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狐少女の日常  作者: 樹 泉
三章 ユグドラシル学園二年生編
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二年目の学園祭


 ユグドラシル学園の後期が始まり、早々に学園祭準備一色になった。

 ミズハ達はクラスの出し物が免除になる代わりに生徒会で出し物をしなければならない。そんな生徒会の出し物は『古物市』だ。

 代々生徒会の人間は各国の王侯貴族なしに豪商など金銭に余裕がある者が就きやすく、そんな歴代の生徒会メンバーが考えたのが『古物市』だった。金銭に余裕があり色々な物が溢れかえっている彼等が選んだものだった。そんな彼等が出品する『古物市』は豪華で、毎年リピーターがいるほどだ。


 この話しを秋休み前に聞いたミズハとケニスは悩んでしまった。

 二人は冒険者生活が長く必要な物しか買わない。金銭面では他の生徒会メンバーより自由に使えるものは多いが、武器防具や魔道具などには大金を使うがそれ以外はそれほぼ買い物をした記憶がない。

 特にケニスは家族を救いたいという気持ちが強く、贅沢とは程遠い生活だった。

 ミズハは衣食住の大半が養父母により賄われており、必要以上に使う必要もなく、元々が辺境の村出身で必要がいの贅沢はあまり得意ではなかった。

 このように二人が悩んでいると、ナノハが「古着とかないの?」と解決策をいった。結局のところミズハとケニスの考えすぎだった。ダンジョンの宝物などを出した方が良いのかと考えていた二人には目から鱗の内容だった。


 ミズハは秋休み前に学園祭に使える物がないかと手紙を出しており、秋休み最後に帰った時に荷物を魔道具の鞄に入れて戻った。少し目を反らしつつも。

 ケニスはというと昔の衣類は擦り切れるまで使っていたので存在しないが最近まで使っていた物などを集めた。その際に家族の衣類や装飾品を最新の物へと買い変えたりもした。


 生徒会では二室を借りて、一室が倉庫でもう一室が『古物市』を開く店舗になる。

 狭いとはいえ二室借りる事ができるのは毎年の利益の問題だ。


 倉庫に集まった生徒会の面々は持ち寄った中古品を出し、目録を作り始めた。

 次に取りかかるのは分類分けを挟んで値段付けだ。全体のバランスや過去の出品リストに合わせた値段を考えていく。

 最も多い衣類や装飾品は経験者のランドルフとカルメを中心にアランとレイニード、ナノハが手伝う。

そして、ミズハとケニスはというと、武器類と魔道具類の値段を考えていた。


「ミズハ。この魔道具の名前何? ダンベルの魔道具?」


「……き、筋肉ムキムキ君壱式(くんいちしき)


 ケニスは小さなダンベル型の魔道具を持ち上げて持ち帰って来たミズハに聞いたが、ミズハは数瞬口ごもり自分でもあんまりなネーミングセンスに小声になる。


「えっ? ゴメンもう一回言って」


「だから筋肉ムキムキ君壱式よ!」


「へー。イイナマエダネ」


 ミズハの言葉が小声になってしまい上手く聞き取れなかったケニスはミズハに問いかけると、ミズハは一息に言い切った。ケニスの片言の褒め言葉にミズハは「私がつけた名前じゃないから!」と反論した。

 そんなミズハとケニスの応答が繰り返される事十数回、当初恥ずかしそうにしていたミズハも途中から慣れてきたのかはたまた諦めたのか、目が死んだ魚のようになりつつも答え切った。


 因みにミズハが持ち帰った物は衣類と装飾品の他に本や魔道具、武器防具他文房具と多岐にわたる。本はアリアナからで魔道具は低価格で使わない物を全員で集めたし、武器防具はダグの作になる。文房具はゲオルクが余っている物をみつくろってくれた。更に魔道具の中にはゲオルクやエスタークが使っていた物もあり、カオスぶりが半端ない。


「値札は着け終わったな。後はどの順番で品出しをするかだな」


「そうだネ、最初ニ衣類ヤ装飾品ヲ中心ニ魔道具ヲ出せバいいのでハないかナ」


「そうだな」


 ランドルフの問いにカルメが答えるとランドルフは満足げに頷いた。

 『古物市』で毎年リピートがあるのが衣類に装飾品などだ。それを考えれば始めに出しておくのは戦略的に一般的だろう。

 そこにミズハが意見を言う為に挙手するとランドルフがミズハを指名した。


「文化祭のパンフレットに今年は武器や魔道具が多い事を記入したり、看板で現在の在庫を簡単に書いたらどうでしょう?」


「そうだな、それでいこう。看板作りはミズハとケニスで頼めるか?」


「「はい」」


 ミズハの提案にランドルフは許可を出した後にミズハとケニスに指示を出す。

 生徒会と大きく括っても魔人と武人は机仕事が他の五人より少ない。それは役職上仕方のない事だった。更に、生徒会に入る者は上流社会の出身の子息子女が多く、工芸など実際に行う作業に精通しているものは少ない。それが日曜大工的な物であったとしても。


「後は分類ずつに分けた状態で防犯用の魔法をかけよう。俺・ミズハ・ケニスの三人でかけるぞ。……闇よ我が願いを聴け【闇の網】」


「【闇の鍵】」


「【風の警告・追跡】」


 品物全体にランドルフが闇の網をかければミズハがそれらを纏めて鍵をかける。最後にケニスが、侵入者が入った場合に警告と追跡の能力を持つ風魔法をかけて終わりだ。

 ミズハ・ケニス・ナノハの三人が魔法の使い手として有名ではあるが、ランドルフもユグドラシル学園の中でトップクラスの魔法使いの一人なのだ。

 そんな三人の合成した魔法は教師陣でも中々破れないだろう。


「よし。ミズハとケニスは看板作りの手配を、俺達は通常業務の他にパンフレットの記事の内容を考えるぞ」


『はい』


 ランドルフの指示に生徒会全員が動き出す。


 生徒会に入って来る仕事は広く浅い。多岐に亘が簡単な仕事が多い。

 そんな仕事を片付け、ついに文化祭の日になった。

 生徒会の催し『古物市』。他にも今期の生徒会メンバーが美男美女であるために人気があり、文化祭開始と共に生徒会の催しの部屋の前に長蛇の列ができた。

 それを予期していたランドルフにより開始時のみ生徒会全員が店当番に当たった。本来なら見回りの仕事もあるのだが、問題を解決しなければならない生徒会で問題が起きかねない為の措置だ。


 会計台で清算をしているミズハの元に見覚えのある魔道具を持った少年がやって来た。


「すみません、この魔道具五百グラムから三十キロまで設定できると書いてありましたが本当ですか?」


「ええ、本当ですよ。気になるのでしたらお試しになりますか?」


 小柄で細身の少年が持って来たのは筋肉ムキムキ君壱式。

 その使用方法を値札の他に着けていて、今回はその事に対する問いだった。

 ミズハは少年の質問に丁寧に答えるが、内心顔が引きつらないか心配だった。


「お買い上げありがとうございます」


 少年が買って行った筋肉ムキムキ君壱式を遠目に見て、内心で「本当に売れた!?」とミズハは驚いた。


 壱時間ほど生徒会全員で『古物市』の店員をしていると客が減り出したので、本来の予定通り見回りに出る者を送り出した。

 最初に店の留守番をするのはミズハとアランの二人だ。

 やはり『古物市』に来る物は衣類や装飾品を見る者が多い。時々魔道具を見る者がいるくらいだ。

 ミズハとアランの店番は開店して間がない事もあり、まだまだ客が多かった。

 客も大分たけなわになった頃には握手をねだる生徒がいたりもしたが、ミズハに異性の客が握手をせがむとアランが邪魔をした。


 店番を次のチームに引き継ぐとミズハとアランは見回り組に回った。

 見回りはチームではなく単独で行動する為、アランはミズハを抱きしめてから別々のポイントへ向かっって行った。


 文化祭も二日目になると人も増え客層が増す。

 今年はミズハ達五人全員で休憩を取る事ができないので、それぞれが回りたい場所を回っている。

 午後になると『古物市』の商品も大半がさばけ、客がまばらになって来た。


 今回店番をしているミズハとナノハは残り少ない商品を見えやすく展示している。

 まばらといっても一人二人は人が来店しており、着実に商品は減っている。


 生徒会主催の『古物市』は三日目の午前中には全て完売した。

 店舗のドア先に置いてある看板に『完売しました』と書いて生徒会メンバー全員で見回りに回った。勿論指定の時間になれば休憩するようにしている。


 文化祭三日目の午後が幾分過ぎると閉会式を通して後夜祭へと移る。

 生徒会の『古物市』は学年別の売り上げランキングに組み込まれていないので入賞などはないが、毎年好成績を収めている。これらの売り上げは一度ユグドラシル学園側が回収して授業などに還元される。


 後夜祭の音楽はゆったりした音楽が多く、踊る学生達が楽なものが多い。全員が貴族ではないし、ダンスに慣れない者もいる。

 そんな中ダンスを踊るミズハとアランは一服の絵のように輝いていた。

 二人のダンスは貴族出身の者でも憧れる綺麗なもので、正装でないのが惜しまれる。


 音楽も止み最後の放送後、お開きになった文化祭。人がいなくなったグラウンドの縁でミズハとアランは夜空を見上げていた。


「綺麗な星空ね。これから毎年アランと星空を見上げたいわ」


「ああ、来年も再来年も一緒に星空を見上げよう」


 ミズハの言葉にアランは嬉しそうに頷いた。


 周りの生徒より遅く帰った事でアランとミズハは寮監のおばさんに怒られるのはちょっと後の出来事。







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