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狐少女の日常  作者: 樹 泉
二章 ユグドラシル学園一年生編
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冬休み 新年祭


 古き年が暮れ、新たな年がやって来る。

 大晦日の夜から新年の朝までのパーティー、新年祭が始まろうとしていた。

 獣王城の控室ではミズハとナノハを侍女たちが着飾らせていた。

 ナノハは黄緑色と淡い黄色のグラデーションになったマーメイド型のドレスで、襟元は少し濃いめの黄緑になっている。ドレスの裾には宝石が縫いとめられ、ナノハが動く度に明るい色が反射している。アクセサリーは金に緑系の宝石が填め込まれたものが多く、ナノハの容姿と相まって春の精霊の様だ。

 一方ミズハの方は濃い藍色のマーメイド型のドレスで透ける様な薄布で作られた袖口が特徴だ。全体的に銀糸や宝石で装飾がなされ、さながら夜空の様だ。そんなドレスにミズハの髪や尻尾の金色が映える。ミズハの方もナノハと同じ緑系の宝石を填め込んだアクセサリーが多いが、髪飾りがラピスラズリの宝石をあしらった物であったり、胸元に光る琥珀のネックレスがアクセントになっていた。


「お二方ともお綺麗になりましたよ。殿下方を呼んでまいりますね」


 そう言うと侍女の一人がアラン達を呼びに行った。


「ミズハ、ナノハ入るぞ」


 ノックをして入って来たのはアラン、レイニード、ケニス、エスタークの四人だ。

 アランとエスタークは白い正装、レイニードとアランは黒い正装に身を包んでいた。

 アランは縁に金糸や銀糸をあしらい、爽やかな王子様風。事実王子な訳だが、普段より爽やかさが五割増しだ。

 エスタークはというと正装というより軍服に近いデザインで詰襟や金糸で作られたエポレットや飾緒が似合っている。

 レイニードはアランの服装を大人しめにして黒くした感じの貴公子風衣装、ケニスはアクセサリーは抑えめだが見る人が見れば一流品とわかる衣装に身を包んでいた。


「ミズハ凄く綺麗だ。今回は宜しく頼む」


 アランは光り輝いた目でミズハに賛辞を送ると、ミズハの手を取り流れるような動作でその手の甲に口づけを落とした。

 そんなアランの対応に、少し嬉しそうに対応するミズハを見てナノハは「あら?」と、思った。今までのミズハはアランのどんな対応にも友達レベルの対応しか取って来なかった。そんなミズハが、少しとはいえ嬉しそうに頬を染めたのだ。


「そうでしょう、ミズハ凄く綺麗なのよ」


「ああ、とても綺麗だな」


「も、もう。止めてよ」


 ナノハの我が事の様な賛辞にアランが乗れば、ミズハは照れて文句を言った。


「だが、ミズハが似合っているのも事実だぞ」


 そんな空気を読まぬエスタークの一言でミズハは顔を手で覆って俯いてしまった。

 そんなミズハにその場にいた者達が温かな眼差しを向けた。照れてしまったミズハの涙目顔は可愛らしかった。普段微笑んでいる顔の多い大人びたミズハの涙目顔は威力があったのだ。


「ああ、和んでいる場合ではありませんね。ケニスはナノハのエスコートを宜しくお願いします。エスターク殿、我々はそろそろ会場に行きませんと」


 レイニードの合図にケニスがナノハの手を取り、エスタークも最終チェックを入れる。

 パーティーは階級に低い物から会場に集まる。上位貴族であるレイニードやエスタークは終わり頃の入場予定だ。貴族位とはいえ最下級のケニスや平民のナノハは真っ先に会場入りしなければならないが、王族の客としてレイニードやエスタークと共に入場する予定だ。アランとミズハは王族が入場する最後に出ていく。


「レイニード、会場で会おう」


「はい。では、お先に」


 一礼をして出ていくレイニードにアランは軽く手を振った。


 アランと二人、王族の入場を待つミズハは段々と緊張して来た。


「緊張しているのか?」


「そうね、緊張しているわ。……ねえ、アラン。なぜ私をパートナーに選んだの?」


「それは……」


 ミズハの緊張具合を見て話かけたアランだったが、ミズハの返答にしどろもどろになった。

 ここで「ミズハが好きだから」と答えられれば良かったが、丁度侍従がやって来てアラン達の入場を告げた。


 アランは動揺を隠しミズハの手を取ってエスコートを開始した。

 広間に出たアランとミズハを見た貴族、特に年頃の令嬢は悲鳴を上げて二人を見つめた。

 獣人の番は生涯見つからない事が多く、獣王国レオンでも政略結婚はままある。

 貴族の令嬢の中にはアランが番だというものが現れるほどアランは人気だった。


 アランの隣にいるミズハを見て顔を青ざめさせる者、睨みつける者様々だが直ぐにミズハを値踏みする視線に変わる。

 ミズハを値踏みする視線は何も令嬢だけではなく貴族の当主や夫人にも見られた。


 獣王国レオンの国王が最初に軽い挨拶をした後、パーティーは始まった。

 アランに連れられてミズハもファイーストダンスを踊り出す。


「まさかミズハが社交ダンスを踊れるとは良い意味で計算外だった」


 アランのその言葉にミズハは笑って追求をかわす。

 アランは当初ミズハとナノハに社交ダンスを教える気でいた。

 ミズハもナノハもそれなりの運動センスを持っている事を知っているアランは、そう時間がかからず基礎的なステップを覚えるだろうと予想していた。しかし、ミズハは難解なステップも易々と踊れて、アランにとっては計算外の喜びだった。

 今回のファーストダンス、王族などが踊る最初のダンスの事だが、アランはわざと難しい曲を選択した。

 それはミズハのダンスの教養を見せつけるものだったが、ミズハの今のドレス姿を見て少し後悔した。ミズハの姿を他の男にも見せるとは、と。

 そんな独占欲を王子スマイルという名の爽やか笑顔で隠し、ミズハのダンスのリードをしていた。

 そんな二人のダンスを見て負けたと落ち込む者、どこの令嬢だろうと思考する者、憧れる者、様々だった。

 そんな二人を見ていたナノハとケニスは純粋に賛辞を心の中で送った。

 一方レイニードはというと、自分の妹をエスコートしていたが、その妹に「あの方がお兄様のご学友ですの?」と興奮気味に紹介を迫られた。


 ファーストダンスが終わり次々と貴族達が踊り出す。

 ミズハ達五人の内、今度踊っているのはレイニードのみだった。アランとミズハはダンスの輪から抜け出しケニスとナノハのもとに来ていた。

 先程から一人輪から外れているエスタークは自分の家族と話をしたり、現在は獣王国レオンの王と談笑を楽しんでいた。


 二曲目のダンスが終わるとアラン達のもとへ貴族が輪を狭めてやって来た。


「アラン殿下お久しゅうございます。わたくしの不勉強でしょうかこの度のパートナーの方を知りませんでしたの、お名前をお伺いしても?」


「カレラ嬢久しぶりだな。こちらはミズハ、俺の学友だ」


 真っ先にアランに話かけたのは赤茶の髪に黒いネコ科の獣耳を持つ気の強そうな令嬢だった。


「わたくしカレラと申します。ミズハ様は何方のご令嬢ですの?」


 カレラから偵察という名の値踏みが始まり、ミズハはクルエラ仕込みの頬笑みと教養でゆったりとドレスを捌くとカーテシーをして答えた。


「エスターク・ミドレインが娘、ミズハと申します。カレラ様にはお初にお目にかかります」


 カレラもカレラとミズハのやり取りに固唾を飲んで見守っていた周りの貴族も、ミズハの完璧な令嬢ぶりとエスタークの名前を聞いて顔を青ざめさせる。

 今のやり取りだけで完全な格の違いを見せつけられたのだ。

 アランもミズハもわざと名字は言わなかったが、そこを突かれる事はなかった。


「ははは、ここは賑やかで華やかですな殿下。私はグランツ・ヴェルヘイルと申します、お譲さんお名前をお伺いしても?」


 アランをほぼ無視してミズハに話しかけたのは中年の男性。こういってはなんだが、カレラや先程までアランとミズハを取り巻いていた者達より、余程上手である。

 最初にフルネームで自己紹介をしたことで、ミズハの名字も聞こうとしているのだ。

 威厳や覇気もさることながら温和な表情の奥に狡猾で腹黒い性格が窺える。それもそうでグランツは獣王国レオンの外務大臣に当たるのだ。


「グランツ殿久しいな。ミズハはユグドラシル学園の学友なのだ」


「ええ、存じております。ですからお名前をお訊きしたく、こうして参りました。改めましてお名前を教えていただけますか?」


 アランがグランツの意識を反らそうと話かけるが、グランツは意にかえさずミズハに質問をした。


「初めましてヴェルヘイル様。私はミズハ・タマモールと申します」


「おやおや。エスターク殿と名字が違いますな」


 アランは嫌そうな気配を見せたが、ミズハは手本通りのカーテシーをしてグランツに自己紹介をし、微笑んだ。

 元々ミズハは隠すつもりは毛頭なかったが、アランがパーティー前にエスタークに確認を取り、少しでもミズハが嫌な思いをしない様にエスタークの娘というだけに留めたのだ。


「ええ、エスタークは私の養父なのです。父達からも『娘』という事をいう了承はいただいていますから」


 ミズハは『父達』という部分を強調した。

 ミズハは微笑みながらもグランツの様子を窺い、グランツの満足気な微笑をもってグランツがミズハの正確な情報を持っている事を知った。

 Sランク冒険者パーティーの娘にして自身もSランクの冒険者である事は十分な切り札だ。

 だが、それを聞いた周りの貴族達は騙されたと色めきたった。そこへ一人の男性が声をかけて来た。


「これはアラン殿下お久しゅう、グランツ殿もお久しぶりだ。まさかこんな所でミズハに会えるとはな、元気にしていたか?」


「お父さん!?」


「え!? お父上!?」


 そこに現れたのはアマノ共和国の長の一人、エンジュだった。

 エンジュはミズハの生き別れた本当の父親だ。


「エンジュ殿、お久しぶりですな。父親といいますと?」


「ミズハは我の娘でな、生き別れになっていたのをつい最近再会した」


 グランツはエンジュの話を聞いて納得した。それほどエンジュとミズハは似ているのだ。

 ミズハ達の周りを囲んでいた貴族達は沈黙を守るばかりだ。

 獣王国レオンで有名なのはエスタークの方だが、重要度でいったらエンジュの方が上なのだ。エンジュはアマノ共和国の次期議長候補筆頭で、内に籠りやすいエルフとしては異例の社交的な性格で貿易にも力を入れている。


 グランツが他の貴族に挨拶をしにその場を去ると、アランはエンジュに挨拶し自己紹介した。

 エンジュの方も挨拶周りがあり、その場はお開きになった。

 長く続いたパーティーもたけなわになり、閉会を迎えた。






エスタークとレイニード、余り似ていないのですが時々打ち間違えます。

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