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狐少女の日常  作者: 樹 泉
三章 ユグドラシル学園二年生編
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秋休み 隠れていた犯人


 秋から冬の期間は各国が社交界シーズンに入り、獣王国レオンでもお茶会や夜会などパーティーが開かれている。その中でも王家主催のパーティーにアランはミズハを伴って出席していた。参加者にはエンジュを始めエスタークやアリアナも呼ばれており、大物の尻尾や証拠などを集めに奔走した。

 ミズハはというと身分的なもので見下されたりする場合もあるものの、その人物達より優雅な対応で少しずつ認められ始めていた。勿論以前からミズハの事を認めている者もいて、それなりの成果をはじき出していた。


 ミズハ達の仕事の本業は勿論学業だ。

 長期休暇に入るに当たって宿題が出された。

 ミズハ達は三人集まってアランの部屋で宿題をしていた。アランの部屋にいれば、何かあった場合の情報が即座に届く。

 そんなある日、ユスタフが久しぶりにアランの部屋に訪れた。


「実は反対派の貴族の中に寝返って来た者がおりましてな」


 挨拶を終えてユスタフは爽やかさとは程遠いあくどい笑みを浮かべた。

 寝返った者は貴族の中でも末端に位置する者で、自家の保護を願い出ている。


「この際、使えぬ者はそのまま処分してしまおうかと」


「……ハァ。親族の中に使える者がいる家は気をつけろよ」


「わかっております」


 物騒な事をいうユスタフにアランは釘を刺すが聞いているかは微妙なものだ。


「それはさておき、ミズハ様も流石でございますな」


「ありがとうございます」


 ユスタフはパーティーでのミズハの対応を褒め、ミズハ微笑を浮かべて返した。その後、ユスタフは上機嫌に帰っていった。


 ユスタフが帰った後に別の貴族がアランに面会を求めた。今回面会を求めて来たのは領地を持つ侯爵家の当主だった。


「パーティーぶりで御座いますアラン殿下。本日は面会を許していただき恐悦至極に存じます」


 焦げ茶の髪に茶色の瞳、頭に狸の耳を持つ狸の獣人だ。


「カルディオ・アンダーソン侯爵久しぶりだな」


「おや、グルブランス家のレイニード殿とミズハ嬢ですな。勉学に励むのは素晴らしい。しかし、この部屋はアラン殿下の私室、一臣下が使うのはいかがなものでしょうな」


「アンダーソン侯爵、この二人は俺が招いた。そこのところをわかってもらいたい」


 アランだけに挨拶をするカルディオにアランはフルネームで呼ぶことで注意を促すと、カルディオは渋々レイニードとミズハに声をかけた。しかしその言葉は皮肉気で、呼ぶ順番上ミズハを見下しているのが解る。ミズハの身分は平民だがアランと婚約しているので、レイニードより先に挨拶をしても問題ない、しかしカルディオはあえてミズハの名を後に呼んだ。

 そんなカルディオにアランが不快に思いつつもミズハとレイニードのフォローをした。


「これは失礼しました。実は私の息子が今年から官吏として王城で出仕しておりまして、殿下の側近の一人に加えていただけたらと申し上げに来たしだいでございます」


「その話しは父上達と相談している。現状俺がユグドラシル学園に在籍しているから、卒業した後に発表する予定だ」


 カルディオの態度から娘を妃に進めて来るかと身構えたアランだったが、カルディオが進めて来たのは息子の事だった。

 肩すかしをくらったアランだが、明言を避け答えを先延ばしにした。アランの側近はアラン自身の意見も参考にされるが獣王や重臣の意見が投影されるのは明白だ。


 この後、カルディオが退出するまでアランはユスタフと面会している時とは別のベクトルでストレスを強いられた。


「アンダーソン侯爵はミズハだけじゃなくレイニードも邪魔みたいだな」


 機嫌の悪いアランは目が座り、頬杖をつきつつ言った。


「アランお茶でも飲んで落ち着いて下さい」


 絶賛不機嫌なアランにレイニードが苦笑しつつ紅茶を進める。


「レイニードは貴族の息子の一人でしかない。でもな、公爵家の息子だぞ! 何故あそこまで見下せるんだろうな」


 未だアランは目を半眼状態でカルディオの出ていった扉を睨む。


 そんなやり取りがあった二日後、カルディオ・アンダーソン侯爵の息子であるコンラート・アンダーソンがアランに面会を求めて来た。

 少々警戒気味に面会を許したアランだったが、コンラートは礼儀正しく臣下としての分をわきまえていた。

 コンラートはカルディオより薄い茶髪にオレンジがかった切れ長な目の青年で、文官として登城している割に身体が鍛えられていた。アンダーソン侯爵家特有の狸の獣人だが、悪い意味での裏は感じられなかった。


「最近父のもとにグラヴィット辺境伯の使いが度々現れるようになりました。密談内容が気になり調べてみたところこのような物が見つかりました」


 そう言ってコンラートが差し出したのは数枚の書類。

 辺境伯というのは国の辺境にして国境を守る上位貴族の事だ。伯爵とついているが階級的には侯爵と同等で、領土は公爵領に並び、重要度でも公爵領同等かそれを上回る場合もある国の要所だ。

 コンラートから渡された書類をレイニードが受け取り、中を確認してアランに手渡した。

 アランは書類を受け取ると文面に目を向けた。


「これは……。確かにグラヴィット辺境伯からの物なんだな」


「はい、間違いなく」


 アランがコンラートに確認したのも頷ける。書類には金銭と引き換えにアランとミズハの仲を破壊して欲しいうものだった。


「我がアンダーソン侯爵家とグラヴィット辺境伯爵家とは爵位的な物は同格ですが、重要度でいえば間違いなくグラヴィット辺境伯家の方が上です。最悪トカゲの尻尾切りにされる可能性があります」


 コンラートの言った事は十分考えられる。コンラートの持って来た書類にグラヴィット辺境伯家を物語る物は何もなく、主犯がカルディオ・アンダーソンだといわれればそこで捜査が終わる可能性もあるのだ。

 アランはレイニードを呼ぶと書類をユスタフに渡すように命じた。その際この書類がアンダーソン侯爵家にあった物だという事、差出人がグラヴィット辺境伯爵らしい事、持って来たのがコンラートだという事を内密に話すようにことづけた。

 レイニードは一礼して部屋を後にした。コンラートもアランに礼を言い、今後証拠になりうる物を探すと約束するのだった。


 この後、事件は急変して騎士団を率いたユスタフが捕りものを行った。

 下手人として上がったのは獣王国レオンの北西部の雄グラヴィット辺境伯、一派としてアンダーソン侯爵他複数名が上がった。

 しかし、一派として上がった貴族の内数名がグラヴィット辺境伯に脅されていた事が解った。アンダーソン侯爵もその内の一人として減刑され、当主の座を息子に譲った後領地にて蟄居となった。

 ユスタフは細々とした罪科から癒着・横領といった罪まで重箱の隅をつつく様に上げていった。冤罪は一切かけられていない。

 首領であるグラヴィット辺境伯は爵位没収のうえ流刑に処され、グラヴィット辺境伯領は一度王家に返上された。グラヴィット辺境伯領は国の要地なので下手な人物に渡せない為、王家直轄地として代官を置いて運営される事になった。嫡子であった息子は罪に関わっておらず、また有能な人物として、改めて子爵位を授けた。

 こうしてアランとミズハの結婚を反対していた有力者が消えた。それでも全員が納得している訳ではないのはしょうがない事だろう。







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