ざまぁによるレベル上げを考察してみた
今回の話、実は投稿するべきか悩みましたが、転生してペットになったら一度はあるかなって思い、試しに投稿してみます。
お気にいただければ評価や登録、感想のほどをよろしくお願いします
「全く、信じられない! せっかくの珍しい黒髪イケメンだから私の専属執事にしてやったっていうのに!」
元々品の良いインテリアで飾られたシャーロットの私室の内装を全て取り換え、目に痛い派手なピンクの壁紙や無意味に大きい天蓋付きのベッド、その価値が一切分からないまま高級品だからという理由だけで飾られた絵画や装飾品、そしてもはや新たに衣装室を造らざるを得なくなった、リリィには似合っていない派手なドレスの溢れるクローゼット。
元シャーロットの部屋、今ではリリィが使っている日当たりのいいテラス付きの広い部屋の中で、彼女は枕に八つ当たりしながら、元専属執事を人知れず罵っていた。
「あんなのが私の近くに居られたら、私の価値まで下がっちゃうわ。もう二度と私に近づけないようにしなくちゃ」
そう、元である。表向きは何者かに痛めつけられたという結論に至ったアーストの心身を心配し、長期休暇及び治療という形で彼が元々いたという教会に預かってもらうようにハイベル公爵に頼んだリリィだが、その本音は勿論逆の方向にある。
事実上、アーストは既に解雇されているのだ。彼の醜態は屋敷の前を偶然通りかかった人間によって情報が拡散しており、既に尾ヒレがついた醜聞となって領地を駆け巡っている。
曰く、有能な領主として名高い名門ハイベル家は、失敗した使用人に対してあまりに苛烈な仕置きをしているとか、男を全裸にひん剥いて首から上を重点的に痛めつけるのが趣味の人間がいるとか、SMの館だとか……それを聞いた者たちはハイベル公爵家が目障りだと感じている者も、貴族のスキャンダルが大好きなゴシップ記者も、ここぞとばかりに噂を脚色してから流したのだ。
アーストの主であるリリィも人材の管理不足と謗られた。いずれは領地を超えてグランディア王国にまで広まりそうな醜聞に、ハイベル公爵は急いで、アーストは何者かに襲撃されたという事を公言したのだが、犯人が犯人なだけに事の真偽など誰にも分かるわけがない。アースト本人ですら、何が起きたのか憶えていないのだ
被害者とはいえ、そんな醜聞をまき散らした使用人を雇い続けては家格を疑われる。ハイベル公爵家の元を離れても、栄えある王侯貴族の看板に泥を塗ったという経歴の持ち主を雇う物好きは何処にもいない。
貴族の表面を飾る看板には、一点の汚れも許されないのだ。貴族淑女ならば口にするのも憚られる醜態を晒したアーストの従者人生は、ここで完全に終わったと言っても過言ではないだろう。
「お義兄様も〇玉怪我したとかすっごいダサくて構う気になれないし、最近私のお気に入りが離れていってない?」
平民上がりとはいえ、仮にも貴族令嬢とは思えない単語を吐きながら、不運に見舞われた者たちの心配をするのではなく、自分を彩るアクセサリー兼ホスト役の美男たちに愚痴を零すリリィ。
「とりあえず新しい従者よ。やっぱり、私の傍で身の世話をする従者はイケメンじゃないとねぇ……いや、ここは将来有望な可愛いショタとかでも良いかも! お義父様にお願いして、孤児院から引き抜きに行こうかしら」
そんな悲劇に見舞われ、これまでの経歴が醜聞付きで水泡と帰したアーストの事など、そのスカスカの脳味噌から奇麗サッパリ忘れ去ったリリィは、鼻歌と共にハイベル公爵におねだりする為に執務室へと足を運んで行った。
(あいつスゲェ神経図太いのな……お嬢なんか今でも家を離れたアーストのクソ野郎を心配してるっていうのに……聖女かよ)
そんな一部始終を《透明化》のスキルで盗み聞きしていたゼオは、シャーロットとリリィの違いを改めて認識した。
アーストの治療を行ったのもシャーロットだ。腫れ上がった顔や茨でズタズタになった肛門が見る見るうちに治っていくのを見ればシャーロットの力量が窺えるが、当のアーストは当然だと言わんばかりに鼻を鳴らした。
『ふ、ふん! リリィお嬢様にお仕えする者の為に力を振るうのは当然でしょう? 治癒のスキルばかりしか持っていないのだから、こういう時くらい役に立ってもらわなければ困りますね』
自分がリリィから捨てられたなど夢にも思っていないバカと、そのバカの言葉に泣きそうな微笑みを浮かべたシャーロットを見て、教会へと向かったアーストの股間を《電気の息》で闇討ちしたのは言うまでもない。恩知らずで厚顔無恥な元従者は、ルーファスと同じ末路を辿った。ちなみにあの愚兄はまだ股間を痛そうに庇いながら歩いている。
依然、頭がクルクルの天パになっているのだけは溜飲を下げるべきところではあるが。
(でも俺のレベルは上がらなかったんだよなぁ)
名前:ゼオ
種族:プロトキメラ
Lv:21
HP:402/402
MP:400/400
攻撃:314
耐久:318
魔力:311
敏捷:309
SP:134
スキル
《ステータス閲覧:Lv--》《言語理解:Lv--》《鑑定:Lv--》
《進化の軌跡:Lv--》《技能購入:Lv2》《火の息:Lv5》
《電気の息:Lv4》《冷たい息:Lv4》《透明化:LvMAX》
《飛行強化:LvMAX》《毒耐性:Lv1》《精神耐性Lv:3》
称号
《転生者》《ヘタレなチキン》《令嬢のペット》《反逆者》
ゼオは〝ざまぁ〟によるレベル上げの法則を大体掴んできていた。
これまで、ゼオはシャーロットの悪口を言った者やバカにした者など、程度によるが大なり小なりざまぁしてきた。しかしそう言った者たちを攻撃してもレベルが上がった試しがない。
レベルが上がったのは、現行犯で明確にシャーロットに危害を加えた者、危害を加えようとした者をざまぁした時に限っている。ケリィ然り、ルーファス然り、アースト然りだ。しかし、それだと一つ疑問が残っている。
屋敷を探索して知った事だが、リリィはゴキブリを食べたり、アーストを専属執事としていた者として評価が下がったりしたということでざまぁが成功したことになっているみたいだが、彼女は現行犯で何かをしたということはない。他人を誘導させて自分の手は汚さずにシャーロットを貶めるゴミクズ以下の寄生害虫であるとゼオは認識している。
(なのにどうして俺のレベルが上がった? もしかして、ビッチがあまりにクズ過ぎて、何もしてなくても殴ればレベルが上がるとか?)
もしくは、《王冠の神権》という謎スキルに関係しているのか。ゼオは今度何らかの形でざまぁしてみようと決意する。事態がどう転がるにしても、リリィをぶち殺すのは変わらないし。
(そしてざまぁをコンボしてのボーナス、こいつもアーストの一件で評判落としたっていうビッチの話を聞いて掴めてきた)
件のざまぁコンボは、一度の執行で二度のざまぁを達成できた時に発生するのではないかとゼオは考えている。あの時はアーストを貶める気しかなかったが、結果としてリリィも巻き添えを食らっていた。つまりはそういう事なのだろう。
(でもこれは狙って出来ることじゃないな。いざって時はそんな余裕ないし)
無理してコンボを狙う必要はないとゼオは一つ頷く。
(にしても、称号も一個増えたな)
【称号《反逆者》。現状に抗うことによって得た称号。その根底は、恩義と信念】
ざまぁをしすぎたか。そう考えながら情報収集を終え、窓からシャーロットの部屋に戻って来たゼオは、タオルケットと寝間着を抱えたシャーロットと鉢合わせた。
「あ、おかえりなさい、ゼオ。私は今からお風呂に行ってきます」
「ガァ」
お風呂……といっても、公爵家の人間が使う今にもバラの花弁でも浮かべそうな浴槽付きのものではない。使用人用のシャワー室を、誰も入らない時間帯に借りているだけだ。本人は不満を感じているという訳ではないが、高貴な令嬢に対する待遇とは言い難い。
「そこでです」
(あ、あれ? なんで俺まで抱えられるんですか?)
間近に迫ったシャーロットの顔を凝視すると、彼女はニッコリと笑いながらゼオに告げた。
「ゼオ、貴方も一緒に入りましょう」
「ギャウッ!?」
突然の展開に慌てふためくキメラ。
(待って! 色々待ってお嬢! 俺はキメラだけど一応男でお嬢は女なわけで、付き合ってもない男女が同じ風呂に入るなんて……って、俺今は男どころか人間ですらなかったぁー!?)
ちょっとしたスキンシップなら喜んで許容できる。あんまり素っ気ないと、シャーロットの傷つくだろうし。しかしゼオは元々、シャーロットと歳の変わらない男子学生だったのだ。しかし、後にゼオの精神が男子学生であるとシャーロットにバレたらと思うと、非常に勿体ないとしても彼は拒否せざるを得ない。
「もう、そんなに暴れても駄目ですよ? 殆どの動物は水を嫌がると聞きますが、少しは清潔にしないと体にもよくありません。特に昨日は汚れて帰ってきたのですから、今日という今日は体を洗いましょう」
(違うんだよお嬢。俺はどちらかというとシャワーとか水浴び大好きさ。でもヒューマンキメラに進化した時の事を考えると色々と事情が!!)
そんな彼の心情が届くわけもなく、シャーロットはゼオを抱えたままこっそりとシャワー室へ移動する。ステータスの関係上、本気で暴れることも出来ずにただ連行されていくゼオは、鋭く伸びた爪を恨めし気に睨んだ。
これさえなければちょっとは抵抗できたのに……でも良くやった。そんな相反する気持ちは、彼が健全な男の魂の持ち主であることを表していた。
魔道具であるという、ワンタッチするだけで温かいお湯が雨の用に降り注ぐ、ある意味地球のシャワーよりもハイテクな異世界シャワーが五つ並び、区切られている。石鹸やシャンプーなども備え付けられている、名門公爵家に相応しい好待遇なシャワー室の一角では、ゼオが尻尾と翼を丸めていた。
「それじゃあ、まずは背中からゴシゴシしましょうね」
その後ろでは全身に水を滴らせるシャーロットが、泡立ったタオルを片手にゼオの竜の鱗や鳥の翼の付け根、尾の先っぽに至るまで優しく丁寧に磨いている。
「ほら、そんなに怖がらなくても大丈夫ですよ」
シャワー室に反響する声は何処までも優しい。しかし、ゼオが体を丸めて目を両手で塞いでいるのは、降り注ぐお湯に対する恐怖ではなく、シャーロットに対する罪悪感に似た居た堪れなさ故だった。もしも今のゼオの体が、人間と同じように羞恥で顔を赤くすることが出来るのなら、今頃リンゴのように真っ赤になっているだろう。
感触としては極楽だが、ここで男の本能を発揮する訳にはいかない。ゼオはヒューマンキメラに進化した後の事を考えて必死にシャーロットから目を背けるが、そうとも知らない彼女はゼオの両腕を軽く掴んでヒョイッと退けてしまう。
「ガァッ!?」
「はい、次はお顔を洗いましょうね」
両手で遮られた闇が晴らされると、狭い区切りの中に美の化身のような存在がその身全てを露にした。
磨き抜かれたかのような白磁の肌に張り付く、金糸のような長い髪。ウエストから足まで曲線は、まるで美や芸術の神が丹精込めて創り出したかのように艶めかしい。
お湯による体温上昇に伴い、ほんのり紅潮した頬は、普段の清廉とした整った顔立ちに色香を加えている。そして、ゼオの姿勢に合わせて屈んだことによって、揺れたり押し潰れたりする二つの巨峰。その頂点に輝くのはきっと男のロマン的なアレだ。
(服越しでもデカいとは思っていた……でもお嬢、貴女着痩せするタイプだったんですね……!)
シャーロットの胸元にまで抱えられたことが何度もあるゼオは、意識して気にしないようにはしていたのだが、シャーロットの胸はかなり大きい。ゼオは思わず《鑑定》のスキルを使った。使ってしまった。
【トップ92cm。アンダー67cmのGカップ。お椀型で感度は良……】
(ふぉおおおおおおおおおおっ!? 何やってんのさ俺!?)
恐ろしい事に、ゼオは今完全に無意識のまま、眼前で揺れている双子山を鑑定していた。それほどまでに魔性な魅力を放っている、正に最高水準の宝飾に勝る裸体なのだ。普段彼女を彩っている服やドレスですら、この裸身の前では霞むだろう。
(そしてお嬢は隠す気なし……当たり前だよね、今の俺って魔物なんだし。…………これが、ペットに転生した者の特権か……!)
もし仮に、シャーロットが男の前で裸身を晒してしまえば、顔を真っ赤に染めながら秘所を隠そうとするだろう。しかし相手が人間ではなく動物では羞恥心が働く要素は皆無。それもそのはず、人間と魔物では価値観が違う。気にするだけ損というものだ。
しかし、何度も言うがゼオは健全な男子高校生がキメラの子供の皮を被ったような存在だ。美少女の豊満な胸とかしなやかな肢体とか興味しかない。だからとってマジマジ見てしまうのも気が引ける。
もはやどうすることも出来ずに、ただされるがままになった状態で不意に上を向くと、それと同じタイミングで温かいお湯が降り注ぐ。
「ギャブッ!? ケホッケホッ!?」
「だ、大丈夫ですか!?」
全身の泡を洗い流すつもりだったみたいだが、気管に入って咽てしまう。そんな大した量でもないのですぐに収まるが、シャーロットはそれに気づかないままゼオをその胸に抱きしめて優しく背中をさする。
「大丈夫、いっぱい咳して、ゆっくり息を整えてください」
(な、なんじゃこりゃああああああああっ!?)
服越しではなく直の感触が、ゼオの小さな頭全体を包み込む。これが伝説に聞くパフパフだというのか、無罪を主張するつもりで上げられた両手ですら柔らかい感触に包まれる大質量に、彼の中の男子高校生はもはや暴走寸前だ。
(こ、これはもう色んなこと棚上げして素直に楽しんでもいいんでしょうか? 今の俺って魔物だし、無罪放免っすよね!? 人間じゃないから痴漢とかセクハラとか言われなくていいよね!? むしろお嬢の方から抱きしめてるんだし、完全無罪のペットの権限ってことで――――!)
もうこの天国のような感触と母性の如き優しさに溺れてしまおう……そう考えた時、ゼオの頭の中で、ゼオ本人ですら認識できない小さな声が囁かれた。
【有罪】
それは、ほんの小さな天罰だった。
「それでは、最後にお腹の方も洗っちゃいましょう」
(……え?)
仰向けにされるゼオ。そして自分の腰辺りに目を向ける。まさか……そこも洗われるというのか。
サーっと血の気が引くような、羞恥で顔が真っ赤に染まるような、何とも言えない感覚が襲い掛かる。そんなの男としてのプライドが許さない。だが場所や相手が悪すぎて、爪を立てて抵抗することも出来ない。
(お願い、それだけは止めてお嬢! 自分で! 自分で洗うから! 女に洗ってもらうとかソープじゃないんだよ!? 幾らなんでもそんなマニアックなこと、高校生には敷居が高すぎるでしょ!? 役得以前に恥ずかしさがヤバすぎてシャレになんねぇって! あっ!? そ、そんなとこ丁寧に洗っちゃ……ら、らめぇええええっ!)
シャワー室に悶々とした悲鳴が反響する。ゼオの中にある男としての尊厳の一部が木っ端微塵になった瞬間であった。
コンセプトは、「ゼオ、ちょっとそこ替われ」と言いたくなる場面です。これが羨ましいのか、それ以前に読者の皆様に楽しんでいただけるのか、とんでもなく悩みながら書いていました。
前話の感想でざまぁが温いというご意見もいただき、思いつくまで更新を止めない為の埋め合わせもかねての日常回なんです。
ところで、ゼオのざまぁが温いという理由は、シャーロットに対する仕打ちと比べた場合でしょうか?




