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狐少女の日常  作者: 樹 泉
三章 ユグドラシル学園二年生編
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ダンジョン授業強化週間


 六月の中旬にあった中間テストから七月の下旬にある避暑までの間に一年生ではダンジョン授業が始まり、既にダンジョン授業の始まっている二・三年生はダンジョン授業強化週間に入る。

 ダンジョン授業強化週間中は基礎&選択科目の授業が減りダンジョン授業の時間が増える。


 ミズハ達はダンジョン強化週間中に地下十階層を突破する為の予定を立てていた。

 現在地下七階層まで探索を開始しているのでそのまま地下七階層を突破して地下八階・地下九階を通り過ぎればボスがいる地下十階層だ。地下十階層は地下九階層から繋がる階段と通路、ボスのいる大きめな部屋、通称『ボス部屋』。更にボスを倒した者達だけが入れる財宝部屋と地下十一階層に通じる転移門がある。一度地下十一階層に出た後に上方に通じる階段を通ると何故か地上に出る。ダンジョン七不思議の一つである。

 地下十階層までで大変な行程は地下九階層に入る階段から地下十階層に通じる階段までが離れている事だけだ。寧ろ注意が必要だったのは地下六階層の大森林だったのだ。

 ユグドラシル学園にあるダンジョンは全長距離が長い分、地下十階層までは触りでそれ程難しくない。寧ろ罠らしい罠がない分楽ともいえる。


 ミズハ、ケニス、アランは一度調べてある情報と依頼を受けにギルド支部へ向かい、レイニードとナノハはダンジョン探索に必要となる物資の買い出しに来ていた。レイニードとナノハの買い出し組はミズハとケニスが書いたメモをもとに買い出しをしていく。

 そんな準備も終わり、早朝からダンジョン前に集まったミズハ達はダンジョンに潜った。

 三日かけて地下七階層にまで潜り、七階層の魔物を倒しつつ地下八階層へ。地下八階層の確認をしてから魔物と数度戦い地下九階層を目指す。

 地下九階層に辿り着いた一行は地図を確認してから地下十階層へ向けて大周りをしながら向かった。

 地下九階層の中央には峻厳な山がそびえ立ち、真っ直ぐ向かう方が余計な時間を食う。まさに『急がば回れ』である。

 地下九階層にあるこの山は金属や宝石が品質が低いながら産出され、下位冒険者やユグドラシル学園の関係者が資金繰りの為に活動している。

 そんな山、鉱山を迂回して地下十階層に辿り着いたミズハ一行は休憩をはさんでボスに挑戦する事にした。


「ボスに挑戦する前に確認しておくよ。ボスは【コマンダーウルフ】で配下として【リーダーウルフ】二匹、更に【ウルフ】四匹がまちかまえている。【コマンダーウルフ】は僕が相手をするからミズハは【リーダーウルフ】一匹と【ウルフ】二匹の群れを引きつけつつ倒して欲しい。アランとレイニードとナノハは残りの【ウルフリーダー】一匹と【ウルフ】二匹の群れを倒してもらう。質問はあるかな?」


 ボス戦前の最後のミーティングでケニスがリーダーとして話しを纏める。

 ボスはケニスが言った通りコマンダーウルフといって大型の狼で配下の狼を強化する力を持っている。リーダーウルフは通常のウルフの上位種で、ウルフより知能が上でウルフに命令する事ができる。狼型の魔物であるウルフは二匹ずつリーダーウルフにつき従い攻撃を仕掛けて来る事がギルド秘蔵の本に書かれていた。


 話し合いを終えた一行は通路とボス部屋を仕切る扉を開き中へ入る。すると広大な部屋の中央に光の文様、魔法陣が光り、どこからか七匹の狼が出現した。

 もしこの部屋に七匹の狼だけが生息するなら食料が問題になるだろうが、毎回迷宮の何処からか魔物が現れ挑戦者と敵対する。


「ガウガウ、オオーーン!」


 コマンダーウルフの遠吠えでリーダーウルフとウルフの周りに赤いオーラが纏わり着き、狼たち全員の威圧感が増す。

 リーダーウルフ一匹に着きウルフが二匹つき従い駆け始める。

 最後尾にコマンダーウルフを置き、リーダーウルフとウルフが左右に展開した。おそらく包囲しようというのだろう。

 リーダーウルフとウルフが左右に別れた事でコマンダーウルフとの間に障害がなくなりケニスが一瞬でコマンダーウルフに接近する。

 一方右斜め前に前進したミズハはリーダーウルフ一匹とウルフ二匹の群れを他のウルフ達と合流させない為に土魔法で障壁を作って三対一に持ち込んだ。

 最後にアランとレイニードを前衛に後衛をナノハが勤めるチームはチームワークを駆使してリーダーウルフ一匹とウルフ二匹の群れを迎え撃った。


 リーダーウルフとウルフが前衛のアランとレイニードに到達する前にナノハが詠唱破棄の樹魔法でウルフ一匹を絡め取る。木の根で雁字搦めに縛られたウルフは地上二メートルに宙吊りにされ、もがいている。


「ガウ、ガウガウ!」


 リーダーウルフは素早く自由なウルフに指示を出すと身動きの取れないウルフを置いて更に加速した。

 リーダーウルフとウルフがアランとレイニードに衝突して剣と爪や牙が高い金属音を響かせる。

 リーダーウルフとウルフは今まで会った同種の魔物より実力が高く、アランとレイニードと二対二の戦いを繰り広げる。そこにナノハの樹魔法で硬化された樹の葉が渦巻き襲いかかった。


「キャン!」


 リーダーウルフは後ろに飛びずさり二・三枚のこの葉にかすり傷を負ったが、ウルフはこの葉の竜巻が直撃して全身から血を流している。

 ふらついてはいるが立ち上がったウルフの闘志はいまだ健在だ。

 しかしウルフの相手をしていたレイニードはウルフの隙を見逃さずに剣を振り抜く。


 ザンッ! と音を立ててレイニードはウルフの首を切り落とした。

 するとウルフの周りに集まっていた赤いオーラは消え失せ、ウルフがその場に倒れ落ちた。


「グルル、ワオーン!」


 リーダーウルフは気合も高々に目の前の敵、アランに躍りかかろうとした瞬間、リーダーウルフ達が纏っていた赤いオーラが消え去った。


「ワフッ!?」


 その突然の出来事にリーダーウルフは驚き背後のコマンダーウルフを窺い見ようとしたが、その瞬間アランが前に出て剣を薙いだ

 指揮官であるコマンダーウルフがケニスにより既に亡きものとなった事を知ってもリーダーウルフは諦めなかった。

 正面で剣を構えるアランに飛びかかった瞬間、身体のバランスを変え一番後方に立っていたナノハのもとへ向かった。


「【土よ】」


「キャウン」


 ナノハが短縮詠唱の土魔法でリーダーウルフの進行方向に大量の土の槍を作って迎撃すると、リーダーウルフは腹に土の槍を食らって崩れ落ち、そこに直ぐ様駆けつけたアランにより命の灯を消した。

 そしてナノハが吊るし上げたウルフに止めを刺して力を抜いた。

 アラン達三人が安堵の溜息を吐いた頃にはコマンダーウルフを相手していたケニスは魔法を駆使して解体を終え、ミズハの方も土の障壁を消していた。


「よし! 全員勝ったね。早く財宝部屋に行こう」


 ケニスの合図に全員にアラン達が対応したリーダーウルフとウルフを解体して素材を手に入れた後に財宝部屋の扉を開く。

 中に四十センチ程の宝箱が置いてあり、中に迷宮通貨と呼ばれる迷宮産のコインと薬が入っていた。

 五人で分けて下位から中位程の宿に一週間程泊まれる金額と一人三本ほどずつ分けられる薬は、この階層の宝にしては平均やや少なめで、当たりであれば装備品なども入っている。


「まあ、こんなものかな。僕とミズハはこれより上位の薬を持っているからアラン達三人に薬は分配しよう。迷宮通貨は換金してから平等に分配するね」


『了解』


 ケニスの言葉に全員が頷く。


「初めてのボス戦はどうだった?」


「思った以上にボスというのは手強いものだな」


「そうね。最後に私の方に迂回して来るとは思わなかったよ」


 ケニスの話しにアランとナノハが答える。


「うん、ボスは知能が高いから予想外の攻撃もして来る。でも三人共ちゃんと臨機応変に動けていたよ」


 ケニスの「初めてのボス戦にしては良い動きだった」という称賛にアラン達三人は僅かに照れる。


「でも咄嗟の行動に慌てる面もあるみたいだけど」


『うっ』


「ケニス、そこは経験で何とかなるわ。十一階層からは罠や意地の悪い魔物もいるといわれているから、そこで経験を積んでもらいましょう」


「そうだね」


 上げて落としながら反省会をするケニスにアラン達三人は気不味そうな声を出し、そこにミズハが救いの手を述べる。まさに飴と鞭。これがアイコンタクトや場の空気で行われたのならアランが嫉妬しただろうが、早々に魔物を倒したミズハとケニスはアラン達を観察しつつ話し合った結果だった。

 上げてから落とす反省会はケニスが今までの冒険者としての経験から導き出したもので、下げてから上げるより落下分がよりある方が印象値が大きく後々まで覚えていれるからだった。ただ人として下げてから上げられた方が幾分精神的に良いというのは無視されている。


 そんなこんなで地下十一階層に出たミズハ達は、余裕のある地下十一階層の探索はアラン達の索敵強化に当てられた。

 アランとレイニードは獣人という事もあり五感が人間より優れているし、ナノハも魔法を使った索敵で魔物を発見できる。その結果、特に怪我をする事もなく地下十一階層の探索は進んでいく。

 しかし、なれない索敵にアラン達は疲弊していた。

 集中力がある方のアランやレイニードでも常時警戒は身体に疲労が溜まり、魔法で索敵をするナノハも同じく疲労を溜めると同時に魔力を消耗していた。

 それらをかがみ見てケニスとミズハは明日の帰還を決定した。

 その日の夜は結界石を使って魔物が寄って来ないようにしたうえで、ケニスとミズハが交互に見張りをした。

 翌日ぐっすり眠ってしまっていたアラン、レイニード、ナノハは平謝りでケニスとミズハに謝罪をした。


 その日の索敵もアラン達三人に任せてもケニスとミズハは三人以上の範囲を索敵していた。

 地下十一階層以下になると十階層ごとのボス以外に中ボスと呼ばれる普通の魔物より強い魔物も出て来るのだ。それらは感知能力なども通常の魔物より優れており、気付いた時は既に目の前などという事もある。特にこの地下十一階層にいる中ボスは素早さ特化の魔物でアラン達には荷が重いだろう。

 といってもケニスもミズハもそこまで神経質にはなっていない。何せ地下十一階層は草原という立地で視認できる範囲が広く、遠くの魔物まで感知できる。更に地下十一階層の中ボスは魔物の方からは攻めて来ない臆病な性格だ。


 アラン達に索敵を任せ地上に戻った時には空は茜色に輝き、薄らと紫のベールがかかりつつあった。

 急いで冒険者ギルドで素材を売り払い、男女それぞれの寮へと向かった。

 この日、ダンジョン授業のレポートを書けたのはミズハとケニスの二人だけで、後の三人、アラン、レイニード、ナノハの三人は汚れを流し食事を食べると早々に眠りに着いていた。







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