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プロローグ

初投稿です!稚拙な文章ですが読者の皆様を満足させるため日々努力して行く所存でございます!

これから応援よろしくお願いします!




「ねぇ、どうしてあなたはそんなにも悲しい顔をしているの?」





「-------------えっ?」



ふいに声を掛けられた気がして、僕は振り向いた。

しかしそこには誰もおらず、代わりに一枚の手紙が落ちていた。



---赤羽 勇樹様へ---



「僕宛の手紙・・・?」



そう思い僕は手紙を拾おうとして---------








ピピピピッピピピピッ

午前7時。僕は最近毎日この夢を見ている。人は一回の睡眠で3回ほど夢を見ていて、そのほとんどを忘れてしまうと言うがこの夢だけはなぜか覚えていた。



「勇樹ー!ご飯できてるから早く降りてきなさいー!」


「はい」



今日から新しい生活が始まる。

といっても気分はそこまで良くはない。

中学1年のある事件が原因で転校することになった。

中学1年の2学期から編入ということになる。

いじめられる人にも原因はあるとよく言うが、僕自身はあながち間違いでもないと思う。だが、原因がわかったところで治せるかと言ったらそう簡単には治せない。



「お母さん今日早く出て行くからお皿は流しに置いておいてね」



慌ただしくグレーのスリッパをパタパタさせながら母は言った。



「うん」



今日の朝ごはんは食パンと目玉焼きだ。毎日同じメニューなので、正直飽きてきたが、作ってもらってる手前、文句は言えない。

僕は黄身を割りパンに乗せる。



「今日から新しい学校だけど、頑張れる?」


「うん」


「そう、あんまり無理しないようにね?」


「うん」


「それじゃあ行ってきます」


「・・・行ってらっしゃい」




義母-----赤羽 里子-----はとてもいい人だ。僕のことを本当の子供として見てくれている。

僕は物心つく時にはもうすでにこの家にいた。

本当の両親は僕が小さい頃に交通事故で亡くなってしまった。

と言っても、僕自身が覚えていないのであまり実感はないが。



「勇樹、朝くらいしっかり挨拶したらどうだ」


「・・・ごめんなさい」


「チッ。まぁいい。さっさと学校に行け」


「はい」



義父-----赤羽 弘-----は僕のことが嫌いだ。

逆に僕も義父の事が嫌いだ。

あの事件も元を辿れば義父が原因だ。

義父が裕助に言わなければ起きなかった。

僕にも原因があるだろうが。




僕がこの家に来たのは12年前だ。

きっかけは12年前、本当の両親が死んだ。対向車のトラックが突っ込んで来て正面衝突し、即死だったという。携帯を操作しながら運転をしていて前を見ていなかったらしい。

この家に引き取られた時に義父からそう告げられ、当時はあまり理解できていなかったために気にならなかった。

しかし、大きくなるにつれ僕には本当の両親がいないことを不思議に思っていた。

でも、誰も知らないことだから僕が言わなければ誰も知らないはずだった。




〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜




----小学6年の2学期----




「勇樹-!お前の両親もういないんだろ?」




昨日まで楽しく遊んでいた友達-----木村 裕助-----が突然こう言った。



「えっ・・・いきなりどうしたんだよ・・・」


「俺、昨日パパから聞いたんだ!。お前の両親は死んだって!」


「そうだけど・・・」


「やっぱり!お前は一人ぼっちなんだな!」



小学生はどんな言葉でも平気で使ってしまう。

無邪気と言えるかもしれないが、その言葉が悪意を持って発したわけじゃなくても、受け取る側は別だ。



「まじで?あいつ一人なんだって」


「えー、でもあいつならぼっちでいいんじゃない?」


「ぷっ、確かにー」



クラスメイトがクスクスと笑っている。

僕は顔が熱くなった。友達に裏切られた気がした。

なぜそんなことを言われなくてはいけないのか、わからなかった。



「まぁ勇樹は暗いやつだったし、そうだと思ったけどー!」


「ぎゃははは!!」



裕助は人に笑ってもらえるのが好きだ。

日頃からバカな事をやって場を楽しませる、言わばムードメーカーのような存在だ。

そうゆう点では素晴らしいと思う。

だが、笑わせるための手段は決して良いものばかりではない。



「あー?拗ねちゃったのかなー?」


「ぷっ、やめてあげなってー」


「・・・」



周囲は口ではそう言いつつも、止めようとはしない。

裕助の狙い通り、教室は賑やかになっている。

-----ただ、1人を除いて。


「黙ってないでなんか言ったらどうだー?」






-------ダンッ!!!




「うるさいッ!!!」



僕は机を叩いて大声で叫んだ。

もしかしたら僕は器の小さい人間かもしれない。

しかし、いくら物心つく前に両親を亡くし、気にならないと言ってもここまでバカにされるとさすがに腹が立つ。

立ち上がった勢いのまま、裕助の胸ぐらを掴み引っ張った。

この時はどうして裕助が知っているのか気にも留めなかった。

頭が真っ白になっていた。



「お、おい、なにマジになってんの?ノリ悪くね?」


「・・・うるさい」


「は?なになに?ぼっちになるとノリまで悪くなっちゃうのー?」


「---ッ!!!それ以上口を開くなッ!」



僕は叫ぶと同時に裕助を思いっきり突き飛ばした。

所詮小学生の腕力ではそこまでの被害や怪我などはすることがない。だが、今回は『たまたま』運が悪かった。



「うわっ!!!」



裕助は突き飛ばされた衝撃でたたらを踏み、その際椅子に足を引っ掛けて転倒した。倒れた先には机の角があった。

打ち所が悪かったのだろう。裕助は一度痙攣した後動かなくなった。



「え・・・うそ・・・」



クラスメイトがそう言った。



「「「・・・・きゃぁぁーーー!!!!」」」



一人が叫ぶとつられて周りが叫び始める。

その叫びを聞きつけた教師が教室に来て、慌てた様子で裕助をどこかへ運んで行った。





僕は呆然と立ち尽くしていた。

しかし、なぜか心は落ち着きを取り戻しており、自分が何をしてしまったのかを今更ながら考えていた。






-----その後、僕は職員室に連れて行かれ、暫く話を聞かれた後自宅に帰された。

裕助は病院に連れていかれたらしい。














「おい、勇樹」



義父が帰宅後早々、話しかけて来た。



「お前、いい加減にしろよ。こっちに来た時から気にくわない奴だと思ったが、人様に迷惑なんてかけやがって。俺達の立場を考えたことがあるのか」



いきなり何の事だかわからない。

いや、裕助のことだと思うが義父の立場となんの関係があるのだろう。



「え・・・なんのことですか?」


「はぁ、もういい。お前なんて引き取らなければ良かった」



そう言い残し義父は寝室へと向かった。



(いきなりなんでそんなこと言うんだ)



僕は呆然としていたが、義母が帰宅してきたので我に返った。



「お帰りなさい」


「ただいま、今からご飯作るわね」



そういって義母はキッチンへと向かった。



僕は裕助を突き飛ばしたことに対して反省はしていない。

気絶させるつもりはなかったが、あそこまでバカにするほうが悪い。

僕に何を言っても構わないが、写真でしか両親の顔がわからないとはいえ、両親をバカにされるのは許せなかった。




そんなことを考えているうちに、夜は過ぎていった。










次の日、いつも通りの支度を終え学校に向かった。

教室に入り、自分の席に着こうと思ったが・・・自分の席がなかった。



「え・・・」



状況が呑み込めず戸惑っていたら笑い声が聞こえてきた。



「ぷっ!くすくす・・・!」


「あはははっ!!」



皆が僕を見て笑っている。

それだけで察することが出来た。

これは知っている。いじめだ。

ご丁寧に朝早くに来て、僕の机を動かす労力に感心する。



「僕の机はどこ?」



近くにいたクラスメイトに聞いた。



「お前の机なんて元からねーよ!」



僕は内心で溜息を吐く。

どうせこの返答が来ることがわかっていた。



(先生が来るのを待つか・・・)



ガンッ!

そう思ってると後ろからの衝撃に思わずたたらを踏む。

後ろを見ていると、ニヤニヤと嫌らしい笑みを浮かべる男-----佐田 明俊-----がいた。



「いつまでつっ立ってんだよ!」



明俊は僕なんかよりずっとガタイが良く、クラスの奴らをまとめる言わばガキ大将だ。

毎日弱い者いじめに精を出している奴で、関わることはないだろうと思っていたが、こんな形で関わってしまうとは思わなかった。

僕を標的に決めたらしい。



「お前はこのクラスの人間じゃねえんだよ!早く帰れ!」


『そうだそうだ!』



明俊の取り巻きまで野次を飛ばしてくる。

しばらく罵声が飛んできていたが、僕は何も言わずにいると、教室に担任が入ってきた。



(はぁ、やっと解放される)



と、僕は思っていた。

しかし、担任は席がなく立っている僕を一瞥すると意外な言葉を発した。



「これからHRを始めるから席につけ」



・・・え?気付いてないのか?

だが、僕をしっかりと見ていた。なのにこの発言か?

僕が担任の言葉に唖然としていると、さらに意外な言葉を発した。



「おい、赤羽。席がないならお前はこのクラスの人間じゃない。帰ってもいいぞ」



またしても唖然とした。むしろ訳が分からなくて薄ら笑いを浮かべてしまうのも仕方ないと言えるだろう。

世間一般では担任はいじめを止めるまではいかずとも見て見ぬふりをするものだと思っていたが、まさか進んで参加するとは思わなかった。

後から聞いた話だと、裕助の父親は権力を持っている人らしく、学校に色々文句を言っていたらしい。



仕方がないのでその日はクラスの奴らに消しゴムを投げられつつも、教室の隅で授業を受けた。

その次の日も変わらなかった、その次の日も------









-------変化が起きたのはいじめられ始めてから一週間経ってからのことだった。

その日も席がなく、教室の隅で授業を受けていたとき隣に人の気配を感じて振り向いた。



「勇樹くん、今度から私もここで受けるよ!」


「凛・・・?」



彼女は矢富 凛。性格も明るく、顔も小学生とは思えないほど整っていてクラスのアイドル的存在だ。

凛とは家が近所ということもあり、幼稚園の時から遊んだりしている。

僕がいじめられているのを見て、気を使ってくれたのだろうが、僕といると凛までいじめられてしまうかもしれない。

それだけは避けたい。



「ありがとう。でも、そんなに気をつかわなくてもいいよ。それにあんまり僕に関わると凛までいじめられちゃう」


「そんなことない!私もここで受けたいから受けるの!・・・あと、ちょっとでも勇樹くんの力になりたいから・・・」



凛は優しい笑顔を向けながらそう言った。



「ありがとう・・・。じゃあ、一緒に受けよっか!」


「うん!」



そうして僕は凛と一緒に教室の隅で授業を受け始めた。

憎しみを込めた目を向ける明俊に気付かずに。







凛と授業を受けた日の放課後、僕は一人で帰り道を歩いていると、細い路地から明俊が出てきた。



「おい、ちょっと待て」


「・・・なに?」



正直嫌な予感しかしない。



「お前、これ以上矢富に馴れ馴れしくするのはやめろ」


「・・・別に馴れ馴れしくしてるつもりはないよ、普通じゃないか」


「黙れよ。見ているとイライラするんだよ」



どうやら明俊は凛のことが好きらしい。

だが、僕がこいつの協力をしてやるつもりもない。



「じゃあ見なければいいんじゃない?」


「・・・チッ!ほんとにイライラするやつだな!・・・おい、お前ら!予定通りこいつフクロにするぞ」



明俊の合図に取り巻きの奴らがぞろぞろ出てきた。

その手には金属バットや鉄パイプなどが握られている。



「おいおい・・・さすがにシャレになんないぞ・・・!」



いくら小学生の腕力でもエモノがあれば話は別だ。

殴られれば骨は折れるし、最悪の場合、死が待っている。

僕は咄嗟に駆け出し、明俊との距離を開けようとする-------








------が、明俊に投げられたバットが足に当たり、そのまま転倒してしまった。

駆け寄ってきた明俊が馬乗りになって、僕を何度も殴る。

取り巻きも、バットや金属パイプなどのエモノで殴り掛かった。












--------何分経っただろうか。明俊達は一通りの暴行を加え満足したのか、僕から離れていく。



「このぐらいで勘弁してやるよ。これに懲りたら矢富には近づくんじゃねぇぞ。もし近づくんだったら・・・まぁ言わなくてもわかるだろう」



ニヤニヤと気持ち悪い笑みを浮かべ、明俊は取り巻きを従えどこかへと去って行った。

僕は暫く空を眺めた後、足を引きづりながらも家へと続く道を歩き始めた。




「なんで僕ばっかこんな目に合うんだ・・・」



その小さな呟きは細い路地へと消えていった。










「ただいま」


「おかえりなさいー・・・ってどうしたのその怪我!」


「いや、なんでもないよ」


「なんでもないわけないじゃない!」



義母の意見はもっともだ、なんでもないわけがない。

玄関の鏡で自分の顔を見たらひどいもんだった。

目は晴れているし口の端は切れている。骨が折れるまではいかなくても体中が痣だらけだ。

人目を気にしなくてもいいなら泣きたいほど体が痛い。だが義母に心配は掛けたくない。



「友達と遊んたときにこけちゃっただけだよ」


「勇樹・・・本当のこと言って?勇樹に無理させたくないの」



義母の言葉に胸が痛む。



「大丈夫だって!全然痛くないし!」



そう言ってその場で跳んでみせる。

激痛で歪みそうになる顔を必死に抑え込む。



「ほらね!何ともないでしょ?」


「そうならいいけど・・・。あんまり無理はしないでちょうだいね?何かあったらお母さんなんでも相談に乗るから」


「うん、ありがと!」



義母にお礼だけ告げて僕は自室に向かった。

部屋で服を脱ぐ。



(いてててっ。あいつら思いっきり殴ってきやがった・・・)



服は所々破け、穴が開いていた。

痛みで漏れそうになる声を押し殺し、濡れたタオルで怪我した箇所を拭っていく。



(もうこの服は着れそうにないな・・・気に入ってたんだけどな)



胸に大きな星柄が付いているシャツをゴミ箱に詰める。



(まぁいじめって言い返したりしたら続くものだと思うし、相手にしなければすぐ終わるだろう)



僕はこの時点ではまだ、何とかなるだろうと希望的観測をしていた。











翌日、いつも通り凛と授業を受け、放課後の帰り道。



「おい!勇樹ィ!!俺が言った意味が分かってねぇようだなァァ!!」



昨日と同じ細い路地から明俊が出てきた。

昨日と違う点は取り巻きが居ないことと、明俊の目が血走っていたことだ。

その手には家から持ち出してきたであろう包丁が固く握りしめられている。

明俊が纏っている雰囲気は完全に違う。背筋に冷たいものが流れ落ちる気がした。



「おいぃぃ・・・聞いてんのかよ・・・」



ユラユラとした足取りで明俊は近づいてくる。

逃げようにも恐怖心が勝り体が動いてくれない。



「矢富に近づくなって言っただろうが・・・矢富は俺の・・・俺の女だァァァ!!」



叫び走り出してくる。

しかし、体は震えて動かない。






明俊は右手を振り上げ------








-------ヒュンッ!!!



極度の恐怖と緊張によって僕は腰が抜けしりもちを着いた。

だが運が良いことに包丁は僕の鼻先を掠めただけに留まる。

明俊は力一杯振り下げた反動で体制を崩している。



(今しかないっ!!!)



僕は震える足を必死に動かし走り出した。

明俊は狂ったように叫びながらその場で包丁を振り回している。

僕はそれ以降、後ろも振り向かず全力で家へと向かった。











「はぁっ・・・!はぁっ・・・!」



玄関の扉を開け思わずへたり込む。



(こんなにも全力で走ったのは持久走以来だ)



ついさっきまで殺されそうになっていたが、あまりにも現実から離れた状況だったため実感がわかない。

息を整えるために深呼吸していると義母から声が掛かる。



「お帰りなさい」


「た・・・ただいま」


「ちょっと・・・顔が真っ青よ?大丈夫?」



そう言われ鏡を見ると真っ青な顔をした自分が映る。

血の気も引いていたのも事実だが、今あったことを義母に話すわけにはいかないだろう。



「あ・・・持久走の練習してたんだ!ほらっ、来月持久走だからさ!体力つけないとっ!」



そう言って無理に笑顔を作る。

隣にある鏡を横目で見てしっかり笑顔を作れているか確認する。



「そうなの?じゃあ次の持久走は期待できるわね」


「去年よりいい記録になるよ!」


「頑張って、応援してるわ」


「うん!」



義母はリビングへと歩いて行った。



(・・・ふぅ)



気づかれないようにため息を吐く。

なんとか誤魔化せたみたいで安心する。



(しかし・・・いったいどうなってるんだ?今日の明俊、この前の義父みたいになってた・・・)



疑問は消えないが小学生の頭には答えを出すことはできないだろう。

その日はそれ以上考えずに眠りについた。









翌日、また今日も席がないんだろうなと考えながら登校していると、後ろからの足音が聞こえた。



(---ッ!またあいつらか!)




そう思い勢い良く振り向いた。



「おっはよー!」


「うわっ!?」



凛が挨拶と同時に僕の背中に飛び乗って来た。



「おはよー!勇樹くん!今日はいい天気だねぇ!」


「おはよー・・・じゃなくて!いきなり飛びついて来たら危ないだろ!?」


「えへへー」



そう言って凛は花が咲いたような笑顔を見せる。

昔から遊んでいると言ってもこんな可愛い子に抱きつかれたらドキドキしてしまうのが男の性だ。



「一緒に学校いこ?」



そう言われて断れる男がいるのだろうか。

いや、いないと思う。



「お、おう」



僕は照れながらそう答えた。








その日の帰り道、また明俊に襲い掛かられても困ると思い、警戒しながら歩く。







-------自宅に着いた。



(あれ?普通に家に着いた・・・)



疑問に思いつつも、襲われないに越したことはない。

最近現実離れした日常が多く、ずっと気を張っていた為、久しぶりに安心してぐっすり寝ることができた。









しかし、次の日も次の日も、その次の日も明俊は襲ってくることがなくなった。

それだけでなく明俊は学校を休むようになった。

明俊のことを心配するわけではないが、いきなり休むようになると気になってしまう。

だが、同時に安心もしている。これで学校内では襲われることはないだろう。



(やっと諦めてくれたのかな?いやいや、何が起きるかわからないから、気を抜いちゃダメだ)










結局、明俊は一度も学校に来ることがなく、僕は小学校を卒業した。










中学の入学式もつつがなく終わり、凛と一緒に帰り道を歩く。

あの日以来、僕と凛は家も近所というのもあり、一緒に登下校している。



「ねぇ、勇樹くん!今日はご飯私の家で食べてかない?今日はお母さんお仕事で遅くなるから、1人だと寂しいんだぁ」



凛の家族は母親しかいない。

父親を早くに亡くしていて、母親は女手一つで凛を育てている。

仕事で帰りが遅い母親の代わりに家事全般は凛の担当で、料理などはお手の物とこの前自慢してきた。



「うーん、いいけど迷惑にならない?」


「ぜーんぜん!むしろ私も勇樹くんとご飯食べれるの嬉しいし!」


「そ、そう?じゃあ、お邪魔しようかな」


「やったー!じゃあこれから買い物行くから付き合って!」


「お、おう」



僕は照れて緩みそうになる頬を必死に抑えて、返答する。凛は絶対魔性の女になる・・・これが噂の小悪魔系というやつか。

などと考えているうちに買い物も終わり、凛の家に向かう。



「今日は勇樹くんが好きなハンバーグを作るんだぁー!」


「え?僕の好きな食べ物覚えててくれたの!?」


「あったり前じゃんっ!私を誰だと思ってるの?」



そう言って中学に進むにつれ成長してきた胸を張る。

中学生でこの大きさとは・・・ふむ、なかなか将来が期待できそうじゃな・・・。



「ちょ!ちょっと!どこ見てんの!へんたいっ!」



凛は両手で胸を隠すようにして怒る。



「うわっ!み、見てない!!胸なんて見てない!!!」


「あー!私胸なんて言ってないのに!」


「あ、やべ・・・」


「むー!!!」



凛は頬を目一杯膨らませて怒ってるアピールをするが、かなり可愛らしい。

思わずニヤニヤしてしまった。



「もー!!私怒ってるんだけど!!」


「ごめんごめんっ!」



僕の胸をぽかぽかと可愛らしく叩く凛に笑いながら謝る。



(こんな日がずっと続いてくれたらいいのになぁ)



そんな風に考えてたらふと声が掛かった。



「おいおい・・・何見せつけてくれてんだぁ?おい」



声が掛かった方へ振り向くと------









---------そこには明俊がいた。

最近見ないと思ったらいきなり目の前に現れた。

僕はあの日のことを思い出し、体が勝手に震え始めた。



(ダメだっ!せめて凛の前ではしっかりしないと!)



必死に震えを抑えようとするが、体は言うことを聞いてくれない。



「なんだぁ?ビビっちまったのかー?相変わらず弱っちいやつだなぁ」



またあの笑い方だ。あの笑い方が頭から離れない。

怖い。怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い------

恐怖が頭の中を支配していく。

自分でもこんなにも明俊のことを怖がっているなんて思いもよらなかった。



「ちょっと明俊!!いつまで変なことやってるの!!いい加減やめたらどうなの!?」



凛が明俊に向かって叫ぶ。



「あらあらこれはこれは、弥富さんじゃないですか、お久しぶりじゃないですか」


「挨拶なんてしなくていい!私の質問に答えて!」


「んー、なかなか強気な発言だなぁ。まぁそんな矢富も可愛いけどなぁ」


「気持ち悪いこと言わないで!!」



凛は明俊に対して強気の発言をしている。

僕はそれに比べてただ震えて怖がっているだけだ。



(よしっ!ちょっとでもいいところ見せない「あー、もうめんどクセェや。死ね」と)



「えっ?」



凛の間が抜けたような声と同時に、胸から血が吹き出る。

そして、凛の体は人の切れた操り人形のように崩れ落ちた。



「ふふ・・・ふはははっ、ふひゃひゃヒャヒャヒャっ!!ギャハハはははははっ!!!やってやったぜー!!ふひっ、やっと矢富が俺の女になったぁぁぁぁ!!!!」



明俊は隠し持っていたナイフで凛の胸を突き刺したのだ。恍惚と頬を染めながら、動かなくなった凛を抱きしめている。



(えっ・・・?何が・・・?凛?凛がなんで?なんで凛が刺されたの?)



「ああぁぁぁっ。やっと矢富をこの手に抱くことができたぁァァ。グヒッ、もう・・・もう矢冨は俺のものだぁァァ!!!」



明俊は狂ったように叫びながら、凛の胸を弄っている。



「あはぁぁっ!これが矢冨の・・・凛の体ぁぁぁっ!!あひゃひゃひゃッ!最高だなぁおいっ!あぁ、凛っ!凛っ!」



------ブチンッ。

何かが切れたような音がした。

と、同時に僕は走り出し明俊の顎を、思い切り蹴り抜いた。衝撃で明俊は吹っ飛ぶが、倒れた明俊を何度も殴った。



「よくもっ!!!よくも凛をっ!!!ああああああぁぁぁっ!!!!」



何度も何度も殴った。手の皮がめくれても構わずに何度も殴り続けた。人だかりができ始めても殴り続けた。それは町の人に止められるまで続いた。



頭が冷え周りを見渡してみると、動かなくなった凛と血だらけで倒れている明俊と、僕を恐怖を含んだ目で見る野次馬だけだった。



そこから先の記憶はあまりない。












-------目覚めるとそこは病院だった。

両手には包帯がグルグルと固く巻かれている。

指一本も動かせないが、全く気にならなかった。



(僕のせいだ・・・。凛が死んだのは僕のせいだ・・・。僕がもっと早く動いていれば・・・!明俊に対して恐怖を感じていなければッ・・・!!僕がもっと強ければッ!!!)



後悔しても時間は戻らない。

わかっていても後悔してしまう。

凛を死なせた原因は僕だ。全て僕が悪い。僕が悪い僕が悪い僕が悪い僕が悪い僕が悪い僕が悪い僕が悪い僕が悪い僕が悪い僕が悪い僕が悪い僕が悪い僕が悪い僕が----------








〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜







それが僕が転向してきた理由だ。

正直学校にはもう行く気にならない。

興味がわかない。むしろ自分の命にも興味がない。

何もやる気が起きない。凛が死んでから僕はずっとこの調子だ。

やる気はないが義母に迷惑だけは掛けたくない。

重い腰をあげて玄関を出る。



(はぁ。なんで僕が生きてるんだよ。なんで僕がかわりに死ななかったんだよ。なんで凛が死ななくちゃッ・・・!)



凛のことを思い出すと涙が出てくる。

僕は凛のことが好きだった。

だが、もう凛に自分の気持ちを伝えることができない。そう考えると生きる気力すら湧かない。



(もう・・・死のう)



そう、ふと思ったら行動は早かった。

気付いたら近くの展望台にいた。



『ねぇ勇樹くん!今度あそこの展望台に行こうよ!』



凛の言葉が蘇る。

ここで死ねば、いつまでも凛と一緒になれる気がする。



(凛・・・今からそっちに行くよ)



心の中でそう呟き、僕は展望台の柵から飛び降りた。











・・・すぐにやってくるであろう意識の途切れがいつまでもやって来ない。

10メートルくらいの展望台だったと思ったのだが、間違えたか?

いや、それにしてもかれこれ30秒は落ちている気がする。

僕は恐る恐る目を開けて見ると------










---------僕は遥か上空にいた。





誤字脱字、その他指摘など大歓迎です!

仕事の合間で執筆しているのであまり早いペースの投稿とはなりませんが頑張りたいと思います!

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