異世界で生きる?はたまた死に場所を探す?3
僕は命を救ってくれたリスのような動物、キキと一緒に強くなる旅に出ようと考えた。
キキは相変わらず「さん」付けで呼ばないと反応してくれない。
僕の言葉を本当に理解している。
「あの、キキさん」
「キキッ?」
キキは可愛らしく小首をかしげる。
「僕は強くならなくちゃいけないんです。だから僕が強くなれる場所がないか教えてほしいです」
僕はキキに尋ねた。
動物に何を聞いてるんだと思ったが、人の言葉を理解するキキなら答えてくれると思った。
するとキキは、僕の肩から飛び降り「キキッ!」と短く鳴き僕の前をトコトコと歩き始めた。
「え?付いて来いってこと?」
「キッ」
そのまま暫くキキの後ろを付いていく。
ずっと同じ風景続き、同じ場所をグルグル回っているんじゃないかという錯覚に陥る。
どれだけ歩いただろうか・・・時間もわからない。体感では1時間以上歩き続けている気がする。
この暗闇の中、いつ襲われるかわからない為、緊張もする。
疲労と極度の緊張の中、長時間歩いていたためか頭がクラクラし、吐き気までしてきた。
フラフラと足取りが悪くなり、意識が遠のいてきた------
-------すると、突如目の前に遺跡のような建物が姿を現した。
遺跡は四角く、公園にあるトイレくらいの大きさしかない。
周りは苔むした石で覆われている。
遺跡の入り口は大きく開かれており、中からは物々しい雰囲気が漂ってきているように感じる。
「キキッ!」
キキは鳴き声とともにこちらを向いた。
「え・・・ここなの?」
「キッ!」
そうだと言わんばかりにキキは鳴く。
キキはそのまま遺跡に向き直り中へと入っていった。
「ちょっ!ちょっと待ってよ!」
キキに待ってくれるよう言葉を投げかけたが、返ってくるのは反響して遺跡の中から響いてくる僕の声だけだ。
(ここに入るの・・・?正直嫌だ・・・)
強くなりたいとは言ってもこんな得体の知れない穴の中には入りたくない。
だがキキは中に入ってしまった。
このまま外で待っていても強くなれないし、外には僕を襲ってくる動物までいそうだ。
(よしっ、行くかっ。)
僕は意を決して遺跡へと足を踏み入れた。
------遺跡内部は冷んやりとした空気の中にどこか腐った臭いを混ぜた風が僕の頬を掠める。
(うっ、嫌な臭いだ・・・)
嫌な臭いに顔をしかめつつ周りを見渡す。
遺跡内部は壁が薄っすらと光っており、前方には下へと続く階段がある。
「キキさーん!」
僕はキキを呼ぶが、キキの声は聞こえない。
あるのは下へと続く階段のみ。
一度入ってしまったなら最後まで見てみたい。
それくらいの冒険心はあるし、僕は強くならなきゃいけない。もう何も失わない為にも。
その為にキキさんに案内してもらったのだ。
「行くぞっ」
僕は短い気合いとともに自分の頬を一度叩き、気合を入れる。
そして、階段を下り始めた。
-------階段は頭スレスレで、両手を伸ばしたら壁に触れてしまうくらいの広さしかない。
等間隔で壁に奇妙な絵が描かれている。
牛や羊、豚などをうんと醜くしたような絵だ。
悪魔のようにも見える。
(なんか、不気味だなぁ・・・)
そう思いつつ、5分くらいの階段を下り切ると、そこには-------
1人の老人が立っていた。
老人肩にはキキが乗っている。
「ほぉ、こやつがお主が言っていた者か」
「キキッ!」
老人はキキと会話をしている。
なぜかキキのことばがわかるみたいだ。
「あの・・・」
「ああ、言わんでもよい。お主が強くなりたいと願ってやって来たのはここに居るヒール・ラットから聞いておる」
「えっ?キキさんと話せるんですか?」
「ヒール・ラット限定じゃがな。代々儂の家系とヒールラットは長年この遺跡を守っておるからの。遺跡周りの警戒はヒール・ラットに任せ、儂はこの奥の扉を守護しておる」
老人は長く伸ばした白い髭を撫でながら言った。
キキの正式名称はヒールラットと言うらしい。
僕は老人に尋ねる。
「あなたはいったい?」
「これはこれは、申し遅れた。儂の名はアルバート・カインズと申す」
老人は年齢を感じさせないほどしっかりとした動作で腰を曲げる。
迷いも隙もない動作に思わず見とれてしまう。
「・・・あっ、どうもご丁寧に。ぼ、僕は赤羽 勇樹と言います」
「珍しい響の名前じゃな。お主はどこから来たのじゃ?」
老人の問いに、僕は元の世界の事と、気付いたらこの世界に来た事を話した。
「ほうほう。それが理由で強くなりたいわけか」
「・・・僕は強くなりたいんです。もう何も失わないように」
「ほう・・・。その手で全てを守ると申すか」
「はい。誰にも負けないくらいに強く・・・なりたい。僕に戦いを教えてください!大切な物を守る為の強さをください!!」
「覚悟はあるのか?2つしかない手で全てを守ると?」
「それが僕に与えられた使命だと思ってます」
そう言い切った。
この時僕は、人々を守るために戦う姿を想像し、少し浮かれていた。
老人は微笑みながら目を細め、何度か頷いたあと-------------
「-------戦いを舐めるな小童がッッッ!!!!」
アルバートは大気がビリビリと震えるほどの怒号とともに気を解放した。
僕は目に見えないものに吹き飛ばされ、地面に転がる。
「-------ッ!?」
「お主は戦いを舐めておる!!!その程度の覚悟で全てを守るだと!?片腹痛いわ!!!全てを守るためにお主はどれだけ耐えられる!?どれだけ自分を犠牲にできる!?何も分かってない若造が!!!・・・・・・儂も同じ事を、全てを守ると、守りたいと思っていた!!だが、どうじゃ!!蓋を開けてみれば母上も妹も!!村の民も1人残らず殺された!!皮肉にも助かったのは儂ただ1人!!両の手で救える量は限られておる!それを分からずに儂は・・・ッ!!儂は・・・ッ!!」
アルバートは悔しそうに顔を歪めながら言い放った。
・・・僕は自分の甘さに恥を感じた。どこか楽観的に考えていたからだ。戦いに一度も身を置いたことがない僕が何を言っているのか、何をしようとしているのか、自分で考えたこともなかった。アルバートはずっと戦っていて、僕よりなんかもずっと辛い人生を歩んでいる。だから僕がこれから後悔しないようにしてくれているのだ。
それでも、それでも僕は------------
僕の代わりに死んだ凛の為にも強くなると、もう何も失わないと誓った。
「アルバートさん!!!あなたがどんな人生を歩んできたのか・・・正直想像なんて出来ないです!!戦いを舐めていたかもしれません!だけど・・・!だけど凛をッ!大切な人をもう失いたくないんです!!」
僕はアルバートの気迫に負けないように叫ぶ。
「だから!だから僕に戦い方を教えてください!!!」
しばらく俯いていたアルバートだったが、ゆっくりと口を開いた。
「・・・本当に良いのか?本当に戦いに身を置く覚悟があるのか?お主が辿る道は・・・お主が想像も絶する辛い人生じゃ。時には守り切れないことも、犠牲にしなくちゃいけないこともある。一度戦いに身を置いたら、もう逃げるのは許されない。全てを守るのならそれくらいの覚悟が必要じゃ。・・・もう一度聞く。本当に良いのか?」
アルバートは今までで一番凄みを帯びた目でこちらを睨む。
だが僕はもう覚悟を決めた。ここで立ち止まってるわけにはいかない。
「はいッッッ!!!」
「・・・お主の覚悟は伝わった。その覚悟に免じて教えてやる。じゃが、今日はお主も疲れたじゃろう、修行は明日から始める。これだけは伝えておく。生半可な気持ちじゃ・・・死ぬぞ?」
---------こうして、僕は強くなるための一歩を踏み出した。
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