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魔物と偽りの天使

お気にいただければ評価や登録、感想のほどをよろしくお願いします


 それは、その生涯でただの一度も正道を違えなかったシャーロットの願いを、何者かが叶えたとしか思えない光景だった。

 雲を突き破るほどの炎の柱が突如として現れ、彼女とのゼオを呑み込む。それを中心に吹き荒れる烈風が取り囲む騎士たちの身動きを封じ,ようやく炎と風が治まった時、ゼオの人間としての意識が水底から浮上するように浮かび上がった。


(ぐぐ……!? お、お嬢が何かしたのか……?)


 頭を左右に振って、自身に縋りつくシャーロットを見下ろす。バーサーク・キメラに進化し、女神の加護などという意味の分からない要素でもなければ理性を取り戻すことなどできないと思っていたのに、まさかこんなすぐにそうなるとは思いもしなかったゼオは、倒れこむシャーロットを手で支えながら《ステータス閲覧》を発動しようとした、その時。


「あああああああああああああああああああああっ!?!?」


 喉を裂けんばかりの絶叫がリリィの口から迸る。慌てて振り返ってみると、周囲の瓦礫がリリィの体に取り込まれるように収束していき、その色と形、そして材質までも変質していく。そして出来上がったソレはゼオから距離を置くように浮かび上がり、ゼオは茫然と見上げるしかできなかった。


(な、何だありゃあ……!?)


 王都の広場を見下ろすのは、白磁と黄金で出来たかのような色合いを持つ、王冠を被った女の胸像だ。その背後には四対の白い翼と、頭上には一つの巨大な眼球が浮かんでいる。陽光を浴びて、より神々しい輝きを放つソレは、さながら天の使いか何かに見える美しさがあった。



 名前:リリィ・ハイベル

 種族:メタトロン

 Lv:1

 HP:1438/1438

 MP:∞

 攻撃:100

 耐久:1000

 魔力:1012

 敏捷:100


 スキル

《王冠の神権:Lv1》《聖壁の鎧:Lv1》《聖光の刃:Lv1》

《天使の翼:Lv1》《神の目:Lv1》《使徒生誕:Lv1》


 称号

《公爵家の令嬢》《恩知らず》《悪女》《絆を引き裂く者》

《親殺し》《不義の(ともがら)》《権力欲の権化》《ただのビッチ》

《元平民》《勘違い女》《レベル上限解放者》《王冠の果樹》



(進化したのか!? 人間が!? 種族どころかスキルも大幅に変わって……ていうか、MP無限っ!?)


 ステータスの上昇値もおかしい。HPと耐久、魔力ではゼオと張り合えるし、スキルの名前を見る限りは恐らく後方型の戦い方を得意とするのだろう、代わりと言っては何だが他のステータスは低い。しかし問題はMPが無限であるということに尽きる。スキルレベルが低いとはいえ、無制限に連発されるのは脅威でしかない。


『て、天使様だ……!』

『神の使いが……あの魔物に直接天罰を……!』


 王都の住民たちはその神々しい姿に感涙の涙すら流しそうな様子で眺めているが、不意にリリィ……もとい、メタトロンの両目が強い光を発し、その視線がシャーロットに向けられる。


(やべぇっ!?)


 咄嗟に全身でシャーロットの体を覆い隠す。その瞬間、メタトロンの両目から細いレーザーが迸り、縦横無尽に薙ぎ払われた。《聖光の刃》のスキルであるとゼオは確信する。光はゼオの表皮を浅く切り裂き、街と一緒に人々を両断した。


『いやあああああああっ!?』

『ど、どうして!? あれも魔物なのか!?』


 下手な刃よりも鋭く切り裂かれ、倒壊する建物に巻き込まれた王都の人間たちは、先ほどの感想とは打って変わって、メタトロンにも恐怖の感情を向ける。しかしゼオはそんな事を気にする暇はない。今この天使モドキは、明らかにシャーロットを狙っていた。

 まだシャーロットの命を狙おうとしている……その事を理解したゼオは、再びシャーロットに光の刃を振るおうとしたメタトロンの顔面を目掛けて殴り掛かる。


(なっ……!? こ、これは……!?)


 ゼオは自分のステータスをサッと確認し、スキル名からその詳細を予測して《猿王の腕》を発動させた。黒い剛毛に覆われた右拳を放ち、メタトロンの顔に突き刺さろうとした瞬間、その表面を覆うような光の壁に阻まれていることに気付く。

 十中八九《聖壁の鎧》だろう。それが体全体に沿うように覆っていた。一度阻まれたが大きなヒビを入れることは出来、体重を乗せて押し込むようにすれば突き破れたが、どうやら威力はかなり削がれてしまったらしい。



 名前:リリィ・ハイベル

 種族:メタトロン

 Lv:1

 HP:1402/1438

 MP:∞



 ステータス差を考えれば一撃でHPの一割は削れそうだが、あのスキルはかなり厄介であると認めざるを得ない。その上、MPが無限であるため、常時あのスキルが発動されっぱなしであると思うと気が滅入りそうになる。

 そんなゼオを邪魔な障害と認識したのか、メタトロンは視線をこちらに向けると再び《聖光の刃》を発射する。


「ガァァアッ!?」


 光線は熱を宿してゼオの肩と胸を抉る。MP無限と聞けばその分威力が上がりそうだが、攻撃系や防御系、回復系のスキルには効果の上下限が存在する。どれだけMPを注ぎ込んでも、その限度を突破することは出来ないのだ。

 そのおかげで向こうも決定打を打てていないが、それはこちらも同じ。長引けばゼオの敗北だ。そうはさせないと、彼はもう片方の腕を《妖蟷螂の鎌》に変化させてメタトロンに斬りかかった。


「はぁ……はぁ……! ゼ……オ……!」


 そんな血を流しながら戦うゼオの背中に守られながら、シャーロットは高熱で震える体を無理矢理起こして、辺りに転がっていた騎士の遺体から剣を拝借し、魔封じの腕輪が嵌められた右腕に添える。

 あの天使モドキの光から身を挺して自分を庇った時から、何らかの要因でゼオが正気に戻ったことを悟ったシャーロットだったが、たとえそうでなくてもやることは変わらない。この腕輪さえなければ傷つくゼオを癒すことも出来るだろう。彼女は今、身に纏う襤褸を噛み締めながら、忌々しい腕輪が嵌められた腕を切り落とそうとしていた。


「アァァァーーー」


 しかし、そんな暇すら与えないとメタトロンは澄んだ声と共に新たなスキルを発動させる。胸像のような全身から、翼の生えた真っ白な騎士甲冑が幾体も生み出されたのだ。ゼオをシャーロットを殺すための障害と認識したメタトロンは、《使徒生誕》のスキルで手下を生み出し、シャーロットを殺そうとしているのだ。



 種族:パペットエンジェル

 Lv:15

 HP:250/250

 MP:250/250



(ステータスが均一のモンスターを……しかもMP無限だから幾らでも生み出せるってのか!? クッソ、こいつ天使っぽい種属名のくせしてやること結構えげつない!!)


 ゼオは背中を攻撃されるリスクを覚悟の上でメタトロンから背を向ける。それぞれ剣を持ってシャーロットに斬りかかろうとしているパペットエンジェルたちを、蟷螂の腕で纏めて横薙ぎにしようとした時、空から野太い声が飛来した。


「どぉおおおおおりゃあああああああああああっ!!!!」

(ラ、ラブさん!?)


 逞しい拳と蹴りが騎士甲冑の天使たちを粉砕し、その衝撃でシャーロットは握っていた剣を取り落とす。上空から飛来した猛攻は、さながら隕石のようだ。


「間に合ったのか、間に合ってないのか判断付かないわねぇ……! 状況説明!」

(オ、オスっ!)


 オカマとキメラはシャーロットを守るような立ち位置について、延々と生み出されては向かってくるパペットエンジェルを迎え撃つ。その間、ラブは《思念探知》のスキルでゼオから状況を全て確認した。


「なるほど……どうやらあのデカいのは、この娘を狙っているみたいねぇん」


 二体のパペットエンジェルの足を掴んで即席の武器とし、他の甲冑天使たちを砕いていくラブ。その合間に飛んでくる光線をクネクネとした動きで回避しているあたり、まだまだ余裕そうだ。しかし、彼女の立場上、メタトロンの討伐よりも優先しなければならないことがある。


「ワタシは女神教の使徒としてシャーロット嬢、ひいては町の住民を一人でも多くこの災厄から守らなければならないわぁ」


 パペットエンジェルたちは相変わらずシャーロットを狙っているが、メタトロンの攻撃範囲は広い。光線が届く限り、建物も人もお構いなしに巻き込んで攻撃している。女神教の信徒と思われる僧服を着た者たちが必死に救護活動をしているが、殲滅されるのも時間の問題だろう。


「相手の攻撃を惹きつけ、眷属を生み出す余裕も与えないようにしなくちゃいけないわ。そしてそれが出来るのはアンタだけ……シャーロット嬢はアタシが死んでも守る。だからアンタはあのデカいのをぶっ飛ばしてやんなさい!」

「グォオオオオオオオオオオッ!!」


 言われるまでもないという意思を込めてゼオは咆哮を上げる。それを聞いたラブは二ッと笑うと、シャーロットの体を抱きかかえて走り出そうとするが、当のシャーロットは抵抗するかのようにゼオに向かって手を伸ばした。


「ダメ……! あの子がまた……傷ついて……!」

「いいから行くわよぉ! アンタがここに居たら、あの子が本気で戦えないでしょう!?」

 

 ラブは息も絶え絶えといった体調でありながら動こうとする精神力に感嘆しつつも叱責し、懐から取り出した小瓶をシャーロットの口に入れる。中に入っていた甘いゲル状の物体と絡まっていたモンドラゴラの生薬が、嚥下能力が極端に衰えたシャーロットの喉を通過し、胃に到達する。


「この雑魚共とシャーロット嬢はワタシに任せなさぁい!」

「ゼオ……!」


 遠ざかりながらも手を伸ばすシャーロット。その姿が、今生の別れ(・・・・・)になる予感を感じながら、ゼオはメタトロンと向き直る。


「アァーーー……」


 パペットエンジェルたちは広場の外に跳躍したラブに抱えられたシャーロットを追いかけるように広場を出ていく。メタトロンは更なる追っ手を生み出しながら、遠くにいるラブの背中に視線を向け、その眼球に光をため込んでいるが、ゼオはそんなメタトロンの頭を鷲掴みにする。


「?」

(おい……こっちを無視してお嬢を狙ってんじゃねぇぇっ!!)


 腕を猿王のそれに変化させ、いっそのこと憎たらしくなった彫刻のような顔に拳を叩きこむ。相変わらず聖壁でダメージは大きく削られているが、振り抜かれた一撃はメタトロンの顔を全身ごと仰け反らせ、建物に向かって吹き飛ばす。

 天使モドキの巨体が建造物を薙ぎ倒す。それに対し、メタトロンは痛みを感じていないかのように、新たに使徒を生み出しながら視線をゼオの向けるが、肝心のゼオが居ない。

 横に回り込みながら《透明化》で姿をくらまし、更に一撃を叩きこもうとしているのだ。《凍える息》による氷結ブレスで生み出されるパペットエンジェルごと氷漬けにし、更なる一撃を叩きこもうと企んでいたが、メタトロンの頭上の眼球がぐるりとゼオが居る方向を向き、メタトロンもそれに合わせて視線を動かす。


(《神の目》は探知スキルか! このままだと先に攻撃される……!?) 


 一瞬の迷い。しかしそれに構うことなく、ゼオは冷気の豪風を吐き出し、それに先んじてメタトロンの光線がゼオの胴体を袈裟懸けに切り裂く。宙に飛び散る鮮血。氷に覆われた天使モドキとその使徒。その中でメタトロンだけは氷を砕いて動き始めるが、その硬直時間を見逃すゼオではない。再び猿王の拳で殴り、聖壁を割る。


(《聖壁の鎧》が常時発動型か、任意発動型かは分からねぇ……だが、障壁を割ってから元に戻るまで1~2秒かかってる! つまりその間に追撃できれば……!)


 障壁を割るのと同時に勢いで殴り飛ばすのではなく、今度は五本の指で首根っこを掴む。このまま窒息死させられれば楽なのだが、気道を抑えている感触が無い。感触としてはスベスベになるまで研磨された石に近いだろう。


(どういう体の構造してんだこいつは……よぉっ!!)


 首を掴んだまま、体全体で勢いを付け、三軒の建物を倒壊させながらメタトロンの体を地面に叩きつける。この程度で障壁を割ることは出来ないが、腕という異物に介入された障壁は、完全な復元に至ることが出来ていない。

 穴の開いた壁など脅威ではない。ゼオは腕を引き抜くと同時に《電撃の息》をメタトロンに浴びせる。


「アアアアアアアアアア」


 スキルが進化したのか、以前よりも太い電撃の直線がメタトロンに直撃し、全身に電光が迸る。だがメタトロンは痛みを感じていないかのように平然と光線を浴びせてきた。


「グガァアアアアッ!?」


 今までよりもより太い光の斬撃。明確にゼオを障害と認識したのだろう、スキルの威力上限限界までMPを注ぎ込み、それを連射している。今までよりも深く血肉を切り裂かれ、悪臭を放つ血潮が滝のように流れ落ちた。

 痛みに思わず仰け反るゼオ。僅かに遠ざかる障壁は凄まじいスピードで復元されようとしていた。そしてそれが、使徒を生み出す時間にもなり、それを阻むにも手が届かないということも分かっている。


(させるかぁっ!!)


 だからこそ、ゼオは攻撃の手を緩めない。一度の反撃がシャーロットに少なくない脅威を与えると知っているからだ。閉じかかった穴を目掛けて吐き出された《火炎の息》が爆裂する。僅かな穴を起点に広がる炎と衝撃が、《聖壁の鎧》に大穴を開けた。


(その厄介な壁を壊せば、お前の素の耐久値程度なら一発で体力半分は持って行ける!)


 亀裂の入った障壁を叩き割るかのような、スパイクが幾つも生えた尾によるテールスイングが炸裂。攻撃の動作で一軒、体の側面を打ち抜かれて地面に擦れるように転倒することでまた一軒、戦場は広場から住宅街へ移行し、いくつもの建物を巻き込んでいく。


「アァアアーーー」

(ぐぅぅうっ!?)


 そして痛みを感じた様子もなく、怯みもしないメタトロンの反撃がゼオを切り裂く。互いの攻撃で転げ回る天使と魔物の戦いは、さながら怪獣映画のようなものだった。本来なら隙を伺いつつ冷静に攻撃を回避し、勝利の確実性を引き上げるのだが、無限に使徒を生み出し、広範囲をビームで薙ぎ払われてはシャーロットの危険性まで引き上げられてしまう。

 

(ぐっ……!? しかもこいつ、戦闘中スキルレベルを上げてやがる……! 無制限に撃てるなら幾らでも回数貯められるしなぁ……!)


 最初と比べて明らかに威力が増した光線にゼオは内心で舌打ちをする。元々の素材が貧弱なせいか、大仰な種属名に反してそこまで強くはない。しかしこのままスキルレベルを上げられ続けてはもはや手に負えなくなってしまう。

 


 名前:ゼオ

 種族:バーサーク・キメラ

 Lv:2

 HP:798/1521

 MP:812/1503


 

 戦闘開始から大勢の騎士を殺傷したゼオだが、レベルはたった1しか上がっていない。進化に伴ってレベルが上がるのに必要な経験値が大幅に増えたのだ。こちらのHPが半分近くに迫っているのに対し、向こうは時間経過によるHP回復速度も速いらしく、体力はほぼ万全。このままではいずれ詰むことを確信したゼオは、勝負を仕掛ける。


(新たに得た三つのスキル……それらに限界までMP注ぎ込んで同時に使う……反撃の隙は与えねぇ)


 一つのスキルに50ほどのMPを注ぎ込み、右手に《猿王の腕》、左手に《妖蟷螂の鎌》、そして背中からは《触手》が、今までよりも強靭になって変成する。再び閉じられかけた障壁の穴に巨大な火球をぶつけて爆破し、ゼオは翼と《飛行強化》のスキルを推進力にしてメタトロンの懐に飛び込んだ。


(おらぁぁあっ!!)


 天使の両目が光る。その内の片方、右目に鎌を突き刺したゼオの右肩を、左目から放たれたレーザーが貫き、そのまま上に向かって切り上げる。噴水のように吹き上がる血潮がキメラの顔を濡らすが、それに対するメタトロンは頭部に刃物が突き刺さっても全く堪える様子が無い。


 

 名前:リリィ・ハイベル

 種族:メタトロン

 Lv:1

 HP:1001/1438

 MP:∞


 

 普通、刃が頭部に突き刺さればその時点で決着だが、考えてみればこのメタトロンは核となっていると思われるリリィ以外はすべて瓦礫から体を作り出している。つまり普通の生物とは急所が違うのだ。体の何処かにいると思われるリリィを仕留めれば勝てそうではあるのだが、そんな事に悠長に時間をかけるつもりはない。

 

(反撃を恐れるな……このまま一気に砕くっ! 光よりも速く!)


 巨大な天使と魔物の、ガード知らずの猛攻が家屋を薙ぎ倒していく。王国の首都に相応しい煉瓦の街並みを瓦礫に変えながら。

 右の殴打によって食い込んでいた左の鎌が外れ、ゼオは返す力で今度は肩から斜めに切り裂く。その間にゼオが受けた光線の数は九発。連射速度も上がっているらしく、攻撃を恐れないロボットじみた動きとは極めて相性がいい。ゼオのHPは一気に500ほど削り取られた。


(でも流石に欠損だけはすぐには治ってねぇみたいだな!)


 鎌に貫かれた右目は亀裂と共に開いた空洞となっている。《聖光の刃》が眼から発射されていることは既にステータスから確認が取れている。頭上に浮かんでいる《神の目》が気になるが、あれからもビームを出せるならとっくに出しているだろう。

 再び残った左目から光線を放とうとしているメタトロンの顎をアッパーで打ち上げて攻撃を天空へ向けると、視線を戻す暇も与えず触手を首に巻き付け、左目を地面に押し当てるように引き倒した。


(お前がビーム一辺倒の殺戮兵器だってことはもう分かってんだよ! 顔を地面に押し付けられたら、もうロクな攻撃は出来ねぇはずだ!)


 もがき出して拘束を解こうとしているが、全体重を乗せた上、筋力が増加している《猿王の腕》によって頭を押さえつけられては、手足を持たないメタトロンが脱出することなど不可能。悪あがきに飛行用の翼でゼオの体を叩いているが、それも触手で一纏めに縛り上げる。


(まずはその首貰ったぁッ!!)


 妖蟷螂の刃がメタトロンの首に深々と食い込む。それを何度も何度も首に叩き込み、断面をズタズタにしながら頭部を切り離した。


「アァアーーー」

(これでもまだ動けんのか!?)


 口からは澄んだ声が響き渡り、下敷きにしている胴体は未だ身動ぎをしている。首と胴体を引っ付けて時間を置けばいずれ復活しそうだ。血も流れておらず、断面も割れた鉱石と似ているので、その問はあながち間違いではないような気がする。


(粉々にしてビッチを引きずり出してやる!)

 

 鎌を普通の竜の腕に戻し、メタトロンの頭を両手で持って下敷きにしている胴体に何度も何度も叩きつける。聖壁で自分の体を包み込む暇も与えない、今までの鬱憤や怒りを全て叩き込むかのような怒涛の連撃。ひび割れる胴体に頭を捻じ込み、ゼオは少し後方へと飛び退いた。


(あの体は鉱石に近い。対物破壊能力が弱い電撃や冷気じゃ通用しねぇ……これで一気に砕く!)


 口腔からメタトロン目掛けて迸る極大の火炎球。上限いっぱいのMPが込められた一撃は、着弾と共に凄まじい衝撃と爆炎となって街をクレーター状に薙ぎ払った。

 飛び散る無数の白磁と黄金が体に打ち付けられながら、濛々と立ち込める煙を触手や腕で払うと、そこには跡形もなくなった胴体と、右半分が崩れて焼け焦げている頭部が、ぎこちない動きで飛行していた。


「アッ……ア……ア、ァ……」

 

 メタトロンは頭上に浮かぶ眼球で辺りを見渡す。それはまるでシャーロットを探しているようだと予感したゼオ。全身から流れ落ちる血を無視して飛び上がり、眼球に猿王の拳を叩きこんだ。


(お前が何でそんなにお嬢を狙ってんのか知らねぇけどなぁ……!)


 大きな亀裂が入って吹き飛ばされる眼球に触手が巻き付き、円を描きながら猛烈な勢いで回し始める。触手を鎖に見立てたモーニングスターだ。先端の重量によって遠心力が加算された強烈無比な一撃。ゼオはヨロヨロとした頼りない飛行で逃げ出そうとするメタトロンの頭部を睨む。


(俺の惚れた女に、手ぇ出してんじゃねぇ!!)


 バゴォッ! という破砕音が空に響く。衝突したメタトロンの頭部と《神の目》が砕け散り、煌びやかな外見を彩っていた白磁と黄金は、元の材料である瓦礫の褐色へと戻った。

 飛び散る破片に交じって地面に落下していくリリィと、その衝突で目を覚まして「ぎゃああああああっ!?」とみっともなく悲鳴を上げる彼女のステータスを見て、ゼオはようやく肩の力を抜いたのだった。

 

BGMにノラととの「BraveGuardian」、G戦場の魔王の「男の花道」、TOX2の「ただひとり、君のためなら」とか聞いて頑張ってみました。小説読むときもBGMで臨場感が上がるタイプなんです。

さて、第一章も残り三話になりました。思ったよりも長くてビックリしています。次から22話にかけていよいよざまぁが始まりますので、どうかお楽しみに。

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