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狐少女の日常  作者: 樹 泉
三章 ユグドラシル学園二年生編
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ケニス、暗躍する


 ケニスとミズハが代表でダンジョン探索のレポートを提出すると、今日の授業は終了する為ミズハ達は帰りの支度を整えて下校しようとした。

 しかし、ケニスは一人で鞄を持って一年生の階層へと進んだ。

 心配する友達を宥めてケニスは一年生の階層にある空き教室に入って姿を魔法で変え、ネクタイを外した。

 ネクタイは二学年を示す青、姿を変えても学年がまるわかりになってしまう。


 ケニスは一年生の階層を悠々と歩き自分の目的にそう相手を探した。

 何クラスか横目で見て確認してからおしゃべりに興じる男子生徒の集まりへと入りこんだ。


「へー、アニーさんってモテるんだね」


「って言っても高嶺の花だけどな」


「でも複数の先輩に粉かけるのはどうかと思う」


 ケニスが感心したように話しを振れば、その場で話していた男子生徒は疑問を持たずに話しに乗って来た。もしここでケニスが輪から外れても直ぐにケニスの事は忘れ去るだろう。そういう魔法をかけているのだ。


「アニーさんを誰かが虐めているって聞いたんだけど本当かな?」


 そう問うたケニスは周りに集まった男子生徒達の目を一人一人見つめると、チカリとケニスの目が怪しく光ったかのように見える。

 男子生徒達はケニスの様子に気づかず、目に微かな靄がかかる。そして顔から表情が抜けボーっとした表情でケニスの質問に答えていく。

 ケニスがパチンと指を鳴らすと男子生徒達に表情が戻り目元の靄も消えた。

 何事もなかったかのように会話を始めた男子生徒達の記憶には既にケニスは存在しなかった。


 ケニスが校舎に残った一年生に魔法をかけて話しを聞くこと数度、ついに女子生徒の輪にまで加わりだしたケニスに情報がもたらされた。

 今までは複数の女子生徒にアリアが囲まれているという噂だけであったが、確かに虐めは存在しているという。しかしアリアの言いふらしている供述だと暴力や器物破損などが含まれているそうだ。


「私見たんです。アニーさんが自分でノートを裂いているところを」


 その情報は物静かな文学タイプの少女からもたらされたもので、ケニスはそれを誰かに話したか訊くと首を振り誰にも話していない、と答えた。

 それらの話しを総合して、ケニスは思考を巡らせた。

 虐めがある、これは事実だろう。上級生の二・三年生にも話しは聞かないといけないが、複数人で囲んでいても今のところ暴力には転んでいないらしい。集団での注意といったところか。

 集団で一人の少女を囲むのは褒められはしないが、現状のアリアの態度も悪い。

 問題のある暴力や器物破損であるが、噂としてはさほど広まってはいない。というのもアリア一人の証言で、さらにアリアと他の一年生の間に溝があるうえ上級生が虐めているという暴力および器物破損現場を見た事がある生徒がいないためだ。

 これらを考えたケニスは一つの考えに至った。


(これは魔道具を使うしかないかな。確か以前に受けた依頼の報酬でもらった物があったはずだけど)


 アリアの噂が狂言だったとすれば証拠を押さえるしかなく、ケニスは寮へ戻る事にした。

 既に日は大分傾き出し、校舎に残っている生徒の数は少ない。


 寮に戻ったケニスは早速魔道具の鞄を漁り目当てのものを見つけ出した。

 明日は早めにユグドラシル学園に向かい設置するつもりだ。

 今日聞きこんだ内容は早めにアランとレイニードに知らせておこう、とアランの部屋である最上階を目指して窓を開けた。

 アランの住む最上階へはアランとレイニードのもつ鍵を使わないとその階層にすら踏み込めないが、ケニスは自分の部屋の窓から他の部屋の死角を飛行して最上階を目指した。


 トントントン

 アランが部屋で寛いでいると最上階であるはずの部屋の窓からノック音が聞こえた。

 警戒したレイニードがアランを背に庇い窓の方を見つめると、良く見知った顔が窓を叩いていた。

 ケニスを見つけてようやく警戒を解いたレイニードは窓に向かって歩み寄った。


「ケニス、吃驚させないで下さい」


 窓を開けて大一声の苦情にケニスは苦笑をしながら謝った。


「ゴメン、今日の聞き込みの結果を話そうと思ってさ」


「わかった。ケニス人数分のお茶を用意してくれるか?」


「畏まりました」


 アランは即座にケニスを招き入れ、レイニードにお茶の用意を命じた。


「流石VIP室、豪華だね」


「身分は隠していたが警備の都合もあってな」


 アランが最上階のVIP室を自室にしているのは知っていたが、入るのが初めてのケニスはアランの部屋を見回す。

 この部屋にアランがいるのは気配でわかっていたが、複数の部屋の前を飛行していたケニスにはこのVIP室の大きさに驚いたのだ。

 最上階の部屋を使っているのはアランとレイニードだけで他の生徒は使っていない。なのに家具の置かれている部屋だけで結構な数が存在したのだ。そのすべてがアラン達専用の部屋なのだ。


 そこにレイニードがお茶をワゴンに乗せてやって来た。


「お待たせしました。お茶とお茶菓子になります」


「悪いな、レイニード」


「ありがとうレイニード」


 アランとケニスがレイニードに声をかければ「構いませんよ」と言ってカップを三人分置いた。

 本来ならレイニードも仕える召使いがいて当たり前の家系であるのだが、アラン相手に良くお茶を出していた。


「じゃあ、早速報告するね」


 レイニードが席に着いたのを確認してケニスは口火を切った。


「まず虐められているというのは本当だよ。アリアちゃん一人に対して多人数での注意、威圧はしているようだね。だけど暴力や器物破損などは、壊れた物は見た人物はいても暴力を直接振るわれたところや物を壊している人物がいるところを見た事がある人達はいなかったよ」


「どういう事だ? 物は壊れているのに目撃者がいない、だと」


 ケニスの報告にアランは指を顎に当てて考え込む。


「でも、一人だけ見かけた人物がいてね。その子は〝本人が自分でやっていた〟と言っていたよ」


「何!? 自作自演の一人芝居だとでもいうのか!? その見かけた人物の見間違えという事はないか?」


 ケニスの話しに驚くアラン。

 直ぐ様思考を巡らせ、見かけた人物がアリアへの嫌がらせの為の言葉ではないかを確認した。


「狂言という事はないよ。僕はその子に暗示をかけたからね」


「暗示って後遺症はないだろうな」


 ケニスのあっけらかんとした答えにアランは少々顔を引き攣らせて再度確認をした。


「大丈夫だよ。魔法をかけている間だけ思考能力が下がるってやつだから」


「まったく、尋問官も吃驚な方法だな」


 ケニスが苦笑しながら言った言葉にアランは大きめの溜息を吐いて呆れた表情を作った。


「まぁ、そんな事よりさ。明日、録画の魔道具をアリアちゃんの教室に設置しようと思うんだよね」


「……はぁー、もし何もなかったら問題になるぞ。わかっているのか?」


「うん、わかっているよ」


 ケニスの盗撮宣言にアランは長い長い溜息を吐いた。

 あっけらかんと言うケニスにアランもましてやレイニードも何も言えなかった。


「コホン。まあ、ミズハの為だしな。ケニス頼んだぞ」


「任せて」


 咳払いをして気を取り直したアランは万感の思いでケニスを見やった。


「いいか、なるべくばれないように設置しろよ。だが、もしばれたら一緒に後始末してやる」


「わかっているよ。魔法学の教授にもばれないように気を使うよ」


 ばれた場合の後始末を一緒に背負うという言葉にリーダーシップは感じるが、やる事は盗撮だ。その事はケニスも分かっているが、今回の事は決定的な証拠が必要不可欠なための決行だ。

 ケニスにとって身を隠すという魔法や技術は得意なもので、専門の教師陣であってもそうそう発見させない自信はあった。更に録画の魔道具は日進月歩で小型化が進んでおり、ケニスが報酬でもらった物は最新式の物なので、大きさと画質の良さは折り紙つきだ。さらにいうなら録音機能も着いている。まさにハイスペックなものだった。

 ケニスは「じゃあ、帰るね」と言って窓へと寄っていく。

 部屋の鍵をケニスが持っているなら、ケニスの部屋のある階に魔法陣で直接飛ぶ事もできるが、そうするとアランの部屋に行った記録のないケニスがアランの部屋から帰る事になり、後々問題になる可能性がある。

 そんな事を考えてケニスは窓から出ていった。







申し訳ありませんが、次話は一週間あけて二週間後です。

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