〜修行編〜 強くなるには何がいる?3
アルバートの過去メインです。
残酷な描写があるので苦手な方は飛ばした方がいいかも知れないです。
「くそッ!いろんな所から火の手が上がってる!!ヒール・ラット!メザール領にいる魔人は何体だ!!」
「キキッ!」
「13体!?1体でも強いのに・・・ッ!お母様、アリエル・・・無事でいてくれ・・・ッ!」
メザール領の兵士ではとてもじゃないが魔人と戦うことは出来ない。
アルバートは肉体強化魔法を足に集中させ、アルピナ大森林を駆ける。
20年前の第一次人魔対戦は戦争終了後、すぐに魔人種族を治める王------魔王と休戦協定を締結し、100年は互いに交戦しないという約束を結んだはずだった。
しかし、魔王は早くも休戦協定を破り、メザール領上空に転移魔方陣を出現させ14体の魔人を送った。
そもそも魔人とはなんなのか。
魔人-----魔人種族は最北の大地、ノーレス大陸に住んでいる。
魔人種族は例外を除き、非常に好戦的な性格をしており、昔から人種族、亜人種族、獣人種族、妖人種族と様々な小競り合いなどをしてきた。それが20年前、ついに人種族、亜人種族、獣人種族の3種族連合と魔人種族との戦争が勃発。それが第一次人魔対戦だ。エルフやダークエルフ、ハイエルフなどの妖人種族は参加しなかった。
アルバートはアルピナ大森林を抜け、メザール領を目視する。
領地に近づくにつれ、攻撃魔法による爆発音や兵士の怒号が聞こえてくる。
カインズ家の統治しているメザール領は辺境に位置している為、領民の数は少ない。
が、アルピナ大森林は魔獣や凶暴な動物が生息しており、その進行を抑えるのもメザール領の役目だ。
その為、王都から派遣されてくる兵士や、腕に自信がある冒険者などが多く集まりメザール領全体の戦力は他の領地に比べ高くなっている。
だからちょっとやそっとの事では負けることはない。だが、それが魔人種族以外の場合なら。
「キャアアァァァァァ!!お願いですから、命だけはッ!!命だけは助けてくださいッ!!」
領民の女性が魔人に髪を引っ張られ持ち上げられ、命乞いをしている。
領主館から遠くに位置するここは、あちこちに見るも無残な死体が転がっている。魔人の襲撃が急過ぎた為、領民の守護が間に合わなかったのだ。
アルバートはその光景を目撃し、魔人に駆け出す。
「その手を放せぇぇぇッ!!!!」
アルバートは叫びながら魔人の腕を切り落とす。
「ガァァァァッ!?」
魔人はアルバートの接近に気が付かなかったのか、腕を切り落とされ叫ぶ。
「あ、ありがとうございます・・・ッ!」
「お礼はいいから早く逃げるんだッ!!」
「は、はいッ!」
女性が無事逃げて行くことを背中で感じつつも魔人とにらみ合う。
魔人はアルバートに切り落とされた右腕に左手を当て、下級治癒魔法をかける。
腕は元に戻らないが、出血は抑えられる。
「アァァ? オマエ アルバートカ。チッ。アイツ シッパイ シタカ」
「お前ら、よくも民を殺してくれたなッ!!」
「タミ?コノ コシヌケドモノ コトカァ?」
そういって魔人は近くにあった死体の頭をを踏む。
「・・・おい、その足をどけろ」
「アァ?キコエナイナァ?」
そう言って魔人は足に力を込めていく。
ミキミキと頭蓋骨が悲鳴を上げる音が聞こえる。
そして---------
グシャッ!!
魔人は頭を踏み潰し脳漿をまき散らす。
「・・・オ?ツブレチマッタノカ」
「-----ッ!!貴様ァァァァァ!!!!」
アルバートは領民の死体でも踏み潰されたことに怒り、魔人に斬りかかる。
肉体強化を重ね掛けし、目にも止まらぬ速さで魔人を切り裂いた。
アルバートの戦いの才能は、16歳ながらもは王国の上位騎士である聖騎士に匹敵する。
魔人1体を屠るのにそれほど時間は掛からない。
「グァァァァッ!」
魔人は灰となって崩れ落ちる。
そのことを確認し、領主館へ急ぐ。
「間に合ってくれ・・・ッ!」
着くや否や、驚くべき光景が目の前に広がっている。
領主館のいたるところから火が立ち昇り、穴が空きぼろぼろになっていた。
その前には兵士や冒険者などが拘束され、並べられている。その中には先ほど助けた女性の顔を見つけた。
他の魔人に捕まってしまったらしい。
その周りを4体の魔人が囲っている。
兵士や冒険者の奮闘むなしく、全てを倒すことは出来なかったのだ。
(くそッ!すまない・・・ッ!)
アルバートは悔しそうに奥歯を噛みしめる。
全てを守るつもりが、守りたい者全てが殺されていく。
これ以上魔人に蹂躙されるわけにはいかない。
そう考え、残りの魔人を全て倒すために足に力を込める。
と、同時に魔人たちの前に2人に女性が連れてこられた。
(お母様!アリエル!)
「本当に、私があなたたちの王の前に行けばこの領地は解放していただけるのですね?」
「アア、ヤクソクシヨウ」
「お母様!行っちゃダメなの!!」
フローラと魔人が何やら話しており、そのフローラの服をアリエルが引っ張りながら叫んでいるのが見える。
ここからじゃ遠すぎてよく聞こえない。
そう思い茂みに隠れながら少しずつ近づくと、ようやく会話が聞こえ始めた。
「お母様!こんな奴の言うことなんて聞いちゃダメ!お母様が行っても解放なんてされるわけないわ!」
「アリエル。捕まっている者達や領民を解放する為にはこの方法しかないの」
「ワレラ マジンゾクハ ヤクソクヲ マモル」
どうやら魔人はフローラの身柄と交換し、人質を解放する約束をしているらしいと、アルバートは考えた。
だが、残りの領民はほとんど殺されていた。フローラが行っても拘束している者達が解放される保証もない。
それに、魔人は人々を拘束しなくてもフローラを連れ去ることは可能なはずだ。
そうしないのは、敢えて拘束することを見せることで、反抗させず言いなりにさせるのだ。
守るつもりのない約束を堂々と結ぶ姿勢に腹がたつ。
アルバートの内側に沸々と怒りがこみ上げる。
(魔人共・・・ッ!皆殺しにしてやるッ!)
大好きな母親を好きにさせるはずがない。
アルバートは茂みから出ると同時に、一瞬で近づき近くに居た魔人を斬り伏せた。
それだけに留まらずフローラの近くに居る魔人を斬り裂き、フローラとアリエルを背後に庇う。
瞬く間に2体の魔人を屠る。
「お母様!アリエル!ご無事ですか!?」
「お兄様!?」
「アル!?どうしてここへ!?」
「それは今置いときましょう。その前に魔人は約束は守るつもりはないようです」
「・・・え?どうゆうこと?」
「領民はほとんど殺されていました・・・ッ!こちらに来るときに確認しています」
「そっ、そんな・・・ッ!」
フローラは口に手を当て泣き崩れる。
いきなりの襲撃に戸惑っていた魔人達であったが、次第に落ち着きを取り戻した。
「ヨクモヤッテクレタナァ!」
「お前らが言える事じゃねぇ!!」
魔人はアルバートに鋭利な爪で斬りかかる。
アルバートは肉体強化を施し、魔人を迎え撃つ。
なるべく早く終わらしたい。
人質を解放したいと言うこともあるが、魔法の連続使用によってアルバートの魔力はほとんどない状態だ。
「ウォァァァッ!」
「ハッ!」
魔人の爪を剣でいなし、流れるように首を落とす。
洗礼された動きで、魔人の1体を一瞬で屠る。
(残り2体ッ!)
肉体強化が切れるまであと少し。
ここで一気に畳み掛ける------
「ウゴクナ!コイツガドウナッテモイイノカ!!」
フローラとアリエルの首に魔人の1体が爪を当てている。
「------ッ!」
「オット。ウゴクトコイツラノ イノチハナイゾ」
アルバートは1体の魔人と戦う時に少しフローラ達の元から離れてしまった。
その隙に魔人の1体が人質に取ったのだ。
「ニクタイキョウカ ヲ トイテ ブキヲ オロセ」
「く・・・ッ!」
アルバートは肉体強化を解く。
足を包んでいた淡い光が消失する。
そして剣を下ろそうとすると-------
「アル、私のことは良いわ」
突然フローラはアルバートに語りかける。
「お兄様、私達に構わずこいつらをやっちゃって!」
アリエルまでもがアルバートに語りかける。
アリエルに至っては、恐怖で足が震えているにも関わらず、表情には出さず気丈に振る舞っている。
「オマエラ カッテナコト イウナ!」
魔人はフローラとアリエルの髪を引っ張る。
「---ッ!お兄様・・・。いつもお兄様に酷いこと言ってごめんなさい。お兄様のことを世界一尊敬しています・・・」
「なっ・・・なに言ってるんだ・・・?」
「----ッ!アルッ!やりなさい!あなただけでも生き残るの!!あなたさえ生きていてくれればカインズ家がなくなることはないの!!」
フローラとアリエルは2人で顔を見合わせ頷くと、アルバートに向き直り涙を流しながら微笑む。
「アル・・・。私の愛しい子。あなたに神の祝福がありますように・・・」
「お兄様。もう会えないけど、生まれ変わっても私はあなたの妹に・・・なりたいなっ・・・!」
そう言うと、2人は隠し持っていたナイフで
自らの喉を切り裂いた。
「---------うわぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
「チッ!コイツラ ヤリヤガッタ!」
「ヒトジチヲ コロセッ!」
魔人は作戦が失敗したことを悟り、人質を殺すために駆け出す。
「させるかァァァ!」
これ以上犠牲を出さない様にアルバートも最後の魔力を振り絞り肉体強化を施す。
一瞬で魔人に近づき、首を刎ねる。
「あと1体ィィィ!!!」
魔人は最後の足掻きで人質に魔法を放つ為、詠唱する。だが、アルバートの方が詠唱より早い。
剣が最後の魔人の首に届く瞬間。
肉体強化が切れた。
剣はそのまま振り抜かれた。
だが、その一瞬。小数点以下の遅れにより、詠唱は完了し、拘束されていた人々は爆発した。
無事、魔人の首を刎ね、全滅させた。
立っているのはアルバートただ1人。領民も、冒険者も、兵士も死んでしまった。
そして、最愛の家族までもが死んでしまった。
「あ・・・ああぁぁぁあぁぁあぁッッッ!!!!」
アルバートの意識はそこで途切れる。
--------眼を覚ますとアルバートはアルピナ遺跡にいた。
隣にはヒール・ラットが寝息を立てている。
どうやらヒール・ラットが安全なここに連れて来て、治療してくれたらしい。
アルバートが眼を覚ました気配を察したのか、ヒール・ラットは目を覚まし、アルバートに寄り添う。
慰めてくれているのだ。
「ありがとな・・・。・・・うっ・・・ううっ・・・。うああぁぁぁぁぁっ!」
アルバートは1人で泣き叫んだ。
せめてこの遺跡だけは死んでも守り通そう。フローラから託された最後の使命なのだ。
だから、今だけは、いっぱい泣こう。
そう、胸の中で誓いを立てた。