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《ステータス閲覧》でざまぁ選別

皆さんのおかげで、早くも総合評価が1000に到達しました。

お気にいただければ、評価や登録、感想のほどをよろしくお願いします


 ハイベル家の侍女、ケリィは六歳になるまでグランディア王国の中でも治安の悪い貧困街で生まれ育った。

 当時、王族や政府を欺いて悪政を敷いていた地方領主一族によって領民の生活は乱れに乱れ、毎日が生きるにも困るほど。

 法外な税として奪われた作物を始めとする食糧に代わり、他者や通りすがりの商人からも奪うことが当然となり、必要となれば自らの子供すらも売り飛ばす。

 そんな街の中で、ケリィは暴力的な父母の虐待を受けながら過ごしてきた。育ち盛りに必要な娘の食料を奪い、それをわざわざ目の前で食べて自らの嗜虐心を満たす父に、少しでも気に入らないことがあれば、実の娘に激しく八つ当たりを繰り返す母。

 衣食足りなければ人は礼節を忘れる。とても血を分けて生まれた娘にするとは思えない仕打ちに、幼少期のケリィは全身に青痣を作り、あばら骨が浮き上がるほど痩せた貧相極まりない子供だった。

 しかし、天はそんな彼女を見放すことはしなかった。悪銭は身に付かないとはよく言ったもので、領主の蛮行はついに政府に伝わり、彼の一族はついに王国法によって裁かれ、新しい領主を据えられることとなる。

 とはいっても改革には時間がかかるもの。領主が変わっても変わらない生活を続けていたケリィの体力はついに限界を迎え、彼女は冷たい冬の街に、その幼い体を横たえた。

 生きようという気力も湧かないほどに疲れ果てた彼女は、そのまま襲い掛かる心地いい睡魔に身を任せようとした。


『だいじょうぶですか?』


 そんな彼女を保護したのが、当時貴族としての見聞を広める意味で、父であるハイベル公爵と共に領地を訪れたシャーロットだった。

 自分と同じく幼い少女。しかし、その生まれには天と地ほどの違いがあった。貴族にとって平民などただの搾取の対象……生まれてから貧困を強いられ続けてきたケリィにはそのような強い印象があり、目の前で心配そうにしている美しく着飾った少女は敵にしか見えなかったのだ。


『おとうさま、この子を私のせんぞくのメイドにしてはいけませんか?』


 そんな死にゆく少女を救ったのが、他でもないシャーロットだった。

 何も無い薄汚い平民でしかなかったケリィに衣食を与え、就労を与え、何よりも人の温もりを与えてくれた、彼女が知らなかった貴族の姿を見せたシャーロット。

 それを権力的強者としての傲慢な施しと言ってしまえばそれまでで、ケリィも初めはお貴族様の道楽だの、ペットを飼っている気分なんだろうと、卑屈な考えばかりを浮かべてはいたのだが、幼くも気遣える、優しい心を持ったシャーロットに絆されるのは時間が掛からなかった。

 

『ねぇ、ケリィ。これから私たち、何があってもずっと一緒ですよね?』

『勿論です、お嬢様! 私はずっと、シャーロット様にお仕えしますから』


 どんな生まれや境遇が劣悪な相手でも、常に慈しみを忘れないシャーロット。そんな彼女はケリィを始めとする使用人一同から強い信頼を寄せられており、十五歳になる頃には、既に二人は身分を超えた親友と言える絆で結ばれていた。

 これから何があっても、この優しい人の傍に居て支え続けよう。現世の地獄のような場所から命ごと救い上げてくれたシャーロットに、一生をかけて恩返ししよう。

 獣一歩手前のようなささくれたった心の持ち主だったケリィに、人間としての良心を与えてくれたシャーロットと共に歩んでいく。そう決意してから数年、事態は急激に変化し始める。


『お義姉さまったら酷いの……! 私がハイベル公爵家の余所者だからって、早く出て行けって……私、パパもママもいなくなって行く当てがないのに……!』


 公爵家に引き取られたリリィが、もう耐えられないとばかりに涙を流しながら、義姉の侍女の手を握る。それからというもの、ケリィはシャーロットを毛嫌いし始めた。

 あんなに優しくて健気なリリィお嬢様を虐げるなんて、立派な公爵様の娘とは到底思えない! 聖人面を張り付けて置いて、裏では気に食わない者は徹底的に虐げるなんて、故郷の悪徳領主以下ではないか!

 騙されたという憤慨もあり、人一倍シャーロットを憎々し気に睨むようになったケリィ。ハイベル公爵に直談判し、腹黒で性悪なシャーロットの専属から外してもらった位だ。


『ケリィ……あの……』

『今日限りでお嬢様の専属から外れさせていただきますので。今までお世話になりました』


 館の片隅の部屋に追い込まれたシャーロットに対し、嫌々ながら最後の挨拶を渋々しに行った時、目の前の令嬢がどんな表情をしているのか、この時のケリィは知りたくもなかった。

 今にも漏れだしそうな嗚咽を必死に抑えながら自らの名前を呼ぶかつての主の声に気付くことなく、ケリィは清々した想いと共に、今度はリリィの専属に慣れるように努力しようと軽い足取りで立ち去るのであった。 

 ……一体何が真実であるのかも気付かないままに。




 己を知り、敵を知れば百戦危うからず。そんな孫子の言葉を体現したのが、男子高校生だったゼオが異世界に転生してから手に入れた力である。



 名前:ゼオ

 種族:キメラ・ベビー

 Lv:13

 HP:54/54

 MP:48/48

 攻撃:35

 耐久:33

 魔力:33

 敏捷:35

 SP:32

 

 スキル

《ステータス閲覧:Lv--》《言語理解:Lv--》《鑑定:Lv--》

《技能購入:Lv1》《火の息:Lv2》《電気の息:Lv3》

《冷たい息:Lv2》《透明化:LvMAX》《飛行強化:LvMAX》


 称号

《転生者》《ヘタレなチキン》《令嬢のペット》



 まずは自分や相手の能力を数値化することが出来る《ステータス閲覧》によって力量差を推し量り、日本どころか地球とは全く違う文字や言葉を介することが出来る《言語理解》で身振り手振り程度のコミュニケーションを可能とする。

 更に魔物を倒すことで経験値と共に得られるスキルポイント……SPを消費して現在会得可能なスキルを購入する《技能購入》で手札を増やし、物の詳細を見極め、毒や食用の有無を見分ける《鑑定》。

 野生に居た頃のゼオはこの四つのスキルを駆使して、魔物蔓延るサバイバルを生き延びてきたのだ。


(ていうか、新しい項目に名前が出てるし。称号にも《令嬢のペット》って……いや、確かにお嬢に飼われてる状態だと言えるけども)


 名前は人間の冒険者には必ずあった項目であり、記憶を持って生まれ変わったものの、ゼオのステータスには名前というものが無かった。称号にある《転生者》も、自分が一度死んだ事を雄弁に語っている。


(まぁいいや。それよりも、やっぱり情報収集に使えるのはこのスキルだな)


 ゼオが注目したのは《透明化》のスキルだ。元々過酷な野生で生き延びるために《飛行強化》と共に手に入れ、延々と活用している内にレベル10……最大値に到達したのである。

 ……その結果手に入れたのが臆病な逃亡者、《ヘタレなチキン》の称号だが。


(お嬢が出かけてる間は、この《透明化》のスキルで屋敷を散策できる。まずはこれで敵を知らないとな)


 現段階ではあくまで(仮)が後ろに付くものの、敵というのは現れたことで急激に周囲の態度を変えさせたというリリィが主であり、それを許している周囲の人間全員もそれに当てはまる。

 まずはシャーロットを取り巻く環境がどうなっているのか……本人の言葉だけではなく、まず周りの様子も確認してみなければ、ざまぁのしようもない。


(という訳で、早速行ってみようかね)


 スキル《透明化》を発動すると、ゼオの体が一瞬で透けていき、周囲の光景と一体化する。こうなった彼の姿は、最早視覚に頼る生物に捉えることはできないだろう。

 走る時以外は二足歩行が可能なゼオの体は、大雑把ながらも手作業が可能だ。ドアノブをゆっくり開けて部屋の外に出るくらいなら訳がない。

 透明と化した体で、そこから更に用心を重ねて足音を立てずに慎重に広く長い廊下を歩いていくと、見覚えのある茶髪の侍女の姿が見えた。


(あれはあの時の愛想の悪いメイド……まずは奴のステータスから覗いてみるか)


 

 名前:ケリィ

 種族:ヒューマン

 Lv:5

 HP:14/14

 MP:10/10

 攻撃:8

 耐久:8

 魔力:12

 敏捷:9


 称号

《公爵家のメイド》《恩知らず》《不忠義者》



(レベルたったの5……カスだな)


 この数値はゼオがレベル1だった時と大差がない上にスキルもない。とはいえ不穏な称号を持っているとなると、ゼオとしては少なからず警戒しておかなければならないだろう。

 この後も屋敷に居る人間に対して《ステータス閲覧》を発動してみたが、多少の違いはあれどステータスは似たり寄ったり。何人かのメイドや御者といった使用人には称号に《恩知らず》や《不忠義者》という称号があったりと、共通点も多い。


(お嬢の父親とか母親とかは居ないのか……幾ら透明化してるからっていっても、不用意に扉は開けれないしな)


 聞いた話によれば兄と弟もいるらしいが、それらしきステータスの持ち主はいない。いつも通りの予定なら、シャーロットが帰ってくるにはまだ時間がある。もう少し探索しようかと思った矢先、館全体の雰囲気が慌ただしくなった。


「リリィお嬢様がお帰りになったわ」

「早くお出迎えしなくちゃ!」


 どうやら事の元凶と思われる少女が帰宅したらしい。これはゼオにとって好都合だ。ステータスを見れば、本当にシャーロットを追いやった原因がリリィにあるのかが分かる。

 ゼオはメイドが行く方向に身を任せるように歩を進める。大きな正面玄関を有する広いロビーに辿り着くと、まるで主を出迎えるかのように執事やメイドが扉を挟んで対面する形で並んでいた。


『『『おかえりなさいませ、リリィお嬢様』』』

「ただいま、皆!」


 大勢の使用人に出迎えられたのは、美男子な一人の執事を伴うピンク色の髪をした令嬢だった。


(あれがお嬢の義妹……なんていうか……見た目は普通だな。……あっ、でもピンク髪が似合わない)


 シャーロットをそこらのアイドルなど足元にも及ばない清廉な女神と例えるのなら、リリィは髪の毛をピンク色に染めた普通の日本女子といったところか。体も小柄な方ではあるが、どちらかと言えば貧相で、抱かれ心地が良いのに手足や腰はしっかりと細いシャーロットと比べると雲泥の差だ。


(少なくとも、見た目の差で差別され始めた訳じゃなさそうだな)


 サラリととんでもなく失礼な事を考えているゼオ。しかし、近くにいるメイド二人の会話を聞いて愕然とすることとなる。


「今日もリリィお嬢様は可愛らしいわぁ」

「従姉妹と言っても、やっぱりハイベル家の血筋よねぇ。もう一人のお嬢様(笑)とは大違い」

「ホントホント。実はあっちの方が従姉妹なんじゃない?」

(こいつら目が腐ってるんじゃね!?)


 本当にそうとしか思えない。一体何をどうすればそんな感想が出てくるのか。もしや、異世界での美的感覚は地球の美的感覚とは違うのだろうか? 

 ちなみに余談ではあるが、この二人の侍女も《恩知らず》や《不忠義者》の称号持ちである。話のネタにシャーロットを嘲笑した罪で、とりあえず軽いざまぁを食らわせてやろうと心に決めるゼオなのであった。


(とりあえず、一回リリィとやらのステータスを見てみるか。彼女が本当に悪意あってお嬢を追いやったのか、それとも無自覚なのか……それによって対応が変わるからな)


 ざまぁする相手は事実確認した上でしっかりと選別しないと、心優しいシャーロットが悲しむかもしれない。リリィが白か黒かをハッキリと判断をつけるために、ゼオは離れた位置から《ステータス閲覧》を発動した。



 名前:リリィ・ハイベル

 種族:ヒューマン

 Lv:8

 HP:14/14

 MP:348/450

 攻撃:8

 耐久:8

 魔力:290

 敏捷:8


 スキル

《王冠の神権:Lv--》《感情増幅:Lv9》《光魔法:Lv1》


 称号

《公爵家の令嬢》《恩知らず》《悪女》《絆を引き裂く者》

《親殺し》《不義の(ともがら)》《権力欲の権化》《ただのビッチ》

《元平民》《勘違い女》



(真っ黒じゃねぇかぁぁぁっ!?)


書籍化作品、「元貴族令嬢で未婚の母ですが、娘たちが可愛すぎて冒険者業も苦になりません」もよろしければどうぞ。

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[一言] 不義の輩ってw 公爵家の血は一滴も入ってない雑種って事ですかw
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