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LIFE WORLD  作者: 西森 京
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 四角い石を幾重にも並べて組まれた石畳の大地、その脇に立ち並ぶ、これまた石造りの洋式建築物。屋根はブラウンウッド、窓枠もまた同じ木材を使用している様だ。

 生まれてこの方日本から一歩も出た事のない自分としては、RPGゲームにありがちな《西洋の街並み》がどの様なものかイメージし難い。どの時代の、どの国の、どの街をモデルにしたのかは分からないが、外国のお洒落な街並みをそのまま切り取ったかの如き異質な雰囲気は、未だ感じた事のないものだった。

「これじゃあ海外旅行とか行く気起きないな」

「流石に二次元と三次元を混合しすぎやろ。行ったらそれはそれで見る目も変わるやろうし、本当にその場におるって言う特別感っつーか、空気が違うやろ」

「確かに空気までは感じ取れないよな、あと匂い。五感を使うゲームの筈なのに、味覚と嗅覚が未実装ってのはやっぱり痛いよな。それがあれば完璧なのに」

「そんなん出来たら今度こそ旅行会社は軒並み潰れる」

「ニュースになったよな、VR技術が進歩しすぎて旅行会社倒産の危機って」

 旭と共に洒落た街並みを見回しながら、目的地に向かって進んでいく。

ゲーム開始時にもっていた僅かな所持金をもって、宿をとる為だ。

 ある程度金を稼いだ冒険者ならともかく、ゲーム開始直後の俺の様な奴は、少しでも安い宿を見つける必要がある。序盤から終盤まで、活躍の機会が山ほどある金は、一銭でも多く持っていて損は無いはずだ。だからこそ、宿巡りをする必要があった。

 旅行となれば、景色がいいだとか、良い温泉があるだとか、そういった娯楽を求めて巡るものだろうけれど、まさか人生初の宿巡りが料金第一になろうとは悲しい気持ちにもなる。

 宿泊人数の制限は、ゲームの都合上考えなくても良いとのことで気は楽だが、どういう理屈なのだろうか。こればっかりは、実際に宿へ訪れなければ何とも言えない。

「手近なあそことかどうよ」

「いやあかんやろ。あんなしっかりしたとこ、絶対金取られるわ」

「じゃああっち」

「そこ人ん家や」

 よく分からないので目についた宿屋を提案するのだが、悉く否定される。

 その割にこいつは一度も店を選ばないのだから勝手な奴だ。

 と、先程までは思っていたのだが、何やら様子がおかしい。

 まるで目的地が分かっているかの様にズイズイと進んでいく様は、生粋の街中案内人を思わせた。街の入り口に立っている「ここは〇〇の街だよ」という仕事も、こいつなら案外うまくやるんじゃないか。

「何処かアテでもあるのか?」

「おう、お前より先にログインして待っとる間に、他のプレイヤーの世間話が聞こえてきてな。街の中央の方にくっそ安い宿屋があるらしい。ホントがどうか知らんけど」

「あるかないか分からないなら。手頃な宿でいいんじゃないか? ほら、あそことか」

「そこ人ん家や」

 自分としては、宿よりも早く敵と戦いたくて仕方がない。さっさと宿を探して、武器を変更して、モンスターの闊歩するフィールドへと繰り出したくて身体がうずうずしているのだ。

 歩きながらステータスを確認していた時に気がついたのだが、どうやら俺はこのゲームのスキルツリーを甘く見過ぎていたらしい。

十以上にも及ぶ職業、そのそれぞれで習得出来る様々なスキル。

あるスキルを習得する事で、その先のスキルを習得出来る、場合によっては複数のスキルを同時に習得できるようになったりと、枝分かれしていくスキルの群れは、全体で見れば大きな樹木の様に形成されていた。

現段階では認識できなかったが、各職業の最終到達地点には奥義めいた必殺技が存在するらしく、俺が愛して止まない武器である手甲にも、ソレは存在していた。

きっと何十にも及ぶ連打を繰り出してオラオラしたり、ドぎつい一撃をぶちかましたり、そんな凄い技に違いない。大体の手甲技ってそんなの出しな。

ああ、考えていたら余計に戦いたくなってきた。

「なー、もうあそこでいいじゃん」

「妥協するにしても、よりにもよって今までで一番高そうな店にすんのやめーや」

「じゃああっち」

「やからそこ人ん家やっつーのっ!!!」

 街並みに圧倒されるのにも漸く慣れてきて、今度はすれ違う人々に目線が映る。

 俺と同じような服装の奴が大多数を占めており、大人もいれば子供もいる。それらを操っている中身が必ずしも外観と一致しないと思うと、おちおち口を利くのも憚られる。

 ろくに女の子と接点を持たない俺が、何とかこの世界で仲良くなれたと思ったら中身は男、って事も十分あり得るんだよな。ネカマって本当に怖い。人間不信極まるぞ。

「時々見かける、フードかぶって頭に果物載せたカゴ乗っけてるオバチャンとか、ネタに極振りな奴もいるよな。ああいう奴等本気で尊敬するよ」

「それNPCやろ。中身とかおらへんで」

「うっそ」

 よくよく相手の頭上に視線を向けると、世界観を損なわない程度に半透明だったプレイヤーの名前が一時的に濃く表示される。そうして《NPC 果物売り》の文字が確認できた。

 知っている人間もいるだろうが、NPCとはつまりノン プレイヤー キャラクターの事で、プレイヤーの存在しない、プログラムで組まれたキャラクターの事である。

「流石にゲーム発売当日にここまでネタ仕込める奴はおらんやろ。おったら笑うわ」

「先発組なら有り得るけどな。初心者が群がる街に、面白がって来る物好きもいるだろ」

「あー、確かに……あっあそこっちゃうか。ぼろっちいとこ!」

「うーわっ、ボロいなぁ!」

「ボロいけどその分安いやろ!」

 至る所に穴の開いた、腐りかけの木板で組まれた小さな宿。しかしそこを出入りする冒険者は多く、周辺の売店を差し置いて、高い集客率を誇っていた。

「まあ見た目は置いといて、宿の高い安いってどう違うんだ? 睡眠なんてすぐ終わるだろ」

「スタミナ満タンまで回復はするけど、回復の速度がちゃうねん。ベッドで横になりながらメニュー画面開いていじれるし、俺等の場合、確認しといた方がええとこもあるやろうから都合ええやろ。スキルポイントどう分配するかとか、考える事盛りだくさんやで」

「成る程」

「とりあえず、まずは装備だけ変えてモンスター倒しに行くか」

「おうっ。……にしてもさっきからやけに詳しくないか? 初心者とは思えねえぞ」

「雑誌で紹介されてた前情報。お前そういうの見やんもんな」

 言いながら宿の中へと入っていく旭に置いていかれない様、後ろからついていく。例えNPCとはいえ他人に話しかけるというシチュエーションは得意ではないので、旭任せだ。

 あれやこれやという間に二人分の部屋を借り、奥の部屋へと入っていくと、二つしかない部屋の前で旭が立ち止まり、俺の方へと振り返った。

「こっから先はプレイヤー毎に別空間になるから、一緒には入れへんねん。終わったら宿の外で待っとくわ」

「え?」

「一人一部屋で割り振ると、宿なんてどこもすぐ埋まってまうやろ? そういう仕様にすることで誰でも、何人でも同時に泊まれるように出来とんねん」

「じゃ、じゃあ今俺達の間の前に部屋が二つあるけど、見た目だけ?」

「ぶっちゃけ、一つでも問題ないな」

「考えてあるなー」

 部屋の中に入って、辺りを見回す。外装と同じく損傷の激しい内装。埃の乗った大きめの木箱と、薄汚れた薄い布をかぶせた木の長椅子……多分これがベッド代わりなのだろう。

 まずは木箱、もとい収納BOXを開けて、箱内に展開されたウィンドウを操作する。武器や防具、盾に消耗品、重要品とカテゴリー分けされた中から、すぐさま目当ての物を見つけ出す。

「これこれ、こういうの欲しかったんだよ」

 メニュー画面を開いて、ステータス画面にて武器の短剣を外す。光のエフェクトとなって消失した短剣の代わりに現れたのは、鉄と皮で作られた無骨な手甲。山賊も使わなそうな見た目に対して、素早い攻撃を放つことに特化したスピード系ウェポンの代表格の一つ、その初期武器だ。

 ガンマンの様に腰の両側に引っかけて行動し、戦闘時には拳に装着して戦う仕様と理解する。

「目指せ、手甲スキルツリー完全コンプ」

 当分は敵いそうにない目標を掲げて、暫く手甲を眺め、旭との待ち合わせを思い出し急いで部屋を出る。これからこの武器を使って周辺のモンスターを倒して、経験値と金稼ぎだ、気合を入れていかねば。

 そういえば、旭は刀を使うと言っていた。ビジュアル面が高評価の刀は、戦闘においてどのようなスキルを発揮するのだろうか。俺と旭では接近戦と超接近戦で役割が被る事になるが、大丈夫なのか? と小さな不安を抱きつつも。

 それよりももっと大きな期待をもって、自然と早歩きになる。

「ワクワクしてきた!」

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