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狐少女の日常  作者: 樹 泉
三章 ユグドラシル学園二年生編
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ヤンデレ


 翌日、アランとレイニード、ケニスはカルメのいる教室に行き面会を済ませた。

 その日の放課後に生徒会役員一同とアリア、ランドルフと同じく魅了されている可能性のあるトーマスを交えて話し合いをする事になった。


 放課後に生徒会に集まったメンバーは総勢九名。生徒会長のランドルフ・副会長のカルメ・会計のアラン・書記のレイニード・庶務のナノハ・魔人のミズハ・武人のケニスを含めた生徒会と問題のアリアとトーマスだ。

 何の用があるのか眉をひそめるランドルフにカルメは無言で隣りの位置ケニスにを譲った。

 ケニスはランドルフの前に辿り着くと複数の解呪の呪文を詠唱破棄でランドルフに向けて放つ。するとランドルフは頭に片手を当ててひざまずいた。


「ランドルフ様!? どうなさったのですか!?」


 ランドルフに近寄ろうとするアリアをミズハが止めると、アリアはミズハを鬼の形相で睨みつけた。


「貴方が何かしたのね! ランドルフ様、この方がわたくしを虐めましたの!」


 蹲っているランドルフを無視してアリアがまくしたてると、アリアから何かの魔法が放たれた。

 アリアから魔法が放たれた瞬間、ミズハがそれを解析して瞬時に破壊した。


「……アリア、俺は大丈夫だ。だが、ミズハに虐められたという証拠はあるのか?」


 ランドルフが頭から手を離し、何かを払う様に顔を振るとアリアに向き直った。その表情は今までアリアに向けられていた甘い表情から厳しい、初めてあった頃以上の警戒心が覗いていた。


「ら、ランドルフ様? どうなさったの? わたくしが言うのだから証拠なんていらないのよ」


 アリアはランドルフの言っている意味が解らないと首を傾げた。

 アリアにとって自分の言った事が叶えられるのは当たり前のことで、今回のケースが産まれて初めての出来事だった。

 家族は末娘のアリアの事を溺愛しているし、それ以外の人間でアリア自身が好意を持った相手は無意識の魅了の力で陥落し、アリアの言う事を疑うなどした事がないのだ。


「アリア、お前の言っている事には証拠が何一つない。それに一年の階層にミズハが向かえば話題になる、そんな話は聞いていない」


「らんどるふ様?」


 訳が分からないとアリアの口調も何処か幼さが出る。


「その証拠何ですが、見てもらいたい物が」


 ケニスはそう言うと魔道具を起動してアリアの行動を映し出した。


「どういう事だ、アリア」


 ランドルフは感情を押し殺した口調をアリアに向けると、アリアはワナワナと身体を振るわせた。


「貴女が、貴女がわたくしを嵌めたのね! 優しかったランドルフ様を返して!」


 アリアはそう叫ぶとミズハに駆けより平手を食らわせようとしたが、アランによってその手は途中で止まった。


「離してアラン様! その女がいけないの! 全てはその女のせいよ!」


「うるさい。ミズハに触るな」


 錯乱したように口調も一部変わり、喚き散らすアリアにアランは静かな、それでいて威圧的な言葉を二言いうとアリアは怖じ気づき身を固まらせた。


「アリア、そこまでにしなよ、証拠は揃ってしまっているみたいだ。だから言っただろう外の世界は怖いよって。でも、僕の屋敷に来てくれれば僕が全てから君を守るよ」


 トーマスはアリアが明らかに劣勢になっているのに、寧ろ嬉しいと言いたげに微笑みながらアリアの頭を撫ぜる。


「トーマス……。ランドルフ様がわたくしの言う事を聞いてくれないの」


「うん、そうだね。アリアは僕だけを見ていれば良いんだよ」


「そうね、トーマスはずっとわたくしと一緒にいてくれる?」


「ああ、当然だよ」


 今にも泣きそうなアリアをトーマスが慰める。その言葉は優しく、けれどどこか病んだ様な言葉だった。

 しかしアリアはその事をわかっていないのか、パッと笑顔を浮かべるとトーマスのもとへ歩み寄った。


「生徒会の皆様にはご迷惑をおかけしました。この後はアリアを外してお話したいと思いますが宜しいでしょうか?」


 トーマスは姿勢を正して敬語で生徒会メンバーに語りかけた。


「そうだネ、アリア嬢にハ席ヲ外してもらおウ。皆モそれデ良いネ」


「ありがとうございます」


 現在魅了の力が解けたばかりで頭が完全に回っていないランドルフに変わりカルメが代表して意見を言った。それに生徒会のメンバーが頷くとトーマスが礼を言い、アリアを部屋の外に追いやった。


「トーマス・クルタール、お前はアリア嬢が魅了の力を使っているのに気付いていたか?」


「はい」


 アランが代表として質問をすれば、トーマスは静かに頷いた。


「魅了の力の事に気が着いているということはトーマス、お前は魅了にはかかっていないんだな。何故アリア嬢を放っておく?」


「僕は生まれつき魔法が効きにくい体質の様で、アリアの魅了にはかかっていません。何故アリアを放置しておいたか、というとアリアに問題を起こして欲しかったからですよ」


 アランがみけんに力を僅かに入れて問いかけると、トーマスは暗い微笑を浮かべて答えた。


「問題を起こさせたかった、だと」


「ええ、そうですよ。アリアが問題を起こして罰せられれば合法的に囲えるじゃないですか。学校に通えば早かれ遅かれアリアは魅了の力を使ったでしょう。最悪僕が罪を暴くつもりでしたが、流石はユグドラシル学園、見事に見破っていただき光栄ですよ」


 アランの疑問にトーマスは先程と同じ笑みを浮かべつつ病んだ劣情をここにはいないアリアに向けた。


「まさかお前はその為に今までアリア嬢に注意を促さなかったのか!?」


「そうです。僕は小さな頃からアリアが欲しかった、その為なら何でもしますよ」


 アランはあまりなトーマスの言い分に怒りを覚えて声を荒げれば、トーマスは柳に風とばかりに涼しい顔で内に秘めていた狂気を振り撒いた。

 もしトーマスがアリアに注意を促し魅了の力を制御できるようにしていれば、アリアが問題を起こす確率は減り、アリアが罪に問われる事もなかったかもしれないのだ。それを自分の目的の為に見逃していたと言ったのだ。


「アラン少シ落ち着きなヨ。それでトーマス君、君ハこれかラどうするつもりだイ?」


「そうですね。アリアと一緒に学園を去ろうかと」


 カルメがアランに注意を促し、アランに変わってトーマスに問うとトーマスはあっさりと答えた。


「僕はこれでも魔道具製作には秀でていますし、アリアを養うのは問題ありませんから」


 トーマスは既に魔道具製作では職人レベルの技量を持っており、魔道具製作、つまり錬金術の授業から得られる知識は少ない。

 既にトーマスは本国にいる父伯爵のもつ商会専属の錬金術師として国家に登録されているのだ。


「アリアと僕の分の自主退学手続きはあらかた済んでいますので、本日はこれにて失礼します」


 それだけ宣言するとトーマスは生徒会室から退出していった。


 トーマスが出ていった生徒会室には重苦しい沈黙が流れていた。


「……ミズハ、今回の事は申し訳なかった。もう少しで無実のお前を糾弾するところだった」


「や、止めて下さい、ランドルフ先輩。今回の事は先輩だけに非がある訳ではありません、どうか頭を上げて下さい」


 沈黙を破ったのはランドルフで灰緑色の頭をミズハに向かって深々と下げた。

 それをミズハが慌てて元に戻させる。


「ランドルフが元に戻っテ良かったヨ。それにしてモ、後味ノ悪イ最後だったネ」


「そうですね」


 長息を交えながら話すカルメの言葉に答えたのは誰だったか、もしかしたら全員で呟いていたのかもしれない。それ程後味の悪い幕引きだった。

 アリアに関してはもっと強く出て退学処分にした方が良かったかもしれないが、あの場にいた者はトーマスの狂気に呑まれていた。それはSランクの冒険者であるケニスやミズハ、王族であるアランも同じだった。

 そして、そんなトーマスの蜘蛛の巣に囚われたアリア。被害者であるランドルフも苦い顔をしている。


「それにしてモ、あの映像ハ盗撮ではないかイ?」


「「「…………すいません」」」


 カルメの心は笑っていないのに顔だけ笑うという圧力に屈し、二年生男子は頭を下げた。


「今回は俺にも非があった、あそこまではっきりした証拠がなければ疑問にも思わなかっただろう。あの二人も自主退学する様であるし、今回は不問に処す。だが、次は問題をつまびらかするからな。カルメも良いな」


「まア、今回ハそれデ良いかナ」


 この後、トーマスとアリアがユグドラシル学園を自主退学した事によって今回の事件は幕を閉じたのだが、全貌を知る生徒会役員にとっては後味の苦い思い出になった。







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