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狐少女の日常  作者: 樹 泉
三章 ユグドラシル学園二年生編
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終幕劇の後で


 生徒会室を退出したミズハ、アラン、ナノハ、レイニード、ケニスの五人は憂鬱思いを抱きながら歩を進めていた。

 西日の射し始めた茜色の廊下を歩きながらミズハがポツリと呟いた。


「もし、アランがランドルフ先輩同様魅了されていたら、アリアちゃんが言っていた通りに虐めていたかもしれないわ」


「ミズハ……。ミズハはそれでも彼女を虐めたりなんかしなかっただろうさ」


 ミズハが考え抜いていきついた答えをアランが否定した。


「そんなことわからないわよ。私だって嫉妬はするのよ」


「いいや、俺がミズハにそんな事はさせない。獣人の番への思いは重いぞ」


 ミズハの何処か苦しそうな言い分をアランが笑って弾き飛ばした。


「俺はミズハにしか興奮しない、これまでもこれからも。だから安心してくれ。それにしてもミズハが嫉妬していてくれたんだな、嬉しいな」


「笑い事ではないのよ!」


 さっきまでの暗い表情は何処へやら、とアランが笑いだすとミズハが焦った様に言いつのった。


「悪い悪い、俺は幸せ者だな。ハハハ」


「もー、アラン!」


 直も笑い続けるアランにミズハがポスポス、否、ボスボスと拳をふるう。


「ッグ、ミズハ。ギブギブ、俺が悪かった」


「まったく」


 急所を抉るミズハの拳に流石のアランも白旗を上げてギブアップした。からかうには相手が悪かったようだ。

 それにしても、既にミズハの尻にアランは引かれているのだろうか。

 そんな事を思いながら側にいた三人は苦笑してアランとミズハのじゃれあいを見つめた。


 トーマスが言っていた通り、既に退学手続きはあらかた終わっていた様で問題があった週の内にアリアとトーマスは故郷へと帰っていった。

 混乱していたアリアはトーマスの側で幸せそうにしていた。それはアリアの傍らにいるトーマスも同じで穏やかそうな優しい顔をして、退学するとは思えぬ顔で去っていった。

 二人がユグドラシル学園を出ていったのは昼前で生徒達は授業中であったが、アリアとトーマスが自主退学するという噂は瞬く間にユグドラシル学園中を駆け巡った。

 噂として流れたのは二人が去った後の昼休みから放課後にかけてだが、安堵の溜息を漏らす者が多かった。それだけ騒動の渦中にいた人物達だった。

 アリアに夢中になっていたと目されるランドルフは魅了が解かれ、今まで溜めていた書類に追われている。


 そんな中ミズハ達はダンジョン授業でダンジョンに潜っていた。

 ダンジョン授業はパーティーごとに進み具合が別れ、未だ数時間で往復できる者とミズハ達のパーティーの様に数日かかるパーティーに分かれる

 そこで一年間全体のダンジョン授業時間が決まり、その時間を自由に当てる事ができる。

 授業は当然進むので、遠出するパーティーはその分の授業プリントを提出しないといけない。

 その分、野宿など野営に使った時間も加算されるので、遠出できるパーティーの方がダンジョンに潜る回数は少ない。


 ミズハ達一行は地下五階を探索していた。

 前回のダンジョン探索の時に地下四階層に降りる階段は発見しており、その階段を下り地下四階へ。

 階層と階層の間の階段は近くにある場合と逆にある場合に別れ、地下四階層の階段から地下五階層への階段は比較的近くにあった。

 地下四階層は荒れ地が多く採取する素材が少ないため、数度の戦闘後早々に地下五階層に降りる事にしたのだ。

 これらの内容はユグドラシル学園にあるギルド支部でミズハを中心に調べており、決断は早々に決まった。

 今回の探索でできる限り深層に潜っておく事を決めていた一行は、ギルドの資料に印されていた地下六階層の階段へと急いだ。


 今回行程を急いでいるのは来月六月の中旬に開始される中間テストを意識してのことだった。

 現在は五月の下旬に当たり、テスト期間を考えると長期でダンジョンに潜るミズハ達は六月の中間テストが終わるまでダンジョンに潜れない。その為今回の探索でできるだけ下層に行く事にしたのだ。

 今までは階層ごとに出されている採集依頼などを虱潰しに受けていたが、下級冒険者と中級冒険者の別れ目の十階層にいるボスと呼ばれる強い魔物を倒し、中級冒険者と呼ばれるCランクの依頼を受けられる階層に近づきたいのだ。

 迷宮にはある階層ごとにボスと呼ばれる魔物が存在していて、その魔物を倒すとレアなアイテムと次回から使える迷宮専門の転移門が使えるようになるのだ。ユグドラシル学園にあるダンジョンのボスがいる階層は十階層ごとで、Cランクの依頼があるのは十階層後半から二十階層前半にかけてである。

 ミズハやケニスは勿論アランやケニス、ナノハもそれぞれ戦闘技術を小さな時から学んで来たので、現在の階層での戦闘は問題ない。

 一番体力の少ないナノハに合わせて進むが、前年度のマラソン大会終了後からナノハも鍛え始めたため、比較的足早に進行を進められていた。


「お、あれが地下六階に通じる階段の目印じゃないか?」


「大きな枯れ立った木に赤い木の実、おそらくあそこだね」


 アランの声に答えたケニスが再度古木に目をやると、枯れているにもかかわらず一つだけ赤い木の実がなっていた。

 ミズハ達が枯れた大樹の下を調べると直ぐに階下に通じる階段が見つかった。

 早速階段を下ると地下六階層は見渡す限り木々が続く森林地帯だった。


「情報にも載っていたけど逸れたら各自コンパスを使う事。この階層はコンパスが効くから」


「「「了解!」」」


「いつも通り私が殿を務めるわね」


 ケニスの注意にナノハ、アラン、レイニードが頷き、ミズハが締めくくった。


 地下六階層は何処までも続く木々に下層に続く階段の目印を探すどころの問題ではなかった。

 これまでも林や山など足元が悪かったり視界がふさがりかける事もあったがこの階層程ではなかった。それ程地下六階層の樹木は間隔が狭く鬱蒼と茂っていた。

 そんな視界が狭まる中、気配を殺した魔物達が襲って来る。

 慣れているミズハやケニスが先頭と最後尾を守っているとはいえ左右から襲って来る魔物の襲来にアラン、ケニス、ナノハはおおわらわだ。

 三人の気配察知能力を鍛えるために暫くこの地下六階に留まる事も視野に入れたケニスであったが、既に対応を覚え始めた三人の様子窺い杞憂だと知る。


 地下七階層に辿り着いた一行は階段の付近を探索してユグドラシル学園に帰還する事を選んだ。

 そろそろ帰らないと食料面はそこまで心配せずとも中間考査の範囲が発表されかねない。

 ケニスやミズハにしてみればダンジョンから即時帰還できる道具『帰還石』も所持しているが、それはダンジョン産のレアアイテムで、ダンジョン内でしか使用できないとはいえめ攻略序盤で覚えて良い贅沢ではないため全員で話し合って地下十階層を突破してダンジョンの依頼の報酬で『帰還石』を買えるようになってから使用するという話しに決まった。


 ユグドラシル学園に帰りギルド支部で討伐の依頼と簡単な最終依頼を片付けたミズハ達は、ユグドラシル学園にダンジョンのレポートを提出した。


 ミズハ達がユグドラシル学園にダンジョン授業のレポートを提出した次の日、計ったように前期中間テストの範囲が開示された。

 それによりユグドラシル学園の生徒大半がテスト勉強を開始した。流石は世界一の就職率を誇る学校の生徒と言うべきか。

 二週間のテスト準備期間を終えてついに試験日、全校生徒が机に向かい答案を埋めていた。


 三日間に及ぶ試験を潜り抜けた生徒にはテスト休みが当てられ、思い思いに羽を伸ばして過ごしていた。

 一方教師陣はというと休みを返上でテストの採点にかりだされていた。

 基礎科目の教師は勿論、選択授業の教師から担当授業のない見習い教師まで机にかじりつきペンを動かす。

 そんな苦労が報われたのは日が傾き始めた蜜柑色の空が紫の菫色に変わり始めた時だった。

 仕事は問題の採点のみならず各教科の平均やクラスの平均、更には学年平均や全生徒の平均、歴代の平均との比較など仕事はごまんとある。そんな仕事も終え、各学年の上位者を書き出し、掲示板に張る用紙に書き込んでやっと業務は終了した。

 しかし、教師陣の仕事は完全には終わっていなかった。それは何故か。勿論テストに赤点が設定されていて、赤点だった者達の補習授業の準備も勿論教師陣の仕事である。

 ここで教師陣は二つのグループへと別れた。一つは既に帰宅を開始し、もう一つは残って残業をこなす。前者は明日も休日返上で授業の製作にあがるが、後者は下手をすれば徹夜する事をおして今日中(?)に終えて少しでも休日を楽しむ者だ。

 そんな教師陣の苦労の結晶が休み明けの生徒の前に張り出された。


 生徒の上位陣を記した紙の『二年生』と書かれた用紙には今年度初めてのテストの順位が印され、前年度に続きナノハが首位を飾り、二位をケニスが取りアランが三位に輝いていた。四位がミズハで五位がレイニードだ。

 今まで同様三位のアランと四位のミズハは僅差でその点数の違い僅か二点。

 アランはミズハに勝つ事を宣言する事が多いが、今回は喜びを露わにせずミズハを心配げに見つめた。


「ミズハ、何かあったのか?」


「恥ずかしい話なのだけれど、アランが魅了にかからないかハラハラしていて当時の授業がはかどらなかったの。今回はその部分を埋めていて、テスト範囲全体を勉強できなかったわ。でもこれは理由にならないわね、アランおめでとう」


「ミズハ……。次も俺が勝つからな」


「ふふ、次は私が巻き返すわ」


 心配げにミズハを見つめるアランに、ミズハは自傷気味に話し最後にアランを祝福した。

 当初次席のケニスとアランは随分点数差があったが段々と詰まって来ているからだ。

 次回のテストの勝利宣言を行うアランにミズハも返す。


 その日の放課後、ミズハ達は生徒会の仕事をしていた。

 途中、アランとミズハが職員室に書類を提出しに行く事になり、二人連れ立って職員室へ向かった。

 職員室からの帰りアランが少しだけ寄り道したいと言い、人気の少ない通りに差し掛かった。


「ミズハ、アリア嬢の件は心配かけてすまなかった。改めて誓おう、俺は一生を賭けてミズハを愛し抜くと」


「アラン……。私も貴方を信じ切れずに申し訳ないわ。こういうのは理屈ではないのね」


 アランがミズハの手を握り真摯な態度で告げれば、ミズハの頬に僅かに朱が差す。


「ミズハ」


「アラン」


 アランがミズハの顎に手を添えるとミズハは瞼を閉じ、顔を上げた。そんなミズハにアランは顔を近づけそっと唇どうしを重ね合わせた。

二人の唇が合わさっていたのは一秒かはたまた十秒か、ゆっくりと二人の顔が離れていく。


 生徒会室にご機嫌で現れた二人を見て何かあったと悟った他のメンバーだったが、浮かれてミスをするのならともかく何時も以上に処理速度の上がったアランとミズハの水を指すのははばかられた。







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