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勇者、村上和人

お久しぶりです。少し構想を考えていたら更新が開いてしまいました。まぁ、理由はそれだけではないのですが。

そんな作品ですが、お気にいただければ評価や感想、登録のほどをよろしくお願いします


 村上和人(むらかみかずと)はライトノベルやゲームを愛好する、ともすれば創作物に対して無理解な輩からアキバ系やらオタクやらの別称で呼ばれかねない典型だった。

 自室の壁には美少女ポスターが埋め尽くされ、本棚は全て漫画や同人誌、テレビはアニメ鑑賞やゲームにしか使わず、休日や放課後にすることと言えば部屋の中に……もっと言えば二次元の中に引きこもる、根暗な男子高校生。

 悲しい事に、世の中には萌え系の漫画やアニメ、ライトノベルといった娯楽に対する、理解の無い輩の偏見というものがある。それが原因となって苛めなどという愚かな事をする者も、中学生の時には実際に居た。

 勿論世の中そんな連中ばかりではない。中には自分がオタクであるということを開き直って、普通にクラスに溶け込んで明るく過ごしている者たちも大勢いる。

 しかし和人はそういう風に振舞えなかった。中学の時に他のオタク男子が、反抗期を迎えて不良の真似事のような振る舞いをするクラスメイトに苛められているのを見てからというもの、素の自分を表現することが出来ず、誰かに話しかけられてもボソボソと最低限の返答しかしないようになっていった。

 オタクであることがバレる事を恐れて誰とも親交を持たず、高校に進学してからも教室の隅で空気のように過ごす学校生活を送っていた和人だったが、誰もが彼を大人しい性格と評する中で、和人の内心は行き場のない苛立ちと不満に満ち溢れていた。


(何が楽しくてギャンギャン騒いでんだよ……お前ら全員DQNかよ)


 青春に浮かれて騒ぐのは学生の特権のようなもの。無論分別を弁えるべきだが、その分別の内に入る喧騒すらも、輪に入れない彼からすれば耳障りな雑音でしかない。


(テストとかスポーツとか、くだらない基準で人を判別しやがって……人格見ろってんだ、人格を)


 自分はあんなくだらない連中とは違う。世の中の狭い価値観しか持たない大人には理解できない力を秘めた、特別な人間なのだと

 そんな事を内心で愚痴を零す彼の成績は、ハッキリ言えば学年でも下の方だ。ワースト争いを繰り広げていると言ってもいい。運動も勉強も出来なければ、特別顔が良いという訳でもない。

 その上、人と関わろうという性格でもない彼の人格をどう評価できるというのか。……いや、そもそも彼は人格だけを持て囃される事を望んでいるのではなく、村上和人という存在全てを全肯定されることを望んでいるのだ。

 学校はつまらない。心配してくれる親も兄弟も煩わしい。現実が退屈で仕方がない。鬱屈した環境によって歪められた性根は他者を内心でこき下ろし、夢と願望に溢れた漫画やゲームといった創作物に逃避(・・)し、自分が主人公ならこうすると現実的ではない妄想に入れ込むようになるのは、ある意味自然なことだろう。

 だが現実というのは劇的であり、平凡でもある。どんなに創作物の主人公のような展開を待ち望んでいても、受動的な彼にその様な機会が訪れることなどあるものではない。むしろクラスメイトが一人死んだという時も、彼は完全に蚊帳の外だった。

 そのクラスメイトの幼馴染という、奇麗な亜麻色の髪をした女子生徒が悲嘆に暮れていたのだが、和人が理想とする主人公なら何らかの形で彼女に関わり、やがてはその心を物にしたりするのだろう。

 しかし、そんな彼女の周りには既に学校一のイケメンと名高い男子生徒を中心としたグループが囲っており、和人が入り込む余地もない。


(タイミングが悪かったんだ……! 俺が動いていたら今頃……!) 


 結局、学校や日常でどんな劇的な事が起こったとしても、言い訳しながら何もしないというのが村上和人という男。自分が特別であるということで自意識を確立させる彼が最も忌み嫌うモブキャラという呼び名に相応しいだろう。

 しかし、そんな彼がついに主人公になれる瞬間がきた。

 すなわち、彼が愛好するネット小説でありふれた異世界召喚。彼が通っている学校のクラスメイト、総勢三十人を巻き込んだ、退屈な現実から脱却する非現実へ繋がる扉だった。


(やった……! 俺の時代がキターーーーッ!!)


 突如真っ白な空間に放り込まれた高校生たちが異世界の神を自称する美男に、異世界で誕生した世界を滅ぼす最強の魔物、魔王を倒してほしいと謂れて困惑する中、和人だけは内心有頂天だったのだ。

 何しろ和人にとって、異世界とは憧れそのものである。現実にないと分かっていても、何度自分を主人公に見立てて夢想しただろう。思い描いた異世界の中では、和人はまさに世界の中心。大勢の美少女たちにちやほやされながら、華々しい活躍を繰り広げていた。

 妄想が現実となり、自分の行動に伴う全てが目に映っていない和人に、神は告げる。


【秘めた力と知恵を宿した、真の勇者を待っていたよ。君になら我が権能の一端、《栄光の神権》を授けるに相応しい】

 

 残十人それぞれ違うチートと呼ぶべきスキルを授けられた他にも、和人には《栄光の神権》というステータスを大幅に向上させるスキルを与えられたのも幸先が良かった。

 欲を言えば、自分や相手のステータスやスキルを好きに閲覧することが出来るスキルも欲しかったが、無いなら無いでも構わない。なぜなら和人に与えられたスキルは《武器創造》……刀剣や拳銃は勿論のこと、SFの中にしかないような架空兵器すら作り出す、チートな主人公に相応しいスキルだからだ。

 召喚した神を奉っている聖男神教の元に召喚された和人たち。予め神託を受けたとかで、快く迎えてくれたおかげで危惧していた勇者を利用するだけ利用してごみのように捨てるという展開は無い事にも安心した。よほど信心深いのか、魔王を倒すために召喚した和人たちの事を、信徒たちは神の御使いとして見ている節がある。

 そして和人は危うげなく順調にスキルやレベルを上げ、一足先に魔王討伐を名目にした美少女ハーレム集めに出発した。そこで最初に出会ったのが、リアとハンナだ。

 巡り合ったアイドル級の美少女を前にして下半身が真っ先に反応した和人。地球とは違い、異世界で実力や自信を身につけた彼はハーレムの第一歩として彼女たちを口説いてみたが、彼女たちには想い人がいた。

 一瞬、自分は異世界でも変わらないのかと思ったが、彼はそこで諦めなかった。ライトノベルや漫画の展開を参考に、神に与えられた力や勇者としての権力をアピールすると、それに釣られたリアとハンナは、セネルという男をあっさりと見限り、自分のハーレムメンバーに加わった。

 実に順調だ。忌み嫌っているリア充だったセネルを遠くへ吹き飛ばして一通り哄笑を上げると、和人は次のターゲットを目にすることとなる。

 藍色の長い髪に、快活な印象を与える褐色肌の美少女。そして何より目を引くのは、ファンタジー世界でもお馴染みの犬耳と尻尾だろう。かつて妄想の中で、異世界に召喚された後もハーレムに必ず加えてやろうと思っていたケモミミ美少女の登場に和人は表情を歪ませる。

 しかし、逃げる少女を追いかけ、捕まえようとした瞬間に、強い光が少女を包み込み、気が付けば完全に取り逃してしまったのだ。落胆する和人だったが、運は彼を見放してはいなかった。

 なんと近くにあるオルバックという街で件の少女を見かけたのだ。今は聖男神教と敵対関係にある女神教の教会で世話になっているらしいが、主人公である自分ならばどうとでもなる。そんな根拠のない考えと共に、和人は清掃中の看板を無視して教会の扉を開くのだった。

 



 あまりにも突然の来訪だった。アルマにとって恐怖の対象でしかない勇者、和人が突然目の前に現れ、下卑た視線を送ってくるのだから、彼女の小麦色の表情から血の気が引くのも当然と言えば当然だろう。


「まさかこんな所でまた会うなんてな」

「そうそう。あれから全然姿が見えなくて心配してたのよ、アルマ」

「私たちは友人ではないですか。何の連絡も無しなのは少し薄情なのでは?」


 一体どの口が言うのか。和人と出会い、勇者の力の恩恵と言われる武具を手にしてから人が変わってしまったかのように……否、小さい世界から大きな世界へ飛び出たことで、価値観が変わってしまったかつての友人たちは何事も無かったかのように振舞う。

 一体なぜセネルの両親を殺し、家まで燃やした挙句に彼にあんな酷い仕打ちをしたのか……それを問いただしたい気持ちがあるが、和人という強大な悪魔にすっかり委縮してしまい、尻尾を丸めてしまう彼女を誰が責められるだろうか。

 

(でも言わなきゃ……せめて一言くらい、ここに居ないセネルに代わって言わなきゃ……!)


 それでもアルマはなけなしの勇気を振り絞ろうとする。出なければ、彼があまりに報われないではないか。

 口答えすることでどんな目に遭うか分からないが、それでも一言言ってやらなければ気が済まない。アルマは戦慄く口を動かしながら必死に言葉を綴ろうとすると、そんな彼女を庇うようにシャーロットが勇者たちとの間に入った。


「もしや、祈りに来られたのでしょうか? でしたら申し訳ありません、今見ての通り、聖堂は清掃中なのです。また時間を改めてもらってもよろしいですか?」

「……っ!?」


 和人は思わず反論を呑み込む。目の前に現れたシスターは、今まで見てきたどんなアイドルや異世界の美少女とは比較にならない美貌を持っていた。輝くような一つに纏められた金髪も、清廉な雰囲気に反する男好きする体も、両側に侍らせているリアとハンナの比べ物にならない。


「な……なぁッ……!?」

「……綺麗……」


 事実、二人は女として圧倒的に負けていることを瞬時に叩きつけられた。庶民ながらもそれなりに育ちの良い二人ではあったが、かつては次期王妃であったシャーロットが放つ高貴な佇まいには敵わない。

 この女が欲しい。和人の本能がそう叫び、かつてないほど下半身が強く反応する。喉を鳴らし、下卑た笑みをシャーロットに向けた。


「お、俺は魔王を倒すために神に選ばれた勇者、和人だ。よろしくな!」

「魔王に勇者……そういえば、聖男神教はそのような事を言って寄付金を……。私は女神教の巡礼者、シャーロットと申します」

「シャーロット……良い名前だな」


 和人はニコポが出来るように爽やかな笑顔を意識しながらシャーロットを褒めるが、そんな思惑にも気付かず、和人の魅力とやらも一切感じないシャーロットは変わらず穏やかな対応を続ける。


「それでカズトさん……聖男神教の勇者とやらが、何故女神教の教会に? 両宗派の確執の事を考えれば、ここに来ないことが互いの為だと思いますが」

「あ、おお! そうだった! 俺たちはそこにいるアルマを迎えに来たんだよ! 故郷から突然いなくなったから二人も心配してて……」


 そんな如何にも心配していましたと言わんばかりの態度で近づいて来る和人に、アルマは全身に鳥肌が立つ。そんなアルマの気持ちなど知る由もない和人を制するように、シャーロットをは片手を上げた。


「申し訳ありません。彼女は今、住んでいた場所を貸してくれていた恩人一家が殺害された(・・・・・)ことを気に病んでいて、あまり人と関わることが出来る心理状態ではないのです。御用があるのなら、まずは手紙などで距離を詰めていただくとして、今日のところはどうかお引き取りを」


 その言い回しに、シャーロットは和人たちが何をしたのかを知っていると言外に告げていた。気に入った女を自分のハーレムに加える第一歩としては最悪と言ってもいいだろう。

 その事を煩わしくも思いながらも、アルマに加えてシャーロットの事がどうしても諦めきれない和人。どうにかして好感度を上げようと、都合の良いハーレム物の恋愛劇しか見たことのない彼は、やや強引に彼女たちに迫る。


「そ、そんなこと言わずにさ……せっかくリアやハンナと再会できたんだから、一緒に食事でも。勿論俺が奢るし、俺の武勇伝を聞かせてやるよ。何ならシャーロットも一緒に……」

「今の彼女の顔色を見てもまだそう言えますか? それに、今日は掃除で忙しいのでお引き取りください」

「ちょっとアンタ! 少し綺麗だからって勇者であるカズトの誘いを無碍にするっていうの!?」

「はぁ……いるんですよね。自分は特別なんだって思い上がっている痛々しい人……大人しく言う通りにした方が身のためですよ?」


 断固とした姿勢を崩さないシャーロットと、苛立ちながらも自分の思い通りに事を運ぼうとする和人たち。そんな問答が三度ほど繰り返された時、シャーロットは最終警告を告げた。


「もう一度言います。アルマさんは家主の死去によって住まいを追われた難民であり、女神教の庇護下にある方です。そのアルマさんを無理矢理連れ出そうというのであれば、私もしかるべき対処をせざるを得ませんが……それでもよろしいですか?」

「へぇ? 一体どうするって言うんだ?」


 余裕綽々でシャーロットを見下す和人。しかしそんな態度も、シャーロットがスキルを発動させた時点で終わりを告げた。


「ぐ……!? ぎゃあああああああああがあああああああああああああああああっ!?!?」

「ひぎぃいいいいいいあああああああああああああっ!?!?」

「あががががががっががががががががっがあああああああああああああああっ!?!?」


 突如、和人にリア、ハンナの全身に言い表し難い激痛が走る。それは体をすり潰し、押し潰し、焼き殺し、引き裂かれるという、致命の損傷が一度に襲い掛かってきたかのような、体に一切の傷を与えていないにも関わらず痛み。

 スキル《再生魔法》のレベルが3になって覚えた魔法、《ペインリプレイ》。スキルの対象者がこれまで受けた痛み、与えた痛みをその身に再現させる報復の魔法だ。

 いくら再現するのが痛覚だけとはいえ、力を得てから今日まで、彼らが殺めてきた魔物や人の数は多い。今までに殺した羽虫の分も含まれているのだ。その痛みが一度に襲い掛かってきた上に、これまで痛みから極力逃げる人生を送ってきた和人はとにかく痛みに弱い。

 常人なら発狂する激痛を全身に与えられ、のたうち回りながら教会の外へ転がり出て、白目を剥いて全身から嫌な汗を流し、遂にはそのまま失禁する三人は地獄の激痛に意識を手放し、ようやくスキルから解放された。


「気絶するだけに止めておきました。無暗に傷付けるわけにはいきませんから」


 消費MPを抑えることで与える痛覚を最小限に止めたが、シャーロットは自分の言葉が届かなかったことを猛省する。いくら相手が相手とは言え、宗教者として力を行使して何を払い除けるのは下の下。女神教としては場合によってはやむなしとされているが、シスターとしてはまだまだ未熟な証拠だ。

 それに、このような痛みで人の悪意を退けるのはシャーロットの本意に反する。アルマを守るためにも現実的に見ればこの対応が正解だったが、徳を以て厄を退けるのが理想だ。そしてその理想を実現する努力をしてこそ、女神教の信徒である。


「さぁ、この方たちを聖男神教へ送り返さなければなりませんね。私たちが行くと問題になりそうなので、知り合いの冒険者の方に頼んでみます」


 そんな反省は周囲に見せず、ポカンとした表情を浮かべるアルマに、シャーロットは努めて冷静に、それでいて穏やかに告げた。


脱糞に失禁……別に僕は下ネタが好きという訳ではありませんよ? 屈辱的な事を考えれば、勝手にこうなったというだけで。

新作「勇者に恋人寝取られ、悪評付きでパーティーを追放された俺、燃えた実家の道具屋を世界一にして勇者共を見下す」もよろしければどうぞ。

三作くらいの連載なら、安定して週一更新が出来るのでご安心ください。まぁ、今回みたいに展開を思いつく時間を除けばですが。


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