酷い……! ここまで酷いのはビッチ以来だ……!)


 例えるならば、男版リリィである。しかもステータスが凄まじく高く、スキルも強力なものが多いので余計にたちが悪い。


(《異世界の来訪者》って言うのは、地球から別世界に来た奴という意味なのか? それに《勇者》って何?)


【称号《異世界の来訪者》。人類主観に基づき地球と呼ばれる世界から、同じく人類主観に基づきヴァースと呼ばれる世界に召喚された者たちに与えられる称号。これが意味するのは栄光か、はたまた破滅か】

【称号《勇者》。ヴァースに誕生した魔王を打ち滅ぼす勇気ある者に与えられる称号だが、彼の場合は、地球と呼ばれる世界から召喚された強力無比なスキルを持つ異世界人たちの内の一人という意味】


 図らずともこの世界の名前がヴァースであると知ったゼオだったが、問題は称号を手にした経緯。

 どうやらゼオが前世で過ごしていた地球から何者かに召喚された集団という事らしい。しかも全員が強力なスキルの持ち主だというオマケ付き。ゼオ自身が異世界であるヴァースに転生したのだから、似たような感じで地球からヴァースに召喚されてもあり得ないとは言わないが、どうにも作為的なものを感じる。それもとびっきり悪質な。


(魔王を倒すために召喚された勇者って、それどこのweb小説だよ。はははははは…………はっ!? 魔王って俺のこと!?)


 未だ候補ではあるが、魔王の卵であると示唆する称号がある。もしもこの嫌な予感が杞憂でないとするなら、今のゼオは強力なスキルの持ち主不特定多数に狙われているということになるのだ。


(なんで!? どうして!? 俺異世界から勇者召喚されるほど悪いことした覚えは…………あった、なぁ……)


 グランディア王国の王都で散々暴れまくった覚えがある。なるほど、確かに魔王か邪神的扱いされても文句は言えないだろう。


(でもなんだろう? 俺を討伐しようって奴がいるのはまだ分かるけど……異世界から勇者を召喚しようなんて、一体誰がそんな事を?)


 真っ先に候補に挙がるのは実際に被害を受けたグランディア王国と、その国教である女神教だ。しかしあれだけの損害を受けた一国が魔物一頭倒すために、すぐさま遊撃隊として異世界からわざわざ強スキル持ちを召喚する手間を掛けるというのはしっくりこない。

 なら消去法で女神教なのではと思いもしたが、そっちもしっくりとこないのだ。確かな根拠がある訳でもないし、ゼオ自身女神教の全容を知っている訳でもない。しかし、シャーロットが信仰し、ラブが枢機卿を務める宗教が、異世界から人を拉致すると言っても過言ではない召喚を行った上に、魔王討伐なんて大なり小なり危険が伴うことをやらせようなどとはとても考えられなかった。


(この答えも一旦保留だな。今の問題は目の前の村上和人とやらだ)


 耐久値は異様に低いが、今まで出会ってきた敵の中でも間違いなく最強クラスのステータスに加え、空想上の兵器も自由自在に作り出す《武器創造》のスキルは厄介極まりない。どう考えても高火力で遠距離から連続攻撃してくることが簡単に予想できる上に、近距離戦や搦め手もどんな手を使ってくるのか分からない怖さがある。

 それに加えて、《栄光の神権》。リリィが持っていた《王冠の神権》とどういった違いがあるのかは不明だが、前例を考えれば一部ステータスの大幅強化。それに加えて、ピンチの時に一時的に進化してステータスを更に大幅強化する類のものだと思われる。


(つまり奴を完全に撃滅するには、それら全てを上から捻じ伏せるステータスで物理で殴るしかない、と)


《状態異常耐性》のスキルもある上に、装備というのはステータスに見えない補正も与えている。低い耐久力も文字通りと思わない方が良いだろう。相手の手の内が全く読めなくなるスキルの関係上どのような小細工も確実性に欠けるので、実際そのくらいしか手段が無いのだが、実に脳筋な結論である。 


(これ早々進化して強くならないとヤバいなぁ……王都で暴れ回った姿のままでいることもそうだけど、勇者自身の強さ的な意味でも)


 これまでの経験上、進化時のステータスの上がり方は半端ではない。和人と同じような強さを持つ不特定多数の勇者が存在するのなら、これからは強くなることを念頭に置いた方が良いかもしれない。


(お嬢の時みたいに、肝心な時にちゃんと守れませんでしたじゃシャレにならないしな)


 キメラとして、魔物として人と友好を築き上げていく。その過程には、和人のような悪辣な輩が大勢現れるだろう。そういった連中から守るべき者を守るためには、強くなるしか道はないのだ。


(それにしても、あの村上和人……称号的に、もうカストでいっか)


 サラッと失礼かつ不躾なニックネームを付けるゼオ。和人の自業自得なところは多々あるが。


(あのカストって奴……どこかで見た覚えがあるんだけどなぁ)


 それは主に地球での記憶、人間であった時の思い出の残滓(ざんし)だ。しかしそれを深く考えることをゼオはしなかった。黒髪黒目など、ヴァースでは見かけない色なだけであって、日本では一般的な容姿だったのだ。懐かしさがそう思わせたのだろう。


(さて、後はカストを相手にした時に付いて来ると思われる腰巾着二人だな)


 ゼオは茶髪の少女と緋色の髪の少女に対して《ステータス閲覧》を発動する。



 名前:ハンナ・アーウィン

 種族:ヒューマン

 Lv:21

 HP:98/98

 MP:101/101

 攻撃:34

 耐久:30

 魔力:45

 敏捷:32


 称号

《田舎娘》《恩知らず》《不実の女》《ただのビッチ》




 名前:リア・ストラウス

 種族:ヒューマン

 Lv:23

 HP:108/108

 MP:103/103

 攻撃:45

 耐久:43

 魔力:31

 敏捷:43


 称号

《田舎娘》《恩知らず》《浮気女》《ただのビッチ》



 いずれも雑魚同然のステータス。しかし、ゼオは彼女たちの手首に嵌められたブレスレットを見逃さなかった。


【ギャラクティカシャイニングオブダークネスルーンリング破魔の零式】

【スキル《武器創造》によって生み出された装飾型戦闘補助具。被ダメージ半減にステータスに対する大幅補正。魔力で構成された剣を作り出し、地水火風の初級から上級魔法を使用可能とする】


(何だこのヒッデェ名前)


 能力は破格なのだが、十四歳くらいの少年が考えたみたいなネーミングのせいでいまいち頭に入らない。これも全て勇者の策略なら大したものであるが。ちなみに、和人が持っているバズーカの名前はこれである。


【ブレイズインフェルノ・グレートキャノンバスター・ギャラクシーエンジェル】


 ヒッデェ名前である。それでいて性能はただのバズーカなのだ。創造主の趣味嗜好がよく分かる。


(それで多分、カストたちがセネルが復讐したいって相手なんだろうな)


 ハンナの名字や二人の称号を見れば分かる。初めて彼と出会った時のボロボロの姿にも無関係とは何となく考えられなかった。きっとゼオには想像もできないような痛みと苦しみを味わってきたのだろう。……義妹と、婚約者兼幼馴染であった少女を殺したいと思うほどに。

 それが悪い事かどうかなど、ゼオには分からない。このヴァースという世界が地球と同じく殺人を厳しく罰する世界なら、セネルだけの幸せの為にも別の形での復讐を提案するところだが、あいにくとこの世界での死はわりかし軽い事をゼオは知っている。


(復讐相手との力の差は歴然……多分、セネルに力を貸して欲しいと乞われた時は……)


 答えはまだ出なかった。しかし、強くなること自体は既に決定事項であり、仮に復讐を果たすとしても、止めを刺すのはセネルの役目だ。ゼオがこの場で彼らを殺すのはお門違いだろう。


(…………でも、今後の為にも実力差をちょっとだけでも確認はしておくべきだよな?)




 和人は尿意を感じた。


(やべ、トイレ行きてぇ)


 この森と平原の境目は、人の街から少し離れた場所にある。今から戻っても間に合うか間に合わないかの距離。なら少しリアとハンナをこの場で待機させ、茂みに隠れて用を足そう。そう思い至って二人に指示を出そうとした。


「二人とも、ちょっとここで待ってろぉおおおおおおおおおおっ!?!?」

「ぐ……ぁぁあああああああああああっ!?」

「な、何よこれぇえぇえぇええええええええええっ!?!?」


 しかしその瞬間、凄まじい重圧が三人の体を押し潰し、地面を大きく陥没させる。指一本動かすことが出来ない重力の中、和人だけはこれを攻撃と察したのだが、どこから攻撃しているのかが見当もつかない。

《気配探知》や《魔力探知》のスキルは、レベルによって効果範囲が大きくなる。しかし逆に言えば、効果範囲外からの遠距離攻撃をされては、攻撃してきた相手がいる大まかな方角しか分からないという弱点がある。


(おお、意外と効いてる!)


 そんな誰にも明かしたことのない弱点を《ステータス閲覧》で理解していた襲撃者は、言わずもがなゼオである。スキルの有効範囲外である上空で《透明化》を維持しつつ、軌道を一切読ませない《重力魔法》で和人たちを地面に減り込ませる。


(効いてるなら丁度いい。あんまり奥へ奥へ入り込んできて、セネルを庇いながらの戦闘とかになったら面倒だし、きょうは撤退するまで甚振ってやろっと)


 そんな事をゼオが考えている時、和人は和人で重圧の苦しみや痛みとは別の危機が訪れていた。


(い、痛い! 苦しい! でもそれと同じく……も、漏れる!)


 和人は今茂みで用を足そうとしていたのだ。そんなタイミングなど計りようもなかったゼオの攻撃によって、彼は高校生という身分にありながら……その上ハーレムメンバーの目の前という状況で地面に押し潰されるという醜態を晒しながら、お漏らしという屈辱的な目に遭わされようとしている。

 そんな醜態が許されるのだろうか? 平面の世界に居るハーレム主人公たちはそんな無様な姿を見せたことがあるだろうか? 

 答えは否。そんなことは決して許されない。和人は肥大したプライドにかけて下腹部に力を入れ、この突然の災厄をやり過ごそうとしていると、不意に重圧から解放された。

 今が好機とばかりに和人は立ち上がろうとした。……が、腕で上体を持ち上げた瞬間、再びすさまじい重圧によって地面に減り込むことになった。


「ぬぉおおああああああああああああああっ!?」

(これを機に、使用回数を稼いで《重力魔法》のスキルレベルを上げてやるぜ)


 和人の危機を全く理解しないまま、文字通り上げて落とすという仕打ちを仕出かしたのはゼオである。《重力魔法》の解除と発動の繰り返し。それに伴い、立ち上がろうとしては地面に減り込む和人はさながらドリブルされるバスケットボール同然。誰がどう見てもハーレム主人公には見えないだろう。

 

「ぐああああああああああっ!? 痛いぃいいいいいいいいっ!? や、やめろぉおおおおおおっ! 漏れるだろぉおおおおおお!?」


 何度も何度も顔面を地面に打ち付けることになる抵抗のおかげで、鼻血をダラダラ流す和人。しかもハンナとリアのHPが尽きそうになったので、彼に集中攻撃が向けられるようになった。

 下腹部からだんだん広がる言い表し難い強烈な尿意を、手で押さえることすらままならず、キメラのスキルレベル上げに強制的に付き合わされる。それを何度も何度も、ゼオのMPが尽きるまで付き合わされて、遂に堤防は決壊した。


「……あ……」


 じわぁぁああ……と広がる温かい感触。それがパンツやズボン、シャツまでも濡らしていると理解した時、彼は全ての抵抗を諦めた。 


(ふぅ……MPも底をついたな。どれ、死なないように加減はしてみたが、奴のステータスはどうなったかな?)



名前:村上和人

 種族:ヒューマン

 Lv:153

 HP:281/2987

 MP:2956/2956


 称号

《異世界の来訪者》《勇者》《悪漢》《絆を引き裂く者》

《Aボーイ》《不義の輩》《性欲の権化》《ハーレム志望》

《嫉妬の亡者》《虚言癖》《腐った性根》《変質者》

《お漏らし青年》《レベル上限解放者》



(うぅん……これだけやったら流石に今日は帰ると思うけど、死ぬギリギリまで追い込めると思ったんだけどな。こいつもダメージを防ぐ何かを持ってると考えて……ん?)


 一つ……和人の称号が増えていた。


仲良くないクラスメイトの記憶って、凄く曖昧ですよね。

まずは軽くざまぁしてやりました。第二章クライマックスざまぁまでのつまみ的な感じで。

友達はボールと代わりと最低発現ですが、カストはボールなら普通のことですよね。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ