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狐少女の日常  作者: 樹 泉
二章 ユグドラシル学園一年生編
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冬休み 王都フランツェ


 呆気に取られるミズハを置いてエスタークは門番に声をかけた。

 門番はエスタークに気付くと直立不動で対応した。

 その様は緊張で強張っており、失敗はできないと顔にありありと書かれていた。


「エスタークお坊ちゃま、お帰りなさいませ。お譲様もいらっしゃいませ」


「おう、帰ったぜ」


「ミズハ・タマモールと申します。おじゃまします」


 騒ぎに気付いた家令の老執事が現れ、二人をもてなす。

 家令の指示で浴場を開放され、旅の汚れを落とすことになった。

 黒曜の背に乗って来ただけなのでミズハもエスタークも殆ど疲れてはおらず、汚れを落とすと艶やかになっていた。

 エスタークの私室は今でも丁寧に掃除がされており、木製の家具が艶やかに輝いていた。

 そんな中ミズハはというと借りて来た猫のようになっていた。


「ミズハ、そんなに硬くなってどうしたんだ?」


「えっと……。ここってエスターク父さんの実家なのよね?」


「おう、ミドレイン公爵家だな」


 ミズハの様子に気がついたエスタークが訊ね、あっけらかんと答えると、ミズハの口から魂が零れ落ちそうになった。


「こ、ここ、公爵家って、エスターク父さん公爵家の息子だったの?」


「ん? そうだぞ。ミドレイン家の二男だな。……お前もしかして緊張してるのか? ターザの王城に行った事があって、今回獣王国レオンの王城に招かれた奴が何言ってんだ」


 鶏のように「こ」と言い続けるミズハにエスタークは呆れたように呟いた。

 それもそうだろう。ミズハはターザ国の国母と面識を得るどころか、お茶会に参加したほどなのだ。今更、一公爵家にビビっていてはおかしい。

 しかし、粗野なエスタークが公爵家の息子とは思うはずもない。だが、食事のマナーなどは流れるように滑らかで、教養の高さは確かにあった。

 ミズハはそれに気付かなかっただけ、否。気付きたくなかっただけだ。


「今日はここに泊まって、明日王城に向かおう。先触れもここで出しておくからな。後で王都を回るか」


 今日の宿泊場所を手に入れたミズハだったが、エスタークの疑問形になっていない決定で王都を回る事になった。


 エスタークと共に城下街に出たミズハは貴族街から出て平民街へとやって来ていた。

 城下町はミズハが今まで見た中でも一番獣人が多かった。獣人の国なので当たり前だろう。

 エスタークはミズハに歩調を合わせながらもずんずん進んで行く。


「お、見えて来たぞ。フランツェの冒険者ギルドだ」


「冒険者ギルドに何の用なの?」


「いや、用があるのは冒険者ギルドの前の屋台だ」


 エスタークが案内したのは冒険者ギルドで、獣王国レオンの王都フランツェにある冒険者ギルドの支部は巨大であった。

 そんな冒険者ギルドの前には広場ができており、そこかしこに屋台が出ていた。


「此処に軒を連ねている屋台は、今年の屋台コンテストっていうコンテストの入賞者達なんだ。できはどれも良いぞ」


 エスタークの説明通り、食べ物から装飾品、武器などの屋台がある。

 食べ物の屋台だけでも飲み物から串焼きなど立って飲み食いできる物から、ちょっとした軽食まで様々だ。


「いたいた。おやじさん、串焼き二つくれ」


「お。あんたエスターク様か、久しぶりだな」


 エスタークが声をかけたのは五十代程の初老の男性で、ねじり鉢巻きが良くにあう。


「そのお嬢ちゃんは誰だい?」


「俺の娘だ」


「そりゃ目出たい。譲ちゃんの分は俺からの奢りだ」


 エスタークの答えに目を見開いて驚いた男性は、ニカッと笑うとミズハに串焼きを一つ渡した。


「美味しい」


「嬉しいね。お嬢ちゃん、この広場は初めてかい?」


「はい。ここに来たのは初めてです」


 男性は孫を見るようにミズハを見た。


「エスターク様もちょいちょい帰って来てくれよ」


「冒険者だからな。気の向くままさ」


「そうかい、寂しいね」


 エスタークは屋台の男性と話しを終えると次の屋台に移動してジュースを買った。

 エスタークからジュースを貰ったミズハは一口飲むとそのスパイシーさに瞠目する。


「ピリッとして美味いだろう。さっきの串焼きとここのジュースは毎年コンテストで入賞してるんだ。リピーターも多いんだぜ。下手な店持ちより儲けてる」


「さっきの串焼きのタレも美味しかったし、このジュースも美味しい」


「そうだろう、そうだろう」


 自身の説明に頷くミズハにエスタークは自慢げだ。


「ま、武器屋の方は店持ちの所の方ができが良い。武具のコンテストと屋台コンテストは別だからな。装飾品なんかも屋台で売る物だから安価な品だしな」


 そう説明したエスタークにミズハは頷いた。


「よし。次は闘技場でも行くか」


 そう言うとエスタークはまたしてもズンズン進んで行く。しかし、そのスピードはミズハが追える早さだ。

 エスタークに続きミズハが歩いて行くと、大きな建物に行きついた。ドーム型のその建物からは熱気が伝わって来る。

 入口には筋肉の良くついた大柄な男達が長蛇の列を作っている。


「ここは正式名称『賭博闘技場』っていってな、賭けをしながら戦う所だ。戦う奴等を闘士っていって、闘士同士の戦いを賭けるんだ」


 エスタークはそう言った後に「ちょっと賭けて行こうぜ」と言って中に入って行った。

 エスタークに連れられてやってきたのは観客の大勢いいるSランクの闘士の試合だった。Sランクの闘士とは、冒険者のランクと同じランク制度を取る闘士の中の最高位。トップランカー達の総称だ。

 Sランクの闘士の戦いを観戦する観客席の入場料は割高だが、エスタークはポンッと二人分お金を出して入場した。


 賭け方は簡単で、最初に賭け専門のカードを作って、その中にお金と交換した専門の魔力を入れる。

 それを観客席にある取っ手に差し込みカードに入った金額内で賭けをするのだ。

 そのカードからは後で現金化も可能であるし、この賭博闘技場内であればカードを使って品物を買う事もできる。

 闘士などはこのカードにファイトマネーというお金が振り込まれて生活している。


 エスタークによって程ほどのお金をカード化してもらったミズハは、客席に着くと肘かけに相当する部分にカードを差し込んだ。

 このカードには客席のチケットでもあるので、観戦する場合も手に入れなければならない。


 やがてミズハ達の見降ろすリングに二人の闘士が現れた。

 放送を担当する者が闘士の特徴と名前を告げると、闘士の方も手を上げるなどして答えている。

 そしてついに賭けが始まった。


「ミズハもそのカード内の金額なら賭けて良いからな」


 エスタークにそう言われてミズハはリングに上がっている闘士の片方に賭けた。

 一般的に賭けとは運の勝負であるが、賭博闘技場で賭けをする者の内、双方の実力が解る者もいる。例えばこの場合エスタークやミズハなどだ。

 そうするとどうなるかというと、ほぼ十割の確率で賭けに勝てるのだ。

 この事に文句を言う者もいるが、「観察眼を養え」という一言で終わる。そして、ほぼ十割の中で間違える場合がある。八百長らしい八百長はないが、実力を隠して参加している者もいて、時々ミスることもある。


 闘士達の戦いも終わり賭け金が動く。

 当然のごとく賭け金を手に入れたエスタークとミズハは席を立ち、飲み物を買っていた。


「Sランク闘士としてはいまいちだったな。うーむ、下の階級の闘士の試合を見るぞ」


 エスタークは強者が胎動していないか見に来たらしい。しかし、エスタークの思いとは裏腹に強者はいないようだ。

 そして、エスタークはこれから伸びるだろう若芽を探しに下の階級の闘士を見に行った。


「中々これぞって原石はいないが、これから伸びそうな奴はいるな。ミズハ、カードに入った賭け金はお前が使え」


「座席料は返すからね。こういうのは大事だよ」


 ミズハにさらっと大金を与えようとするエスタークであるが、ミズハは座席料を返した。

 闘士の等級に合わせて座席料が変わり、Sランク闘士の座席料は馬鹿にならない。

 それらの座席料を返してもミズハの手にはそれなりの金額が残った。

 エスタークやミズハはSランク冒険者としての報酬などがあり、お金に困っていない。






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