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狐少女の日常  作者: 樹 泉
一章 幼少期編
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王都グラール


 ミズハがゲオルク達と会った日から二週間、ゲオルクの故国ターザ国が王都グラールの目前まで辿り着いていた。


「すごーい。壁が高い」


 ミズハがグラールの外壁を見て歓声を上げた。

 この二週間ミズハを交えた旅は賑やかになったが、移動の速度は極端に下がった。途中ゲオルク達がかわるがわるミズハを抱き上げ行程を進んだが、それでも二週間かかってしまった。


「グラールの外壁はターザ国一だからな」


「へー、そうなんだ」


 ゲオルクがミズハに解説するとミズハの瞳はキラキラと輝いた。


【グラールはターザの王都だしね、守りは硬いよ】


 そんなミズハを見てアンディーは苦笑しながらゲオルクの後に続く。

 しかし、アンディーの声は聞こえるが姿は見えない。精霊は人間の目に見える〈姿現し〉という術があるが、中位精霊以上ではないと使用できない。つまり、普段は見えないのだ。


「私達も門に並びましょう。今からなら夕方には中に入れるでしょう」


「はーい」


 アリアナの言葉にミズハは元気に返事をして、門前の列に並んだ。




「次の方どうぞ」


「おう、俺達だ」


「げ、ゲオルク様! お帰りになったのですね」


 長蛇の列に並び待つ事一時間と少し、予想より早く列の先頭に立つ事ができた。

 ゲオルク達は最高ランクの冒険者なので、列に並ばずとも王都の中に入る事ができる。だが、五人、いや四人はしっかり列に並ぶ事にした。そこには色々な思惑があるが、ミズハの教育の為である事も確かだった。


「こちらの子供は?」


「ああ、俺の娘だ。冒険者じゃないから入場料は払うぞ」


「お、お子様でしたか。はい! 確かに!」


 村などは兎も角として、町クラスになると入場料がかかる。特例として入場料のかからない職業が冒険者と商人だ。それぞれギルドと呼ばれる組織がメンバーを管理し、メンバーにはメンバーズカードが渡されている。




【グラールに入った訳だけど、これからどうするんだい】


「俺の家に向かう。まだ少し歩くがミズハは大丈夫か」


「うん。大丈夫だよ」


 グラールに入った一向は最初に今後の事を気にしたアンディーによって歩みを止めた。

 ゲオルクが向かう先を説明しミズハの体力が平気か尋ねると、ミズハは元気に答えた。しかし、ミズハの頭に狐耳はなく三本の尾もきれいさっぱり消えていた。

 これには理由がある。

 ミズハの持つ三本の尾は大変目立つ。

 奴隷制度は一般的に禁止されているが、裏では未だ存在している。珍しい三尾の狐の獣人、しかも見た目はエルフ譲りの美貌だ。いくら世界一とも言われる冒険者パーティーの庇護下に入ったとはいえ狙われかねない。

 その為エスタークに〈人化の術〉を道中習っていたのだ。


 五人+αは門の近くにある市民街(しみんがい)を通り、段々とグラールの中心へと歩を進めた。次第に辺りの家は大きくなり、巡回する兵士の姿も見えるようになった。


「おい! そこの冒険者達、貴族街(きぞくがい)に何の用だ!?」


「すまんな、家に向かっている所だ」


「ゲ、ゲオルク・ダンマルス様でしたか。申し訳ありません!」


 兵士の詰問にゲオルクが代表として答えると、兵士は慌てて頭を下げた。

 ゲオルクは冒険者だがランクは最高ランクの上に貴族出だ。兵士も顔を覚えている。


 ゲオルクは貴族街の中程で歩みを止めた。


「ここが俺の家だ」


「大きい!」


 ゲオルクが家を指し示すと、ミズハがポカンと口を開け感嘆の声を上げた。


「中々の家ですね、この大きさなら調薬と錬金術の工房も作れますね」


「ウム、儂の鍛冶工房も頼む」


「おい……」


「クハハハハ」


 ゲオルクの家、いや屋敷を見てアリアナとダグの感想は工房を持てるという事であった。これに呆れ声を出すゲオルク。何故か上機嫌に笑い声を上げるエスタークだった。


 屋敷に入ったゲオルクは玄関口に置いてある鈴を手に取るとそれを振った。


「御帰りなさいませ、ゲオルク様」


 ゲオルクが鈴を鳴らして直ぐに現れたのが、灰色の髪をオールバックにしたゲオルクより少し年嵩の眼鏡をした執事だった。


「御客様でしょうか?」


「こいつ等は今日からここで暮らすアリアナとダグにエスタークだ。それとこの子が俺の娘になったミズハだ」


「娘ですと! あの浮いた名の一つもなかったゲオルク様に! 早く大奥様にお知らせせねば。……はっ、これは申し訳ありません。アリアナ様にダグ様、エスターク様ですね、ゲオルク様とパーティーを組んでいただきありがとうございます。直ぐにお部屋を準備します。」


 ゲオルクはまずパーティーメンバーを紹介しミズハを紹介した。が、ミズハを紹介した瞬間、執事はカッと目を見開くと自分の世界にトリップした。

何とか自力で(うつつ)に戻るとアリアナ達の部屋を侍女に準備させた。


「ささ、お嬢様お疲れでしょう。リビングでお寛ぎ下さい。皆様もこちらにどうぞ」


「……ゲオルク、貴方執事にまで心配されていたのね」


「うるさい」


 執事はミズハを上にも下にも置かないもてなしをした。

 それを見たアリアナはゲオルクを冷やかしたが、ゲオルクは力なく返すしかなかった。




「改めまして、(わたくし)執事長のトレンドと申します。皆様これから宜しくお願い致します」


「宜しくお願い致しますね」


「ウム、宜しく頼む」


「宜しくな」


「ミ、ミズハです宜しくお願いします」


 執事のトレンドが挨拶すると、アリアナ、ダグ、エスタークの順で挨拶をした。ミズハが挨拶すると場はほっこり和んだ。


「ミズハ、一度〈人化の術〉を解いてくれないか」


「はい」


 ゲオルクが屋敷のメンバーにミズハの本当の姿を見せるように言うと、ミズハは頷き〈人化の術〉を解いた。


「これは、狐の獣人。それも多尾(たび)(ぎつね)でしたか」


 トレンドは姿の変わったミズハに最初驚いたが、直ぐに納得した。ミズハが多尾狐だったからだ。

 多尾狐とは尾の数の多い狐の獣人、狐の魔物の事を指す。

狐の獣人や狐の魔物は、尾の数が魔力に正比例するのだ。しかも、この近年多尾狐の話は聞いた事がない。

 この事が外部に漏れれば獣王国は引き抜きに来るだろうし、性質の悪い人間に狙われるかもしれない。

 少なくとも自分でその事が判断できるまでは隠しておいた方が良い。

 そこまでを一秒ほどで考えたトレンドは手で眼鏡を直した。トレンドが眼鏡を直すのは心を落ち着かせる時の癖の様な物だ。




「皆様、お部屋の準備が整いました」


「そうか、こいつ等を案内してやってくれ。ミズハは休ませろ」


「畏まりました」


 お茶菓子を食べながらお茶を飲み和んでいると、侍女が一人近付いて来て部屋の準備ができた事を告げた。

 ミズハは先程からお菓子を食べながら船を漕いでいる。

 お菓子は食べ終わったものの今にも寝てしまいそうだ。


「ミズハお休みなさい。私も少し休ませてもらうわね」


「うにゅ。お休みなさい……」


 アリアナの合図でミズハも立ち上がるが、今にも倒れそうにフラフラしている。


「よっと、俺が寝かして来る。お前らも部屋で寛いでくれ」


「ウム、そうさせてもらう」


「俺はもう少し菓子を貰ってから休む」


 廊下で寝そうなミズハをゲオルクが抱き上げ部屋を出ようとし、ダグとエスタークに休むように勧めた。

 ダグは休むと言ったがエスタークはまだお菓子を食べる気の様だった。


「食べ過ぎるなよ」


「おう!」


 ゲオルクの一応の注意にエスタークは元気よく答えた。しかしエスタークの頭には届いていない様で、バクバク食べ出した。

 それを見てゲオルクは溜息を吐くのだった。





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