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狐少女の日常  作者: 樹 泉
二章 ユグドラシル学園一年生編
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冬休み アランの告白


 年始パーティーの翌日、アランはミズハを城の庭園へと誘っていた。

 流石一国の王城というだけあり庭園は煌びやかでいて落ち着いたたたずまいだった。

 アランにエスコートされるミズハは十二分に景色を楽しんでいて、アランに連れられて人気の少ない東屋にミズハはやって来ていた。


「ミズハ……。俺はミズハが好きだ、俺とつきあってくれ!」


「え!? アランが私を? でも私平民だし、それに……」


「ミズハは俺の番だ、この国では平民が王妃になる事もままある。立場などは抜きにして俺はミズハが好きなんだ。どうかつきあって欲しい。……その、返事は直ぐでなくてもかまわない、前向きに検討してくれ」


「私がアランの番……。わかったわ、考えてみる」


 アランの一世一代の告白にミズハは驚いたが、前向きに検討する事を了承した。


 部屋に戻ったミズハはグルグルと思考の波に呑まれていた。

 はたして自分はアランに相応しいのだろうか、そんな坩堝にはまっていたのだ。

 日は傾き夜の帳が覆い始めた頃、ミズハの部屋にナノハがやって来た。


「ミズハ? どうしたの?」


 一瞬誤魔化そうかとも思ったミズハだが、ナノハに相談する事にした。そして、アランに告白された事、アランに自分は相応しくないのではないだろうかと悩んでいた事を話した。


「ミズハってば頭いいのにバカね」


「え」


 いきなりのナノハの貶し文句にミズハは目を点にした。


「だって、アランの為にならないかもって考えている時点でアランの事を考えているじゃない。それにアランはミズハが良いって言ったんでしょう。後はミズハの気持ち次第じゃない。ミズハはアランが誰か別の女の子に盗られて良いの?」


「そ、それは……」


 アランと別の女性が一緒に行動している様を想像してミズハはモヤッとした気持ちになった。胸の奥がむかむかする様な、それでいていたたまれない気持ちだ。


「ミズハは深く考えすぎなのよ。ミズハ自身はどうしたいのか、それだけじゃない?」


 ナノハに諭されてミズハは胸に手を当てる。そして、自身の気持ちと向きあう。

 脳裏に浮かんでくるのはアランとの出会いから今までの映像。移り変わってはまた最初に巻き戻る。その風景の何と心地よく胸躍り心臓がドキドキする事か。


「私、アランの事が好きだったの?」


「何でそこで疑問形? いえ、ミズハが鈍い事は気付いていたけどさ。ま、自分の気持ちに気づいたなら返事して来なさいよ」


 ナノハに質問した訳はなく、自分に質問したミズハにナノハはガックリと項垂れる。あれだけ嬉しそうにしていながら気付いていなかったのか、と。


 ナノハに送り出されてミズハはアランの自室へと向かった。

 アランの部屋の前を近衛兵が守っており、アランに取り次ぎを願えばその願いを叶えてくれる。

 近衛兵はアランから事前に話がいっていた様で、暗くなっているとはいえ訪問に不向きな時間ではない。


「ミズハ? どうしたんだ?」


「あ、ああ、アラン。今から少し時間を貰える?」


「あ、ああ」


 ミズハの訪問に驚いたアランだったが、ミズハが予想以上に緊張しておりアランまでその緊張が移る。

 アランが侍女を呼び、紅茶が用意された後に他の人間を下げると、ミズハはチラリチラリとアランを見つめてから紅茶一口飲む。

 緊張が続いているのか口を開けたり閉じたりした後に意を決したように顔を上げた。


「アラン、今朝の話しの返事をしに来たの」


「そ、そうか。東屋に行かないか?」


 ミズハの真剣な、けれど緊張した様な様子にアランはますます緊張を強める。


 今朝方アランがミズハに告白した東屋に向かう間、ミズハとアランは緊張しっぱなしだった。


「私色々考えてみたの。そ、それでね。私もアランの事が好きだってわかったわ。だから返事は宜しくお願いします」


 ミズハは深々と頭を下げた。

 そんなミズハを見てアランは嬉しそうにミズハに腕を伸ばし、そっと抱きしめた。

 アランの胸に顔を預けるミズハの顔は紅くどこかうっとりしていた。

 二人の鼓動がトクントクンと高鳴り、顔を上げたミズハとミズハを見つめていたアランの目線が絡む。


「ミズハ好きだ、愛している」


「アラン、私もよ」


 アランの言葉にミズハが嬉しそうに返せば、アランの腕に力が入る。

 そして真円の満月が一組の新たなカップルを照らしていると、アランがミズハの頬に手を添え上に向きを変える。ミズハは目を瞑りアランに身を任せた。


「ミズハ」


「アラン」


 そして、ついにアランとミズハの唇が合わさろうとした時、ミズハの耳に『パキッ』という音が聞こえた。

 瞬時に我に返ったミズハは自分の唇とアランの唇の間に手を潜り込ませると、身体を離し視線を鋭くする。


「そこで見ているのは誰?」


 ガサガサと音を鳴らせて庭園の木陰からナノハ、レイニード、ケニスが出てきた。


「えへへ……ゴメン」


「申し訳ありません」


「ゴメン、止めきれなかった」


 頭に手を当てしまったという顔のナノハ、とても申し訳なさそうなレイニード、同じくバツが悪そうなケニスの三人の顔を見て、ミズハとアランは今回の犯人であるナノハの方を向いた。


「ご、ごめんなさい。ミズハが心配だったの」


 頭を下げて謝るナノハにミズハとアランは小さく溜息を吐くと、苦笑してナノハを軽く小突いた。

 ここで終わる、と思ったがミズハがケニスの方を向いて怜悧な笑顔を向けた。


「ねえケニス。風魔法で音を消していたのは貴方よね」


「ギクッ……、ごめんなさい」


 ミズハの追及にギクリと身体を飛びあがらせたケニスは直ぐに謝った。


「ふー、まったく。でも心配してくれたのよね、ありがとう」


「ミズハおめでとう。アランも良かったわね」


 呆れた様なミズハにナノハは心からの祝福を送った。


「アランおめでとうございます。ミズハもこれから宜しくお願いしますね」


「二人とも良かったな、おめでとう」


 ナノハに続くようにレイニードとケニスも祝辞を送る。

 レイニードにすればアランとつきあうミズハは次期王妃候補で、獣王国レオンの重要人物になる可能性がある。


「「ありがとう」」


 アランとミズハは笑顔を三人に返した。


 そんなやり取りを見つめる二対の目があった。

 一人は銀髪に蒼い目の男盛りの狼の獣人エスターク、もう一人は金髪碧眼の美丈夫エンジュだった。

 新年祭に初めて顔を会わせた二人だったが、事前の手紙のやり取りもありスムーズに会話が弾んだ。


「ミズハが見つかったのは嬉しいが、直ぐに男ができるとは……。ここは父親らしい事の一つでもするべきだろうかエスターク殿」


「ハハハ『娘が欲しくば俺を倒していけ』は俺達がしよう。エンジュはエンジュができる事をすれば良い」


「そうですな。ではまた後ほど」


 エンジュが若干落ち込みつつエスタークを見やれば、エスタークの『わかる』という顔をして頷いた。

 そんな自分達をそれ程離れていない距離で会話された内容をミズハ達は知る事はなかった。






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