ゼオとセネルのサバイバル生活 1日とんで七目
お気にいただければ評価や感想、登録のほどをよろしくお願いします。
リメイク版、「勇者に恋人寝取られ、悪評付きでパーティーを追放された俺、燃えた実家の道具屋を世界一にして勇者共を見下す」もよろしければどうぞ
セネルを洞窟で介抱するようになってから、七度夜を迎えたある日。ゼオはせっせと岩を削って、自分用とセネル用の皿とコップ、底がやや深めの器と、調理用の鍋やまな板、不格好なフライパンを完成させていた。
「お前……本当に変わった魔物だな」
「ゴォウッ」
そんなゼオを見て、セネルはやや呆れたような視線を送るが、そこに恐怖の色は無いように感じる。ゼオは内心で、今まで献身的に介護してきた甲斐があったのだと舞い上がった。
(ふふふふ……順調だ、順調すぎるぞ! 俺の『世界が選ぶ安全な魔物ベスト10入り計画』!!)
調達してきた食料や薬草類も、セネルが持っていた《鑑定》スキルで怪しいものではないと判断してくれたらしく、彼は戸惑いながらも受け取ってくれたし、これはもう信頼関係はばっちりだろうと浮かれ気分なゼオを尻目に、セネルはやや鬱屈な思いを浮かべる。
(このキメラのおかげで、命だけは助かった。あとはリアとハンナ……そして勇者カズト!! 父さんと母さんの仇、絶対に討たせてもらうからな!!)
この身を焼く憎悪は未だ収まることを知らず。もはやセネルの中に、かつての幼馴染や義妹に対する情は一片たりとも残ってはいない。あるのは簡単に勇者というブランドに寝返り、邪魔になったからと自分の両親を殺し、おまけに自分をこんな危険な場所へと吹き飛ばした。
そして何よりも、全ての元凶である勇者を許すことなど出来るわけもない。あの男が嘲笑を浮かべながら両親を殺め店も焼き尽くす光景が頭に浮かぶたびに、セネルの憎悪に燃料が撒かれるのだ。
「……そういえば、あいつは無事なのか……?」
「ガウ?」
「あ、いや、何でもない」
訝し気にこちらを見たキメラを適当に誤魔化し、セネルはもう一人の幼馴染というべき犬獣人の少女を思い浮かべる。快活で明るい、何でも気軽に話せる親友だった。
あの勇者は見目麗しい少女が好きな傾向がある。幸い泊まり込みの仕事に出ていてあの場には居なかったが、もし彼女までもが勇者の毒牙に掛かったらと思うとゾッとする。
家主であった両親ががいなくなったともなれば、住む場所にも追われるだろう。勇者たちへ復讐することも含め、何とか少女の無事を確かめに行きたいが、そう思う度にセネルの足は竦んでしまっていた。
この森は強力な魔物が蔓延る世界でも有数の危険地帯で、森を囲む形で魔物除けの魔道具を設置することで周辺の町々の安全を保っているが、ここに入って生きて帰った者は一人もいないという。
そんな場所から自力で帰れるなんて到底思えない。仮にこの人語を介している素振りを見せる頭の良いキメラに、森の外まで連れて行ってもらったとしても、一体どうやって勇者たちに復讐するというのか。
とにかく腹立たしいが、勇者の力は本物だ。巷の噂では見たこともない武器を自由に作り出すと言われ、その武器を手にした戦闘の素人である、リアとハンナは凄まじい力を得た。
昔から体は頑丈だと言われていたが、そんな相手にどうすれば一介の雑貨屋の息子であるセネルが復讐を為せるというのか。無策に飛び込み、下手に目を付けられれば、今度こそ殺されるのがオチだ。
(それに……もしあいつまで勇者に)
犬獣人の少女まで、勇者の虜になっていたらどうしよう。そんな恐れがセネルの決心を鈍らせる。両親の仇は取る、それは決定事項だ。しかし、もし彼女まで勇者たちの味方をして、自分に嘲りの視線を向けてきたらと思うと、どうしても足が竦んでしまう。
そういう心情に、今自分が怪我をしているという意味が組み合わさって、セネルはここから動くことが出来ずにいるのだ。
(いや、今はよそう。何の確証もない予想じゃなくて、確かな事実の下、出来るだけ早く動かないと)
それでも考えることに意味はある。両親を殺された恨み。それを晴らす方法を模索する。そしてふと、上機嫌そうに黒く変化した手で岩を削り、壺らしき物を作ろうとしているキメラを見て、セネルの頭に策が浮かぶ。
(……このキメラを利用すれば、奴らを殺すことが出来るんじゃ……?)
見るからに強そうで、その上人に対して好意的。しかも言語まで理解しているとなれば、勇者たちを行動不能になるまで追いやり、後は自らの手で復讐を成し遂げることが出来るかもしれないし、よしんば負けることがあったとしても弱らせることは出来そうだ。
大いに利用価値がある。そんな事を考えていると、ゼオはセネルの体をそっと持ち上げた。
「なんだ? また食糧でも調達しに行くのか?」
「グオォッ」
ゼオは洞穴を留守にする時、必ずセネルを手のひらに乗せて出歩く。まだ体が本調子ではない上に、魔物が蔓延るこの森を、弱い人間であるセネルを連れて行くのは得策ではないかもしれないが、彼の怪我がまだ治りきっておらず、魔物が蔓延る森の中だからこそ連れて行かなければならない。
いくらゼオの匂いが染みついた洞穴とはいえ、入り込んでくる魔物がいるのだ。そんな洞穴の中に、怪我をしたセネルを一人残していく方がよっぽど危険だろう。その事を理解しているセネルは文句も言わずにゼオの手のひらに身を委ねてくれるし、彼自身も食料調達には役に立っていてくれている。
「見てくれ、これは食べれるキノコだ。こっちは調味料の元になる実……臭み取りになるぞ」
【オウカンダケ】
【通称、キノコの王様と呼ばれる高級キノコ。王冠のように隆起したグロテスクな傘からは想像も出来ない濃厚で強い旨味を有する希少食材。かつてベールズを統べていた王も好んでおり、探すために軍隊まで動かしたという。ただし、煮ると煮汁が黄色くなるので注意】
【ピンクツリー】
【本当にピンク色の木という訳ではなく、乾燥させることでピンク色になる胡椒の実が生る木。栽培が非常に難しい木で、冒険者を頼らなければ入手が難しい高級調味料の元。出来上がった香辛料の価値は、驚くべきことに同量の砂金と同じと言われている】
「凄い……聞いたことしかない高級食材の宝庫だ」
どういう訳かこの森、食料となる物が非常に多い。その分有毒な物も多いのだが、《鑑定》が使えるゼオとセネルにはあまり関係が無い。
(それにしても、無事鍋やフライパンが出来たからこうやって食材を見つけるのが楽しくなるな。胡椒作るには時間が掛かりそうだから、出来れば塩とかあれば嬉しい。……岩塩とかないのか?)
過酷な森での生活も、同居人と文明の器具があれば楽しいキャンプへ早変わり。異様に強いステータスを持つゼオならではの高揚を胸に引き続き探索を続けていると、一頭の巨獣の姿を確認した。
「ま、魔物か? デカいぞ……!」
「ガルルルルルルル……!」
「グオオオオオオオ……!」
体格はゼオとほぼ同等。まるでサーベルタイガーにライオンの鬣が生えたような魔物が唸り声をあげ、ゼオも応戦するためにセネルをそっと地面に下ろし、威嚇を始める。
(さぁて……どのくらいの強さかね、こいつは)
ゼオは《ステータス閲覧》のスキルを発動した。
種族:ブレードライガー
Lv:93
HP:2401/2401
MP:1522/1522
攻撃:1589
耐久:1468
魔力:991
敏捷:1730
スキル
《剛獣毛:Lv4》《風刃:Lv8》《気配遮断:Lv4》
《雷撃の牙:Lv5》《大跳躍:Lv2》《空間裂断:Lv1》
《裂撃強化:LvMAX》《嗅覚強化:Lv4》《衝撃耐性:Lv6》
称号
《ヘタレなチキン》《猛き牙》《捕食者》《飢えた獣》
《殺し屋》《獣王候補者》
親近感が湧いた。主に称号の所で。しかし、敵はそんなゼオの心情など知る由もなく、明確な敵意を持ってにじり寄ってきている。
口元からバチバチと散る雷電は、十中八九《雷撃の牙》のスキルだろう。異様に長い二本の牙で相手の肉を貫き、帯電する電流でダメージを増加させるスキルだ。
(ていうか、こいつステータス高っ!? 《獣王候補者》って、俺の《魔王候補者》と似たようなもんか……?)
《獣王候補者》という称号に相応しい高いステータス。レベル1のメタトロンくらいなら平気で殺せそうな強さの魔物が普通に森の中に居たことに驚愕を隠せないゼオ。
いずれ獣系の魔物の頂点に立つ素質を持つという目の前のブレードライガーは、そのプライドを牙に乗せてゼオに躍りかかる。まともに噛みつかれれば、大ダメージは必至。《殺し屋》の称号が示す通り、相手の急所を明確に見極めて、ゼオの長い首を正確に狙ってきた。
(まぁ、正確すぎるけどなぁっ!!)
故に、ゼオは天性の狩人であるブレードライガーがどこに噛みついて来るのかある程度理解できていた。首を目掛けて牙を突き立てようとするブレードライガーの横っ面を、《猿王の腕》によって変化した右腕で思いっきり殴りつける。
「ギャゥウンッ!?」
長い牙が一本圧し折れ、そのまま地面に転がるブレードライガー。一撃でHPを大幅に削る。折れた牙の根元から血をダラダラと流し続けても闘志が衰えた様子もないブレードライガーは、大きく爪を横薙ぎに振るう。
(《風刃》のスキルか!?)
風の刃は透明であるがゆえに、見極めが極めて困難だ。ゼオは両腕を胴体の前で交差するようにして防御の姿勢を取るが、何時まで経っても身を切り裂く一撃が到達しない。
(? ……んん? あれ、《風刃》のスキルを使ったんじゃないの?)
首を傾げるゼオ。心なしかブレードライガーも怪訝そうにしていると、周辺の木々がゼオの首当たりの高さからバッサリと切断されていた。
「うぉわああっ!?」
慌ててその場から離れるセネル。恐らくまたしても急所である首を狙った一撃だったのだろうが、肝心の彼には傷一つついていない。
ブレードライガーは焦ったかのように二度三度とで爪を振るうが、それらは全て周辺の切断するばかりで、ゼオの体に傷一つ付けることも出来ていないのだ。
(何がしたいんだ、こいつ? 《風刃》だったら風が発生するもんだけど……あ、この《空間裂断》ってスキルか!?)
改めてステータスをサッと確認する。レベルが低いが、どうやら相手の耐久値や硬度を無視して切り裂くスキルらしい。
(とんでもないチートスキルじゃねぇか!? 《空間属性無効》あって良かったぁ……じゃなきゃ今頃、首と胴体が泣き別れしてるところだった)
使うことのない死にスキルかと思っていたが、意外なところで活用する機会に恵まれた。もしかしたら、《〇王候補者》や、神権王権スキルの持ち主というのは、厄介なスキルを持っていることが多いのかもしれない。
(しかし一発ごとに消費しているMPは500。それでお前、もう打ち止めだろ)
ゼオが勝利を確信したのを察したのか、ブレードライガーはゆっくりと後ろに後退を始める。ゼオが一歩前へ踏み出すと、ブレードライガーは身を翻して逃げ出そうとした。
(逃がさねぇよ!)
この一週間で発動座標を定められるようになった魔法、《グラビドン》だ。上から圧し掛かるような圧倒的重圧によって地面に身を伏せたブレードライガーにさらに追い打ちをかけるべく、ゼオは一旦魔法を解除。
「グルゥウウ……!」
(もう一発!)
身を起こした瞬間にもう一発。再び解除し、身を起こしたところで更にもう一発。消費MPは大体80前後、相手が身動きを取れなくなるギリギリの威力を見極めながら、それを何度も何度も繰り返していく。
(俺のスキルレベルの糧となれ!!)
レベルは上限に到達したが、念には念を備えるに越したことはない。スキルレベルを上げるために連続で解除と発動を繰り返すことによる、重力の鉄槌はブレードライガーの肉と骨を地面ごと叩き潰す。
それを十回ほど繰り返すと、ようやく敵が動いていないことに気付くゼオ。自分とステータスを確認し、SPとスキルレベルが上がっていることを確認すると、彼は満足気に鼻息を吹いた。
(それにしても……俺も随分強くなっちまったが、こうもあっさりこのレベルの魔物に会うとは……もしかしてこの世界、結構な人外魔境なんじゃね?)
《嗅覚探知》のスキルを発動する。食物と緑豊かな森の中に、凄まじい量の魔物の血の匂いが混じっていることに初めて気が付いた。
(これは……ここを拠点にするのは早まったかな?)
出来れば人の出入りも可能な地の方が都合がいい。ゼオは引っ越すべきか否かを検討しながら、セネルを回収して再び探索へと戻っていった。
現在のゼオのステータスです。
名前:ゼオ
種族:バーサーク・キメラ
Lv:100(MAX)
HP:3972/3972
MP:3959/3959
攻撃:3081
耐久:3086
魔力:3088
敏捷:3074
SP:1041
スキル
《ステータス閲覧:Lv--》《言語理解:Lv--》《鑑定:Lv--》
《進化の軌跡:Lv--》《技能購入:Lv3》《火炎の息:Lv1》
《電撃の息:Lv1》《凍える息:Lv1》《睡眠の息:Lv1》
《透明化:LvMAX》《嗅覚探知:Lv2》《猿王の腕:Lv1》
《妖蟷螂の鎌:Lv1》《触手:Lv1》《鮫肌:Lv4》
《重力魔法:Lv2》《飛行強化:LvMAX》《毒耐性:Lv1》
《精神耐性Lv:MAX》《空間属性無効:Lv1》
称号
《転生者》《ヘタレなチキン》《反逆者》《狂気の輩》
《魔王候補者》《解放者》《勇者の卵》《王冠の破壊者》




