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ちょっとしたざまぁで令嬢をNTR? した件について

前回のお話で、皆様から貴重なご意見をたくさんいただきました。それについての事や、今回のお話についての弁解は後書きに記してありますので、良かったらどうぞ。

この話もお気にいただければ評価や登録、感想のほどをよろしくお願いします。


 ゼオがシャーロットの傍で《透明化》のスキルを使って警護するようになってから一週間が経過した日のこと。


「国王陛下が意識不明? それって本当なのかしらぁん?」


 流麗な三日月が夜空を彩る中、教会の一室で部下である祭司から報告を受けたラブは、思わず顔を顰めながら聞き直した。


「確証があるわけではないのですが、王室専属の主治医が一年前から頻繁に王宮に出入りしているようなのです。それは、国王陛下が表舞台に顔を出さなくなった時期と重なりますし」

「教会からは国王陛下の容態回復に協力すると、政府に提案したのかしらぁ?」

「勿論。ですが、宰相閣下が主治医だけで事足りる、教会の手を煩わせるほどではないと辞退されまして」


 グランディア王国国王、ヘルムートは堅実な治世に定評のある人物だが、一年もの間周囲に顔を見せずに引き籠って執務に没頭する人物ではない。部下の語った報告から察するに、少なくともヘルムート王は人に会える状態でない可能性は高いのだろう。


「となると……今のグランディア王国を取り仕切ってるのはリチャード王子とオーレリア宰相という訳よねぇ」


 王妃はリチャードを産んでから体調を崩し、そのまま他界している。だからこそ猶更疑問な事がある。


「どうして宰相閣下は王子の散財を止めないのかしら? 公爵家の娘養子に貢ぐのが目的で国庫を使うだなんて……王子も馬鹿だけれど、王から代役を任されている宰相としてしちゃいけない事でしょうに」


 山林で出会った小さな魔物の事を思い出す。人並みの知性と理性を兼ね備えた彼は、リチャードの婚約者であるシャーロットが、義妹であるリリィの登場以降、いきなり虐げられ始めたと必死に訴えてきた。

 リリィの事はラブもある程度調べた。ハイベル公爵の弟が平民との恋愛の末に市井に降り、そして生まれた一人娘。不幸にも強盗によって両親が殺害され、一人残されたリリィをハイベル公爵が引き取ったという。

 それ以降、リリィはリチャードを始めとした数多くの貴公子と共に過ごしていることが多く、難民への炊き出しを率先して行っているというが、それは政府に還元されない無計画な炊き出しで、悪戯に国庫を削るばかりだ。

 まるで外見だけ取り繕った令嬢が、上から目線で食料をばら撒いているようにしか見えない。一見善行に見えても、国あってこその生活を崩すようでは意味がないのだ。


「貴方……ハイベル家の養子ってどんな娘か見たことある?」

「ええ。この街は伝統的で大きな学院を要する都市ですから学生たちの噂話も聞こえてきますし、領主の新しい子供ですからね。実際、街で何度か見かけたことがあります」

「その時どう思ったのかしらぁん? 貴方の直感でいいから教えてちょうだい」

「……伝え聞く話では素晴らしい令嬢というのでどのような方かと思ったのですが、正直……私には底の見えないくらい薄暗い目をしていて近寄り難いというのが第一印象です」

「そうよねぇ。ワタシもあんなに心が濁った娘は初めて見たわぁん」


 ラブも遠巻きからリリィを見たことがあるが、スキル《思念探知》によって知ることが出来たのは、まるでヘドロのように濁った欲望と、自分より優れた者に対する強い嫉妬のみ。

 だからと言って、リリィが何かをしたという証拠が無いし、具体的に何をしているのかは本人に思い浮かべて貰わなければラブも見極めきれない。現状では穏便な形でシャーロットの名誉を回復させるのは難しいかもしれないと、ラブが諦観を抱きそうになった時、祭司が思い出したかのように告げた。


「そういえば、その少女を最初に見つけてハイベル公爵に伝えたのは、オーレリア宰相らしいですよ? 偶然訪れた街の孤児院で珍しい光魔法の使い手がいるって話したそうで」

「なんですって?」


 聖男神教の動きを察知してグランディア王国に訪れたラブだが、一年前に敵対教徒と接触のあった人物の候補として、オーレリア宰相の名前があったのだ。

 王が倒れ、王子の散財を見逃す宰相が国の舵を取るようになったのが一年前。リリィの両親が殺害され、公爵家に引き取られたのも一年前。そして、調べた限りではリリィに先天的なスキルは宿っていなかったことを思い返す。

 これら全てが、偶然同時期に起きたにしては都合が良過ぎる。根拠はないが、調べ直してみる価値はあると考えたラブは、そのまま窓から街へ飛び降りていった。


「貴重な情報だわ! 後でご褒美にキスをしてあげるぅ♡」

「え!? ちょっ!? 冗談ですよね!? 枢機卿!? 枢機卿ぉおおおおおっ!?」 





(相手に反省をさせることが出来ないざまぁって、ざまぁになり切れていないのではなかろうか?)


 一方その頃、ゼオは静かな寝息を立てるシャーロットと共に布団に包まれながらそんな事を考える。

 これまで幾度となくシャーロットに危害を加えようとした者に物理的報復を行ってきたが、それで現状が変わらないのではキリが無い。結局、彼らにとっては理由が一切思い当たらない不幸な出来事でしかないのだから、シャーロットに対する罪悪感や報いを受けたという気持ちがあるはずもないのだ。

 やはり人の体を得て、言葉でシャーロットの無実とリリィの性悪さを証明するべきかと再び思い始める。しかしそれではSP稼ぎの最中に、シャーロットに対する危害への対策が打てないという問題が無くなるわけではない。

 どうしたものか……思考の海に沈むゼオは考えに考え抜いて、ピンッ! と豆電球が浮かびそうなひらめきが脳裏をよぎる。 


(もうビッチをぶち殺しちまえば、万事解決なんじゃなかろうか? ……いや、それやったら連中がどんな事しでかすか分からんのだよなぁ。それに、お嬢の潔白を証明するのにもビッチの証言がいるかもしれないし)

 

 しかしすぐに首を横に振った。濡れ衣を被せられた時、潔白を証明するには濡れ衣を被せてきた本人の自供が必要になるからだ。

 元々アリバイの作りにくい一人での行動が多いシャーロットに提示できる証拠は殆どないし、シャーロットのアリバイを証明できる者が居ても周辺は敵だらけ。シャーロットを貶めるために嘘の証言をすることもあり得る。


(大体、ビッチを殺したからってスキルの影響が無くなるわけじゃない)


 リリィを殺害しても、周囲が持つシャーロットに対する好感度が変わらない。それどころか、最悪八つ当たりや全く根拠もなくシャーロットを悪と決めつける精神状態に陥る可能性もあり得るくらい、リチャードたちのリリィへの執着ぶりは常軌を逸している。

 

(あー……でもビッチさえぶち殺しちまえば、これ以上酷い事にはならなくなる可能性もあるんだよなぁ。もう一番下まで行ってるから、あとは上るだけみたいな)


 とはいっても、メリットもちゃんと残っている。これは所謂賭けだ。勝てばシャーロットの人柄で元の安寧とした生活が戻るあろうが、負ければ更に酷くなる。迂闊に決行する訳にもいかない。


(こういう時、ラブさんが協力してくれねぇかな……でも貴族の事だから、教会が介入する訳にはいかないっぽいし)


 前途多難とはこの事か……こういう時ばかりは、この魔物の体が憎い。戦いでいくら役に立っても、人の思惑が絡む厄介ごとでは殆ど力になれないのだから。


(しかもビッチはビッチで着実に味方増やしてるっぽいし)


 シャーロットが王宮へ、アルベルトの散財に対する対策をする為に財務大臣に面会を申し出たのだが、なんと次期王妃であるにも拘らず門前払いをされてしまったのだ。しかもただの兵士にである。これは絶対リリィが何かしたに違いないと、ゼオは後からやってきたリリィを喜んで通した門番を見てそう確信した。


(お嬢が頑張って国の為に自分に出来ることをやってたってのに……これ、俺が何かするまでもなくビッチの手によってこの国崩壊するんじゃね?)


 国税や貴族の財産がたった一人の強欲な売女によって湯水のように消費されている。これはゼオが何かするまでもなく自滅の道を辿るだろう。そうなると、ゼオとしてはシャーロットがそれに巻き込まれることなく逃がせるようにしたいところだ。

 しかし、シャーロットは実の家族を見捨てられるのだろうか。見捨てないだろうなぁ……と、どこか諦観めいた確信を抱くのと同時に、ゼオは前世の家族の姿を思い浮かべる。

 ……あんな家族でも……息子が、兄弟が死んだら悲しんでくれたのだろうか?


(うわぁ、想像できねぇ)


 栓の無い事だ。ゼオは頭を振って瞳を閉じ、そのまま睡魔に身を委ねるのであった。



 

 しかし、事態は好転と言っていいかどうかは微妙だが、確かな変化を見せることになる。

 しばらくの間、ゼオはシャーロットに危害を加えようとする者が居ないか、彼女に気付かれないようにしながら目を光らせ続けた。幸いと言っても良いのか、ここしばらくはシャーロットに近づこうとする者もおらず、彼女本人は寂しそうにしていたが、それなりに平穏な日々が続いたある日、その男はついにゼオの前に現れた。


「シャーロット!! お前はまたしても私の愛しいリリィに酷い言葉を投げかけたそうだな!?」


 生徒会室で作業中、普段はリリィにかまけてばかりで寄り付きもしない生徒会長であるリチャードが、ロイドとエドワードを引き連れて突然現れたかと思えば、そんな事を喚き始めた。


「と、突然どうされたのですか? 少し冷静になられてから……」

「これが冷静でいられるものか! 貴様はどこまで醜い女なんだ!? 今日もまたリリィに薄汚い平民の血が混じっているのだから分を弁えろなど、王侯貴族らしからぬ言葉で彼女の心を傷つけたのだろ!?」

「そ、そんな……!? 私は今日、リリィを見かけてすら……」

「言い訳など聞きたくありません! 姉上にはとことん失望しました……どうしてこのような者が、我が一族から生まれてしまったのか」

「貴女のような下劣な女性が婚約者とは……殿下には同情を禁じえませんね。リリィの美しい心を傷つけた罪、万死に値しますよ」


 そんな彼らの目に映らないよう、《透明化》を発動させているゼオの額に青筋が浮かぶ。


(何だこいつ……!? いきなり現れたかと思えば好き勝手喚き散らしやがって……! どこのドイツだこのゴミクズは?)



 名前:リチャード・グランディア

 種族:ヒューマン

 Lv:10

 HP:50/50

 MP:50/50

 攻撃:30

 耐久:30

 魔力:30

 敏捷:30


 スキル

《炎魔法:Lv3》《毒耐性:Lv3》


 称号

《王太子》《劣等感の塊》《浮気者》



(なるほどなるほど、お前がリチャード様とやらか。ある意味パーフェクトなステータスだな……弱いけど)


 ゼオがリチャードの顔を見るのはこれが初めてだが、思わず失笑してしまいそうなステータスだ。スキルも大したことないし、称号も良くない。他の二人も似たようなものだ。


「私は……私は、あの子とはここ数日、面と向かったこともありません。リチャード様は、何ゆえ婚約者の私の言葉ばかりを跳ね除け、あの子の言葉のみを鵜呑みにするのでしょうか?」

「そんなもの決まっているだろう! 愛する女性を信じなくて、一体何を信じろというんだ!? 貴様のような妹を虐げる悪逆な女と比較すること自体が間違っている!」

「リチャード様は……私ではなく、リリィを好いておられるのですね……?」

「当然だ!! いいか、先に言っておくぞ。ワタシは必ずや貴様との忌まわしい婚約を破棄し、リリィを伴侶としてみせる! 未来の王妃を虐げた罪を問われたくなければ、今すぐリリィの前で両手両膝と頭を地面につけて、己が行いを詫びろ! そうすれば国外追放だけで済ませてやる!」


 俯き、金髪で目元を隠したシャーロットの声が悲しみと失望に染まっている。それに気付かず、幼少の頃から深い付き合いがあったはずの少女を一方的に罵倒し続ける王子たちを見て、ゼオは顔に血管が浮かび上がりそうになった。


(国外追放だけって……それが仮にも幼馴染にかける言葉か……!?)


 怒りに震えるゼオ。そんな彼とは裏腹に、シャーロットは顔を上げて努めて冷静な声で宣言した。


「私にも矜持というものがあります。やってもいない罪を、どうして認めることが出来るでしょうか?」

「なんだと……!? 貴様……わ、私は王太子だぞ!? お前はその私を侮辱するかぁぁあっ!?」


 迷いを振り払ったかのような毅然とした態度で、真っすぐリチャードを見据えたシャーロット。その姿の何が気に食わなかったのか、リチャードは顔を憤怒に染めながら右の平手を振りかぶる。間違いなくシャーロットを打擲(ちょうちゃく)する気だ。


(やらせるかボケェっ!!)

「ごっ!? …………が、あぁ……!?」


 そんな事をゼオが見過ごすわけがない。すでにリチャードの背後に回り込んでいた彼は、両人差し指だけを伸ばした状態で両手を組み、跳躍の勢いをつけた状態で突き出た二本の人差し指をリチャードの肛門に突き刺した。

 恐らく王国史上……否、世界で一番最初にカンチョーを食らった王子である。珍事として歴史書に乗ってもおかしくない。ステータスで見れば攻撃値314と耐久値30という、十倍以上の差で炸裂したこの攻撃は、最早子供の悪戯などという言葉で済ませていいダメージではないだろう。


(もう一発!)

「……~~~!?!?」


 膝を床につけて崩れ落ちそうになるリチャードを更に追撃するゼオ。しかも今度は《飛行強化》による翼の推進力も合わせた強烈な一撃だ。倒れそうになったリチャードが再び立ち上がる勢いで肛門に食い込んだ一撃は、美形の王子に白目を向かせて泡を吹かせるほどだ。


 ブチッ。


 そんな時、ゼオの指先で何かが千切れたような感触がした。まるで肉を強引に千切った……そんな印象を抱かせる感触だ。


「で、殿下ぁっ!?」

「た、大変だ! すぐに保健室へ!!」


 声も上げることが出来ずに悶絶するリチャードの両側から、ロイドとエドワードが肩を貸して保健室へ連れていく。その背中を見送ったゼオは憮然とした表情で鼻息を零した。


(まったく……我ながら温いざまぁだぜ。せめて精神的にもぶちのめしたいところだったんだが)

【ざまぁ成功によりレベルが4上がりました】


 それでもレベルが上がるのは嬉しいもの。ゼオはとりあえず邪魔な男を排除できたことを喜び、部屋の隅に移動しようとしたが、その背中にシャーロットの普段より低い声がかけられる。


「ゼオ……そこに居るのでしょう?」


 これまでシャーロットに悟られないようにこなしてきたゼオによるざまぁが、シャーロット本人にバレてしまったのだ。


「お兄様が大怪我をしたという時からもしやとは思いました。貴方のような小さな魔物に、そんなことが出来ると思ってもいませんでしたから、そうではないと思うようにしていたのですが……最近、私の周りで起きている傷害沙汰は、貴方の行いだったのですね?」


 思わず身を固くするゼオ。いくらシャーロットを守るためとはいえ、それはゼオをのしたことを正当化する理由にはならないし、するつもりもない。《透明化》を解除したゼオは、潔く叱られるしかないと尻尾を丸めたのだが、そんなゼオをシャーロットが抱き上げた。


「如何なる理由があったとしても、他者を傷つけることは正当化されません。本当なら貴方を叱るべきなのでしょう。……ですが、どうしてでしょうね。浅ましく薄情であると自覚しているのですが、私はリチャード様たちを傷つけた事への悲しみよりも、あなたが私を守ってくれた事の嬉しさの方が大きいのです」


 ゼオは意外そうに思いながら顔を上げる。そこにはいつもと変わらないシャーロットの穏やかで、困ったような笑みがあった。


「これでは女神に顔向けが出来ませんね。……道を正すことよりも、貴方が私から離れないように保身に走ってしまうだなんて……自分がここまで嫌な人間だとは思いませんでした」


 そう言いながらもどこかスッキリしたような表情を浮かべる彼女は、言葉を喋らないゼオに全ては語らない。その代わりに、どこまでも優しく腕の中の魔物の頭を撫でてこう呟いた。


「もし……もし貴方が男の人だったら、とても素敵な方だったのでしょうね。私の理想や想像を含みますが、きっと意地っ張りで、少し卑屈でしつこくて、思ったよりも照れ屋な……とっても優しい人」


 彼女の中で何かが変わり始めている。聖女としての本質は変わらずに、リチャードたちに対する何かが変わろうとしていた。その詳細を知る暇もなく、事態は急速に変化していく。


 シャーロットが突然、高熱を出して倒れたのだ。


 

とりあえず、シャーロットの詳しい心境はあと1話か2話挟んだら執筆します。

さて、前回は「ざまぁをしても周囲が反省しない」というのが、皆様の総意のように感じました。ネタバレになるので詳しくは言えないのですが、その辺りの事は初期の構想段階で既に解決しているので、とりあえず一章完結までお付き合いしてくださると幸いです。それで気に入らなければ改稿も視野に入れておりますので、どうかご勘弁を。

とりあえず、次回はリチャードのざまぁの〆があります。どうかお楽しみに。


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[良い点] 過労と心労だな……
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