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狐少女の日常  作者: 樹 泉
一章 幼少期編
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ゲオルク 後編

引き続きゲオルク視点です。


 闇の精霊が促すが、隠れた人物は出て来ない。

 俺達を警戒しているのだろうか。


【ミズハ出ておいで。僕が絶対何もさせないから】


 闇の精霊の言葉に洞窟の陰から小さな人影がオズオズと出て来た。


「狐の獣人の子供か」


 エスタークが子供を見て種族を特定した。

 金の耳に金の髪は肩下ほど、翡翠の様な緑の瞳の痩せた少女だった。その色彩はエルフに通じるものがあった。

 しかし、金の耳の狐の獣人は見た事がなかった。

 エスタークの声を聞くと少女はビクリと震えた。大人が怖いのだろうか。

 少女が震えると、少女の後ろに隠れた尾が目に入った。その数三本。

 狐の獣人は獣人の中でも魔力が多い。その中でも飛びぬけて魔力が多いと尾の数が増えるらしい。今まで最多は九本、最凶の魔女と呼ばれた人物だ。

 獣王国レオンでは、狐の獣人は魔法部隊に着く事が多く地位もそれなりに高い。

 この少女はエルフの血を引いているのかもしれない。そうすれば魔力が多いのも頷ける。

 この近くで狐の獣人の村はホノエ村、俺の足でも少し離れている。


「初めまして、私はアリアナよ。貴女のお名前と年齢は?」


 アリアナは身を屈めると少女に名前と年齢を聞いた。

 まだ保護が必要な年齢の少女だ、一応歳も聞いておくべきだろう。


「は、初めまして。ミズハ・タマモールと言います。歳は九歳です」


「タマモール?」


 少女はミズハと名乗った。闇の精霊の呼んでいた通りだ。

 ミズハはエスタークの声に怯えを見せた。俺達を警戒してるが、怯えているのはエスタークだけだ。エスタークは前にあった事があるのか? それにしたってこの怯え様はなんだ。


「エスターク貴方は少し黙っていて。……ミズハちゃん貴方は何故こんな所に居るの?」


 アリアナもミズハの怯えを感じたのか、エスタークを黙らせる。


「魔物の氾濫があって逃げて来たの」


「被害にあった村か街の子供なのね、住んでいた場所は分かる?」


「うん。ホノエ村よ」


「そう……」


 ホノエ村と聞いて驚いた。子供の移動距離にしたら離れ過ぎている。それだけじゃない、ホノエ村は壊滅した村の一つだ。この幼い少女の両親は生きているだろうか。


「おお、思いだした。タマモールってカレンの姓だったはずだ」


「母さんを知っているの!?」


【カレンを知っているのかい!?】


 黙らせたはずのエスタークが声を出した。

 ミズハと闇の精霊はカレンという言葉に勢いづいた。知り合いか?


「なるほどな、カレンの娘か。髪の色も目の色も違うから気付かなかったぜ」


「エスターク独りで納得しないで説明してちょうだい」


 まったくだ、独りで納得するな。


「説明って言ってもな。昔少し世話を焼いた事があっただけだ」


「それでは分かりませんよ……」


 アリアナが溜息を吐く。

 まったく説明になってない。俺も溜息を吐きたくなる。


「そのカレンさんという方とは何時頃会ったのですか?」


 アリアナはエスタークを道筋立てて話させようとした。


「おう、十五年位前に新人冒険者として都市に出て来たカレンが、ならず者に絡まれてるのを助けたんだ」


「そうですか、それは良い事をしましたね。その後は如何したのです?」


「一月程冒険者のイロハを教えたぜ。分かれる頃には逞しくなってたな」


「そう、ですか。貴方のイロハを……。それでその後連絡は取ったのですか?」


 ドヤ顔で報告するエスタークが冒険者のイロハを教えた、という所で俺は頭痛がして来た。この何事も直感を大事にする脳筋からイロハを教わるとは。


「いや、連絡は取らなかった。ただ風の噂でエルフとパーティーを組んだって聞いたな。その後噂は聞かなくなった」


「そうですね、ミズハちゃんの年齢を考えると十年ほど前には冒険者を引退しているでしょう。……さて、ミズハちゃんこの通りこの小父さんは怖くありませんよ」


 なるほど、エスタークはミズハの母親と面識があったのか。

 アリアナはミズハの緊張を解そうと、エスタークを小父さんと言った。


【ミズハ大丈夫。この人達に悪い感情はないよ】


 闇の精霊が俺達の見方をしてくれた。味方、というより単にミズハの緊張を解そうとしているだけかもしれないが。


「ミズハちゃんお父さんやお母さんとは一緒ではないのですか?」


 アリアナが聞きづらい事を聞いた。

 両親はこんな幼い子供を残して消えるだろうか。


「……父さんは会った事がないから知らない。母さんは一カ月前に、うう、し、死んじゃった……ウックヒック」


「ごめんなさい。ミズハちゃんどうか泣かないで」


 泣きだしたミズハにアリアナは急いで慰める。

 思った通りミズハの両親は既に亡くなっていた。


「だ、大丈夫。■■■■■ が居てくれるから」


【当然!】


 ミズハは袖で涙を拭くと顔を上げた。

 それを見て笑顔になる闇の精霊。

 今聞き取れなかった声は闇の精霊の名前だろう。


「では、此処へは二人で来たのですか?」


「うん。■■■■■ が隠蔽かけてくれたから、此処まで逃げて来れたの」


「そうですか、頑張りましたね」


 なるほど闇の精霊の隠蔽で難を逃れたのか。

 それにしてもホノエ村からこの山まで良く逃げて来たもんだ。

 ふむ。よし、決めた。


「そうか苦労したんだな。よし、俺と一緒に来い。俺の養女になってくれ!」


『はあ!?』


 俺の言葉に俺以外が固まった。


「ゲオルク貴方、中々結婚しないと思ったらロリコンだったのね」


【このロリコン野郎! ミズハは僕が守る】


 アリアナは虫を見る目で俺を見て、闇の精霊は闇魔法ダークネススネークを放って来た。

 流石上位精霊、上位魔法もお手の物か。

 確かダークネススネークは拘束した後、闇のアギトで攻撃し毒や呪いを流す。これだけ魔力が籠ったダークネススネークに当たったら不味いな。

 大剣を一薙ぎして闇を散らした。思った以上の頑丈さに驚いた。


「ちょ、違うぞ。お袋が孫の顔見せろって五月蠅いから、養女になってくれって言ったんだ。俺も今回で冒険者も引退、一所に落ち着くんだ子供の一人位」


「何を言っているのです。子供ですよ、犬猫とは違うのです。貴方の様な大雑把な人間が育てられる訳がありません。養女にするなら私も育てます!」


「おう、なら俺も格闘術を仕込んでやる」


「フム、一所に落ち着いて武器を鍛えるのも一興か」


 何!? アリアナも子育てに参加するだと。

 まて、エスタークにダグまで加わるとか何の冗談だ。

 俺は家に帰るつもりだぞ。こいつ等まで来るのか。


【ちょっと、何で話が纏まっているの? ミズハの意見は!?】


 おお、そうだった。ミズハの了承を取らないとな。


「そうだった。嬢ちゃん俺の養女になってくれ」


「え? え?」


 ミズハは混乱したのか同じ言葉しか発しない。


「行く場所ないんだろう。だったら俺と一緒に来てくれ」


「でも」


 俺は大剣を置くと膝を付きミズハの瞳を覗きこみ、ミズハの頭を撫ぜた。


「でも私色違うし、尻尾三本あるよ」


 そういえばホノエ村の狐の獣人達は茶色だったな。閉鎖的な村だから最凶の魔女の事も尾を引いていたのかもしれない。

 もしかしたらミズハは村で虐めにあっていたのかもしれない。そうすればエスタークに怯えたのも頷ける。


「お前の髪や目の色は父親似、エルフにそっくりだ。狐獣人の尾が多いのは魔力が多い証、良い魔法使いになれるぞ」


「皆と違うし迷惑になるかもしれないよ」


「周りと違うのは個性だ、迷惑なんか子供の内から気にするな。さあ行くぞ」


 大丈夫だと頷くとミズハは大粒の涙を流し泣き始めてしまった。

 妹が幼かった時を思い出し、ミズハを抱き上げ軽く揺する。

 なんだかんだとミズハを気に入ってしまったのだ。


「うう、いっじょにいぐ」


「ああ、一緒に行こう。ダグ剣を頼む」





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