表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
狐少女の日常  作者: 樹 泉
二章 ユグドラシル学園一年生編
50/69

冬休み 獣王国レオンの王城

遅くなりました。


 ミドレイン公爵家で身支度を整えたエスタークとミズハは、先触れを出して王城へと向かった。

 王都のミドレイン公爵家に泊まったミズハだが、エスタークの兄の現ミドレイン公爵やエスタークの両親には会う事が適わなかった。何でも現在領地の方にいるそうで、新年のパーティーで会えるだろうとの事だった。


「英雄様だ」


 エスタークと共に王城に上がったミズハの耳にそんな話声が聞こえた。


「ミズハ! 待っていたぞ」


 王族居住区に辿り着いたミズハをアランとレイニードが迎え入れた。


「同行されているのは英雄エスターク殿か! 初めてお目にかかる、獣王国レオンの第一王子アランだ」


「グルブランス公爵家のレイニードと申します」


「ミドレイン公爵家のエスタークだ。宜しくな」


「え、エスターク父さん!」


 エスタークを見て目を輝かせるアランとレイニード。

 二人に挨拶されていつも通りに返すエスタークにミズハはエスタークの脇を突く。

 しかし、エスタークは意に介さない。


「ミズハ、気にしなくていい。エスターク殿はこの国の英雄、細かい事は気にしなくていい。だが、まさかミズハとエスターク殿が知りだったとは」


 赤面しかかったミズハをアランが宥め、驚いた事を改めて口にした。

 獣王国レオンでは昔、規模の大きな魔物の氾濫があったのだ。その時冒険者をしていたエスタークが魔物達の大将をたった一人で討ち取ったのだ。

 その氾濫の魔物の量、種類の多さ、難易度。何故そんな規模の氾濫が起こったかは解明されていないが、獣王国レオンに取って途轍もない危機であった事は変わりがない。

 当時、アランはまだ生まれておらず、エスタークを描いた絵や記録媒体、詩人の歌う詩や劇場での英雄譚を聞いて来たのだ。


「ミズハは俺達の娘なんだ。仲良くしていてくれていたみたいだな、ありがとう」


 エスタークはそういうと頭を下げた。


「え!? ミズハは狐の獣人とエルフのダブルじゃないのですか?」


「ミズハは養女なんだ。だが大切な娘には変わりない」


 驚くアランだったが、ある案を思い付いて勢いよくエスタークに詰め寄った。


「ミズハがエスターク殿の娘!? エスターク殿その事は公表しても?」


 ミズハがエスタークの娘として周知されれば、アランとミズハの仲を裂こうとする物はグッと減るどころか、味方も増えるだろう。

 だが、タヌキの皮算用をしたところでアランとミズハはつきあってすらいないのだが。


「ん? だったらミズハもSランクの冒険者だからそちらを公表するのも良いんじゃないか?」


「え!? ミズハいつの間にSランクになったんだ? 聞いてないぞ!」


 エスタークの暴露話にアランが食いつけば、ミズハは少々引きつつ「秋休みに」と答えた。

 アランは外堀を埋めようとはするがミズハに確認を怠っている。それが吉と出るか凶と出るかは神のみぞ知る。しかし、言える事はある。ヘタレ、と。


 四人がアランの部屋で話していると部屋の扉をノックする音がして、城詰めの侍従が入って来た。


「殿下、ケニス様とナノハ様がお着きです。どうなさいますか?」


「丁度良い。この部屋に連れて来てくれ」


「畏まりました」


 そう言って侍従は一礼して出ていった。

 よく訓練された侍従の様で、エスタークを見ても表情を変えなかった。


 暫くして普段と変わりのないケニスと畏まったナノハを連れて侍従がやって来た。

 ケニスとナノハを案内した侍従は手早くお茶を用意すると去って行った。


「ナノハ、ケニス、良く来てくれた。おい、ナノハ。いつまで畏まっているつもりだよ」


「いや、だってさ。お城って初めてで」


「ん? お前ケニスか。『不可視の暗殺者』と呼ばれるようになったそうだな。Sランク入りおめでとう」


 ケニスとナノハにアランが話かけ、固まっているナノハを寛がせようとしたが、エスタークによる爆弾発言で場はシン……と静まり返った。


「な!? ケニスもミズハと同じSランクの冒険者だったのか!?」


「いえ、アラン。不可視の暗殺者なら以前から最年少Sランク者として有名です」


「え!? ミズハとケニスがSランク!? ミズハいつの間にSランクになったの!?」


 アラン、レイニード、ナノハがパニックになった様に騒然とした。しかし、爆弾を落としたエスタークやミズハ、ケニスといった本人達は冷静に受け止めていた。

 若干ケニスがばらされた事に頭痛を感じていたが、何時までも言わない訳にもいかず吹っ切れた様な顔をした。

 強者にとって相手の実力を計れるのは当たり前で、ミズハにしてもケニスにしても相手の実力は解る。


「あれ? そちらの方は?」


「この方はミズハのお父上だ」


 ナノハは産まれて初めてのお城という事で緊張していたが、先程の騒ぎとアランが紹介した『ミズハの父』に顔を上げた。


「ミズハの養父の方ですか。私はミズハの友達でナノハと言います」


「ああ、名前はミズハから聞いている。エスタークだ、宜しく。せっかく友達同士で会ったんだ、俺は別室へ行っている」


「エスターク殿申し訳ございません。直ぐ案内させます」


 エスタークなりの気遣いで部屋を去って行く。

 アランは素早く侍従を呼ぶとエスタークの案内を任せた。


「そうだ、ミズハ。新年祭のパーティーで俺のパートナーを務めてくれないか?」


「え? アランのパートナー? 婚約者や貴族の令嬢の方が良いのではない?」


「獣人は番が解る事があるからギリギリまで婚約はしないんだ。貴族の令嬢に頼むと後がな……」


 アランの爆弾発言に訝しみながらもっともな事を言ったミズハ。しかし、ミズハの知っている人族のルールとは違ったルールが獣人にはある様で、種族間の違いが露わになった。

 だがしかし、パーティーに男女で出席すると婚約騒動などになる様なのは一緒の様で、ミズハは躊躇った。


「ミズハ、せっかく獣王国に来たんだし、アランとパーティー一緒に出席すれば」


「え、でも」


「アランもミズハと一緒に出たいみたいだし。お願いきいてあげれば良いじゃない」


 ナノハは身分社会との接点が少なく、ミズハの懸念している事は解らないが、アランの事やミズハの事は解った。その友達の事を考えた結果、ミズハはアランと過ごすのが良いだろうと思ったのだ。

 ナノハの説得にミズハは渋りながらも頷いた。

 そんなミズハを見て、アランは内心でガッツポーズを決めた。


「さあ、そうと決まればドレス選びだな。ミズハとナノハはドレスを選んでくれ!」


 アランはそういうと手元のベルを鳴らして侍女を呼ぶ。


「え!? ちょっとアラン。私も出るの!?」


「当たり前だろう」


 そうしてナノハはミズハと同じく侍女たちによって更衣室へと連れ去られていった。


 貴族階級の、特に上位者達の衣装選びは時間がかかり、その衣装を着させられる女性には多大な労力がいる。

 その事をミズハはゲオルクの母クルエラに教え込まれていたが、ナノハは違った。


「ま、まだ着るのですか? もうさっきので良いですよ……」


「何をおっしゃっているんですか。せっかくの美貌なのですからしっかり磨かないと。まだまだドレスはたっぷりありますよ。貴女、そちらの髪飾りを取ってちょうだい」


 泣き言をいうナノハに侍女は取り合わず、次々に衣装やアクセサリーをつけては外し、つけては外しを繰り返す。

 ミズハはというと遠い目をして黙って着せかえられている。

 既に魂は旅立っているかもしれない。


 そうしてミズハとナノハが着せ替え人形になる事四時間。侍女たちが納得するドレスとアクセサリーが出そろった。


「さあさあ、これからパーティーの日まで身体を磨きますよ。今度は浴場へ」


「そ、そんなー。もう休みたい」


 侍女による死刑宣告とも取れる〝継続〟する案件にナノハは敬語も忘れて泣き言をいった。


 朝に王城に辿り着いたと言うのに既に日は沈み、夜の帳がすっかり降りていた。


「まあ! お二人ともお綺麗ですわ。エルフの方は見目麗しゅうございますし、マーメイド型のドレスがお似合いです」


 興奮した声を上げたのはミズハとナノハの衣装担当者のまとめ役である侍女だった。その侍女の賛辞に続いて他の侍女たちも二人を褒める。

 その賛辞も間違いはなく、二人は輝かんばかりに美しかった。

 淡めの髪を持つナノハは淡い色で纏められ、しっかりとした濃い金髪のミズハは原色を使ったドレスだ。二人とも身体のラインが出るマーメイド型のドレスだが、スタイル良く仕上がっていた。

 ナノハの方は後れ毛を残してしっかり結われており、大人っぽさの中にも繊細さが演出されていた。

 たいしてミズハはハーフアップにした髪が純金の様で、髪そのものが装飾品の様になっていた。その煌びやかさを真似できるものは少ないだろう。

 二人とも瞳と同じ緑系の宝石を散りばめたアクセサリーを中心に選ばれていたが、ミズハの方は一つだけ大粒の琥珀で作られたネックレスをつけていた。その琥珀はどこかアランの瞳を思わせたが、遠い目をして魂を飛ばしながら着せ替え人形にされていたミズハや、自分の事でいっぱいいっぱいだったナノハは気付かなかった。


 ミドレイン公爵家で衣装を整えたミズハは兎も角、一般的な庶民の衣装だったナノハは、侍女によって衣装が宛がわれた。

 そんな二人がアラン、レイニード、ケニスのいるアランの部屋に戻って来た時には夕食の支度が整っていた。


「うー、疲れた。貴族も大変なのね。……あれ? ケニスも服が変わってる」


「うん、僕も衣装を貸してもらったんだ。お城に上がる様な服ではなかったからね」


「ミズハ、ナノハお帰り。食事の支度が整っている、食事にしよう」


 アランの言葉と共に侍女と侍従が食事の支度をはじめ、飲み物と前菜をミズハ達五人の前に置いて行く。

 夕食は和やかに始まったが、ナノハが王城の食事に慄くという一ページがあった。

 食後のデザートを完食した時にミズハがアランに問うた。


「あれ? エスターク父さんはどうしているの?」


「エスターク殿なら父上達と食事をしている」


「……。そう」


 アランの答えに吹き出しそうになる食後のお茶をミズハは飲み込んだ。


「へー、ミズハのお父さんって凄いのね」


「そうだぞ、エスターク殿は我が国の英雄。その英雄をもてなせるとあれば父上達も嬉しいだろう。何と言ってもエスターク殿の一騎打ちは物語になるほどだ。俺やレイニードも何度も聞いて憧れている」


 ナノハのポツリとした言葉にアランが食いつき滝の様に、ほぼノンブレスで喋った。


「そ、そう」


 そんなアランの様子にナノハはちょっと引いた。


「ミズハとケニスがまさかSランクの冒険者だったとは知りませんでした」


「あ、私も知らなかった」


 ふと思い出したとレイニードが語ればナノハもそれに同意した。


「だいたい秋休み前のミズハのAランクにも驚いたけど、いつの間にかSランクになってるんだもの。ケニスなんて史上最年少のSランク保持者なんでしょう」


 ナノハは口を尖らせながら言ったが、ミズハと目が会うと「また、差をつけられちゃったわ」と笑った。

 獣王城での夕食はこうして過ぎていった。






今月も更新が遅れるかもしれません。

申し訳ございません。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ