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狐少女の日常  作者: 樹 泉
一章 幼少期編
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エスタークの修行


 昼食を食べ終わったミズハは動きやすい服に着替え、エスタークと共に屋敷の庭に来ていた。

 因みにゲオルクは冒険者ギルドに仕事の引き継ぎに向かい、アリアナとダグは屋敷の一部を工房にする為職人に会いに行っていてここには居ない。


「まずはこの屋敷敷地内を五周しろ」


 エスタークはそう言うと、手で敷地を指差した。

 屋敷の内周はざっと500mはありそうだ。


「もう少し早めに走れ」


 距離を考えペースを落として走り出したミズハに、エスタークは激を飛ばす。


 三周目に入るとミズハの息が上がり、四週目には肩で息をしだした。五週目の頃には足が縺れそうになっていた。


「ゼェゼェ……」


「よし、良くやった。休憩だ」


 ペースを落とさず五周を走り終わったミズハは息も絶え絶えだった。

 ミズハを休憩させたエスタークは、脇に置いてあるコップをミズハに差し出した。


「俺様特製スポーツドリンクだ。飲め」


 エスタークから渡された飲み物をミズハはゴクゴクと飲みほした。

 スポーツドリンクを飲みほしたミズハにエスタークはタオルを投げかける。


「ありがとうございます」


 息の整って来たミズハはエスタークに礼を言った。


「休憩終わりだ。……次は俺がやる動きを真似てみろ」


 そう言い終わるとエスタークは足を開き、拳を構え腕を突き出した。

 ブオン

 横で見ていたミズハの方までエスタークの拳に巻き込まれた風が吹いて来た。


「やってみろ」


「はっ、はい」


 自身の髪が舞い踊ったのを見てミズハは息を呑む。

 エスタークの型を真似ミズハは拳を突き出した。


「もっと腰を落とせ」


 ミズハはエスタークの言葉に身体の動きを修正して行く。


 エスタークが言葉を発さなくなり五十回を過ぎた頃、ミズハはまた肩で息をしていた。


「よし、そこまで。少し休憩をしたら次は蹴りだ」


 屋敷の庭を体力の限り走らされ、休憩もそこそこに武道の型の練習を二百回させれば大人でも疲れるだろう。

 エスタークは最高ランクの冒険者なため、その身体能力は恐ろしく高い。

 元々身体能力の高いエスタークは、自分基準で計る為運動を教えるのがすこぶる下手だ。

 その為、以前アリアナ達はミズハの母カレンがエスタークにものを教わったと言われ、哀憐を覚えたのだ。


「次はこうだ。重心がぶれない様にな」


 そう言って蹴りだされたエスタークの足は、足の延長線上にあった屋敷の草が切り裂いた。

 ミズハはそれを見て目を見張るが、エスタークに促され型をなぞり出す。


「重心がぶれているぞ。もっと足に力を入れろ」


 疲れが溜まってきてミズハの重心がずれ出す。

 エスタークはそれを見逃さず檄を飛ばす。


「後、交互に五十回」


 エスタークが具大的な数字を言うと、ミズハの瞳に力が漲り足に力が籠った。



「よし、そこまで。……やり過ぎたか?」


 やり終えた瞬間ミズハは崩れ落ちた。

 エスタークの最後の呟きはミズハには聞こえなかったが、アンディーには聞こえエスターク脳天に拳が振り落とされた。

 自分がやり過ぎた自覚のあるエスタークはアンディーの拳を受け入れた。


【ミズハ大丈夫かい】


「…………」


 アンディーが声をかけるがミズハは未だ声が出ない。

 返事のできないミズハに変わり、アンディーはタオルを取ると汗を拭ってあげた。


「シャワーを浴びたら昼寝でもしちまいな」


「……はい」


 やっと声を絞り出したが、ミズハは未だ起き上がる事ができなかった。


 アンディーに支えられ起き上がったミズハを近くに居た侍女が支える。

 最初アンディーを見て警戒する使用人たちだったが、エスタークの説明により警戒を解いていた。

 精霊とは種族や国によっては崇める対象にもなる。

 精霊教会なるものがあるほどだ。

 ここ、ターザ国にも精霊教会は存在している。

 世界的に見てもそれなりに大きな組織なのだ。


 疲れた体を引きずりシャワーを浴びたミズハは、ベッドに倒れすぐさま眠りに落ちていった。


 次にミズハが目覚めたのは日が暮れ始め、世界がオレンジ色に染まって来た頃だった。


【目が覚めた?】


「アンディー……、そっか、私眠っちゃったんだ。……痛、筋肉痛だ」


 ミズハが目を覚ますと心配そうなアンディーが目に入った。


【夕食までに目が覚めたら、服のサイズを測らせてくれって侍女さんが言っていたけど、どうする?】


「うん。分かった」


【僕が伝えて来るから、体を解しておきな】


「ありがとう」


 アンディーはホッとした顔になると空を飛び、扉を通って侍女を呼びに行った。


 少しすると侍女が部屋にやって来て、ミズハの身体のサイズを計った。

 今日ミズハの着ていた服は、昨日ミズハ達が到着した後使用人が王都の高級衣料店へ買って来た既製品の服だ。


 身体のサイズを計り終えたミズハは夕食を食べに食堂に向かうと、般若の様な顔のアリアナと出会い数歩後ずさった。


「ミズハ無事なのね!? この駄犬がやり過ぎたと聞いたわよ」


「駄犬って……」


「黙りなさい駄犬が。やって良い事と悪い事も分からない馬鹿はすっこんでらっしゃい」


 アリアナのエスタークを見る目は冷ややかで、エスタークは今にも凍えそうだった。

 エスタークも勇気を振り絞り反論を試みたが、何倍にもなって帰って来た。


「アリアナその位にしてやれよ。誰も見てなかった俺達も悪い」


「……確かにそうですね。誰か見張っておくべきでした」


 ゲオルクの取りなしにアリアナは溜息を吐くと落ち着きを取り戻した。

 アリアナが何故怒っていたかというと、エスタークのミズハへの過度な修行のせいだ。行き過ぎた運動は身体の故障を起こしかねない。

 その為アリアナはエスタークに怒りを向けていたのだ。


「アリアナさん私なら大丈夫です。ですので、その辺で……」


「いいえ駄目です。いくら獣人といっても貴女は子供、故障しかねません」


 ミズハの言葉に被せるようにアリアナは意見を述べる。

 獣人は他のどの種族より身体が丈夫とはいえ、故障する時は故障するのだ。


「フム、その辺にしたらどうだ。食事が冷めてしまうぞ」


「それもそうだな、皆食事にしようぜ」


 ダグの言葉にゲオルクが賛成すると食事の時間が始まった。





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