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狐少女の日常  作者: 樹 泉
二章 ユグドラシル学園一年生編
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冬休み 一年の終わり


 獣王国レオンでは第一王子にして唯一の王子アランと一応平民といわれるミズハの婚約に国を上げて賑わった。

 急遽催された婚約パーティーとお披露目式に城は上を下への大騒ぎだ。

 民衆は自国の王子の唐突の婚約に驚くやら困惑するやらだ。

 しかし人の口に戸は立てられぬもので、アランの婚約者が平民だと知って王族と平民の身分差の恋に湧き上がった。

 ミズハがアマノ共和国の重鎮の娘だったが訳あってSランクの冒険者達に育てられ、自身もSランク冒険者である事も大いに賑わった理由だ。

 ミズハを育てた養父母の一人が獣人の英雄エスタークだった事も民衆の興奮に拍車をかけた。

 吟遊詩人達はミズハの人生を想像して詩を作り唄を奏でた。


 そんな興奮冷めやらぬ民衆の為にミズハのお披露目が行われたのだが、同じ獣人という事で受け入られやすかった。

 ミズハは予定より長く獣王国レオンに滞在してアランと共にパーティーに参加するなど慌ただしく過ごし、ユグドラシル学園の冬休みの終了が迫りターザ国に一度帰宅してからユグドラシル学園の寮へと戻った。


 冬休みが明け、新年のユグドラシル学園一年A組の教室ではミズハとアランのバカップルぶりに当てられる者が続出した。

 といってもところかまわず不純行為に耽る訳ではなく、あまりに甘い空間を作るというだけだったが。

 当然だがこの空気に最もさらされているのはナノハ、レイニード、ケニスの三人だったが、早々に慣れたのか普通に過ごしている。それは場違いな桃色空気が流れればそっとその場を後にするというものだったが。


 冬休みが終わって直ぐに催されるユグドラシル学園のイベントでも敬遠されているイベントがあった。その名は『マラソン大会』。

 ナノハなど体力のない者は地獄を見るイベントだ。

 ルートはユグドラシル学園の校舎から校門、校門を出た後に右回りでユグドラシル学園の敷地沿いに北上していき男子寮を抜けて舗装もされていない大自然のフィールドに出る。

 ユグドラシル学園の裏にある山を横断して反対側にある女子寮側に出てユグドラシル学園の敷地沿いに校門を目指し、グラウンドを十周してゴールだ。

 能力や男女間の体力の差を慮って裏山でのルートが変わるが、時間制限というものはあって無き物で走りきらないと終わらない。そんな全校いっせいのイベントだ。


 ミズハ達五人はナノハに合わせて走っていたので順位としては後ろの方だが仲良く走っていた。

 だが途中でルートが別れナノハだけ置いて行かれる事になった。

 ミズハとナノハは能力別の部分で別のルートに別れたからだ。


 ミズハ達はゴールしてからナノハがやって来るのを待った。

 ルートが別れてしまえば一緒に走るのは不可能で、ナノハが今現在何処を走っているか知る事はできない。

 各ルート最後尾を教員が走るので心配はしていないが気になる事は確かだ。


 そんなミズハ達がゴール付近で待つ事一時間と少し、見知った金髪がやって来た。

 ナノハがゴールしたのは後半組に入って暫くしてからだった。

 結果的に見れば遅い方ではあったが最後尾という訳ではない、そんな順位だった。

 ミズハ達は順位を気にしてはいないが、ナノハは思う事があったのか身体を鍛えると宣言した。


 一月下旬はユグドラシル学園恒例のダンジョン合宿だ。

 六人前後一組のパーティーを組んでユグドラシル学園にあるダンジョンに一泊二日で潜るのだ。

 このカリキュラムには最悪死ぬという事もあり、事前に同意書を書く必要がある。

 勿論、死ぬのは最悪の場合であり、大抵は怪我程度だ。

 しかしユグドラシル学園には各国の重鎮の子息子女が集まるため、最悪を想定して書類に残しておくのだ。

 勿論がユグドラシル学園側も事前に教員や冒険者などがダンジョンに入り、危険がないか探索はする。それでも生徒の中には無理をして進んで亡くなってしまうものが居るのだ。

 このカリキュラムは戦闘訓練でもあるが、野営を自分達でできるかも見る。

 これら全てを考慮してどうしても自信がない者、立場的に参加ができない者は二泊三日の戦闘&野営訓練がユグドラシル学園側で実施される。日にちが多いのは安全が確保されているからだ。

 そんなダンジョン合宿にアランとレイニードは参加する様で、ミズハ達は本当に参加して良いのか訊ねたが、アラン達というより獣王国レオン王侯貴族は子供達の自主性に任せるという姿勢を取っていて参加は自由らしい。

 こうしてミズハ達の班はケニスをリーダーにミズハを副リーダーにしてアラン、レイニード、ナノハの五人で参加した。


 ユグドラシル学園にあるダンジョンは地下型のダンジョンであるが、地下一階は草原と林のフィールドになっており、青空どころか太陽もある。しかし雨は降る事がなく、何故植生が枯れないのかは専門家がずっと検証していて未だに解っていない。


 そんなダンジョン合宿でミズハとケニスを中心に地下一階層をクリアし、探索した事のない地下に階層へ進んだ。

 地下二階層に行った事はないが事前情報は集めてあり、森と湖が広がる風光明美な空間が現れた。

 そんな空間を探索し、夜には野営をして翌日早朝に少し奥まで進んで地上へと引き返した。

 地下二階層の素材を持ち帰ったミズハ達五人に教員は無理はしないようにと忠告はしたが、このグループなら大丈夫だろうという信頼があった。

 ダンジョン合宿を好成績で終えたミズハ達は二日間の休みを楽しもうと思ったが、生徒会の仕事で潰れてしまった。


 二月の行事は三年生の学期末テストがあり、一・二年生は進級先の変更があり慌ただしい。

 一・二年生からしてみれば特進科・普通科・体育科・芸術科・技術科への別れ道で、三年生は卒業の為の最後の追い込み、好成績を残すための最後の手段だ。

 一・二年生は学期末テストがまだ残っているので最後の希望は残っている。たいして三年生は既に卒業後の就職先も決まっている者が多く、ガツガツ勉強をする者は少ないが、ごく少数の者は運命の分かれ道だ。


 そんな二月も終わり三月に入ると一・二年の学期末テストが始まり、それが終わると卒業式一色だ。

 生徒会役員であるミズハ達五人は慌ただしく過ごし、卒業式後には流石のミズハとケニスも疲労の色が濃かった。


 そして三月最後の行事、修了式へと移って行く。


 一年最後の行事に生徒会役員はフルで動きまわった。

 勿論教員も忙しいのだが生徒会も次年度に向けておおわらわだ。

 何といっても春休みは長期休みにしては少なく、既に寮へ入寮してきた生徒もいるため対応は大変だ。


 何とか修了式を終わらせたミズハ達はそれぞれの実家や関係者に手紙を書き、この一年を振り返った。


「ふふふ。入学式後に初めてアランに声をかけられた時は怖くて仕方なかったけど、想いってこうも変わるのね」


「酷いなミズハ。俺は一目惚れしただけだったのに」


 クスクス笑いながら当時を懐かしむミズハと、ミズハの言葉に凹むアラン。

 二人は新年度に向けて慌ただしいさなかもこうして待ち合わせ、デートを重ねていた。


「俺達ももう直ぐ二年生か」


「そうね、後輩ができるわね」


 ミズハとアランを温かな春の日だまりが包む。

 ここ数日続いていた雨が止み今日は春一番の快晴、春の日差しが二人を祝福するかのように輝いていた。


「ミズハ。早いかもしれないが学園を卒業したら結婚してくれ」


「アラン……。はい、不束者ですが私で良ければ」


「ミズハ!」


 決意を胸に改めて告白、否。求婚したアランにミズハは微笑みながら頷いた。

 そんなミズハをアランは抱きしめ、頬に手をかけると互いの唇を触れ合せた。

 唇を離したアランの瞳は光の加減で金色に輝き、頬を紅潮させたミズハの髪は太陽の様に輝いていた。

 今の二人は幸福に包まれていた。







ユグドラシル学園一年編は今回をもちまして完結です。

次話から二年生に進学します。

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