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狐少女の日常  作者: 樹 泉
三章 ユグドラシル学園二年生編
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二年目の生徒総会


 十二月に入り生徒総会が迫って来た。

 それぞれの立候補者も揃い、後は生徒総会を待つばかりである。

 今回の立候補者は二年生が少なく、一年生が多い。その理由は二年生にとってミズハ達が敵に回った場合勝てない事を知っているからだ。全生徒の前で恥はかきたくない。

 一方一年生の方もミズハ達の能力を知っているが、今回の生徒総会でランドルフとカルメが抜けるために空く書記と庶務に立候補している。


 ついに生徒総会が始まり、スピーチが始まった。

 最初にスピーチを始めたのは生徒会長に立候補しているアランだ。今年も生徒会長に立候補するのはアランのみなので出来レースであるが、スピーチをする。

 次にスピーチをするのはレイニード、その次はナノハである。そしてついに一年生のバトルである書記と庶務に移る。

 一気に一年生の熱気が増え、一年生の生徒の一部が壇上に上がる。


 全スピーチが終わりそれを聞いていた生徒が投票用紙に名前を書き、その用紙を生徒総会の手伝いにかりだされている生徒の前に置かれている箱に入れていく。

 ここまでで大勢の生徒は帰宅できるが、手伝いにかりだされている生徒総会委員会という委員会に属する生徒はここからが本番だ。

 全校生徒の投票用紙を開け票数を記入していく。


「お疲れ様です。飲み物を持ってきました」


 生徒総会委員会の者が集まる部屋へ飲み物を持ちこんだのはミズハだ。ミズハが今回やって来たのは賄賂を贈るためではなく、現在の生徒会からの激励だった。

 ミズハに続いて飲み物を抱えて入って来たのはケニスで、普段であればアランが立候補したのだが、ミズハとケニス以外の生徒会メンバーは引き継ぎのマニュアル制作で忙しい。役職持ちこしのミズハとケニスがいたから今回は激励にやって来たのだ。


「ミズハとケニスか、ありがたい。手が空いた奴から一時休憩だ。そこの机に置いてくれ」


 全体に指示を出したのはミズハ達と同じクラスの狼の獣人クライだ。

 本来であればこのような時皆を纏めるのは最上位学年の三年生であるが、生徒総会の開かれた今日から行事での役員は二年生へと移り変わる。

 三年生はこの頃から一時的にユグドラシル学園を空ける事が増え、卒業後の就職場所で修養を積んでいく。


「飲み物の種類は水とお茶とハチミツレモンの三種類ね。右から水・お茶・ハチミツレモンよ」


「オーケー、皆聞いたな。右から水・茶・ジュースだ。早い者勝ちだからな、俺は茶をもらう」


 ミズハがケニスと持って来た魔道具を机において説明すると、さっさと今の仕事を終わらせたクライが一番にお茶を器に注ぐ。


「あ、そうそう。お前達ダンジョンの地下二十階層突破していたよな。俺のパーティーももうそろそろ何だ、注意点とかあるか?」


「クライのところも進みが早いね。そうだな、熊系の魔物だからパワーがある事は勿論、スピードもあるから気をつけた方が良いね。後はボスの行動は常に注意が必要だね。ダメだと思ったら魔道具を使って撤退する事、これ大事だよ」


「サンキューな」


 クライの質問にケニスが丁寧に答える。

 ダンジョン地下二十階層突破は三年生の中でも突破するのはごく一部だ。それを突破しているミズハ達は勿論、それに続いているクライのパーティーも優秀だ。

 ダンジョン産の魔道具の中にダンジョンから瞬時に脱出する魔道具があるが、二十階層に着く事のできるレベルになって常備できる稼ぎが入る。


 これらの質問は現在の場所柄余り宜しくない様に思えるが、投票の結果を聞いたり話したりするよりはマシである。

 このクライとケニスの話しを一年生は尊敬を籠めた眼で見ていた。一年生にしてみれば班行動が始まったばかりで、地下五階層は未開の地であり、地下二十階層は未来の目標なのだ。

 現在の一年生の進み具合は例年から見れば平均的で、去年のミズハ達もそこまで進んではいなかった。しかし、現状の二年生が優秀でミズハやケニスという高ランクの冒険者を抜いてもクライなど続く者がいる。


「じゃあ、私達はこれで。お仕事頑張ってね」


「おう! 二人ともありがとな」


 ミズハとケニスがクライと別れて生徒会室に入ると、二人以外の生徒会メンバーが書類の山に囲まれていた。書類に埋まらないのは処理能力があるのと、学生にそこまでの処理をさせる訳にはいかないからだ。

 ミズハとケニスは無言でお茶を淹れると全員に配った。休憩を促せない雰囲気なので出せる手出しはここまでだ。処理能力が低下するほど仕事に耽れば止めるが、今はそんな段階には思えない。


 その日の放課後前には放送がかかり、新生徒会メンバーが発表された。


 生徒会長 二年生 アラン・レオン

 副会長 二年生 レイニード・グルブランス

 会計 二年生 ナノハ・リシュティーユ

 書記 一年生 カラット・パロ

 庶務 一年生 デナン・リスト・ファブニール

 武人 二年生 ケニス・グランドール

 魔人 二年生 ミズハ・タマモール


 以上七名を新生徒会と認める。


 早々に掲示板に張り出されていた。


 生徒総会の次の日、旧・新生徒会メンバーが顔をそろえていた。

 新生徒会長であるアランから自己紹介が始まり、副会長のレイニードへ移り会計のナノハも自己紹介をする。その後魔人と武人のミズハとケニスが自己紹介すると、一度旧生徒会を纏めていたランドルフとカルメに移りついに一年生の書記と庶務の自己紹介に移った。


「今期の書記になりました、カラット・パロといいます。見ての通りドワーフ族です。宜しくお願いします」


 元気よく挨拶をしたのは小柄で童顔なドワーフの少女カラットだ。カラットは太めでしっかりとした、少し癖毛の茶髪を左右で三つ編みにしている。同じく丸みを帯びた茶色の瞳は元気溌剌としている。


「ぼ、ボクはデナン・リスト・ファブニールと言います。種族は人族です。よ、宜しくお願いします」


 少々びくびくしながらも自己紹介をしたのはフワフワしたプラチナブロンドが気持ちよさそうな成長期がいまいち来ていない少年だった。瞳はイチゴのように赤く、温かな色をしていた。


「今期の生徒会はランドルフ先輩とカルメ先輩を除いた七名で行う。一月程は引き継ぎと補佐としてお二方が生徒会にやってくることもある。一年宜しく頼む」


 一年生の自己紹介の後にアランが挨拶を締めくくり、こうして新生徒会が発足した。


 新生徒会ではアランとランドルフが生徒会長の仕事を片付けカルメが補佐をする。そしてレイニードとナノハは自分の仕事をしつつカラットとデナンに仕事を教えていた。

 流れが変わらないのはミズハとケニスの二人で、早々に仕事を片付けて他のメンバーの業務を手伝っている。

 そんな書類仕事をする事一週間、全員が現在の役職の仕事を覚え始めていた。


 しかし、そこに迫るのは後期中間テストだった。

 テスト期間も大分迫り生徒会メンバーは生徒会室に勉強道具を持ち込み、仕事後全員で勉強をする事になった。


「み、皆さんお茶が入りました……」


 勉強をしていると絶妙のタイミングでデナンがお茶を淹れてくれるのだが、デナンの緊張は未だ解かれてはいなかった。


「デナン君毎回ありがとう。でも毎回貴方がやる必要はないのよ。皆で持ち回りしましょう」


「はい……」


 ミズハの言葉にデナンは力なく項垂れた。


「誤解しないでね、貴方の淹れ方が悪いとかではないの。ただ、同じ生徒として平等でいましょうという事よ。確かに学年や役職上の上下はあるけれど」


「そうそ、何でそんなに自身がないのか知らないけど、君は能力あるしもっと胸を張ろう」


 ミズハが更に言葉を重ねればナノハも後に続く。


「そうだな、デナンはもっと自分に自信を持つ事だ。生徒会に選ばれたという事は皆がそれだけお前の事を認めているって事でもある。相談したい事があったら乗るぞ」


「は、はい。ボク頑張ります!」


 アランもフォローに回ればデナンは目に涙を溜めて腰を折った。

 デナンは何処に感動したのかキラキラと目を輝かしている。

 それからというもの少々自虐的な面のあったデナンの性格が明るく変わった。

 どうやらアランがデナンの相談に乗ったらしく、デナンはかなりアランに懐いていた。勿論励ましたミズハやナノハにも懐いており、生徒会メンバーは一歩仲良くなった。


 こうして生徒会にとって最も忙しいといわれている後期中間テストを潜り抜けた。

 二年生の順位はいつもと同じ状態であったが全員の点数はそれ程差がなく、三年生の二人もいつもと同じような順位であった。一年生の二人も好成績を残して面目という面では大いに活躍した。


 こうして冬の長期休暇に入る日も近付いて来たのだが、ミズハはアランから冬休みに一緒に来て欲しい所があると言われて話しをしていた。

 アラン曰くある国に一緒に来て欲しいという事であった。







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